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少女漫画と小説の感想ブログです

自己判断による「紫の上」の転生者の見極めで態度を180°変える「メンヘラの君」。

月下の君 (3) (小学館文庫 しI 3)
嶋木 あこ(しまき あこ)
月下の君(げっかのきみ)
第03巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

大ヒット!! 「源氏物語」転生ラブ! 「生まれ変わりじゃないと好きになってくれないの?」光源氏の転生者として覚醒した葉月(はづき)は、前世の妻・紫の上との千年越しの約束と、現世の恋人・シュウを想う気持ちの板挟みになり葛藤する。シュウが倒れたことがきっかけで、一緒に暮らす決意をする二人。だが、葉月の継母が同棲生活に乱入。彼女は自分を「藤壺」になぞらえて、葉月を狙いだして・・・!?

簡潔完結感想文

  • 舟が転生者じゃないと知ったら別れ、転生者だと思い込んだら溺愛するヤバい男。
  • 高校生同士の同棲に継母が乱入して大騒動。迷惑キャラで中身の無さをカバーする。
  • 失明しても人格が違っても気づかない恋人とメモ魔。転生じゃなく多重人格モノ!?

一つの場所に留まれない光源氏という病、の 文庫版3巻。

相変わらず騒がしい作品だ。ジャンルや方向性が読者に伝わらないままなのが据わりの悪さの原因で、ただただ小さな騒動が起きるだけ。想いが重なる喜びも好きな人の隣にいる安心感も、落ち着きのない本書では味わえない。平安の雅な世界と対極にあるのが本書である。作者は源氏物語の どの要素を自分が表現できると思ったのだろうか。
もし前世の記憶を持った男のコメディなら草凪みずほ さん『NGライフ』を読めば それで十分だと思う。

また、いよいよ主人公で光源氏の転生者である葉月(はづき)がメンヘラ男にしか見えない。葉月は単純に舟(しゅう)のことが好きになって、すぐに「契り」を交わす仲になったのに、その後に舟が「紫の上」の転生者であるかを気にし始めて、彼女を拒絶。その後も葛藤を続け、自分の中で舟を転生者と認めると、一転して舟の人格を無視して彼女の向こう側にいる紫の上を愛する。

光源氏も、そして葉月も とんでもない自己中心的な男だと思うが、舟は その欠点を無視する。

物語は最後まで無視し続ける光源氏の転生者って何だよ」問題も相まって、葉月の頭のおかしさが限度を超えている。そんな葉月に舟が疑問を持たないことが また読者の共感を奪っていく。葉月は少女漫画に散見される顔は良いけど頭がおかしいヒーローそのもので、その人と離れようとしない舟に疑問と苛立ちが募る。

千年前の約束を今度こそ守ろうとする転生モノの切なさや壮大なスケールはまるでなく、ただただメンヘラ男が安定しない自分の精神に困惑し、そして周囲に迷惑を掛けていくだけ。文庫版『3巻』のラストでは その症状が悪化していく。
それにしても舟も友人・ヒロシも葉月が失明しても人格が変わっても何も気が付かない。ヒロシは葉月(光源氏状態)が自分のことを軽視する発言をしたことに傷ついていたが、ヒロシもメモ魔として葉月を観察し続けているのに、その眼が節穴で残念すぎる。ヒロシはともかく、せめて舟が もう少し成熟していてくれたら健気に見えるのに と思う。

今回、登場する葉月の継母は転生者じゃない。それを踏まえないと間違った方向に想像が進んでしまうのだが、読者が そう考えるのも仕方ない。だから作者が注意を喚起しなければ いけないのだが、そういう配慮が出来るような人ではない。しかも文庫版『1巻』1話が光源氏と継母・藤壺の宮(ふじつぼのみや)の恋を描いていたので、誤解は増幅していく。現世の継母が関係ないなら あの1話はなんだったのか。そして転生者は なぜ2人だけなのかなど、疑問は浮かぶが作品は答えてくれない。

このように細かい設定・ルールなど まるでなく、作者が描きたいことを勢いに任せて描いている自己満足作品であると思わざるを得ない。文庫版『3巻』では思い出したように約2巻ぶりに葉月の手の震えが持ち出されるが、その原因は曖昧に語られるだけ。

初読時は とにかく あと1巻で終わると この地獄のマラソンのゴールが見えたことが嬉しかった記憶がある。そのぐらい読んでいて苦しかった。出口が見えない日々を送っているのは人格を乗っ取られつつある葉月も同じ。彼の受難の日々も もうすぐ終わる。


