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少女漫画と小説の感想ブログです

長身イケメンへの女性2人の恋心は上書きや封印が可能なもの。長身差別やめなよ!

片翼のラビリンス(4) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
片翼のラビリンス(かたよくのラビリンス)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

片想いの相手・大翔が、姉の蛍とキスしているのを見つけた、主人公・都。「お姉ちゃんよりずっと前から大翔君のこと好きだったのに」という言葉を大翔と蛍に聞かれてしまう。ふたりの悲しそうな顔を見て後悔した都は、偶然靴箱で手に入れた不思議なカギを使い、過去を、そして現在を変える為、2年前に“タイムリープ”するのだけど・・・!?
「あやかし緋扇」に続く、くまがい杏子先生の超人気連載シリーズ「片翼のラビリンス」、Sho-Comi本誌でも話題騒然、衝撃の4巻がついに登場!! 都の自殺の謎が明かされていく中、その運命を変えるため、何度も何度もタイムリープを繰り返していた司の「好き」って気持ちが、時を超えて都の心に伝わる。「こんな気持ちになるなんてはじめて・・・。私も“ありがとう”って伝えたい・・・!!」 2人のラブラブ度はMAXに!? そんな中、鍵を手にした大翔が・・・・・。想像をはるかに超える片ラビ4巻は、必ずあなたの心に響いちゃう☆

簡潔完結感想文

  • 自分のもとにカギが届けられるまでの周囲の優しさと絶望を知る都。
  • 2年間言えなくって後悔ばかりだった恋心を たった数か月で忘れる★
  • 本書では想いの長さが価値になるようで、2年より8年間の方が強い。

堕ちした大翔に同情しか湧かない 4巻。

ヒロイン・都(みやこ)を中心とした物語の話の流れは自然だ。この『4巻』で都の1回目のタイムリープが終わろうとしている。ここまで彼女が2回目のタイムリープに挑まなかったのは、タイムリープによる過去改変が引き起こした副作用を含めた全ての事象を見届けるため、という意味もあったのだろう。初のタイムリープで達成できたこと、出来なかったこと、気づけたこと、自分の罪など、功罪を含めた経験をすることで、都は少し成長した。初登場時で高校3年生だったのに、現実逃避ばかりで子供っぽかった都だが、1回目のタイムリープの数か月で人生の経験値が上昇した。彼女にとって人より回り道が出来るタイムリープは成長する良い機会となっている。

この1回目の経験を経て、彼女は初めて現実逃避ではなく能動的なタイムリープに挑む。これまでの彼女の人生は姉の蛍(ほたる)や司(つかさ)、華(はな)ちゃん といった人々に支えられてきた。だが2回目のタイムリープでは司のサポートは期待できない。今度は都が司を導く番。攻守交替し、主導権を得ることで都は初めてヒロインとして動き出す。
これまでは愛されヒロインのポジションだったが、ここからは自分で誰を愛するかを決め、未来を決定していく。彼女の人生が ようやく彼女の手に戻ってきた。ここまでの都の失敗も成長するために必要だったもの。弱い自分を発見して彼女は強くなると思われる。


愛面でも都が新たな感情を抱き始めることで、前進が見られ、読者に新鮮な胸キュンを提供していく。タイムリープ前は大翔(ひろと)が蛍の恋人になっても ずっと片想いを続けていたから、やや都の心変わりが早いようにも感じられるが、これは都がタイムリープで告白し、大翔と違う時間を過ごせたことが要因なのだろう。

都が自分の願望を100%を叶えたワガママタイムリープで彼女は悪女となり、そして確実に1人の人間を不幸にした。その罪を清算してヒロインにカムバックするためにも2回目のタイムリープが必要なのだろう。

都は2年間 大翔に片想いしていた自分は幸せになる権利があると彼との交際が破綻するまで前進し続けたが、『4巻』で司のカギを盗んだ大翔は8年間 我慢してタイムリープしたことが明かされる。どうも本書は片想いの時間が長いと相手が屈するような仕組みらしい。蛍も妹の大翔への長い片想いを知って自分の恋愛に終止符を打ったし、都も大翔が8年も蛍を想い続けてから戻ってきたと知ったら、彼の要望を通すことにした。しかし なんで大翔は8年間も我慢したのか。その間に蛍に執着したのか、それとも蛍の次の恋が8年後だったのか。この8年後の根拠が よく分からない。

