《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

日常回は もはや『おいらん高校ホステス部』、なんて言ったら各方面から叱られるよね…。

おいらんガール 2 (花とゆめコミックス)
響 ワタル(ひびき ワタル)
おいらんガール
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

江戸・吉原で花魁の頂点を目指す、新造の椿。姉女郎でナンバーワン花魁の鷹尾の秘密──それは、初恋の奉公人・真(♂)だということ!! 戸惑う椿だが、花見での鷹尾争奪戦にライバル登場、身請け話など今日も事件が百花繚乱! 吉原の四季が美しく移ろう恋絵巻☆第2巻。

簡潔完結感想文

  • 自分への暴言も批判的な視線も、その実力で収められることが花魁の資質。
  • 大事に思うからこそ手放して彼女の幸せを望む。それがヒーローの陥る罠。
  • 定期連載で日常回開始。遊郭の過ごし方のハウツーのサイドMが面白かった。

2人の進展が読めるかどうかは読者アンケート次第だねぇ、の 2巻。

5話収録の『2巻』の前半3話は3回の短期集中連載分、そして後半から定期連載へと突入していく。短期連載分は これまでの読切と変わらずイケメンゲストが波乱を巻き起こす展開となっていて、定期連載からはゲストを招かず、世界観を提示したり、それぞれの人物の深掘りをしていく、という印象を受けた。

また短期連載分は従来通り、物語に1人の男によって悪意が持ち込まれ、それを椿(つばき)、鷹尾または真(たかお/しん)、銀月(ぎんげつ)が対処し、自分たちの正義を貫くという内容になっている。その勧善懲悪の展開は連載ではワンパターン化すると思ったのか、その後は悪意を持った人は出てこず、吉原における「日常回」のようなコメディ要素が強く出た作風となった。
これによって椿が騒動を巻き起こすというよりも、椿が騒動に巻き込まれるという役割の変化があったように思う。まだ長期連載は2回分だから、気の早い考察かもしれないが、これまでは鷹尾にミスをフォローされるばかりだったが、椿がツッコミ役となって話を盛り上げているような、彼女の気の強さや空回りが活かされた役どころになった気がする。

読切に登場したキャラまでがレギュラーメンバー。彼らと一緒の日常回が始まる。

そして意地の悪い見方かもしれないが、読切でも短期連載でも2人の関係に決着を付けないことが お客様に「次回」を切望させるというテクニックのように思えた。そこが作者と鷹尾がダブる部分だと思った。もう1回を鷹尾に会えれば次こそ性行為を達成できるのではないかという男性客の期待が鷹尾を花魁の地位に押し上げたように、主役の2人の両想いを見届けたいという気持ちを途切れさせないことで作者は読切作品を連載化に繋げた。もちろん そこに短編ミステリのような お話としての面白さ、美麗で丁寧な画力など作者が芸を磨き上げた結果を作品内に読者が見るから応援したくなることも忘れてはならない。

そんな次回への期待は、長編化してからは白泉社特有の恋愛リセットが発動して、甘い雰囲気は消失する。頭に血が上りやすい単細胞ヒロインは、こういう時に便利だ。悪口を少し言われたら その人を嫌いになって、自分の気持ちを無かったことに してしまうのだから。

もはや設定に違和感も覚えなくなり、遊郭が特殊な白泉社学園のように思えてきた。そこに在籍または来校する個性の強い人々のドタバタな日常という安定感が生じている。白泉社作品の中でも特異な設定を日常回の中で どう活かすことが出来るかが作者への次の試練だろう。


頭は季節ネタを取り入れた4月号の お花見。こういう吉原の風俗をよく調べていることに感心する。

いつも椿をイジメている鷹尾花魁だが、椿は どんどん女性として花開き、そして遊郭で過ごす時間が長くなることは彼女が他の男性のものになってしまう焦燥に追い立てられていた。

そんな心境の中の お花見で、鷹尾の悪友・銀月(ぎんげつ)の悪乗りで、鷹尾と寝る権利を賭けた客との勝負が繰り広げられる。こういう賭けとか無茶苦茶不利な条件の勝負とかが白泉社らしい展開である。

