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少女漫画と小説の感想ブログです

次は恋愛と青春をテーマにした新曲です。それでは聞いて下さい『恋を知らない僕たちは』。

恋を知らない僕たちは 11 (マーガレットコミックスDIGITAL)
水野 美波(みずの みなみ)
恋を知らない僕たちは(こいをしらないぼくたちは)
第11巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

晴れて小春と付き合い始めた英二。意外にも(?)ラブラブで楽しく過ごすふたりは初デートへ! だけど、小春の付き合い方になんだか違和感が…!? さらに瑞穂と太一の関係も大きく進展!? 大ヒット男女6人クロスラブ、堂々完結!

簡潔完結感想文

  • かっこつけたがりで嘘つきの こじらせ男子の特性が良い方向に作用する お家デート。
  • かつて告白までの道筋を示してくれた恩人のために、彼氏を物のように貸し出す藤村。
  • 君に初めて届く、君のための音楽。「本物」は絶対に相手の心に響くのが本書のルール。

像劇を徹底したことに感動する 最終11巻。

登場した男女6人の確かな繋がりは感じるのに、最後まで6人が一斉に登場するシーンが一切ないことに驚かされる。きっと作者は これを狙って慎重に連載を進めていたのだろう。今回は前作『虹色デイズ』と違う手法を用いて群像劇を完成させたいという目標があったのではないか。複数人の男女が仲良しグループにならないで、互いに心を通わせていく経緯が描かれる。6人が一堂に会さないことは言われなければ気づかないままの人もいるだろう。そう思うほど作者は自然に物語を動かしている。

けれど作中で描かれていないからと言って今後も ずっと彼らが一緒に行動しない訳ではない。物語が終わった後の世界では『虹色』のように、彼らは6人で一緒に遊ぶかもしれないし旅行に行くかもしれないし。その可能性を高い確率で信じられるほどの連帯感を この作品は醸成している。途中で恋愛問題でギスギスしたこともあったけれど、その恋愛を通して相手の強さを知って、人として尊敬していく過程が描かれていた。だから恋愛的な勝敗は付くものの、信頼や信用は残り、それが本書に爽やかさを残している。『虹色』の番外編があったように、本書の番外編があったら本編では見られなかった6人が一緒にいる姿を一度は見てみたい(私が関知しないだけで もう描かれているのかな?)。


※ネタバレになるが、改めて考えると英二(えいじ)と藤村(ふじむら)は自分以外の同性2人と同じ人を巡ったライバル関係になっているのか。英二は直彦(なおひこ)に泉(いずみ)を奪われた被害者意識で こじらせたが、太一(たいち)は英二に池澤(いけざわ)の恋心を盗まれても英二も池澤も嫌いになったりせず純粋に応援してくれた。そして藤村は泉の恋人である直彦に横恋慕し、そして池澤の好きな人が英二だと分かっていても彼への気持ちは無くならなかった。

こう書き出すと英二と藤村は なかなか迷惑なカップルである(苦笑) ただ彼らが迷惑をかけたからこそ、他の人の持つ長所が輝いているように思う。直彦の寛容性や英二のタイミングを待つ忍耐力、自分以外の人を優先できる太一の心の美しさ、圧倒的なヒロイン力を発揮した泉、そして英二にも藤村にも自己と向かうキッカケをくれた池澤がいた。それぞれの性格の違い、長所や短所、頑張りや成長が満遍なく描かれているから本書は最初から最後まで面白かった。

でも英二も藤村も ちゃんと他者の恋を応援している。特に『11巻』では精神の安定した藤村だからこそ出来る池澤への提案が良かった。少し前なら絶対に許せなかったことが許せるのは愛を信じられるからだろう。

そういえば本書では少女漫画的なフラグが いっぱい立っていたが、適用されたのは英二と藤村の「偽装交際をしたカップルは本物になる」だろうか。一方、英二が池澤にした「落下物から彼女を守った人がヒーロー」または「壁ドンはヒーローの証」は適用されなかった。もしかして『7巻』で池澤が望んだ時、正式な壁ドンを英二がしたら、ルートが変わったのだろうか。やっぱり英二はキスも壁ドンも、本当に好きな人にしか出来ない純情な人間なのだということが分かる。


