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少女漫画と小説の感想ブログです

新入生の皆さんに言いたいことは ただ一つ。イケメンに囲まれると学校は楽しい!

春待つ僕ら(13) (デザートコミックス)
あなしん
春待つ僕ら(はるまつぼくら)
第13巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

晴れてカップルになった美月&永久。初キスもしちゃって、永久の誕生日&ホワイトデーを迎え、さらにお互いのことを知りたいと思う2人は――? そして竜二の恋も大きく動く!! 3度目の告白はどうなる!? 新しくやってきた“春”。新歓祭のスピーチで美月が見せるものは――。映像化もされ、累計部数は470万部超!(紙+電子)笑えてトキめく青春ラブコメディー☆ みんなの恋はクライマックスへ――!

簡潔完結感想文

  • 竜二の恋 完結。片想い歴は亜哉に続いて2位。永久は3位。いや番外編の恭介が2位か?
  • 最後まで美月はパーティーの準備、裏企画、告げ口も全部 他人にやってもらう お姫様。
  • 母校を高校最強にするための永久たち幼なじみでのチーム結成、そして亜哉の海外追放!?

たちの戦いは ここからだッ(勝利確定)! の 本編完結13巻。

最終巻としては盛り上がりに欠けた、というのが正直な感想。というか作品後半は疾走感が皆無で、もっと溢れ出す感情や なりふり構わない行動に出て欲しかった。キャラたちの感情が いつもフラット以外に傾かないから読者も呼応できない。

最後に美月(みつき)が全校生徒の前での発表を成功させて、トラウマが消失したことを描いたのは良かった。けど結局 美月は高校入学後にイケメンに囲まれて守られる お姫様生活を手に入れただけでは、と意地の悪い見方をしてしまった。
だってスピーチの内容も独り善がりな自分語りだったし、小学校の時のように美月に悪意を抱く者を恭介(きょうすけ)たちに釘を刺してもらうことで美月の安全は守られた、と読める内容になっている。

美月様のスピーチを拝聴するために、上級生まで強制参加させられる新入生歓迎祭。

実際、この悪意に対して美月は何もしていない。この相談を永久にすることで2人の問題を乗り越えると『12巻』で決めたはずだが、寝落ちにより順延。それを永久に伝えるのは美月のクラスメイトの役割となり、美月は何もしないまま被害者になれた。

本書の後半は こういう美月のために周囲が動いているような場面が散見され、そこに落胆した。その究極が亜哉(あや)で美月は彼を振ることなく彼の自主的な撤退を勝ち取った。その上、美月の精神衛生上の障害にならないため(とも取れる)亜哉のアメリカ行きがある。しかも美月が亜哉という大切な人を失わないように、その後も2人は親密に連絡を取り合う様子が描かれ、美月は すこぶる平和な世界を生きていく。

嫌がらせは2人の問題だけど、女子生徒からの言動を告げ口するような真似をヒロイン様にさせないために、周囲に動いてもらったし、恭介に牽制してもらった。そこまで美月を清純な存在にしなくてはならないのか、と呆れるばかりだった。美月は悪意に負けない自分になると誓った気がするが、具体的に立ち向かうことはなく、強くなった様子もなく、ただただ男に頼っているように見える。亜哉は拒絶したが、結果的に守ってもらっている状況に矛盾を感じる。

美月が到達したのは、人前でスピーチをする勇気の再獲得ではない。自分を守ってくれる4人(亜哉を含めれば5人)の存在だ。当初は美月あった ぼっち やトラウマ属性が消失した今、美月は ただの逆ハーレムの お姫様である。以前も書いたが、最初は ぼっち設定を用いて必死に その匂いを消臭しようとしていたのに、最終的に そうとしか思えない内容に落ち着いているのが残念でならない。

また あれだけモテる恭介と瑠衣(るい)が本編でも番外編でも最終的に この学校の生徒と結ばれないのは、この学校で忠誠を誓う存在を美月ただ一人に絞るためではないかと邪推してしまう。竜二(りゅうじ)もまた然り。免罪符的に同性の友達にレイナを配置しているが、結局、イケメンに囲まれているから学校生活が幸せです!というのが美月のスピーチの主旨にも思える。非常に悪意ある読み方だとは思うけど、それだけ後半の姫プレイは目に余った。

作中で美月だけが漢字の名前を持ち、それ以外の女性キャラはカタカナで表記されるのも、美月の特別性の表現なのかと疑いたくなる。本当に この表記の違いに どういう意図があるのだろうか。


