槙 ようこ(まき ようこ)
愛してるぜベイベ★★(あいしてるぜベイベ★★)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
気になるクラスメイト、心との距離が一気に近づいた結平。そのせいか、ゆずゆのお世話もおろそかになりがちに…? そんなある日、ゆずゆが幼稚園から勝手にいなくなってしまう。必死で捜しまわる結平だが――!? <同時収録>愛してるぜベイベ 番外編 どうしたの? 結平くん あとがき/槙ようこ
簡潔完結感想文
- 心の父親と違って再婚と連れ子問題に悩む結平。心が再び我慢を強いられる状況に…。
- 文庫版『2巻』唯一の日常回「はじめての おべんとう」。こういう作風が読みたいのに。
- いよいよ家族問題の見本市開催。途中参加、途中退場のオムニバス形式で表層的に語る。
少女漫画あるある:初の長期連載に新人作家、重い内容 描きがち、の 文庫版2巻。
文庫版『2巻』で唯一 好みだったのは5歳児ゆずゆ による初めて お弁当作りと その配達を描いた1回きりの日常回。あずまきよひこ さん『よつばと!』や白泉社作品の子育て漫画ような こういう内容で彼らの かけがえのない日常を描いても良かったと思うが、こういう内容は1回きりで後は暗い話に支配されていく。
これは良くも悪くも作者が若かったからなのだろう。若くて四六時中 戦闘状態みたいな心持ちだったから、こういう息抜きになるような作風が生まれにくかったのではないか。もしかしたら文庫版『2巻』後半に出てくる子供に思わず手を上げてしまう経済的・精神的な余裕をなくした母親の心境に近いのかもしれない。ちゃんとした作品を作りたいという意識が、ライトな作風ではなく、虐待やネグレクトなどの作風こそ自分が描くべき方向性だと思い込みが強くなり、視野が狭くなってしまったのではないか。
その結果、誰かの不幸の皺寄せが誰かに波及しているという印象が拭えなくて作品内が薄暗い。
『1巻』の感想でも書いたけれど、そもそも男性主人公・結平(きっぺい)がイトコの ゆずゆ の面倒を見る理由がない。特に この『2巻』では結平の母親が幼稚園に迎えに行ったり、お弁当を作ったりする時間的な余裕が描かれているので、自分の妹の愚行の責任を取るうえでも伯母である母親が姪の ゆずゆ の面倒をみるべきだ という至極 真っ当な意見が ずっと鎮火しない。最大の難関は結平と ゆずゆ の交流を どうやって進めるかなのに、結平以外の片倉(かたくら)家全員の責任と育児放棄でしかないのが ずっと心に引っ掛かっている。
そしてヒロインである心(こころ)との交際直後に、彼女を継母(ままはは)ポジションに追いやるのも決して愉快とは言えない展開だ。心は自分の父親の再婚問題で邪魔になり、追いやられるように一人暮らしを始める。そんな彼女の心の傷を癒やすような存在だから結平は心の彼女になれた。なのに作品は、(例えではあるが)結平と再婚した心が、彼の連れ子である ゆずゆ の願いによって、新しい母子となった2人の女性との距離感を選択させられて、継母ポジションである心が一歩 身を引いている。結平が心のことを、ゆずゆ と同じぐらい考えられていない印象を受けて残念さが募る。
ここでも問題になるのが結平は そこまで ゆずゆ に尽くさなければならないのか、という点である。もちろん結平に中途半端なことはして欲しくないが、どうして心が ずっと家庭問題の皺寄せを受け続けなければならないのか不憫に思う。家を追いやられて内心では悲しみに暮れる心に、また同じ悲しみを与える意図は何なのか、本書の狙いが私には分からない。
文庫版『2巻』の後半は親による子供への暴力・虐待という重すぎるテーマを繰り返し、一体 本書は何が描きたいのかが分からなくなる。1話から登場していた心は まだいいが、途中から登場したキャラクタによるオムニバス形式の構成なんて本書の読者の誰が望んだことなのか。不幸に引き込まれる形で ゆずゆ も結平も傷つくだけで、そこに救いは見いだせない。中途半端な社会派の作風に私は うんざりした。不幸を集めたような話が女性読者、特に若い層に受けるのは何となく理解できるが、私は好きなジャンルではない。