月は舟が、千年後の再会を約束した「紫の上(むらさきのうえ)」の転生者ではないという理由で拒絶する。恋の始まりも唐突だったが、終わりもまた意味不明。

そこに生まれた隙に またもNo.2が舟に近づく。しかし懇願しても舟に振り向いてもらえないNO.2は自分が舟とキスしたことを葉月に暴露してしまう。そこから謎の、先に舟の所に たどり着いたほうが勝者となる「マラソン決闘」が始まる。葉月は負けるつもりで勝負を受け、NO.2は途中で卑怯な手を使ったことで勝負が決まったかに見えたが、頭とは別に葉月の身体は走り続ける。ヒロシ以外の登場人物がエキセントリックすぎて ついていけない。

きっと この勝負は葉月が舟に新しい恋に進んで欲しいと願いながら、離れられない自分の本心に気づくという回り道のためにあるのだろう。


縁しても次の回では また すれ違いが始まる。
文庫版『2巻』で登場した監禁女が今度は舟を監禁する。葉月は またも舟を放置しながら気になって仕方がない。そうして悪霊の恐怖に怯えながらも舟を選ぶ。同じことを繰り返されましても…。

そして今度は唐突に舟が紫の上の生まれ変わりだと信じていく。その根拠もなく幻想で拒絶したり受け入れたり、メンタルがヤバい。

舟が紫の上の生まれ変わりだと信じた葉月は、今度は舟の中の紫の上を発見したくて仕方がない。だから現世の舟を無視するかのような言動をしてしまう。そうして花火を巡る すれ違いが起こってからの どうにか逆転するというマッチポンプ回となる。


語も中盤を過ぎてから唐突に舟の家庭環境が語られる。彼女は一人暮らしで、父親は再婚し異母弟か妹が誕生する予定。どうやら継母に遠慮して家を出たらしい。しかも父親からの援助は乏しいらしく、舟は空腹で倒れてしまう。

そんな彼女を葉月は自宅まで運び介抱する。葉月は、かつて舟に合鍵を渡すぐらい この家で一人暮らしを謳歌している。ちなみに この家は本好きの父親の書庫代わりでセカンドハウスらしい。

葉月は舟に暮らしぶりを訪ねるが、舟は何だかんだで育ちが良い葉月との格差を感じてしまい言い淀む。

舟の成績が悪いことを知った葉月は教育を施す。それが舟に代わってノートをキチンと取ること。それを葉月は舟に、ヒロシが貸してくれた という嘘を用意して渡す。序盤でもクラスの集合写真1人1人に名前を記載したことを誤魔化していたが、葉月の嘘はバレやすい。そして優しさのバリエーションが少ない。ここは光源氏と紫の上の関係性が出ているのか。ただ現世では同じ年なのに常に幼稚な舟が情けなく映る。

こうして舟は意地を張るのを止めて、同棲を承諾する。


い同棲生活を送る前に葉月の継母が現れる。夫が海外出張中のため葉月が住む家に しばらく滞在すると勝手に宣言し、葉月が舟のために しつらえた部屋に居座る。同棲に邪魔者が乱入。しかし舟は継母に歩み寄る姿勢を見せ、継母も舟を可愛がる。どうやら舟の継母は義理の娘に優しくなかったようである。

継母だが藤壺の宮の転生者じゃない。そこを混同してはいけないが、してしまう。

しかし葉月が この家に住むようになったのは継母の過剰なスキンシップから逃れるため。中学の時に父親が再婚したのだが、継母は風呂や布団に闖入してくるような人で、それが原因で葉月は女性恐怖症ぎみ になったという。手の震えも それが原因か。と思えば前世の光源氏が原因であるかのような描写があって混乱する。設定自体も作品から忘れ去られていたしなぁ…。

継母を非難したくて葉月は身の上話をしたのだけど、舟は継母をアクロバティックに擁護する。それが原因で また言い争い。そして葉月が用意した舟へのプレゼントの場所を都合よく聞いた継母が事態を引っ掻き回す。葉月の態度も大概だが、舟も幼稚で言い過ぎた後に謝罪するというのがパターン化している。


氏物語では、光源氏の継母である「藤壺の宮(ふじつぼのみや)」は彼の最愛の人。この面倒くさい人物を物語に配置した割に、何がしたいのか いまいち分からない。転生者ではなくてポジションが一緒なだけだからか、派手(ケバい)な女性で、別に葉月が継母を好きな訳ではない。そして継母は葉月の人格が変わることを知っていて、過去に2人に何らかのコトがあったことを ほのめかす(事実は永遠に謎だけど)。

そして忘れた頃に葉月の中に光源氏の人格が現れ、また物語を ややこしくする。葉月は光源氏の人格が暴れ出しそうなことを察知し、光源氏が舟に手を出さないよう予防する。この時に舟には理由を告げないから混乱が起きる。

その後も光源氏の話題が出る度に葉月の人格は変わる。失明騒動の時もそうだったが、葉月の異変に舟やヒロシが気づかない。合理性とか論理性とか全くない、勢いだけの展開に辟易する。そして どんどん光源氏が葉月の生活を侵食していき…。