with!!(ウィズ!!)
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★★(8点)
事故死した超シスコンな兄・司朗の意識が乗り移り、アンビリーバブルな二重生活を送ることになった真砂。成績も運動も常に一番だった司朗の力を借りて試験で学年一位を取った真砂に、生徒会選挙立候補の話が持ち上がり…!?
簡潔完結感想文
- 妹のためなら成仏しても構わない覚悟と、妹のために何も出来ない無念の混在。
- 仲の良かった2人の初めての兄妹ゲンカ。出現禁止が最後の会話になるの??
- 強い人の強い部分、強そうな人の弱い部分、弱い私が強くなろうとするリーズン。
神聖な領域にいてくれて ありがとう、の 2巻。
『2巻』は5回の短期集中連載分が収録されている。その5回の連載の縦軸として、作者は後期の生徒会選挙を用意していて、そこに挑戦するヒロイン・真砂(まさご)の苦労や苦悩、直面する問題、そして その選挙戦を通じて成長する様子を描いている。
そして生徒会選挙が行われることで、いよいよ この学校の生徒たちに生徒会長だった真砂の兄・司朗(しろう)の死を半強制的に認めさせることになる。新生生徒会は司朗亡き学校の象徴だろう。ただ前期の生徒会執行部のメンバーが(おそらく)全員、後期にも立候補するのは司朗のいた生徒会を同じ形で存続させたいからかもしれない。その存在と不在の間(あわい)が よく描かれていた。
司朗は存在が大きいからこそ、その不在が引き起こす余波も大きい。まだ彼の死後から1か月余り。その波は静まっていない。ただし『2巻』で残念なのは、今回の真砂に対する悪意の首謀者である人のスタンスや行動が、『1巻』で描かれた陸(くが)と鷺沼(さぎぬま)と共通する部分が多い点。真砂に一方的に恨みを募らせる動機としては その手のものしかないのだろうけど、せっかくの短期連載なのに重複の多さが残念だった。あとは単純に読んでいて辛い。おそらく この『2巻』だけは今後あんまり読み返さないのではないか。
真砂が獲得する強さを描くために、男性たちを後方に下がらせたことが本当に素晴らしい。
それと同時に司朗における存在と不在の間(あわい)が描かれているのも凄い。真砂を助けたことを含めて、司朗の自己犠牲の精神が胸を打つが、今の司朗は何も出来ないことも描かれていた。辛いことがあっても真砂は兄と一緒にいるだけで勇気になり前を向けるが、司朗は肉体がないから何も手が出せない自分の存在の限界を思い知らされる。そして自分の暴走によって真砂を悲しませてしまう。守るはずが苦しめている、そんな状況に珍しく司朗が泣いている場面が印象に残った。今回は司朗にとっての「with」状態の欠陥が描かれている。
真砂が向き合う人間が女性であるため、基本的に男の出る幕ではない、という徹底した線引きが見えて良かった。ここで司朗や黒馬(くろうま)が出てきてしまうと、真砂が守られるだけで彼らと対等な位置関係にならない。だから司朗は、最終対決における真砂に何も言わない。そして黒馬も自分が前面に出ないように配慮しながら、真砂を守ろうとする。『2巻』の黒馬は表情豊かで、大いに笑うし、静かに泣くし、少し不憫なスタンスも発覚して、以前よりも好感度が増した。
2人の男性が真砂を「神聖な領域」から見守ってくれたからこそ、真砂は自分の足で一歩を踏み出せた。そのことを司朗が ちゃんと理解してくれたらいいな。陸を含めて直接的に物語に関与しないのに、司朗は勿論、黒馬・陸にとっても真砂が特別な人になりつつあるのが少女漫画的な部分で満足度が高まった。
文化祭直後に実施された学力テストで真砂は満点を取ってしまう。これは兄・司朗の仕業。ただでさえ天才で、1学年上の司朗にとって2回目のテストは楽勝。こういう事態になったのは文化祭前後の騒動で燃え尽きていた真砂が「替え玉受験」を囁く司朗の提案に乗ってしまったから。そして兄はテストに夢中になり、うっかり満点を取ってしまった。
