あなしん
春待つ僕ら(はるまつぼくら)
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
バスケ部イケメン四天王と接するうちに新しい友達ができた美月(みつき)。次第に4人のうちの1人で同じクラスの永久(とわ)が気になり始めるけど、再会した親友・あやちゃんが実は男子だと判明して…!? 大ブレイク中!! あなしんが描くイケメンたちとのキラめく青春ラブストーリー★
簡潔完結感想文
- 抱える問題に頭を支配され、目前の相手のことが二の次になってしまう未熟な僕ら。
- 美月の孤独を最初に救ったのは亜哉。その手出しできない過去が永久の劣等感の根源。
- 早々の再会が予想された美月と亜哉の再会は1巻が経過してから。亜哉のラスボス感!
急(せ)いては事を仕損じる、の 2巻。
『2巻』で驚いたのは その構成。通常ならば、『1巻』のラストで登場したヒロイン・美月(みつき)にとって大事な人である亜哉(あや)を中心に話が展開するところなのに、本書は亜哉の登場で美月や永久(とわ)に湧き上がる心情を丁寧に描くことに『2巻』を費やしている。この いい意味で ゆったりとした空気感が本書には合っている。
亜哉との対面は、美月、そして永久の気持ちが一通り落ち着いてから始まる。だから混乱のまま話が進んだりしないし、相手を よく知らないまま会話が進んだりしない。亜哉との対面は1話の中の数ページに過ぎないのだけど、その中で濃い会話が交わされている。そこが作品内での亜哉という存在の大きさを示しているように思えた。まぁ 亜哉の登場の余波で波立つ2人の心を中心に描いているということは、亜哉が当て馬であるという証拠でもあると思うのだけど…。


けれど登場シーンこそ少ないが、私は『2巻』を通して亜哉のことが好きになった。何より亜哉は待望した美月との再会を急ぎすぎて美月を困らせるようなことをしない。それが彼の鷹揚さと格好良さだと思えた。亜哉は練習試合で美月を見つけたのだから、彼女の学校も分かっている。それなら翌日にでも彼女に会いに行くことは可能だったけど、それをしていない。それが自分のことを女性だと思っていた美月への気遣いだし、そして きっと亜哉は美月と会うのなら あのバスケットコートで、というシチュエーションが ずっと夢見てきたことだからだろう。
だから亜哉は美月に会えることを願って彼女のいないバスケットコートに立っていたし、そこで永久とも再会した。永久から美月が このコートが見えるカフェでバイトしている情報を聞いて、過ぎ去った日々の中で彼女の中で自分の居場所が変わらずにあると推測してから、彼女と再会している。なんてジェントルマンなの! と英語で言いたくなるような性格をしていて、亜哉に一気に好感を抱く。
そして美月との再会の時も亜哉は美月のバイトが終わるのを3時間 待っている。普通なら亜哉は、美月がバイトするカフェの中で彼女を眺めながら時間を潰せばいい。でも それをしないのは、このカフェが作品においては同じ高校のバスケ部員たちとの聖域であって、そこに無断で亜哉が入ることは許されないからなのだろう。そして上述の通り、亜哉はバスケットコートの中で美月と話したい。亜哉にとっての聖域は別にあるのだ。こういう人の領域に無遠慮に ズカズカと入ってこない分別も亜哉の好ましい点の一つである。
そして今回のタイトルにした通り、亜哉は登場こそ5人のイケメンで1番遅いが、実は美月にとって最初に出会っていたイケメンである。その性別と順番の2つの逆転現象が面白く、だからこそ友達が出来にくい美月に一番近いと思っていただろう永久の焦りが よく分かる。
そして永久が焦る原因は亜哉が自分と同じバスケ選手であり、しかも自分より はるか前方を走るトップランナーである点も付加される。この二重の焦燥により、永久は通常とは違う反応を美月に見せている。ちょっと顔見せした登場だけで方々に影響を与える亜哉は間違いなく最強の存在で、二重の意味で勝てないから永久は そのマイペースを崩す。
少女漫画として大変よろしいのは、男性たちは直感的に相手が最大のライバルになると見抜いている点。ヒロインが与り知らない、ライバルとなる男性の静かな火花の散らし合いは女1男2の三角関係において最も読者が見たいシーンと言っても良い。
もし亜哉が三角関係のセオリー通り『3巻』で後発キャラとして登場したら全く勝ち筋が見つからないが、亜哉の登場は『1巻』、それも1話の永久よりも早い段階で済んでいる、というのが本書の面白いところ。ここから美月と永久が明確に恋心を自覚し、亜哉もギアを入れ直すことで面白さは加速することが予感される。まだまだ作品は可能性を秘めているのだ。
第5の男、いや第1の男だった神山 亜哉(かみやま あや)が登場する。あやちゃん は女だと思い込んでいた美月には青天の霹靂だが、亜哉が ちゃんと昔の自分を覚えていることで亜哉と あやちゃん の同一性を確認する。
そんな2人の様子を見た永久は翌日、いや当日から様子がおかしくなるが、これは美月に一番近い男が自分ではなく亜哉であったことの衝撃と、その亜哉がバスケの強豪校のエースであるという劣等感が永久の中に発生したのだろう。だから永久は美月と上手く接することが出来ず、結果的に彼女に疎外感を与えてしまう。
