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少女漫画と小説の感想ブログです

伝説にのっとり禁断の恋に悩む構図と、伝統にのっとり三角関係が始まる『3巻』。

花の騎士 3 (花とゆめコミックス)
西形まい(にしかた まい)
花の騎士(はなのきし)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

セイに恋をした百川も騎士の1人だった! セイの一番近くにいられる“第一の騎士”の座を賭け、百川から決闘を申し込まれたランは!? 一方、イバラは決闘の旅にランが傷つくことに疑問を抱き、自分のやり方でセイとランを守る決意をする!

簡潔完結感想文

  • 逆恨みの決闘は前座で、大事なのは お姫様抱っこ と アフターフォロー。
  • 真に戦うべき敵が学校へ転入。そして もう一人の転入生は そっくりさん。
  • ランの男装を知る2人目の男性の登場によって、初めて三角関係が完成する。

て馬がいて初めて三角関係は成立する 3巻。

『1巻』の表紙では てっきり そこに描かれている3人(セイ・ラン・イバラ)の三角関係が始まると思っていたが、そうはならなかった本書。そんな本書で初めて三角関係が正式に成立するのが この『3巻』である。女2男1の三角関係も成立するが、そうなってしまうと主人公のランが主人のセイを裏切らなくてはならない。そんな主人公=読者の分身であるランの意識の中で奪略愛のような行動を取らせないためにも、セイとイバラが互いに恋愛感情を持っていないことを描いた上で、男性のイバラ側に動いてもらう必要があるのだろう。結局、この物語はランの精神状態を第一に考えられており、やっぱりランこそが誰からも大事にされている姫なのである。

そしてランを巡る三角関係は、ランが女性であることを知る本書の中ではレアな男性キャラが2人揃わなくてはならない。この『3巻』で ようやく その条件が達成され、女1男2の三角関係が成立する。といってもランは女性であることを忘れようと努めている身なので、そんなランの目の届かない所でランを巡って男同士が争う展開となる。そしてイバラはランを慕う もう1人の男性キャラの出現によって、ランへの気持ちを確定し、フィアンセであるセイを裏切ったことになる。

既にセイよりも お姫様状態だが、正式な三角関係はランの性別を知る2人の男性が必要。

このイバラの裏切りは最初から運命に組み込まれている。どうやら本書がモチーフとしている「アーサー王物語」はアーサー王の妻と「第一の騎士(ファーストナイト)」が禁断の恋をするらしい。そのためにセイとイバラはフィアンセ同士という関係性が必要で、ランは許されざる恋に悩まなくてはならない。

今回のタイトルにもしたが、伝説に沿う形で禁断の恋が描かれ、そして条件が揃うことで伝統的な『3巻』から始まる三角関係が描かれる。


う一つ特徴的なのは『3巻』ではイバラが表立つことなく「ラン」の騎士として働いているように見えた。彼女の信念と尊厳を守りつつ、自分で出来ることをイバラは始めた。

それはランの知られたくない秘密を守るために一番に動いたり、ランを恨む者を裏稼業のように討伐したり、上述の通りランを巡るライバルと男同士の闘いをしたりと、テキトー人間に見えていたイバラがヒーロー然としてきたように思う。

騎士として生きることを決めたランだから、自分が守られることは本来は望まないこと。だから彼は音を立てずに動く。ランのように騎士として剣を携えずとも戦う方法があることをイバラは教えてくれる。それが出来てしまうのはイバラの能力の高さを示すものだろう(または全く気付かないヒロインの間抜けさ)。

イバラがフィアンセよりも大事な女性がいると心を決めて、そしてヒーローとして行動することで恋愛の準備は整っているように見える。しかし頭の堅いランはセイが当主になっても、自分が第一の騎士でいる限りは自分を女であることを許さないだろう。まだまだ先は長そうである一生 友人関係でい続けることもあり得る関係の2人の物語を どう終わらせるのかが楽しみだし怖い。白泉社作品には恋愛を保留にする前例が幾つかあるからなぁ…。


想いをしていたセイにフラれてしまったタケルは彼女の一番 近くにいられる「第一の騎士」になるためランに決闘を申し込む。サイキといいタケルといい自分の欲望で決闘を申し込み、人に血を流させることへの躊躇が無さすぎる。サイキなんて他者の願いだし、タケルも逆恨みでしかない。騎士の決闘は そこに誇りがあるから命を懸ける意味があるのに、本書は その根拠が弱すぎて闘う理由になっていない。
それに この手法だと絶対に勝てる見込みがあるなら最後の最後で第一の騎士になった方が余計な傷を負わないだろう。どうもシステムが破綻している。期間中のタイトル保持日数で競うとかにしないと第一の騎士だけが疲弊するばかりだ。

決闘前に誰かに恋をするセイの覚悟を聞いて、ランは迷いを吹っ切る。誰かの助言で精神を研ぎ澄まして強くなるのがランである。そして肉を切らせて骨を断つことでランは勝利する。これまで誇りをもって闘っているのはランだけだ。