この立派な成績で教師からも推薦され、真砂は黒馬(くろうま)に出馬を打診されていた後期生徒会総選挙に挑む。ここで改めて本書に蹴る生徒会執行部の価値が再定義され、庶民・真砂が上級国民である生徒会に入るという構図も示される。
黒馬が真砂を生徒会に引き込もうとするのは、司朗を目の敵にしていた陸(くが)から守るためでもあった。という真面目な展開からの「悪霊」が違う身体に憑依しようとするシーンは黒馬じゃないけど大笑いした。腹を抱えて笑う黒馬を見て真砂はレアシーンを見たと喜ぶのだけど、真砂にとって黒馬は「神聖な領域」。実は真砂は、黒馬との交際を夢見ている訳ではなかった。それを知った司朗は黒馬に「圏外」だと意訳して伝え、黒馬はプライドを傷つけられる。
黒馬とは逆に真砂にとって恐怖の対象である陸は、真砂に謝るために待ち伏せをしていた。陸は司朗という人を よく知っているからこそ、真砂の中に司朗の気配を感じるのだろう。野生の猿の勘か。
真砂にとって この激動の1か月間は もしかしたら これまで以上に司朗と一緒に過ごしたのだが、周囲はまだ司朗の不在を慣れていない。その周囲の動揺の余波が、司朗というカリスマ性を獲得して目立つ真砂に及ぶ、というのが今回の話。
また これまでは兄妹の関係性に焦点を当てるために割愛されていた真砂たちの家族の様子が初めて描かれる。2人の母は時々 魂が抜けたようになっており、真砂は母の悲しみを軽くするために今の現象を話すことを提案する。しかし秘密の共有は黒馬だけ、というのが兄妹の約束。でも本来、母親を支えるべきである父親は仕事の多忙を理由に家を不在にしがち。悲しみの余波は鎮まらない。
司朗は真砂の睡眠中は100%身体を使える。眠りが深ければ真砂は起きないし、記憶もない。その時間で司朗は黒馬を呼び出し、自分が消えた後の世界を考える。今の状態が健全じゃないと考える司朗は真砂の中から消える方法を探していた。思わぬ結果となった黒馬への憑依実験も その一環だったのだろう。
でも黒馬が指摘する通り、司朗の考えていることは彼の死を意味している。一種の自殺のようなもので、本能的に人が忌避することなのだが、司朗は真砂のためなら何でも出来る。これは究極の愛だろう。
そして今なら成仏を考えられるのも黒馬が真砂の本当の意味での想い人じゃなから。もしかしたら文化祭で成仏するはずだった司朗は、黒馬の接近を阻止したくて根性で「悪霊化」しているのかもしれない(笑) でも彼は真砂にとって「圏外」。それなら安心と司朗は心残りなく天に昇るのだろう。
『1巻』のラストから登場しているのは真砂の幼なじみで親友の果歩(かほ)。真砂が兄の死に慟哭し、自分が死ぬべきだったと絶望していたことを知る数少ない人でもある。彼女は真砂と同じく合唱部に入っているという設定。生徒会の選挙活動は一週間で、各クラスを遊説するのが習わしのため、真砂は合唱部の活動に顔を出せないことが増えていた。
選挙期間中に真砂に対する悪意が増大していく。真砂が1位の順位表にイタズラ書きがあり、真砂を誰かが嗅ぎまわってること、そして実際にジャージが紛失したことなど、真砂にも その悪意は感じられた。
一方、黒馬との接点は多くなる。陸は相変わらず逃げる真砂を追ってくるので、黒馬がナイト役になり、彼は一緒の下校を提案する。羞恥の余り真砂は拒否するが、その反応は黒馬から見て好意が滲み出ていた。だからこそ黒馬の中で「圏外」という言葉が不可解となる。
悪意の中心にいたのは合唱部の女性部長。彼女は久々に顔を出した真砂を徹底的に無視し、果歩も助け舟を出さない状況に真砂が帰ろうとすると嫌味で真砂を中傷する。
