槙 ようこ(まき ようこ)
愛してるぜベイベ★★(あいしてるぜベイベ★★)
第05巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
ゆずゆの母親を捜すため、家を出ていた姉ちゃんが帰ってきた! 姉ちゃんから衝撃の事実を聞かされた結平は…? 一方、心に妊娠疑惑――!? そして、ついに結平とゆずゆにお別れの時が――感動の最終巻! あとがき/槙ようこ
簡潔完結感想文
- 放置していたヒロインを癒やすことで、結果的に未来の自分を救う準備完了。
- ゆずゆ の心を振り回すことが彼女のストレスになる。未来の覚悟の準備完了。
- 大切な者を手放すことが大切な者を守ることに繋がる。2人の「親」の選択。
行間が読めない人たちは黙っててくれませんか、の 文庫版 最終5巻。
絶賛している人がいることを不思議に思うぐらい本書を大して評価していない私ですが(苦笑)、賛否両論あるらしいラストシーンは作者の思いが詰まった作品の集大成だということは分かる。
ラストシーン、おそらく本編の結平(けつへい)と同じ年頃になった10年後(ぐらい?)の ゆずゆ は彼に向けて手紙を書く。その内容は作品を締めくくるには軽い内容で あっさりしている。それに四肢が伸びた ゆずゆ の姿も唐突に感じられる。
けれど文庫版『5巻』が丁度 そのことをずっと描いていて分かりやすいが、ゆずゆ にとって「きゅうり を食べられるようになった」とか何気ない日常を書き綴ること、そして相手のことを考えながら絵を描くことは、その人のことを忘れない、信じてる、愛してるという最上級の思いが込められた行為なのである。母親に会えない日々を埋めるように手紙を書いたように、母親を ずっと忘れないように絵を描いたように、彼女は自分の思いを外部に残すことで その人のことを思い続ける。
だから何年 経っても結平に手紙を出すことが ゆずゆ の気持ちそのもので、そこに綴られているのは男女の恋愛とは違った かけがえのない親戚のお兄さんへの特別な「愛してるぜベイベ★★」なのだ。手紙にあった賞をもらった ゆずゆ の絵は結平の顔かもしれない。そういう想像で彼らの愛を補完できないのだろうか。
きっと作者が込めた その思いを読者は汲み取らなければ ならない。自分の読解力を棚に上げて批判することは作品も作者も可哀想すぎる(私の読解力が低すぎて間違っている可能性は否定できないが)。
そして会うことが重要なのではなく、絶えず相手を思うことが重要と本書は教えてくれているのではないか。即物的に、会うことが幸せと考えるのは一方的な見方だ。その考えでは遠方に住んでいる親族や友人の、自分への愛情や思いは絶対にないということになるではないか。
それにラストの ゆずゆ と結平には物理的な距離があって、まだ高校生であろう ゆずゆ には金銭的な問題が顔を出すから、だから手紙で思いを伝え続ける。だからといって この間に親戚の2人が ずっと会っていないなんて どこにも描かれていない。手紙にある「久しぶり」が どの程度の期間を示すのかは読者には分からない。
このラストの何が悪いのか私には分からない。むしろ ゆずゆ の愛が永続的であることの証明だと思った。
…と、完全に作品と作者を擁護してきましたが、嫌いな部分もある。
何と言ってもヒロイン・心(こころ)の取り扱い問題。この文庫版『5巻』で心は結平の片倉(かたくら)家で暮らし始める。それは近づく結平と ゆずゆ の別離に際して、結平の精神が壊れないようにする作者の前準備なのだろう。
少女漫画で よく見られる、女1男2の三角関係において、恋の相手を選ぶヒロインが どちらの男との関係を失わないようにするために、男2人の友情が前もって結ばれることで後腐れのない、そしてエターナルな女1男2が継続することがある。
それと同じで結平が ゆずゆ を失うことが確定する前に彼女を家に補填することで この片倉家自体の幸不幸をプラスマイナスゼロに調整しているように思えた。
こうして結平に救済措置があるのはいいが、問題は その経緯。あまり恋愛の体温の高くない2人の交際模様を描いてきた本書だが、前回のトラブルは男問題だったためか、今回は心の妊娠騒動によって彼女の心を沈める。私は ここが大嫌いだ。
そもそも結平が心のことを放置するから問題に気づかないし、妊娠騒動で心にマイナスの感情を生じさせてから、その気持ちを結平が癒やし救うことで2人の距離を縮める。前回は性行為という肉体的な距離だったが、今回は同居をすることで物理的な距離を縮め、将来的な約束を果たしている。