鷹尾は男であることをバレてはいけないという負けられない理由があるが、同時に花魁としての矜持を他の遊女と同じように ちゃんと持っている。その姿は椿も学ぶところがある。
連戦連勝の鷹尾に対して、かつて高尾に袖にされた客たちが睡眠薬を盛った酒を飲ませてから勝負に挑む。この客が この回のゲストキャラだろうか。意識が朦朧とする中、鷹尾は客の相手が椿になると聞き、正気を修羅のごとき表情を見せる。鷹尾が何を一番 守りたいかが浮き彫りになる。

そして今回は鷹尾に対する客の わだかまり を、椿が浄化して見せるという場面も用意されている。彼女もまた女性として男たちの上に立つ器量を持っているという証明である。鷹尾という優れた先輩の背中を見て彼女は また成長していく。
最後は気の抜けた真は珍しく お酒が回って酔った姿を見せている。酔ったついでに告白でもしてくれればいいのに。


椿たちの妓楼に新人・山茶花(さざんか)がやってくる。これまで椿は鷹尾を追いつけるよう精進してきたが、その椿が新人に追いつかれることもあるというエピソードだろうか。そして山茶花のペースに巻き込まれて、鷹尾の方針とは違う接客態度を取ってしまい、後に鷹尾に たしなめられる。それは焦りのあまり椿が山茶花と同じ土俵で勝負してしまったということ。鷹尾は椿には安っぽい媚び方をして欲しくない。そういう教育をしないのは、鷹尾が真として椿を手元に置いておきたい、遊女の生き方にに染まって欲しくないからかもしれない。

永遠の「二位さん」だった椿が、今回は追われることで本来の力まで発揮できなくなる。

その鷹尾(真)の心境を理解するのは銀月だけ。大人組だからか彼らの美学や粋は似たレベルにあり、だからこそ悪友なのあろう。それにしても真は どこでどう着替えているのだろうか。鷹尾の姿のままでは店から出られないし、真の姿では店に入れないような気がするが、そこは真相を知る楼主の差配で真専用の着替え場所や通路が用意されている、との脳内補完をしておこう。

山茶花は ある意味でプロの遊女で手練手管、権謀術数、何でも使って のし上がろうとする人。だから椿が鷹尾に言われて すぐに改心して、椿が張り合わないことにガッカリする。でも椿は真に指摘された通り覚悟が足りない自分を思い知らされた。だから自分の やり方で頂点を極めようとする。
そして山茶花と違い、誰かを蹴落とすような真似はしない。椿と山茶花、見た目が似た名前の違う修正の中に2人の生き方の違いを込めているのが上手い表現だった。

山茶花との関係自体は椿が独力で乗り切るが、その後の ちょっとしたピンチに真が駆けつける。この時、見物していた銀月が真の姿を見て、鷹尾ちゃんと言っているのが迂闊。周囲にバレるだろうに。

そして正体と言えば この山茶花は、この妓楼においては鷹尾と同類だった。異業種ながら椿の噂を聞き乗り込んできたのだった。この回は男性の新キャラが登場しないのかと思ったら最初から登場していた、という倒叙ミステリのような真相が明かされた。短編としての切れ味が良い。やっぱり小説という形式で発表して欲しかったかも。

けど話としてはよく出来ていると思うが、椿自身が朝令暮改というか、芯の無さが悪目立ちしていた話で、白泉社らしい女性キャラが間抜けに見えるパターンだと感じた。鷹尾に怒られた直後に、鷹尾の言葉をそのまま伝えて自分の考えのように披露している場面など恥ずかしさを覚える。


