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高校生男子が子育てに奮闘するのは 子供が男児じゃなくて幼女だからなんだぜベイベ★★

愛してるぜベイベ 1 (集英社文庫(コミック版))
槙 ようこ(まき ようこ)
愛してるぜベイベ★★(あいしてるぜベイベ★★)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

女ったらしの高校生、片倉結平。ある日、片倉家に5歳児のゆずゆがやって来た! 行方不明の母親に代わり、ゆずゆの面倒を見る事になった結平の生活は一変。お弁当作りや幼稚園の送り迎えで、育児一色の毎日に…!? あとがき/槙ようこ

簡潔完結感想文

  • イケメンと幼女が交流するハートウォーミングストーリーと思えるのは純粋な人だけ。
  • リアル読者に可哀想からの同情・応援を引き出す展開の連続。ネグレクト見本市作品。
  • 継母との関係に悩む心を癒す結平だけど、無自覚に自分が連れ子再婚状態になっている。

のねイトコ同士は結婚できるんだよ、の 文庫版1巻。

本書は、軟派なイケメン高校生・片倉 結平(かたくら きっぺい)が、夫の死後、娘の養育を放棄して蒸発した叔母の娘、つまり結平にとってのイトコにあたる坂下 ゆずゆ(さかした ゆずゆ)との交流を描いた作品である。

おそらく本書が受けた要素は大きく分類すると下記の3つではないか。

1.結平による ゆずゆ の悪戦苦闘子育て(読者の母性を刺激)
2.問題のある家庭と大人の事情に巻き込まれる子供たち(読者の同情を刺激)
3.浮き名を流すプレイボーイ・結平のモテモテ恋愛譚(少女漫画読者の興味を刺激)

ネタバレになるかもしれないが、私は てっきり このイトコ同士の12歳前後の年の差の交流が、将来的な恋愛に繋がるのかと思っていたが そういう展開ではないことに驚いた。結平が恋をする相手は別にいて、慣れない子育てに悪戦苦闘する様子を描きながら、それと並行して恋愛模様も描かれていく。ただ結平は軟派で本気に恋をしていることが伝わりづらく、相手となる心(こころ)も体温が低めの人なので、一般的な少女漫画、特に掲載誌「りぼん」の中では恋愛描写が淡々としている。
文庫版『1巻』で早くも結平と心は両想いに至るのだが、好きで好きで仕方がないとか、四六時中 相手のことを考えているという感じではなく、結平の持つ周波数が いつの間にか心の頑なだった心に伝播していくような静かな変革に見えた。

結平は おそらく孤独な女性たちの内面に強く影響する素養を持っている。結平が読者から強く愛されるのは、女性に愛されるだけの容姿を持っているからではなく、無条件で女性に とことん優しい人間であるからではないだろうか。女性に対して底なしに優しい王子様であるから読者も彼に夢を託す。きっと結平なら女性を容姿で選別したりせず、自分の良いところを発見し、好ましく思ってくれる、と考えられるぐらいに彼の器は大きいように見えるのだ。

その意味では結平は21世紀における光源氏在原業平なのかもしれない。そういうプレイボーイ的な要素に惹かれた読者は少なくないのだろう。でも仮に ゆずゆ男児だったら彼の優しさは発動しないはずだ。批判的に捉えれば性別で優しさを使い分ける物語にも思える。

表紙にもある本書の名場面。トーンを貼りまくる「りぼん」の中で珍しい引き算。

うやら名作と名高い作品みたいだけど、私は本書を ちっとも好きになれなかった。

まず1話から首を傾げたのは本書には結平が ゆずゆ の面倒を見る理由が どこにも見当たらないこと。姉弟3人と両親、祖父母の7人家族の片倉家は誰も ゆずゆ の子育てに協力する姿勢を見せない。いきなりのネグレクト&ヤングケアラー状態で読むのが嫌になった。作者は そういう設定を思いついちゃったんだろうけど、もう少し丁寧に結平が ゆずゆ の面倒を見る道筋を描くべきではないか。細かいことを気にしないリアル読者以外には???と疑問符ばかりの初回である。