ストシーンも美月が望んだように、今はもう敵ではない永久と亜哉の仲良しが成立して、彼女が望む世界が完全に成立したことを示しているように思えた。

私が嫌なのは、この世界全体が優しいのではなく、美月の周囲の人が美月に優しい、そんな世界が成立しているだけ だということ。作品も作者も自己満足に終わっているようで、期待が大きかっただけに落胆も大きかった。

本書のラストシーンは夏のインターハイ予選の、試合開始直前となっている。試合の結果は分からない。なぜなら試合に向かう努力が大事で結果は大事ではないから。しかし以前にも書いたが、今年度のチームはベストメンバーであり、強豪校に亜哉はいない。つまり優勝の可能性は十分にある。

そして嫌な考えだが、本書は美月のためにある世界でしかない。彼女が応援席で応援する限り永久たちが負けるはずがない。繰り返すが亜哉はいないのだ。美月の彼氏は予選を勝ち上がり、もしかしたら亜哉と同じインターハイ優勝という経歴を獲得するかもしれない。

本書は、永久と亜哉の直接対決においてはバスケの実力や勝敗は恋愛に関係しないよう配慮されていた。だが今回は直接対決ではない。そして既に永久は美月の彼氏であるから、その後で彼の経歴に箔が付いても それは仕方のないことなのだ。しかも それを直接 描くような真似をしないのだから、作品はバスケの実力と恋愛に関連性を持たせない。しかし彼らは勝ち続けるだろう。

作品終了後ではあるが、おそらく美月はインターハイ優勝選手の2人から愛されるという大きな称号を手に入れる。本書で描かれていたのは 普通の青春ではない。エリートイケメン(バスケ)に愛されるという特別な事例なのである。


二は何度目かの、恋愛解禁後初めの告白をナナセにした。だが結果は何度目かの玉砕。ナナセは通っている専門学校に気になっている人がいる、パティシエの勉強で留学も考えている、と竜二を受け入れない。竜二は色々と理由を並べられたが、結局 自分がナナセの恋愛対象じゃなかったことを よく理解しているから表情もサッパリしている。大人になったもんだ。

ただし作者は主要キャラの幸せを絶対に幸せにする人。現に永久に失恋した女子バスケ部員のマキも幸せにしている。ここは失恋や恨みなど存在しない清浄な世界なのである。

だから竜二の大逆転がある。竜二がナナセを誰よりも理解しているというエピソードのために彼らの初対面が捏造される(言い方…)。こうして自分を竜二が分かってくれていることが嬉しくて、ナナセは竜二への想いを告白する。実は今回の竜二の告白は嬉しかったが年齢差や経験差など気になる部分が引っ掛かったから適当な理由を並べて竜二を遠ざけてしまった。
けれど この日、父親が倒れて大切な人を失うかもしれない恐怖の後で、ナナセは竜二のことを遠ざけることは出来ないと感じたようだ。ただし留学の計画は本当なので2人は遠距離恋愛が確定してしまうけど。

ナナセが竜二を少しずつ認めていく過程は描かれているから この結末も納得が出来る。本書の恋愛の基本は、男性が女性のことを深く理解してくれていることが愛情の深さのバロメーターようになっている。


性たちから貰ったチョコのお礼に、ホワイトデーにバスケ部4人は お礼としてカフェの手伝いをすることを申し出る。いつもは客として来店していた彼らが一斉にイケメン店員に変身する。

そしてホワイトデーは永久の誕生日でもある。そこで美月は恭介(きょうすけ)に相談してサプライズパーティーを企画する。でもヒロインは恋の相談相手の助言に従って空回りする生き物。この時の恭介の助言を聞いた美月は積極的に距離を縮めようとするが、永久には暖簾に腕押しで手応えがない。

パーティーの準備が整うまでの時間稼ぎをするという名目の実質的なデートで、美月が席を外した際に永久はクラスメイトの女子と遭遇する。そこで永久は初めて自分との交際で美月が嫌がらせを受けたという事実を知る。本人が言いにくいことは周囲が言ってくれる。これも美月のオートマチックな人生である。最終盤の こういう展開の仕方、溜息が出る…。

こうして永久は美月のことで感情を取り取り乱す、という美月が見たかった場面が見られる。ただし ここで永久が亜哉の名前を出し、彼なら美月を救えた、彼になら美月は相談できたと言い出す。その発言に美月は傷つき、2人の間に微妙な空気が流れる。

密告も人にやらせる美月様。これぞ亜哉を拒絶した「守ってもらう」状態では…??