だ構成的な問題で あれだけ長らく片想いしていた人たちが急に恋の相手を変えすぎている印象は拭えない。最初から作者はゴールを決めていたと思われるから その辺は丁寧に調整しているんだけど、それでも唐突さを英二・藤村・池澤に感じてしまう。作者は ちゃんと英二と藤村は恋心や恋愛観を こじらせた2人が自然に一緒に いられることを相性の良さの証明にしているし、池澤も恋心というよりも二重人格のような英二の内面を知りたいという探求心が根底にあると描いているんだけれど。

特に池澤は失恋後 約1巻で方向転換しているのは ちょっと早すぎる。池澤の性格を考えると、器用に気持ちを切り替えられるとは思えない。
しかし この池澤のケースも英二という過去例を適用するのが妥当なのだろう。英二の例というのは彼の心の中で泉の存在が大きすぎて、実は多く交流していた藤村がいつも盲点になっていた、というもの。同様に池澤は、あの夏休みのライブの日(『2巻』)、幻想のように見た英二の眩しさに囚われていたから、いつも身近で見守ってくれていた太一への想いに気がつきにくかったのかな、と説明できると思われる。太陽が輝く昼間には、そこに あるはずの星は見えない、のと同様に。あとは池澤が英二への恋を経験したからこそ、太一の愛の大きさを正確に感知できるようになったのかな。
英二・藤村ペアと同じように、太一と池澤も同じ分だけ(11巻分の)交流があるのだから、無自覚に相手を受け入れる準備が出来ていたのだろう。ちょっと無理矢理にでも池澤の心の推移を理解することは出来るし、その材料は各所に存在していると思う。読了後、その辺を思考してみるのも面白いだろう。


一がバンドで担当する楽器がベースというのも作品上の彼の役割にマッチしているように思った。主旋律ではないが、ずっと作品を支えてきたのは間違いなく太一だと思う。なんて楽器のこと よく知らないのに言ってみた。

構成的にも良かったのが、本書で最長のロングパス。夏休みに池澤をライブに呼んだ太一だったが、中途半端な勇気で彼女に来てもらうことは出来たが、バンドの演奏を聞いてもらうことは出来なかった。それが今回、ちゃんと池澤を誘い、池澤も誘いに応えた。そして初めて太一の演奏する音が池澤の耳に届くという構成が素晴らしい。私は両想いになった事実よりも、こういう布石が機能していることに感動した。そういえば藤村は避難先として軽音部に出入りしていたが、池澤は太一の音楽活動に全くノータッチで彼の届けたい音を1回も聞いていないという徹底した配慮が見える。
繰り返しになるが本書では「本物」だけが相手の心を動かす。太一が池澤のために選んだ曲、池澤に聞いて欲しい言葉、届けたい音が池澤に響かない訳がない。おそらく読者に分かりやすくするためにライブ前から池澤の返事は決まっていることが描かれているが、それがなくても上手くいくことは作者が本書で用いてきたルールを考えれば自然と分かる(事前の返事は絶対に あった方が良いけど)。

池澤が見たかった英二の光る背中も随分と長いロングパスだったが、太一のライブの件は本書で最長となった。その間に太一は何度も顔を伏せ、何度も涙で頬を濡らしてきた。その太一が幸せになって本当に嬉しい。

しかし太一が回り道をしたのは、そもそもの彼の勇気の無さが原因という考え方も出来よう。夏休みのライブに太一が最初から池澤を誘っていれば、太一の「本物」の音は池澤に届いた可能性は高かった。なのに太一はライブ直前まで勇気が出ず、その結果 池澤が光って見えたのは英二の背中になってしまった。もしかしたら あの日、池澤の視界で輝くのは太一だったかもしれないのだ。そのチャンスを棒に振ったから太一は長らく苦しむことになる。次のライブまで間があったのも悪かった。これが聖人・太一の唯一の罪で、受けた罰だろう。

あの太一でさえ間違えるのが10代の青春の日々。それぞれに間違えて、苦しんで、涙を流しても彼らは明日を探し続けた。人の綺麗な部分だけでなく、未熟で愛おしい部分まで描き切ったのが本書だと思う。

夏に叶わなかったことを冬でリベンジ。太一の真っ直ぐな音は きっと彼女の心を震わせる。

も さすがにダメだと思うのは、この最終巻の表紙。これは いただけない。誰と誰がカップルになるのか分からないのが本書の魅力なのに、最終巻の表紙を見たら一番 知られてはいけないカップルが一目瞭然というのは配慮が無さすぎる。ここまで丁寧に描いてきた作者には待望の英二&藤村ペアの表紙が最終巻で解禁というのは分かるし、最終巻しか描けない構図だ。でも やっぱり完結後に大人買いした人とか2024年の実写映像化で興味を持った人は、この表紙を見ただけで少なくとも英二の結末が分かってしまう。三角関係モノやカップリングが予想できない作品の最終巻の表紙は、結末が分からないようにする配慮が欲しいところ。


