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少女漫画と小説の感想ブログです

あの日 俺の涙に気づかなかった お前が、今日は涙の気配に気づいてくれて嬉しかった。

恋を知らない僕たちは 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
水野 美波(みずの みなみ)
恋を知らない僕たちは(こいをしらないぼくたちは)
第08巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

泉と小春、瑞穂の3人はお互いの気持ちを明かし、本音をぶつけ合う。また、英二も泉を誘い海へ行き、秘めていた想いを告げる。それぞれが新たな一歩を踏み出すとき、恋は次のステージへ…!?

簡潔完結感想文

  • 『8巻』のテーマは喧嘩するほど仲が良い。本音を言い合える「本物」の関係。
  • 気温の低下と共に3人の関係に隙間風が吹いた2年前と違い、今年の冬は大丈夫。
  • 男性トラブルの絶えない恋愛体質の藤村。ここから真の友情と愛情が試される!?

恋を知った僕たちは いつでも次の恋に歩き出せる、の 8巻。

本書は第三部に入ったと言える。第一部では英二(えいじ)と藤村(ふじむら)が偽装カップルになる様子と、彼らが泉(いずみ)と直彦(なおひこ)の破局工作に動いた様子を描いた。だが泉たちの愛のパワーに悪者は退散させられ、偽装交際を終了したのが第二部の始まりとなる『5巻』。そこから英二たちは自分たちが前に進むためには過去の、宙ぶらりんになった気持ちとの決別が不可欠であると分かる。特に英二にとっては恋愛のトラウマと向き合い、それを乗り越える大事なパートで少女漫画的には力の入る内容である。そのため ここ1巻以上を消費して英二が灰色の日々から再び充足感を覚えるまでを丁寧に描いていく。失恋、そして そこに至るまでの未熟な自分を認めるのは辛いだろうが、過去を乗り越えることで英二は着実に成長した。作品内における低気圧だった英二だが、彼の「本物」の笑顔を見るだけで読者の心は晴れ渡っていく。

恋を終わらせる儀式が終了した『8巻』中盤からが、最終となる第三部なのではないか。高校生活開始から半年ほど経過しているが、ここからが英二にとって本物の青春の始まりで、彼は この日々の中で何を発見していくのか、何が大事なのかを見つめ直していくのだろう。少女漫画なので おそらく その中に恋愛要素も含まれると思われる。
高校からの同級生・池澤(いけざわ)や太一(たいち)、そして読者にとっても『8巻』後半からの英二が本当の英二の性格と表情であり、彼と改めて出会い直すこととなる。これまで散々 こじらせて 匂わせてきた英二だが、ここからストレートに感情を表現できる影と険のない英二が生まれる。

新生した英二は もう宿題だって委員会だって忘れない。自分に胸を張れる自分になれたから。

少々 踏み込んだ感想になるが、英二視点からすると残されたヒロイン候補2人、藤村と池澤の どちらを選ぶかという結末が見どころだろう。ただ群像劇として それぞれの立場や感情を平等に考えると池澤はともかく藤村の恋の相手候補は もう1人しか残っていないように思う。

『8巻』ラストで藤村が苛立ちを隠せないのは、新たなトラブルに直面する自分を中心に考えてくれず、他の女性の名前を出して助けようとすることが藤村には許せないのだ。そういう微妙な乙女心を分かってくれないから苛立ちを覚える。直接的に比べる訳じゃないだろうけど、こういう時 直彦なら藤村を救ってくれるし、元カレ先輩なら表面上であれ優しさを見せただろう。それに比べると やっぱり「頼りない」のだ。ここで良いところを見せてよ、という藤村の(勝手な)期待に応えてくれないから2人は言い争いになり、喧嘩が始まる。その乙女心の揺れをあんまりモテない あの人に早く分かって欲しいものだ。


のように『8巻』は喧嘩シーンばかりが続く。でも それは以前のような湿っぽさはなく、関係性が良好だから言いたいことを言っているように見える。英二と藤村が過去に向き合うの話し合いの中で、その人との関係の中に遠慮も嘘も無くなって「本物」の感情だけが残った。これは友情の合図と言えるだろう。