きっと若い読者にとっては すぐに忘れられる一時の娯楽で、作品内の不幸はホラー作品のハラハラシーンと同じ感覚なのではないか。一時的に作品世界に没入して、悲しみや頑張りに涙して、読了したら あっという間に現実に戻っていく。私は そういう風に気持ちの切り替えが出来ないから、結構 引きずるし、その家庭問題に意味を求めてしまう。
でも本書のに そこまでの意味はない。家庭内に吹き荒れる嵐を耐える健気な子供の描写を描きたいから、その家庭に問題を与える。そういう発想が捻じれて順序が逆になった描き方を本書から感じてしまう。それは結平も同じ。ある種の理不尽さに巻き込まれる彼を中心に据えることで、読者からの応援の声を得ようとしていまいか、と思ってしまうのである。
心との両想いになった途端、ゆずゆ の幼稚園の お迎えを忘却してしまった結平。こうして後妻(?)を迎えるにあたって連れ子を ないがしろにするのは心の父親と同類である。
この時ゆずゆ を迎えに行ったのは母親。母は息子に対して大変だったら自分が面倒を見ると今更 当たり前のことを言い出す。この後の回の描写を見ても母親に時間的余裕はあるのだ。しかし そこで結平が育児放棄したら作品的に根幹が失われるし、ゆずゆ の育児放棄再びなので結平は続行を宣言する。それでも家族全員で結平に押し付けて、ミスしたら叱るだけ叱って、分担とか平等とかいう概念が無いから この家族が嫌いだ。
また結平も心と両想いになった翌日から彼女にキスしまくって、身体を まさぐるように触っているのが嫌だ。もう少し心への特別な扱いとか見たいところなのに、結局 遊びの女たちと変わらない。心には そういう本能で動く結平が安心するみたいだが、頭のネジと下半身が緩い結平の描写は どうも苦手だ。
そして結平は幼稚園の お迎えに心も連れていく。まさに継母と連れ子という状況。だが遠慮するのは継母の心だった。後腐れのない遊びを繰り返してきたプレイボーイの結平だけど複数の女性の心を理解するには頭が足りないようだ。女心が分からない状況が しばらく続く。
心と交際してから結平は ゆずゆ へのケアが疎かになったことが顕著になり、その結平の様子を ゆずゆ も勘付く。自分の仕事にしていた お弁当作りも忘れ、ここも母親が代わる(お前が最初から やれ、と やっぱり思ってしまう)。
ゆずゆ は自分が結平の幸せを阻害していると察知して、少しでも負担にならないように幼稚園から一人で帰ろうとする。ゆずゆ の単独行動、行方不明は たった2巻分で何回目かという感じでワンパターンすぎる。
この行方不明騒動で母親が日中、在宅していることが判明し、母への怒りが湧く。しかも平日の夕方には仕事している父親・姉も家にいるし。どうなってんだ、この家は。
家族と、途中で出会った心が それぞれに捜索に出る中、結平が ゆずゆ を公園で発見する。家に帰らせようとする結平を ゆずゆ は拒否。自分が結平の重荷になっていることを間接的に伝えるが、結平は頑張り続けることを宣言する。それに対し、ゆずゆ は継母役である心が幼稚園に来たことが本当は嫌だったと自分のモヤモヤした気持ちを吐き出す。
だから結平は心との距離を少し空けて、精神的・時間的な配分を見直す。それは ゆずゆ の訴えを見えない場所で聞いていた心も了承しているが、彼女は父の再婚の話のように自分の気持ちを言わずに溜め込んでいるように見える。一方で、少し距離を置くことで心に結平への執着心が芽生えているようにも見える。何が間違いで何が正解か分からない難問だ。
ゆずゆ の幼稚園が休園日で1日自宅にいる。こうして日中の片倉家の様子が描かれるが、やっぱり母親は在宅している。なぜ、結平が全部を背負う必要…(以下略)。
そこで今日は ゆずゆ が結平の お弁当を作るというイベントが発生。この作品にしては珍しく平和な日常回である。こういう白泉社的な日常回や季節イベントで話を継続させることは出来なかったのだろうか。すぐに重い話に戻ってしまい気持ちが暗くなる。
よく分からないまま両想いになってしまったため恋愛的に波乱が起きにくい本書だが、ゆずゆ を巡る物語では単行本1巻につき1回 ゆずゆ の母親の存在を匂わせれば緊張感が生まれる。