姉の体質と心の騒動によって、女性の身体問題を描きたかったのかもしれないが、女性の心の動きを示すために妊娠を持ち出したことは安易だと思わざるを得ない。
何より結平が恋愛的には少しも成長しておらず、心を放置して失敗し、その後に自分の都合の良いように心を癒やしているようにしか見えなかった。この結平の無自覚な狡猾さが拭えないのが残念だ。
本書において結平は他人様の家庭に深く介入しない。主に女性の話を聞き、彼女たちが持つ本来の回復力を促進させて、日常を安定させる。その立場をわきまえている感じが好きだが、その一方で心の家庭を放置して何もしなかったことに疑問を覚える。結局、彼女の家だけ崩壊したまま、自分の近くに置く。それが心を傷ついたままにすることでコントロールしようという嫌なテクニックに見えてしまう。
体調が悪かった あかり妹に接近していた結平と ゆずゆ が風邪を引く。風邪回である。高熱の割に2人は元気だが、ふとした時に ゆずゆ は結平との別れが近づいていることを寂しがる。それは結平も同じ。ゆずゆ との生活が当たり前になった所で、ゆずゆ のいない日々となる。その喪失感は計り知れない。
ちなみに あかり は結平に恋愛感情を持っている暇はないという。プレイボーイ・結平はミキといい女性に急接近する割にはモテないのだろうか。結平がモテて恋愛で揉めるのは作品の本質を歪めるから回避したのだろう。
そこへ ゆずゆ の母親を捜索しに家を出た結平の姉が帰宅する。だが その表情は暗い。そして夜になって結平だけ呼び出し、ゆずゆ の母親が男と一緒に住んでいた事実を告げる。母親は姉の訪問に扉を無理矢理 閉めて対応。それに姉が抵抗すると部屋の奥に男性の存在があった。元夫の死後から どれくらいの月日が経過しているか分からないが、子供を育てる自信は無くても男と暮らす自信は あるみたいだ。
自分には子供が望めない姉は ゆずゆ に母親の存在を抹消させた方がいいと考える。その言葉を ゆずゆ は聞いてしまう(このパターン多いなぁ)。今回、傷ついたのは ゆずゆ、そして姉。だから女性専用セラピストの結平は姉の心を癒やすため ゆずゆ、そして心を呼んで これからも独身を貫こうとしている姉が寂しくないように家を賑やかにすることを誓う。そして翌朝から いつも通りの高慢な姉に戻って欲しいと要望する。
しかし隠れて話を聞いていた、ただで体調の悪い ゆずゆ は一人で絶望していた。そして本当に自分の中の母親の記憶を消してしまうのだった…。
一方、心は友人たちに自分に妊娠の可能性があることを告げる。うーん、この展開必要?? そして心の変化や不安に結平は またも気付かない。その後、彼女の大きな悩みは生理がきたことで解消する。けれど心の友人が、その事実を知る前に女子生徒と引っ切り無しに喋って、心を傷つける結平を締め上げる際に妊娠の話を出してしまう。
即座に本人によって撤回されたが、結平は心を(また)放置していたことに ようやく気づく。そして心の精神状態がどん底だとセラピストとしての能力を出現させるのが結平のズルいところだ。彼女から溜めていた本音を引き出し、2人の関係は良好になる。姉の一件もあり、結平は心を自宅に呼び、彼女を片倉家で生活させる。うーん、両親もしくは祖父母の家に自分の彼女を勝手に住まわせるような男は子供である。結平が一人暮らしの心の家に行く訳にもいかないけど。
こうして結平は心を本来の「家族」と暮らせるように介入しないのだろうか。この心の件の放置は よく分からない。
これまでも どの家の問題も深く介入せず、本人たちの自浄作用による解決をさせてきた結平だが、心のことに関しても同様に心に父親と継母と向き合わせる勇気を持たせることは出来るだろう。
色々な現実的な解決を放棄して一緒に暮らす(しかも まだ ゆずゆ がいる状態で)という方向性が全く分からない。リアル低年齢読者は高校生で彼の実家で一緒に住むことを夢見るのかもしれないが、常識に考えて、両親は迷惑だろう。あちらの家にどう説明するのかなど、一人暮らしの時よりも向き合う問題は多い。けれど作品は そういう視点を黙殺する。
ゆずゆ や家出少女・ミキも受け入れてきたから片倉家は寛容。
こうして心の居場所が出来たが、今度は ゆずゆ の精神が崩壊しかけていることが発覚する。彼女は母親の記憶を自分で消していた。一緒に寝た ゆずゆ が夜泣きをして苦しんでいることも知る。一番ゆずゆ と接触している結平だから気づくことは たくさんある。
ある日、ゆずゆ はママを恋しがっている迷子の子を見て、自分も その感情を突然 取り戻す。そして これまで溜め込んでいた願いを一気に吐き出す。そうやって不満と不安を一気に吐き出した ゆずゆ は気を失う。彼女は本当に壊れかけている。
