《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

狼陛下は鼻咬み陛下。鼻を咬(か)まれたのは もちろんバイト妃。biteだけに(ドヤァ)!

狼陛下の花嫁 5 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

狼陛下・珀黎翔が憂うのは、氾大臣と柳大臣による春の宴の指揮権争い。夕鈴は、少しでも陛下の力になろうとするのだが、李順から“余計な事をするな”と釘を刺されてしまう。酔った陛下にも同じ事を言われたあげく、鼻を噛まれた夕鈴は、氾紅珠の私邸へ家出してしまい…!?

簡潔完結感想文

  • 契約結婚だから出会いから一緒にいた2人。初めて離れて一緒にいることを願う2人。
  • ストレスが溜まると掃除をしたくなる妻と、自他に咬みつかずにはいられない夫。
  • ヒロインが好きを自覚した後は、以前と同様の溺愛シーンも全然 意味が違うんだよ☆

愛漫画からイチャイチャを引くと何が残る? の 5巻。

『5巻』の特徴は夕鈴(ゆうりん)と陛下が一緒にいる時間が極端に少ないことではないか。例えば冒頭の話では陛下が別の人(隠密の男性)と夜な夜な酒を飲みながら語り合ってしまい夕鈴は放置されてしまうし、中盤は夕鈴が家出をして王宮・後宮の場面が無い。お出掛け回で四六時中一緒にいたから、久々の王宮では逆に彼らの時間を奪うような話作りを意図して狙っているとしたら作者は大したものだ。

まるで、周囲が予想していたような陛下の寵愛期間が終わって放置された妃になる夕鈴。

そして0日婚のように契約とはいえ最初から一緒にいる2人が離ればなれになって湧き上がる感情が新たな展開を生む。王宮や陛下から離れて見て、第三者に初めて語ることで夕鈴は陛下への特別な感情に気づく。『5巻』で これに気づくなんて、鈍感ヒロインばかりの白泉社作品の中では かなり早い部類なのではないか。

ただ本書の問題点は、他の白泉社作品と違って、恋心を自覚しても何も変わらない点だろう。通常なら身分差に悩んだり、叶わない恋だと悲嘆したりするところなのだが、本書の場合、どうやっても「夫婦」であることは変わらず、恋心の自覚前後で世界が一変するようなことはない。読者が夕鈴の気持ちを きちんと想像すれば、この後の陛下からの「寵愛」が偽りであることの虚しさや悲しさなどに胸を痛めるのだろうけど、本書は最初から陛下は夕鈴のことを気に入っているのが見え見え。今後、夕鈴が不安になったりしても それは杞憂でしかない。私は そこが わざとらしく思えてしまってダメだった。ここまでもパターン化した部分を虚無に感じていたが、ここからは同じような溺愛シーンでも夕鈴の反応が違うという再放送が始まりそうで暗澹たる気持ちになる。
そもそも連載1回分で以前の感情との重複が多すぎるから あっという間に読めてしまう。


して後半からは学園モノなら文化祭回になるであろう王宮の宴の話が始まる。学校イベントならぬ王宮イベントで大きな話を作ろうという魂胆なのだろう。基本的に白泉社の物語の構築方法は共通している。折角なら昔の中国ならではの季節イベントなどを取り入れて、豆知識を入れて欲しかったが、そうすると時代や場所が特定されて中華風ファンタジーではなくなってしまうのだろう。長い割に文化的な匂いがしないのが本書の残念なところ。

今回、政治的背景が少し語られ、おそらく若い陛下をはじめとした20歳前後の主要キャラが将来この国の要になっていくことが予想される。次の王宮イベントも その布石と言えよう。
彼らを一つにまとめるのは狼陛下のカリスマ性と、初対面の人を魅了してしまう夕鈴の お陰ということを作者は描きたいのだろう。ただ毎度 新キャラが夕鈴に心を開いて、心の中で称賛するのは読者の自尊心や承認欲求を満たす安易な手法に思えて私は好きではない。夕鈴の幼稚さとか視野の狭さ、成長の無さという欠点を無視して、人柄だけで乗り切っている感じが嫌だ。善人の描き方が安直。

特に今回、夕鈴はイベントに対しての政治闘争があることを知っていながら、軽率な行動をしている。全く無知なら巻き込まれヒロインだったが、事前に知識を入れておきながら、自分の感情で突っ走るのは これまでの彼女の中でも最低の振る舞いではないか。ここまで感情で動くと ちょっと幼稚すぎて夕鈴を嫌いになりそうになった。


出掛け回が続いたので さすがに舞台は王宮に戻るが新キャラ祭りは続く。
今回は陛下の隠密・浩大(こうだい)が初登場。浩大は陛下が狼ではなく子犬状態でも話す希少な人。近しさは側近・李順(りじゅん)クラスと言える。実際、浩大は陛下が即位する前から主従関係にあり、付き合いが長い。