れて英二と藤村は正式なカップルになった。これまでの関係と違うから 嬉しくも恥ずかしい部分もあるけれど、心から好きだと言える恋人の時間を満喫する2人。

そんな中、初デートとなる映画鑑賞が計画される。しかし英二はデート前後から藤村に違和感を持つ。その正体は元カレの洗脳。藤村は男性と一緒にいる時の行動規範が元カレ仕様になっていたのだ。ここで英二が藤村らしくない言動を いち早く察知しているのが良い。英二が好きなのは従順な女性ではなくて何でも言い合える藤村という存在なのだろう。

しかし藤村は英二の前で元カレの名前を出した失言と、元カレ仕様の行動を反省して映画が頭に入ってこない。映画鑑賞後、英二は藤村の元カレに従順な態度は確かに変だと指摘するが、藤村自体を責めたりしない。これからは2人のルールや意見の擦り合わせをすればいいと藤村の心を軽くする。これは2人の交際なのだ。

にしても、制服の時も思っていたが、私服になると一層 英二のスタイルの良さや成熟した肉体が気になる。とっても顔が小さいのかもしれないが、これ180cm前後の人のスタイルの良さだよね、と思った(実際は173cm設定)。そして高校1年生なのに20歳以上の、身体が出来上がった人に見える。そもそも運動してないのに、運動している直彦と変わらない体型なのが ずっと気になっていた。鍛えていない高校1年生なんて、内臓どこに収まってんの!? と思うぐらい薄型ボディだと思うのだけど。


2回目のデートは天気や予定の都合で お家デート。英二は小学校の頃の泉を家に呼ぶ感覚で藤村を誘っており、恋人が家に来るということを理解していない。

お家デートに緊張しているのは藤村の方。デートの日の体育の授業での着替えシーンで藤村の下着が少し見えるのだが、これは気合いを入れた下着なのだろうか。といっても藤村も この日の目標は交際後に1度もしていないキスなので、下着を見せるような展開は考えていないだろうけど。でも万が一、という悩みが藤村にあったりするのかな。

しかし藤村の悪い方の予想通り、英二は見る配信作品を堪能するだけで、恋人らしい時間を持たない。そして この日は ずっと天候が不安定で、下校時に見舞われたような荒天が今後も予想されるため、英二は藤村のために彼女を早く帰すことを考える。
けれどキスという目標のある藤村はデートに固執。そこから恥ずかしくて本音を言えない藤村は英二の口喧嘩をしてしまう。まるで交際前の、2人の関係に名前が付けられなかった頃と変わらない態度である。
だが2人は既に恋人。それに藤村はヒロインルートに入っているので、落ち込み後にはフォローする展開が待っている。どちらかと言えば初交際の英二の方が恋愛初心者。そして彼は「かっこつけ」だし、稀代の嘘つきなのだ(笑) だから欲望を表情や態度に出したりしない。藤村とキスを狙っていたのは英二も同じ。保健室のキスは互いの意識が近づき合った無意識のものだったが、今回は意識して行う初めてのキス。だからこそ緊張していたし、ちゃんと気持ちや環境を整えたいと思っていた。そういう情けない部分も洗いざらい話せるのが、友達以上恋人未満の時間が長かった2人だからかもしれない。相手の性格が分かっているから、かっこつけたり、意地を張るだけじゃなく、相手に本音を言い合える安心感が生まれている。出会いから本音で言い合ってきた2人の関係は「本物」なのだ。

かっこつけ で嘘つきな(笑)英二の特徴をフル稼働させれば、欲望も緊張も上手に隠せる。

2学期の期末テストも終わり、クリスマス直前。
クリスマスは基本的には久々の太一回。太一はクリスマスにライブに出演する。そして今回のライブは夏休み前と違って池澤を自分で誘う強さを見せる。これまで池澤を中心に、英二や藤村など様々な恋愛模様を見守ってきた太一が、最後に動くようだ。

だが太一が池澤を誘うと、その日 池澤は先約があるという。失恋した池澤に胸を貸して以降、太一は彼女との距離が近くなっていたと思い上がっていたから余計にショックを受ける。諦めきれない太一が「先約」の詳細を聞き出そうとするが、池澤はプライベートなので、と一線を引いて回答を拒絶する。