のままカフェに到着するのだが、そこには誰もいなかった。あるのは敷かれた布団が2組。これは恭介の二重の計画。なかなか進展しないであろう2人に刺激を与えたようだ。
といっても これは永久の願いを聞き入れたものだった。彼は美月と一緒に夜中に行きたいところがあって、彼女と夜まで一緒に過ごしたい。だけど美月は親にも交際を言っていないし、言っていても それが簡単に許される訳じゃないから永久は諦めていた。そんな彼の純粋な願いを叶えるために、恭介やナナセらカフェ側も計画に賛同したようだ。さすがに高校生カップルがラブホテル代わりにカフェを使うことはオーナーは嫌がるだろう。

こうして裏サプライズパーティー企画を知った お姫様は永久と2人で夜の世界に繰り出す。永久が連れて行きたい場所が階段の上にあり、それを上がるために永久は美月を おんぶし、2人の接近によって亜哉の名前を出した一件についても話し合うことが出来た。出会って1年弱の2人には互いに知らない領域が まだまだあって、特に永久は亜哉の大きさに勝てないことの連続だったから、今でも頭に浮かんでしまうのだった。永久にとって亜哉は一つの指針なのだ。

永久が見せたかったのは満天の星空。まだ寒い夜だから2人は寄り添って温め合う。そして天然でマイペースの永久が積極的に成長を望むのに亜哉の存在があるように、美月は自分を好きになり始めたのは自信をくれた永久の存在があると彼に感謝を示す。そこが美月にとっての永久と亜哉の決定的な違いだろう。その後、2人はカフェに戻り、話しながら眠ってしまったようだ。

ちなみに美月は亜哉と定期的に連絡を取っているらしい。そして当て馬は作品内で いつまでもヒロインを想うのが定番である。ヒロインは全男の好感度を掴んで離さない。


らが待望していた春=新年度が到来する。バスケ部には予定通り廉太郎(れんたろう)が加入。

美月は新歓祭のスピーチが待っていた。例文を参考にした原稿は既に完成しておりレイナを相手に練習して高評価を得る。ちなみに新歓祭(新入生歓迎祭)なのに全校生徒が参加するらしい。上級生たち関係なくね…?? これは永久にも聞いてもらうため、その場にいてもらうためなのだろう。どこまでもヒロインのために この世界は存在する。

しかし美月は下校時に練習後に原稿を紛失したことに気づき、一緒にいた永久と学校に戻る。発見した原稿は永久ファンの女子生徒によって踏みつけられていた。そこで永久は再び感情を乱す。だが美月は、そこから新たに永久に練習を手伝ってもらい落ち着いて本番を迎えた。

当日、美月は原稿を持たずに登壇する。あの原稿は例文を参考にした美辞麗句ばかり。人に褒められる内容かもしれないが自分の言葉ではないと思った美月は思いを込めたスピーチを始める。ハッキリ言って新入生に関係ない自分語りで、抽象的すぎて誰にも響かないだろう。けれど ここで大事なのは内容ではない。人前で作文を読むことがトラウマになった美月が それを乗り越えたという事実が大事なのだ。そのために新歓祭委員は随分前から用意されていたし、スピーチをするために委員長になったと言える。


ストは あっという間に夏直前になり、永久が亜哉のいた高校を倒す機会を得る。その試合を観戦するためにナナセが帰国し、そして亜哉も試合会場に顔を出す。自分が負けることのない亜哉は永久を頑張れと言って送り出す。美月の夢見た誰もが仲の良い世界が実現したということか。

ここでも試合の結果は大事ではない。ここまで来た過程が大事なのだし、ここまでの描写で負ける要素がないことも描かれている。亜哉のいない世界ではあるが、美月は高校トップクラスの実力を持つ選手が彼氏となる。成長することで得られた実力と勝利だが、結果的に白泉社的なトップ オブ トップとの恋愛と逆ハーレムが成立している。序盤は そうならないように気を付けていたように見えたが、最終的に そこに落ち着いたようだ。

試合の開始が本書のラストシーンとなる。ここからは描かない方が美しい。でも これでは続きがあるかのような終わり方で分かりにくい。特に本書の場合、次の『14巻(番外編集)』の存在があるので、まだ本編が続くと勘違いする人が少なくないだろう。