そして作品を好ましく思えない大きな理由は、ゆずゆ、そして結平の高校の生徒たち(主に女性)が抱える家庭的な問題を列挙しているだけのように読めたから。ゆずゆ はネグレクト、心は再婚、その他にも親の事情で家庭問題でしわ寄せを受けるヤングケアラーたちが続々と登場する。そして一番の問題は その家庭の問題を紹介しただけで解決する様子が無いことだ。ただの男子高校生の結平に解決できるほど問題は単純ではなく、一つ一つの家庭問題に解決編まで挿入していたら作品の軸がブレるのは分かるが、心にしても、そして何と ゆずゆ にしても問題を中途半端に処理するばかりで、正面から向き合う胆力を作者は見せなかった。若い作者には問題を列挙する勢いはあっても解決まで描く能力はないのだろう。

私は こういう不幸の見本市みたいな作品が決して好きではない。2002年の連載開始時点からネグレクトやヤングケアラーの属性の子供たちを主題に取り上げたのは慧眼と言えよう。そして特に「りぼん」の若い読者たちは初めて社会的な問題を提示されて、個々の問題に胸を痛め、彼らに同情する優しさを見せたことだろう。

ただ私には この不幸が、同情による人気獲得システムに思えてしまう。芸能人でもそうだが、不幸な生い立ちは その人を応援する立派な動機になる。それと同様に本書は不幸を同情する読者の気持ちを人気に変換しているように見えた。だからこそ不幸が解決することが目的ではなく、不幸を紹介し続けることが人気の維持のために必要だったのではないか。作品も読者も そういう自己憐憫による自己陶酔をしているように感じられるのは私の心が汚いせいなんだよ★(炎上回避)

私の言っていることは正しくはないが、間違ってもいないと思う。文庫版『1巻』は前半は連続して ゆずゆ が周囲から心無いことを言われる展開、その展開に限界が見えたら、ヒロインとなる心の家庭問題が描かれる。そして そこから あまり魅力的とは言えないサブキャラクターたちの話へと繋がっていく。

作品の人気が上昇したから横に横に話を広げて連載を維持しようとした結果なのか。恋愛的な決着(両想い)も早いし、あまり連載ならではの縦軸の流れが確認できなかったのも本書を評価しないポイントである。
冷めた読み方をする人を読者層として想定していないのは分かるのだが…。


性主人公の結平は授業時間中でも校舎の外で女の子とイチャつくような女たらし。といっても女性たちの方から結平にアプローチしてきて、結平は それに応じているだけ。来る物を拒まないプレイボーイ体質の人間である。そんな彼の生き方に批判的に見えるのがクラスメイトの心。周囲の女子生徒と反応が違うから結平の印象に残るのだろう。再読して驚いたのは恋愛ヒロインの位置に収まる心が1話から登場していること。ふらふらと現れた印象で1話に登場しているとは思わなかった。

女性に不自由しないプレイボーイの結平だが、女性に振り回される星のもとに生まれている。その最大の要因は姉。ある日、姉の命令で帰宅すると そこに ゆずゆ という5歳の女児がいた。彼女は母の妹の子供。つまり結平にとってイトコである。その叔母が旦那を亡くして子供を育てる自信が無くなって蒸発してしまった。だから残された子供を結平の家の片倉家で面倒を見ることになった。どうも1話の描き方だと祖父母も同居しているように見えるが、彼らの活躍を見た覚えがない。

ゆずゆ は どういう経緯で発見され、この家に来たのとか そういう細かい話はカット。そして姉の強権が発動して、ゆずゆ の面倒は結平が見ることになる。それは結平の女遊びに この一家が巻き込まれていた過去の制裁でもあるようだ。
ただ絶対に暇そうな祖父母、共働きには見えない母親など、人員はいるのに高校生の結平に押し付ける意味が分からない。姉は働いているらしいが、少なくとも結平には弟の皐(さつき)がいる。交代で当番するとか この家で分担する方法は幾らでもあるのに、全てを結平に押し付ける家族たちを好きになれる訳がない。
これは1話で ある程度 エピソードを作るために仕方ない面もあるのだろうけど、やはり強引すぎる。こういう不自然さを受け入れられるのはリアル世代の読者だけだろう。不自然さに気づかないような、都合よく無視できるような人たちに感動したと言われても、その感性は間違っている気がしてならない。