8年が大翔の言葉に重みを与えているが、25歳前後でも高校生メンタルなのが ややキモい。

そして おそらく本書で一番 長く片想いしているのは数年単位のタイムリープを繰り返したと言っている司だろう。結局、本書における愛とは その人に費やした時間なのだろう。そういう法則が見え隠れするのは どうかと思うが。

相変わらず気になるのが大翔の扱い。どうも作中の大翔への都、そして蛍の想いは本気度が薄い。都は司の愛の重さ≒費やした時間を知って すぐに心変わりするし、蛍は都が大翔を好きだった過去がある限り、大翔の気持ちを こちらから手放せる。これは蛍が聖女だからなのだろうが、蛍の大翔への気持ちが軽くなったことで、蛍の恋心が本物でなくなった感じがして、別に彼らを交際させなくても良いのでは、と思ってしまう。せめて蛍の大翔への気持ちと妹への愛情が拮抗している描写なら良かったが、蛍にとって大翔への気持ちは消えちゃっても構わないぐらいの位置づけなのが、とても残念。どうしても悪役っぽく見えてしまう大翔のケアを もう少し丁寧にするべきだったのではないか。

作者も手探りで連載をしていたから仕方がないが、自殺まで考えた大翔への想いを この数か月のタイムリープで上書きできてしまう都と、絶望的に自分の恋心を持ち続けた大翔の純愛エピソードが合っていない気がする。蛍の側から大翔への気持ちが切れると言ったら、大翔側の愛ばかりが大きくなってしまう。おそらく今後は悲恋や悲劇が起きないから、蛍は大翔を心から愛せるのだろうけど、そうなると過去改変で特に蛍がイージーな人生を進んで、呑気に幸せになっているようでバカみたいに見えやしないか。
どうも、どう改変しても私は誰かしらを応援できない未来が待っているとしか思えない…。


分が命を絶った場所にカギを捜しに行くことになった都。司は2人きりという予想が外れ、華ちゃん も いることに不満爆発(告白したことが筒抜けだった不満が大きいみたいだが)。
華ちゃんが来たのは都の要請でもあった。交際している訳でもないし、これまで長く喋ったこともない。だからクッションに華ちゃんを置いたのだ。ただ司は不満だけじゃなく、都と休日に出掛けられるだけでも嬉しい部分もある。

そして街の外れの高台に到着する。この時、頭で分かっていても都が落ちないようにする華ちゃん と司の行動で、彼らが どれだけ心に傷を負ったのかが分かる。その気遣いが都は涙が出るほど嬉しい。
捜索してもカギは発見できず、やはり大翔による窃盗とタイムリープ説が濃厚になってくる。そして問題は大翔が、それ以前の時間ではなく、この時間帯に戻ってきたということ。全てをリセットしたいのであれば、今回 破綻した蛍との関係を やり直せる時間まで戻るのが妥当だろう。

大翔のタイムリープは自分が原因だと責める都だが、どのみち、蛍と大翔の関係は、都の気持ちを知った時点で破綻する運命にあるらしい。彼らの破局が原因で都は死を選んだという。

この筋書きは姉の意志。だから蛍は大翔と最悪の出会いすることで、彼と交際しない道を選んだ。うーん、この時点で蛍にとっての大翔への想いは本物ではなかったことになってしまう。飽くまでも蛍の重要度は都 >>> 大翔なのかもしれないが、それぐらいの相手なら今後、彼らが交際しても2人の気持ちのバランスは大翔 >>> 蛍が鮮明になり、本物感や幸福感が半減してしまう。そこを偽物っぽくしては いけなかったのではないか。

都が死んだから破局したのではなく、破局したから都が死ぬ という流れが最後まで理解できない。

の高台は寒く、誰かに聞かれる可能性もあるので、場所を司の家に移動する。司の家は豪邸で兄弟構成は弟妹が1人ずつ。絵に描いたような理想の家庭なのだが、司本人は思うところがあるらしい。