実は太一は池澤がライブに来てくれた時のために曲を用意していた。バンドメンバーを巻き込んで準備していたのに それが無駄になってしまったので落ち込みは倍増する。

英二もクリスマスデートプランを考えていた。彼のプランは藤村と太一のライブだけ見て、その後にイルミネーションを見に行くというもの。そしてプレゼント交換をする。悩むことも多いけど、その悩みも幸せなもの。藤村への告白の時と同様、自由に悩める喜びを英二は感じているだろう。だが英二がプレゼントを購入した直後、藤村のバイトのシフトが変更になり、クリスマスデートはキャンセルとなってしまう。どうする男たち??


澤の先約は図書委員会の先輩との作家のサイン会&トークショーに一緒に行くこと。実は その先輩から池澤は告白されており、気持ちに応えられないと返事はしたものの、予定がないならサイン会には一緒に行こうと誘われたのだった。この先輩は池澤のために招待券を入手していたのだろうか。

恋を経験した池澤は先輩の勇気も失望も理解できるから、彼の誘いを無下に断れなかった。そして その先輩との行動を太一に誤解されたくなくて彼に真実を話せなかった。先約を優先するとか、太一には言えないとか、融通が利かなくて、不器用な池澤らしい行動である。
さらに池澤の行動の根底には、次は行くと約束していた太一のライブを告知ポスターで知ったという落胆があった。太一が自分を誘ってくれなかったという事実に池澤は拗(す)ねていた。池澤は期待していたのだ。これは中学時代の英二が、直彦と好きな人が出来たら報告するという約束が守られなかったことから始まった こじらせ に似ている気がする。

英二との会話で自分の「本物」の気持ちと向き合った池澤は、先輩に謝罪して本当は行きたいライブを優先すると決意した。
すると その会話を盗み聞きしていた藤村が顔を出し、サイン会とライブの2本立てを池澤に提案する。池澤は違う男を掛け持ちすることに抵抗を覚えるが、藤村はサイン会に英二を貸し出すとアイデアを捻出する。そうすればサイン会は図書委員での団体行動になるし、約束も果たせる。そして太一の誘いも受けたことになる(ちなみに招待券のない英二にはサインを貰う権利は ないのだろう)。これは池澤の中で いい落としどころだったみたいだ。そして藤村が かつて英二を好きだった池澤に恋人を貸し出せるのも、彼への愛を確信しているからだろう。信頼感ゆえの行動である。そして自分の恋愛を助けてくれた池澤の恩返しの意味もあるだろう。

池澤は自分の面倒くさい性格を改めて痛感しながら、そんな自分を見守ってくれていた太一の存在を実感する。また先輩の存在は池澤が無意識で誰に惹かれているかという面を強調している。これは英二における池澤の告白と同じ構造だろう。異性に好きと言われたから なびくのではなく、告白に全く動じないことで、では自分が好感を抱いているのは誰かを見つめ直す機会となっている。

だから池澤は自分から太一にライブのチケットを貰いに行く。やっぱり行きたいという池澤の言葉は太一にとって無情の喜びだろう。そこで池澤は「先約」の件も正直に話す。太一に少しでも誤解されたくないのだろう。


してクリスマスイブ当日。泉と直彦は それぞれの時間を楽しみ、英二と池澤は予定通り先輩と書店へ行った後、ライブ会場へと向かう。その4人で出番前の太一のいる楽屋を訪ねる。そこで池澤の姿を認めた太一は、自分がライブ中に池澤のことを呼ぶが、話を聞いて返事をして欲しいと池澤に話す。何の話か察した池澤は「返事は期待してもいい」と太一に告げる。

その模様は直接 描かれないが、ライブ後、英二は藤村のバイト先まで彼女を迎えに行き、ライブで起こった事の顛末を藤村に話す。そんなライブ会場の幸せな空気に触れたで英二は藤村に会いたくなったという。そして特別に帰りが遅くなって良い藤村と一緒に夜の街を歩く。予定通りにいかなくてもイルミネーションがなくても、藤村と一緒にいることが特別。

そして英二は藤村に会えた時のためにプレゼントを持ち歩いていた。それは左手の薬指の指輪。英二は重すぎると思いつつも、それを贈った。藤村は愛されたがりな一面があるから、少々重たい愛も品物も喜ぶに決まっている。紆余曲折があった この恋は永遠になる。