浩大はサッパリした性格なのだが、一方で歯に衣着せぬ発言をする。その一例が、陛下がバイトとはいえ妃を迎えたので夕鈴が特別な女性だと思い込んでいたが、そうではないと知り浩大は落胆を隠さなかったこと。どうやら彼は妃の登場によって陛下が変わることを望んでいたようだ。

この発言が夕鈴は気になる。しかも陛下は浩大が帰還してからは彼との時間を優先する。同性とは別方向から陛下を奪われる形になっている。夕鈴は そこに嫉妬するが、浩大と陛下はビジネスライクな関係。その関係性を理解できなくて浩大に一方的に説教を垂れることで彼の関心を引く。新キャラは全員 お妃様に一目置くのが お約束である。浩大は夕鈴がミスを庇ったり、手を差し伸べたりしないことがレアな立ち位置かもしれない。


いては王宮のイベント回。学校なら文化祭といった ところだろうか。

開かれるのは春の宴。陛下は財政と綱紀の乱れの立て直しが急務だと考えているが、こういったイベント開催を望む者もいる。そしてそのイベントの主導権争いも悩みの種。1人は方淵(ほうえん)の父親である中央行政の中心人物・柳(りゅう)大臣。そして もう一人は国内で最も歴史ある名家の氾(はん)大臣。こちらは紅珠(こうじゅ)の父親である。

イベントはまだ先になので陛下が判断を保留していたら、王宮内で派閥争いが始まっていた。陛下は その悩みを夕鈴に愚痴ったりせず、むしろ彼女には一線を引いて接する。陛下側から踏み込めない問題に夕鈴は紅珠に宴の内容を教えてもらおうとしたのだが、なぜか氾大臣そして柳大臣が2人並んで妃への説明会を開く事態になってしまう。妃に判断を委ね、それで言質を取ろうとする大臣たちの考えに夕鈴が巻き込まれそうになるが、そこへ陛下が登場し、夕鈴は重圧から解放される。

陛下は何も言わないが、李順から危機を招いたこと、そしてバイト妃の越権行為だということを指摘される。


鈴は自分の眼前にある「一線」の存在感に落ち込むが、それは陛下も同じ。自分の素顔の一つである狼陛下に夕鈴は相変わらず恐怖心を覗かせ、距離を取っているように陛下には感じられた。それは夕鈴側から引かれる一線なのである。陛下も実はナイーブに夕鈴の言動の一つ一つに反応しているのである。

そんな膠着状態から陛下は深酒をしてしまい、狼状態が続いたまま夕鈴のいる後宮へと向かう。そこで夕鈴が一線を引かれることの寂しさを滲ませるのだが、今の陛下には夕鈴の方が その発言をする意味が分からない。だから その苛立ちを花嫁の鼻を咬むという行動で表してしまい、それが夕鈴を驚愕させ、そして彼女を混乱させ家出を決行させる。夕鈴が向かったのは紅珠の家。つまりは氾家であって妃が氾家に肩入れしているような状況を作ってしまう。李順は頭を抱えるが、陛下は自分の行動が招いた事態なので反省するばかり。
この咬むというのは陛下のストレスの象徴。夕鈴は驚くばかりで気が付かないが、陛下が自分のことで頭を悩ませているからこそ起こる行動なのだ。ここからの家出は夕鈴がバイトとしてプロ妃として失格なのか、それとも陛下の手を出さないという契約の違反になるのか。


家の家で夕鈴が出会うのは紅珠の兄・水月(すいげつ)。水月は官吏なのだが今は休職中。
水月が休職しているのは、狼陛下への恐怖心と怠惰な性格によるもの。これは きっと次世代を担う方淵と対照的な性格を意図しているのだろう。狼陛下を敬愛し、仕事熱心な方淵と その逆の水月。旧世代ではなく狼陛下の臣下として2人は用意されていると思われる。

そして夕鈴は狼陛下が演技だと思っているから、水月に対し「本当」の陛下の姿をしってもらう努力をし、彼の復職を間接的に働きかける。この時の交流でまた、その人にとって妃が特別になっていくのだろう。陛下をアピールすると、逆に水月から夕鈴の陛下への気持ちが思慕であると問われてしまい、夕鈴は初めて陛下に対して「好き」という言葉を使い、そこで またもやキャパオーバーになる。だから鼓動の高まりが治まるまで家に帰れなくなってしまう。

夕鈴が氾家にいることで また2つの家に波紋が広がる。柳家は妃の行動が目に余るし、氾家は妃の訪問で実利を掴み取ろうと考え始める。だから陛下は浩大に夕鈴の護衛をさせている。本書における夕鈴は割と道化で、女性が男性に劣ることを当然としているような描かれ方で好きではない。