3回の短期連載の3回目は椿の見受けという、ある意味で最終回らしい話になる。吉原から足抜けするには年季が明けるか、見受けをされるか、その2つが現実的な方法だろう。

相手は豪商・氷牙(ひょうが)。相手にとって申し分は無く、本人の性格も良さそうで、同じような大店の娘である椿とは釣り合いが取れている。だから鷹尾は反対しない。でも椿は鷹尾は引き止めるてくれると思っていただけにショックを受ける。ただ、これは鷹尾が椿のことを想ってのこと。自分が椿の貞操の危機に怯えて近くに置くより、女性としての幸せを考えてのことだろう。

でも その言葉は椿には鷹尾の言葉に聞こえ、真としての言葉が届かない。だから他者の耳目をシャットアウトして真に問い質すが、答えは同じ。椿は真に好意を抱いている自分を自覚したばかりだったから余計に彼の拒絶のように思えて傷つく。しかし真もまた断腸の思いであることを椿は知らない。

途方に暮れて歩いていた椿は氷牙が他の店に入っていく姿を目撃し、その直後、何者かに昏倒させられる。目を覚ました椿に氷牙は、裏稼業として妓楼を開き、そこで権力者や商売敵の情報を手中にし、商家の拡大を狙っていた という自分の計画を全て話す。氷牙が椿にしたのは見受けではなくスカウトだった。しかも今の店とは違い、椿はすぐに色を売ることを強要されそうになる。

そんなピンチに真が登場するが、敵陣であるためにすぐに包囲されてしまう。真の「お嬢様」を守りたいという心意気に免じて、氷牙は椿に自分か真か どちらを助けることにするかを決断させる。その脱出方法は とんち?と思うほどで、これで脱出できるんだという呆気なさを感じざるを得ない。この騒動で2人の関係は半歩進んだように見えるが、どちらも好意は伝えない。
この決着を付けない感じが、読者に連載終了後も作品に思いを馳せさせる作者のテクニックなのかもしれない。漫画家もまた客商売なのだろうか。


3回の短期連載が終わって、いよいよ長期連載に入る。
長期連載に入った途端、恋愛モードのリセットが発動する。鷹尾にとって椿は便利な手下であることを強調したら、彼らの間に流れていたはずの甘い空気は霧散する。

そして遊女たちの間で、妓楼(ぎろう)の内風呂を決して使わない鷹尾の身体には何か重大な秘密があるという噂が立ち始め、それを確かめようとする試みがなされる。
椿は鷹尾が どうなろうと知った事ではないと思いながらも、彼を守ってしまう。鷹尾と真が二面性のツンデレならば、椿もまた無意識でツンデレ体質である。素直になれない2人だから恋愛解禁まで途方もない長さを要する。話の構造的には銀月の初登場時に、椿は彼が鷹尾が男性であることを承知していることを知らずに、鷹尾の秘密を守ろうとした時と同じだろうか。

結局、鷹尾は自力で他の遊女たちの興味本位の行動を制御する。そして椿も鷹尾の凋落を計画するという卑怯な手を使わずに、No.1を目指す、という実に白泉社ヒロインらしい上昇志向を見せる。


いては本書におけるイケメン3トップである真・銀月・撃(げき)が、別の妓楼に集合するという話。これは撃が男としての幅を広げたいと思い、吉原での遊び方を学ぶためであった。その情報を得て椿が男装して妓楼に入る。学園モノなら他校での浮気疑惑があるヒーローに、ヒロインが変装して潜入する回という感じか。この辺も いかにも白泉社の日常回といった印象を受ける。

内容は吉原のハウツー本のようで、現代でも女性が接客してくれる店などでも応用できるだろう。男目線における吉原の楽しみ方(飽くまで健全な)という「サイドM」な感じが面白い。最終的に撃、そして真が どれだけ椿を好きかという話に回帰しているのは少女漫画だから仕方がないか。

ただしオチは白泉社の悪習であるホモネタ。江戸では男余りが深刻だったらしいが、いくら男性陣の貞操の危機という女性が強い遊郭ならではの窮地を脱するためとはいえ、こういうネタで人を笑わそうとしていることが時代遅れである。これまでの読書経験による体感的には、白泉社が一番デリカシーがなく、出版社の中で最後まで同性愛をネタにしている気がする。