これだけ頭数がいるのに協力も分担もない。子育てを貧乏くじだと思っているのだろうか。

うして翌朝から結平が幼稚園に送迎することになる。でも3時に お迎えって どんなに高校が近場にあっても無理だよね。作者の設定が甘すぎる。
そして なぜか片倉家は ゆずゆ の幼稚園用の お弁当を用意する気が無いようで、ゆずゆ に お弁当の必要性を訴えられた結平はコンビニで おにぎり を買って与える。片倉家の他の人たちに ゆずゆ への愛情が少しも感じられない点が作品への嫌悪になる。世界観が何かおかしい。

ゆずゆ は手作り弁当がないこと、園内で保育士たちが自分の噂をしていることを耐える初日となった。しかも結平が補習で遅くなったことで ゆずゆ の行方不明が発覚する。
彼女がいたのは近所の公園。そして自分が母のいる家に帰れないのは自分が悪い子だからと自罰的な発想を持つ。その小さな心の大きな寂しさに触れた結平は母親の代わりに お弁当を作ることを約束する。

そうして結平に抱擁されたことで彼に慣れたのか、その夜 ゆずゆ は結平の部屋を訪れ一緒に寝たいと意思を示す。こうして2日目から一緒に並んで眠るところまでが1話である。全体的に心温まるというよりも理不尽さしか感じない。作者の未熟さしか感じられないが、作者的には無理を通して描き切った作品らしい。これで読者に受けたのは奇跡としか思えない。代表作が出来て良かったね。


日、結平は約束通り、ゆずゆ のために おにぎりを作る。
その達成感で自己満足していた結平だったが、高校で周囲のクラスメイトの お弁当を見渡すと品数が多くカラフル。それが理想の お弁当であることに結平は遅まきながら気づく。結平にも幼稚園時代があり、そして これまでも お弁当という物を目にしていたはずだが、彼は記憶でも失っているのだろうか。全体的に知性とか常識が欠落している作品である。

しかも ゆずゆ は その おにぎり を他の園児にバカにされ、つい手を上げてしまいトラブルになる。迎えに行った幼稚園で保育士から その話を聞いた結平。どう声を掛けていいか悩む結平が ゆずゆ に声を掛けると彼女はまた我慢しきれず泣いてしまう。ゆずゆ は結平の苦労をバカにされたことが我慢ならなかったのだ。
結平は励ます意味で ゆずゆ にデコチューをする。そうして彼女は一層 結平を好きになる。私は最初てっきり歳の差カップルの出会い編だと思っていた。


盤は ゆずゆ の受難が続く。ゆずゆ は自分が叩いてしまった園児とは仲良くなるが、ゆずゆ の家庭事情を知る園児が彼女に冷たく当たる。どうやら母親から ゆずゆ と遊んではいけないという禁止令が出ているらしい。母が絶対に帰って来るという確証を持てない ゆずゆ は再び泣いてしまう。

その日、お菓子を買って ゆずゆ を元気づけようとした結平だったが、彼がコンビニに入った後、ゆずゆ の帽子が飛ばされてしまう。車道に飛び出しそうになる ゆずゆ を守ったのは心。この出会いで心は結平が この子の面倒を見ていることを知り、彼への偏見を少し和らげる。その意味では ゆずゆ は絶対にありえない男女の恋仲を結んだキューピッドなのか。


が結平の生活パターンが変わったことに気づいている女子生徒はもう一人いた。彼女は結平を理想化するあまり、現実を歪ませ、自分が結平の大切な人だと思い込むストーカー的な性格をしていた。

その女子生徒が結平と離れた ゆずゆ を嫉妬のあまり精神的に攻撃し、結平のために絵を描いていたクレヨンを捨てられてしまう。そこに現れるのが ゆずゆ のヒーロー的存在・心。心は女子生徒を退散させた後、結平が合流するが、心は名乗りもせず立ち去る。まさにヒーローである。