家に留まろうとする夕鈴を叱りつけるのは方淵。彼は夕鈴が ただの家出をしていると思っていることの考えの浅はかさを指摘しようとするのだが、そこに水月が割って入る。夕鈴は水月に救われるのだが、彼らの春の宴に対する意見が分かれることで空気が悪くなり、方淵は怒りを残して立ち去る。

そこで夕鈴の現状を教えるのは水月の役割となった。方淵とは違い水月は優しく夕鈴の行動が起こした波紋と周囲の憶測について語る。水月は休職中で芸術を愛する人だけど政治や権力に目敏い。やっぱり優秀な人なのだろう。これまで李順や方淵といった怒りを隠さないタイプか、陛下のように甘やかすタイプかだったが、水月は優雅さを失わずに夕鈴に割と厳しい意見を言える人。誰が一番 食えない人間かと言えば水月なのではないか。

こうして夕鈴は自分の行動が軽率だったことを認識するのだが、陛下の前に立つ勇気が戻らない。

怒られると逆ギレする お妃様に対して、水月は穏やかに彼女の無知を責め立てる。

んな夕鈴を夜中に呼び出す者がいて、てっきり また刺客や誘拐騒動にでもなるのかと思ったが、そこに現れたのは陛下だった。陛下は これ以上 夕鈴を氾家に置くことのデメリットが大きくなり過ぎたため夕鈴を後宮に戻そうとする。
だが陛下への思慕を自覚してしまった今の夕鈴はプロ妃にはなれない。それでも陛下は夕鈴に妃としての仕事と判断力を望み、半ば強引に夕鈴を後宮に戻す。ここで夕鈴が泣き続けるのは偽りの身分を痛感するからだろう。でも読者としては陛下の溺愛は明らかで、悲観する要素が一つもないから、夕鈴が自分のことだけしか考えられない悪い意味のヒロインになっていて、逆に涙が自己中心的な思考の象徴のように思える。

結局、刺客が現れ、後宮へ向かう車が襲撃されるが、浩大や陛下の奮戦で刺客は退散していく。この一件の第一容疑者は氾家と政治的敵対関係にある柳家。夕鈴は自分の行動が実際の事件を起こした可能性に青ざめる。だが陛下にフォローされ、嬉しさと情けなさが襲来する。

浩大は そんな夕鈴を独特の言葉で慰める。実力主義の狼陛下が手元に置く仕事の出来ない妃。それこそ夕鈴の特殊性で、それでも給料が入るのだからラッキーと思えばいい、といのが浩大の言い分。夕鈴なら自分の気持ちを隠してプロに徹するぐらいして欲しかった。


鈴は自分が有用であることを証明するためにも陛下に囮作戦を提案する。これはバイトをクビになること=陛下との接点を失うことを回避したい乙女心と考えればいいのだろうか。でも夕鈴が汚名返上をしようとして焦っているだけにしか見えないし、彼女の言う「陛下の敵」は妃が知らなくていい事情。その一線を越えるのは それこそ浅はかではないか。

作戦内容は後宮に帰ったはずの夕鈴が再び氾家を訪れ、その氾家の警備を手薄にして、妃が無防備である状況を作り、前回の襲撃犯が再度 動き出すことを誘導する、というもの。勿論、陛下は夕鈴の危険を理由に彼女の提案を却下しようとするのだが夕鈴の必死さが陛下の心を動かす。温泉回といい、結局 陛下が拒絶しないことを夕鈴は利用しているように思える部分がある。

この作戦に陛下は自ら戦力として参加し、黒幕を吐かせる。襲撃犯たちは柳家の指示だと自白するが、それは目くらまし。実際は2つの派閥争いが生んだ騒動だと思わせて両家の没落を狙っていた第三勢力が犯人。それは陛下、そして柳・氾両家の大臣も分かっていた。だから両家の当主たちは一堂に会し、黒幕を炙り出す。

そして氾家での襲撃犯の処置を陛下が淡々と指示する中で、水月が顔を出す。氾大臣が王宮で柳大臣といるので、現時点での氾家の代表は水月となり、陛下の判断を仰ぎ、その指示の意図を理解し従う。
水月の復職のために夕鈴は何かと彼をフォローしようとし、陛下も水月の以前の働きと能力、そして夕鈴が認める優秀さを自分の下で活かすように伝える。こうして夕鈴は水月という扱いの難しい人も動かしてしまったようだ。妃、万歳!

そして後日、春の宴に関して妃・夕鈴から発表があり、違う個性を持つ方淵と水月の主導による開催が提案される。