闘後、ランは倒れる。これは剣の傷ではなく季節が変わり気温が高くなっても ずっと暑苦しい格好をし続け、そして運動したことによる熱中症によるもの。そう診断したサイキはランの介抱のためにシャツの胸元を開けようとするが、セイより先にイバラが制止する。このイバラの言動でセイは彼がランが女性であることを知っていると察する。やがてイバラの お姫様抱っこによってランは病院に送られる。

その病室には いつものメンバーに加えタケルも顔を見せる。勝負にも試合にも負けた彼は改心し、セイに仕えることを決意する。そしてセイが恋心を優先しないように、ランも恋心を封印し、ランの気持ちはリセットされる。なかなか進まないのが白泉社の恋愛である。

病室の外でイバラはセイに この決闘システムがくだらないと吐き捨てるが、その気持ちはセイも同じ。これまで そのシステムによって守られてきた大鳥家。第一の騎士は生涯、大鳥家当主の盾となり剣とならなければならない。しかし今のセイではシステムは変えられない。自分の無力さをセイは痛いほど知っている。この発言からイバラはセイもまたランとは違う形で戦っていることを知る。2人の接近と共鳴はランの恋愛の障害となり得るのだが…。

このフィアンセカップルは大人な雰囲気で好きだ。むしろランが邪魔者に思えたり…。

闘を毎回 観察している謎の黒髪眼鏡は自分が使える主人らしき人物にランの成長を報告し、行動を促す。

この一派の行動なのか、学園内では騎士の証である白手袋を狩る者が出現していた。イバラが その話を聞いたのは、ランを間接的に守るため、卑怯な行動をする者を捕らえ、白手袋を奪略した時のこと。学園内で決闘以外の不穏な動きが見え隠れする。

そんな時に転入生が2人やって来る。
1人は2年生の静 シュウヤ(しずか しゅうや)。あの決闘を見守っていた黒髪眼鏡である。彼はセイとランに対して敵意を剥き出しにしてくる。ってか お前、この学校の人じゃなかったんかい!とツッコまざるを得ない。しかも もしや毎回 決闘のたびに学校に侵入してたんかい!という謎も浮かび上がる。


して もう1人の転入生がランそっくりな黒野 リン(くろの りん)。ランのいとこであり、正真正銘の男性である。距離感の近い いとこ をイバラは牽制する。

ランのいとこ ということもありリンはランの性別を知っている。その事実をランはリンに口止めするが、リンはランが女性であるからこそ血を流す決闘に関わって欲しくない。それは親族への思い以上の、異性としての愛情だった。ランは その想いには応えられず、騎士の続行も宣言する。それにしても漫画的の記号に2人が そっくりなのはよいが、現実的に考えると自分にそっくりな人に恋心を抱くのはナルシシズムの由来としか思えない。

そしてリンはランが好きだからこそ、イバラが抱くランへの想いを察知する。
だが意外にもリンはイバラとランを一緒に守ろうと提案する。それはランを普通の女性として生きさせたいというリンの願い。ランが誰よりも優しい人だと知っているから戦いに身を投じるような真似をして欲しくない。
そこでランはイバラに仕掛けて、彼が大鳥家にランが女性だと密告することでランの騎士としての資格を剥奪しようとしていた。自分の手は汚さずに自分の思い通りに事態を動かす。それがリンの やり方。

バトンはイバラに渡された。そこでイバラは自分の想いを自問自答するが、彼はランを尊敬しているが好意かは判別がつかないという。てっきり『2巻』のランの素直な言動が決定打になったのかと思ったら、今回の笑顔が決定打らしい。反対にランはイバラへの気持ちを整理して封印してしまったので、恋愛問題は棚上げ。白泉社って どうして同じフォーマットを繰り返すのかしら…。


バラに働きかける一方で、リンはラン(正確にはセイの、だろうが)の周囲にいる騎士たちに次々と攻撃を仕掛け力量を見極める。そしてランの中にイバラが特別な位置にいることも察知して、彼らの排除を試みる。だが それをランは許さない。なぜなら彼らのような大切な仲間がいるからランは強くなれる。

自分の方針とランの考えが違うことを知ったリンは、イバラに行動を促す。だが この間にイバラはランへの恋心を自覚したため、かえってランの進む道を守ろうと決めていた。思い通りにならないイバラの力量を見極めようとリンは決闘をしようとするが、イバラは拳のぶつかり合いで十分だと答える(そもそも第一の騎士以外との決闘が出来るのだろうか)。

彼らは無骨に殴り合いながら本音をぶつけ合う。しかし これまでの決闘よりも よほど自分の信念をかけて闘っていると言えよう。


日、イバラは傷だらけの顔で登校する。一方、リンは一見 無傷。そして彼はランを屋上に呼び出す。ランは決闘の申し込みだと覚悟を決めるが、リンはセイの騎士になることを宣誓する。イバラと拳を交えることで真にランのためになることをリンも考えた結果らしい。やはり どちらかというとセイではなく、ランの騎士が2人誕生したと言えるだろう。

そしてリンが顔に傷が無いのは、イバラが顔だけは殴らなかったから。ランと同じ顔をしたリンの顔は殴れなかったようだ。そのことをランに伝えるリンは、ランのことを既にイバラに託しているようにも見える。あまりにも物事が淡々と、強制スクロールのように前に進み過ぎている印象が拭えない。