今回は母親が ゆずゆ の様子を見るために幼稚園周辺に現れ、結平に発見される。そこでの会話で、母親は夫が亡くなってから自分が子供に手を上げたことが怖かったと自分の罪を告白する。それは ゆずゆ が悪いことをしたから教育的指導の体罰ではなく、自分が抱える将来の不安で心が不安定さが子供に暴力として発露してしまった。そう自己分析できるから母親は娘と距離を置きたかった。
そして自分が金銭だけでなく精神的に安定した暮らし送れるまで ゆずゆ を迎えに来れない、と彼女は立ち去っていく。このことを結平は家族にも ゆずゆ本人にも言わない。ただ母子が会えるように ゆずゆ を抱いて母親を追いかけ、電車の内外での対面を果たす。母は娘の姿を確認したようだが、逆はどうなのか いまいち この描写だと分からない。
ゆずゆ の母親が精神的に安定しないからか痩せていくように、心も食事を あまり取っていないように見える。メンヘラと言っては何だけど、精神的に安定しない女性が2人もいる。こういうヒリヒリした感覚が読者に受けているのだろうか。
心は自分との交際後も結平が女子生徒と一緒にいる場面を学校内で見せつけられて、遂に不満を漏らす。結平と距離を取るのは ゆずゆ のためで、他の女性に付け入る隙を与えたくない。そんな本音を結平に漏らす。心が本音を言えるのは悪いことではない。そして結平はプレイボーイだから、そんな心の気持ちの落ち着かせ方を知っている。エロいことを平気でしている一方で、こういう純情も垣間見せる2人はズルい。
心の不安定さを描いた後は、次は園児の虐待疑惑を描く。いよいよ不幸の羅列が始まるのか…。
ゆずゆ が幼稚園で知り合ったのは、服で隠れる身体の見えない箇所にアザを作っている梨谷 翔太(ないや しょうた)。翔太の母親は、夫が仕事を失ってから余裕が無く、少しのことで苛立ち、それを子供にぶつけていた。
ある日、公園で翔太を見かけた結平は彼の言動に違和感を覚えていた。そして幼稚園での発表会、保育参観の日に翔太が悪目立ちしたため、母親は幼稚園内で息子の頬をはたく。それを目撃した ゆずゆ は泣きながら母親の所業を告発するが、翔太は親の名誉を守るために叩かれていないと証言する。
その息子の証言に勝ち誇った母親は、ゆずゆ に対して親がいない子だと罵詈雑言を浴びせる。それを聞いた結平は反論を試みようと前に出るが、母親は結平に対しても あなたのしていることは ままごと だと暴言を浴びせてマウントを取る。
その場を収めるのは修羅場に慣れていそうな姉。しかし守るべき名誉は守っている。そして保育士も翔太の身体のあざを証言し、虐待が認められるようなら母親のもとに渡せないと彼女に警告を与える。それに対して母親は その自分への非難も息子のせいにして、彼の育児放棄を ほのめかす。翔太は泣きながら母親の背中を追いかけていく。
しかし幼稚園の発表会で姉が しゃしゃり出てきて保護者面するのも腹が立つなぁ。悪いキャラじゃないんだけど、もう少し陰で溺愛しているとか姉自体を愛せるようなキャラクタに創出できなかったものか。片倉家の人たちが本当に好きになれない。
実の親が子供に手を上げる例を、ゆずゆ・翔太の母親たちに聞かされ、結平は精神的にダメージを負うが、心に抱きしめられて癒してもらい、もう一度 翔太の母親と対峙することを決める。
そして自分は完璧に ゆずゆ の面倒を見るのではなく、彼女からの信頼に応えようとしていると母親に告げ、母親の行動がエスカレートすると子供と離ればなれになる運命が待っていると予告する。
結平の忠告によって、ずっと世間体に追われて自分を追い詰めていた母親は もう一度 自分と子供自身に向き合い落ち着きを取り戻していく。そして夫に自分の田舎に引っ越して全てをリスタートすることを提案する。こうして翔太は引っ越すことになり退場する。こうして転校生とか途中退場とか、そうやってオムニバス形式で話を広げていく方式が見え隠れする。
「愛してるぜベイベ 番外編 どうしたの? 結平くん」…
結平が ゆずゆ と同じ5歳の幼稚園児の頃、突然 自分に弟妹の どちらが出来ることを知らされショックを受ける。末っ子として愛されてきた結平は その地位を失うのが嫌みたい。そうして赤ちゃん返り状態に突入した結平だが、母子が命懸けで出産することを姉に教えられ、彼は考えを改める、という お話。