その口調で犯人を知った司朗はスリッパで部長の頭を叩き、全力で罵倒する。しかし兄の独断専行に真砂は涙する。そこへ果歩から連絡があり、部長の指示によりジャージを盗んだと懺悔があった。果歩が部活を辞めると言い出すが、真砂は自分の選挙の辞退で事態の収束を図る。しかし部長は怒り心頭に発しているようで、それでは収まらないというのが果歩の見解だった。
学校を休む=逃げることを提案する果歩だったが、今の真砂は1人じゃない。
司朗は もし事故の時に真砂を失っていたら、残された自分は後悔で後を追ったと思っている。だから真砂が生きていることが嬉しい。でも今、真砂は苦しみの中を生きていて、真砂の中で生きる自分は その苦しみを助長してしまった。自分の存在意義を見失い涙を流す司朗に対して、黒馬も涙を流しながら彼を励ます。こういう黒馬だから司朗は自分の存在を唯一明かすことが出来たのだろう。
真砂は母親に心配をかけないためにも学校へ行く。けれど心配する司朗に対して、その出現を許さない。
放課後、部長は真砂を尋問する。だが真砂は自分であって自分ではない言動を謝罪することに抵抗があり、理不尽な彼女に何を喋ればいいのか分からない。この状況に真砂が一番 混乱しているのだ。しかし その態度も部長には不快で、彼女は鞄を振り回して真砂の顔を殴る。
その場面から真砂を救出するのは鷺沼(さぎぬま)。ここで黒馬じゃないのは彼が出てくると ややこしいので黒馬が鷺沼を派遣したからだった。ここから女同士の争いには男が口を出さないことが徹底されていく。
しかし今回の一撃は真砂の心を砕いてしまった。だから真砂は選挙戦の辞退を鷺沼に申し出るのだが、遊説など選挙活動は誰だって怖いことを鷺沼は伝え、誰もがそれを乗り越えていることを教える。
自分の弱さを思い知った真砂は、遭遇した陸の前でも泣いて八つ当たりしてしまう。ただ真砂の中の司朗を求めていた陸には思い当たる節があるため、陸は目の上のたんこぶ だった司朗がいなくても自分が前に進めないことに悩んでいる姿を見せる。陸が自分と同じ弱い人間だと知った真砂は無意識に彼の頭を撫でる。その動作に真砂も陸も色々な意味で頭が真っ白になる。
帰宅後、真砂は今日一日 司朗と会話をしていないことに気づく。そこで兄が返答するまでの間、真砂は司朗を失う恐怖を味わう。そして出てきた兄もまた自分の情けなさを感じていることを知り、真砂は強くなることを誓う。
こうして真砂は真砂のまま覇王のオーラを身に纏う。合唱部で部長と対峙し、怯まずに言いたいことを言う。毅然とした強さを見せる真砂に対し、部長は司朗の不在を真砂が平気でいるように見えることに苛立っていたことを示す。真砂を守った司朗が死んだ一方、真砂は悲嘆に暮れることなく充実した学校生活を送っている。それが許せない。この部長の立ち位置は、ほぼ陸と同じである。彼女の場合、陸より真砂に より接しているからこそ怒りが強くなるのかもしれない。そして そこには司朗への恋情が加わっている。
そんな部長に対して、真砂の悲しみを誰よりも知る果歩が反論し謝罪を要求した。この場を収拾するのは またも黒馬によって派遣された教師。生徒会の顧問である この教師によって、誰もが司朗がいた世界と、いない世界の間で足掻いていることが語られる。
陸は自分に対して怯まない真砂のことを司朗の妹ではなく個人として認め始める。「頭撫で事件」も起こってはいない様子。そして陸という不良生徒さえ手懐けて いるように見える真砂に部長も手を出すことを止める。これも一方的な部長の誤解であるのだが、ここは「猿の威」を借りて、穏便な生活を送るのが良いだろう。
こうして真砂は自分の意志で生徒会選挙に臨む。自分とは違うと思っていた兄のいた世界に真砂は憧れていた。だから真砂は兄と一緒に一歩を踏み出す。