ゆずゆ は自分の心理状態を絵で表現する。これは箱庭セラピーみたいなものだろうか。母が小さくなっていくと表現する ゆずゆ に保育士は あきらめちゃだめだ、と ゆずゆ に母親を信じさせる。
その話を聞いた結平は反抗する。現実に母親は戻らないことを選択しているからだ。でも保育士はプロとして ゆずゆ が現実を受け止められる年齢と精神になるまで見守る重要性を説く。
ゆずゆ が自分から離れ、やはり愛情を母親に求める姿に結平は ゆずゆ にとって何が最良の未来なのか考え始める。だが悩んだ結平は ゆずゆ を無視するような形になってしまう。心の時といい、同じことを繰り返す度量の小さい男である。
ただ ゆずゆ は結平には自分の彼への不安をちゃんと口に出来る。これは ゆずゆ が結平を信頼しているからだろう。ちゃんと愛情を返してくれると信じられる関係だから ゆずゆ は彼の前で泣ける。そこが2人の到達点だろう。
結平は ゆずゆ が母親のことを信じているから頑張れることを理解し、ママへの手紙を書かせる。
1月26日で ゆずゆ は6歳になる。誕生日を知らなかった結平だが、彼女のためにケーキを作ると宣言する。これが彼の料理の到達点といったところか。
そして6歳の誕生日、結平が試行錯誤して作ったケーキで お祝いした直後、ゆずゆ の母親が片倉家を訪問する。突然 来たのではなく先に手紙を出しており、それを読んだ姉が他の人には黙っていた。これは作品的に母親の登場前に片倉家で話し合いが行われることを避けたかったのだろう。
ゆずゆ を心が2階に連れて行ってから、大人の会談が始まる。
母親は生活環境が整ったから娘を迎えに来たという。その生活環境の中には、仕事で知り合った男性との交際、そして彼の家との許し、そこからの再婚への道筋も含まれている。この入念な準備に実姉である結平の母親が怒るのも仕方がない。ゆずゆ の母は娘を放置して婚活していただけ。順番が違う。
でも ゆずゆ の母親は自分が ゆずゆ に決定的な危害を加える存在になる前に対処したことを後悔していない。まだ引き返せる場所で自分の性格を鑑みて出来る限りのことはしたと彼女は思っている。そして離れるという選択肢を選んだ後に自分が娘と どういう関係を望んでいるかを考えて迎えに来た。確かに娘への愛情が残っているからこそ、冷静な判断をしたと言え、これは その後の結平の行動に通じる考えでもある。
結平の母親は その時間で ゆずゆ は ここでの生活を始めていると彼女の望みを却下し、帰らせようとする。そして もし本当に誠意があるのなら何度でも足を運ぶべきだと母は言う。彼女は結平に感謝し、頭を下げて帰ろうとする。その直前に2階に行っていた ゆずゆ が顔を出し、彼女は恐る恐る母親に近づく。
玄関から家を出ようとする今度は抱きしめてもらうことで ゆずゆ は安堵の涙を流す。だが姉は母親から ゆずゆ を引き剥がす。このまま連れて行かせる不安も当然のことだ。
こうして ゆずゆ は再び自分の制止を振り切って母親が玄関から出るトラウマを味わう。今回は ゆずゆ は自分も裸足で玄関から飛び出し、母親を追い、名前を叫び続ける。結平は、そんな ゆずゆ に靴を履かせ、母親のもとに行かせる。
それは結平には ゆずゆ が一番 願っていることが分かるから。傷ついている女性を救うのが結平の役目。だから自分の願いより優先して女性の心を救う。最後の別れを告げ、2人は別々の方向に歩く。家に戻った結平が見たのは、ゆずゆ が一口も口にすることのなかったケーキ、部屋の そこここに残る ゆずゆ の痕跡。
そこから急に時間が跳躍し、ゆずゆ が すっかり女性になった頃となる。美術の授業と言っているということは本編の結平と同じ高校生ぐらいか。彼女は母親と暮らし、「翔(しょう)ちゃん」に迎えが来て物語は終わる。ちなみに結平は会社員をしているらしい。
「あとがき」で作者は続編があるという都市伝説を否定しているが、それは続編で物語を補完して欲しいという読者の願望が流布した結果なのではないか。まぁ 私のサイトにも「作品名 + その後」「作品名 + ○年後」とか そういう検索をかけている人が多く見受けられるので、その作品も大好きだから その先を知りたいという気持ちが生まれるのでしょう。
続編で補完したい読者の気持ちに共感しつつ、上述した通り私は作者は間違いなく作品を描き切ったとも思える。だから続編が無くて安心する。完結から20年余りが過ぎ、2019年に作者が漫画家としての生活に終止符を打ったことで続編は絶対に望めないことになった。こうして2人の姿は この作品内で永遠となった。