司は都の死の数日前にタイムリープするのだが何度やっても都の死は避けられない。だから司は都の死に何らかの力が働いていると考える。
その次は長期的に自殺の原因を取り払うために司は数か月から数年という単位でタイムリープをした。けれど結果は同じ。数日前の繰り返しと違って、数か月となると結果が出るまで長く、そして絶望も大きくなりそうだ。

失敗を繰り返している途中の葬儀で蛍と話す機会があり、司・蛍・華ちゃん の3つのカギが存在することを知る。蛍が介入しないのは、その資格がないと本人が憔悴している。それに蛍は大翔に情が移りすぎているため、彼を遠ざけることが出来ない(それでも第三者による愛情の抹消はOKという いまいち理解できない心境なのだけど)。

そこで華ちゃん が、カギだけは時間移動できるという特性を使って、蛍のカギを司のタイムリープ時に一緒に持っていき、都本人にタイムリープを試みさせて、彼女自身の心残りを自分で排除してもらう計画が持ち上がった。そこから都が認識する時間の流れに繋がる。


局、話し合いでも都の死の真相は謎のまま。
バレンタインデーに都は司へ感謝の気持ちとしてチョコを渡そうとする。だが手違いで大翔に渡ってしまい、大翔も それを受け取る意思を見せたため、クラスの生徒の視線もあり返却を願うことも出来ず、司を傷つけてしまう。このチョコを あげたい人は誰か、という点で都は自分が大翔への未練が消えていることに気づく。

そして司にチョコを渡すためにタイムリープを試みる。だが その直前に司に何をしているのか聞かれ自分の目的を話すことで司に気持ちは伝わる。司は自分の気持ちが少しでも伝わっていて、一縷でも望みがあることに舞い上がる。それは彼が費やした膨大な時間の中の初めての希望。だが都にとっては大翔のことが吹っ切れたという段階。その認識の齟齬に司はガッカリするのかと思ったが、彼にとっては それだけでも大きな前進。
だから司は都へのアプローチを続け、そのための連絡先の交換もする。都もまた大翔の時とは違う苦さを伴わない恋心に少しずつ気づき始める。そして司の要望通り、彼のことを名前で呼ぶと、彼の照れから自分への愛情が伝わり、それが都の心を温める。ただし大翔との交際の前後は、常に蛍への罪悪感を抱えていたように、司との交流では大翔への罪悪感を抱く。共通点は自分だけ幸福になる後ろめたさだ。


業終わりに大翔の机の中に自分の渡したチョコがあることに気づいた都は、その奪還を目指して全員が教室から出ていくまで粘る。だが それは大翔の罠で、都が動いた瞬間に大翔が司のカギを ちらつかせてきた。話し合いを避けようとする都を大翔は壁ドンで拘束し、彼女の罪を白日の下に晒そうとする。

そこで大翔は都が自分本位なタイムリープした事実を確認する。タイムリープした今の大翔の認識では自分は8年間、蛍以外の好きな人が現れず苦しんだ。その間に都は司と両想いになっていたことが彼の怒りを増強させていた。次の恋に進めた都が、次の恋に進めなかった自分を苦しめている。

大翔は自分が最低な行為をしている認識はあるが、それをせずには いられない。しかし司は それを許さない。自分と同じ苦しみを与えようとする大翔だが、彼は自分の過程の問題を抱え、不幸だから裕福で幸福な司を妬んでいた。その格差に司の方が罪悪感を覚えて、一度は自分の家庭を壊してしまった。こういう他者に責めを与え続けることが、司や華ちゃん が大翔のことを信用できない部分なのだろう。

でも大翔は8年間、司が自分のために動いてくれなかったという恨みを抱えていた。その時の司が どういう心境なのかは分からないが、それが大翔の中の事実。そして それを引き起こしたのは都なのだ。だから都と大翔による同時タイムリープを大翔は提案し、自分の罪を自覚した都も同意する。それは今の司が消えることを意味するが、都は司との思い出を やり直すことを誓う…。