その状況を美月は自分の心の中の あやちゃん に寂しさを訴えるが、それが「亜哉」であったことで心の支えを失った気持ちになり二重のショックを覚える。永久は そんな自分を反省し、出来てしまった美月との距離を縮める。もう この時点で三角関係が成立しているが、それを予感するのは当事者2人と恭介(きょうすけ)の男性たちだけ。ヒロインは いつだって鈍感なのである。
亜哉の登場の直後は永久の反応を描き、その次の回になって ようやく美月と亜哉の出会いのエピソードが語られる。美月は作文でクラスの代表になったことが自分に価値が生まれたようで嬉しかったが、そのことが気にくわないクラスメイトに標的にされ仲間外れが始まる。自己肯定感を育てる場面で、自分を否定されたことが美月の心の傷になっているのだろう。
その どん底の時に出会ったのが あやちゃん だった。どうやら あやちゃん も転校続きという境遇もあり、この時に排他的な人間に攻撃を受けていたようだが、気にしていない様子。そんな あやちゃん に共感と尊敬を覚えて、2人の距離は近づいた。
そんな あやちゃん が男性だったことで美月の心の支えになった思い出は黒歴史になりかねない。でも亜哉は渡米した後に有言実行でバスケの実力を身に付け、高校生屈指の存在になっていた。そんな彼を尊敬するし、そして変わらない自分が悲しくなる。
でも今の美月には、悲しんでいる時に声を掛けてくれる人たちがいる。からかわれながらも美月は彼らに元気を復活してもらう。
どうやら鈍感でマイペースな永久の心理状態を一番に見抜くのは恋愛マスターの恭介らしい。彼は永久が語った美月への印象の中にある言葉の意味を本人よりも理解しているようだ。これからは美月・永久双方から相談を受ける立場になるのだろうか。
その永久は例のミニバスケットコートで亜哉と再度 遭遇する。亜哉は美月が道路の反対側のカフェでバイトをしていることを知らず、ただ思い出のコートで彼女の面影を捜していた。そして美月がカフェでバイトを理由が、彼女もまた自分との交流を大切に思っている証拠だと考え嬉しく思う。
亜哉は自然と優越感を醸し出すが、永久は亜哉に負けたくないとライバル宣言をする。ここで永久は バスケの という言葉を使っているが亜哉は それだけではないと確信している。本人よりも周囲の人は敏感に永久の気持ちを察知している。
その後、亜哉と別れた永久はカフェに着替えを置こうとする美月と遭遇し、直前の亜哉を思い出し、彼女が誰かのものにならないように腕を掴み、美月と2度目の一緒に電車に乗って帰る。
その日の夜、美月は永久から翌日 屋上に来てと呼び出される。告白を期待し、身だしなみを整えて臨むが、永久から聞かされた話は亜哉との遭遇についてだった。永久が時間を置いて伝えたのは、彼自身 この情報を美月に伝えるか逡巡し、心の整理に時間が必要だったからか。それとも2人きりの時は亜哉の話題を出したくなかったが、その自分の心の妨害が美月のデメリットになると考えフェアで いようとしたのか。
告白を期待した美月の落胆を見抜くのは恭介。彼は何でも お見通しで、やっぱり良き相談役になりそうだ。それからも永久の一挙手一投足、一言一句に美月はドキドキさせられっぱなし。無自覚に美月を奪われたくない永久が可愛らしい。
そして『2巻』収録の最後になって、ようやく美月と亜哉が しっかりと再会する。亜哉が自分に会いに来たことは、ずっと会いたかった美月も嬉しいのだが、性別と身長などの要素が苦手意識を高める。けれど美月のバイトの終わりを待つために3時間を費やしたり、子供たちとバスケをする無邪気な亜哉の表情に子供の頃の面影を見つけたり、美月の苦手意識を相殺するような瞬間もある。


美月のバイト後、2人は互いの高校の制服姿で あのコートで一緒の時間を過ごす。この際の会話で、美月は亜哉がテキトーに放つ言葉に惑わされないし、亜哉は美月が本気で自分との思い出を大事にしていることを嬉しく思う。そして美月が あやちゃん を心の支えにしていたように、亜哉にとっても美月との時間が会えない時間を支えてくれていた。でも美月が高校生活を それなりに順調に過ごしていることが亜哉は少し寂しい。そして亜哉の本気の気持ちは美月には伝わらない。だから抱きしめたり行動で示したりするのだが、それが ますますアメリカンスタイルだと思われて本気にされない。
それにしても美月は亜哉の気持ちを理解しないからだろうけど、亜哉にバスケ選手が何が嬉しいか聞くのはデリカシーが無い。『1巻』でもレイナとの関係に悩むあまり永久たちとの関係を断とうとしていた。こういう場面が連続すると、人間関係が上手くいかないのは周囲の問題だけじゃなく、美月に空気を読む能力がないからなのではと思ってしまう。
実は この不器用さが作者の美月の成長のために わざと用意したものだったら嬉しい。後半になるにつれ美月が相手の気持ちの裏や奥まで考えて行動できていると一層 この作品を好きになってしまうだろう。
そんな2人のスキンシップを目撃するのは恭介。何もかも お見通しである。もしライバルキャラだったら全ての情報を把握している厄介な存在だろう。まさか恭介が第三の男として「逆ハーな僕ら」を完成させていくのだろうか。