けれど その後遺症で ゆずゆ は一人で家を出て行ってしまう(何かと逃走したがる)。彼女は文具店でクレヨンを欲していたが、お金を持っていないため騒ぎになる。ゆずゆ がクレヨンを欲しかったのは、これで結平の絵を描き続けていれば彼から愛情を注いでもらえると思ったから。その健気さは確かに泣ける。

最後に姉が結平に事情を聞き偉そうに講釈を垂れるのが腹が立つ。なぜ結平一人が責任を全て負わなければならないのか。ゆずゆ の母親も含め、個人主義でワガママは この家の血なのかと思ってしまう。


が結平の思考が ますます ゆずゆ に支配されることが女子生徒には気に入らない。だから ゆずゆ の保育園に出向いて彼女に害を加えようとする。そこへ今回は結平がヒーローとして参上。親切をして遅くなったが、約束通りダッシュで幼稚園に駆けつけてくれた。基本的に女性に優しい結平だが、ゆずゆ が嫌いな この女子生徒には冷淡に対応する。

制服から同じ学校だと判断した結平は女子生徒探しをして、心の証言によって生徒を特定する。学校内で改めて向かい合うと、その女子生徒は結平への好意を涙ながらに告白する。結平は誰に対しても本気じゃないから許容できたが、ゆずゆ だけが特別な位置にいるから嫉妬した。それを聞いて結平は彼女に優しく お断りをする。その一連の真摯な態度を心が見ていた。やはり ゆずゆ関連の話は心に結平の良い部分の発見に繋がっている。

こうして ゆずゆ の精神の安定は取り戻される。最後の場面で、弟が仲良しいいな、と言っている意味が分からない。子供が苦手で遠ざけて何もしないのに、得をしようという考えが嫌だ。本当にひどい家族だと思う。


平と ゆずゆ の間に信頼関係が結ばれた頃、ゆずゆ を捨てた叔母からの手紙が届く。今は福岡にいる彼女は まだ帰れないと一方的な宣言をする。こうして ようやく彼女の姉である母親が妹の捜索を始めようとするが、この家の実権を握る姉が捜索不要と断言。今、強制的に母子を元に戻しても、元の木阿弥というのが彼女の言い分。母親が自発的に戻って初めて安心できる、という まともな意見を述べる。

ゆずゆ への手紙も同封されていた。ゆずゆ の回想で思い出される母は、随分と精神的に幼い人に見える。子供が子供を産んでしまった不幸なのだろうか。手紙を読んでから、ゆずゆ は母親との思い出が薄れていく怖さに襲われていた。

一方で、ゆずゆ は幼稚園の友達と上手く交流しており、彼女の世界が広がる。それは結平の依存が薄れていることを意味し、早くも子離れとなった結平は自分の幸せ=恋愛に前向きになっていく。その相手といて心がクローズアップされ、彼女の背景が作られていく。父親の再婚によって心は一人暮らしをすることになるらしい。母親は6歳の時に死別していた。

男性主人公なので家庭の問題はヒロイン側で起きる。トラウマを癒して早くも恋愛解禁。

は父親の再婚に反対していない。しかし父親の方は心とちゃんと向き合わず、反対が無いから勝手に話を進めているように見える。
そんな心の心理状態を ちゃんと理解してくれるのが結平の役割となり、そうして心を癒すことで彼は心のヒーローとなった。家庭の愛情が欠乏していること、寂しいとか家族と暮らしたいとか言えないこと、そんな胸の内を心は結平に吐露する。

こうして いい感じになった2人はキスを交わす。恋愛的な盛り上がりは あまり感じられない。心にとって結平が気になる存在で、彼を見直すことで心を許せるようになる経緯は描かれているが、結平にとっての心はツンデレだから興味を持ったぐらいにしか理解が出来ない。そういうドライな感じだから相性が良いのかもしれないが、ダメ男にハマっていくパターンにも見える。

だが自分の恋愛を優先して子育てを放棄するかのような心の父親と結平の状況が重なっていることを結平はまだ知らない。