だから どの喧嘩シーンも過去との違いが鮮明になって、とても良いシーンに見える。英二と直彦(と泉)の関係性なら、彼らの間に隙間風が吹いた あの2年前の冬から ようやく季節が動き出した。そして英二は苦しい恋愛感情に振り回されなかった中2の2学期までの心地良さを取り戻している。きっと2年前の ちょうど この季節から彼らの友情は英二の中で嘘になってしまった。それが この日から動き出したことに嬉しさを覚えた。

それは泉と藤村の関係でも同じ。2学期に転校してきてから嘘の友情を築いてきた2人だが、この日から改めて友情を構築しようと歩み寄る。まだまだ遠慮もあって何もかも頼れる訳じゃないけど、藤村の新たなトラブルを通して2人は適切な距離感を見つめ直す予感がする。

泉と直彦の恋愛は2年前から安定しているから問題がない訳じゃなく、彼らも人間関係に悩み、そして衝突しながら新しい関係を模索している。ある意味で英二が こじらせてくれたから、作中で直彦たちも成長できていると言えよう。群像劇の6人が それぞれに悩みを抱え、成長していくから本書は面白い。友情の構築さえも一癖ある展開が待っていた。まぁ 英二も藤村も圧倒的な聖人君子とヒロインである2人に、まるで親が子を慈しむように、許容されているような気もしないでもないが…。


二と直彦の真の友情が結ばれ、直彦が泉を呼びに行った際、泉たち女性キャラ3人は廊下に集まっていた。この話を直彦と太一が傍聞きするのは、彼ら群像劇の6人全員が均質に情報を得るためであろう。特に直彦は英二からは聞けなかった話を ここで補完している。

藤村が泉を呼んだのは謝罪と懺悔のため。そして池澤は泉に聞きたいことがあるだろうと藤村が誘った。ここで池澤という第三者を用意したのは藤村の心細さもあったようだ。

池澤は、自分が知りたい英二の過去を知る泉に昔の写真を見せてもらう。池澤にとって どうしても埋まらなかったピースが少しずつ埋まっていく。泉にとって英二は昔から一番 仲の良い友達。しかし その態度が英二を苦しめていたのも事実。もちろん池澤は一方的な情報の入手だけじゃなく、フェアに自分の行動の動機と英二との顛末を話す。

知りたい情報を池澤が得た後は藤村のターン。藤村は泉にも偽装交際について、その動機を含めて話す。それはつまり藤村が直彦を好きで、この学校で泉の初めての友達となった藤村とは ずっとライバル関係にあるということだった。ここで藤村は直彦への好意をハッキリと口にしている。それを聞いた直彦は驚きの表情を見せる。泉の無自覚なヒロイン性が英二に好意を芽生えさせたように、直彦の優しさは女性を勘違いさせる。泉と直彦は、天下無敵の少女漫画カップルだが、まぁまぁ迷惑な存在である…。

藤村は自分の計画が上手くいかなかったこと、直彦と泉の正しさに恥ずかしさを覚えたこと、泉を逆恨みして酷いことを言ったことを全て謝罪する。それを聞き、やはり圧倒的ヒロインの泉は自分の鈍感さも原因だと藤村を擁護しつつ、改めて友達になることを提案する。そういう正しさは藤村にとって羨ましくも妬ましい部分。彼女の こういう善性に直彦は惚れた。
そこから2人は再び駅構内のように言い争いに発展するが、本心を言い合える仲は これまでよりも圧倒的に正しい。この場に池澤がいるのはヒートアップする2人に冷静さを取り戻させるためにも必要だったのだろう。でなければ結構 意地を張る2人だから喧嘩別れしていたかもしれない。


一段落ついた後、この日 藤村は1人で帰る。明日は泉と帰る約束を交わして。この場面すごく良い。そんな藤村を直彦が追い、泉は英二のいる教室に向かう。いよいよ2人に恋愛的な終局が始まる。

直彦に声を掛けられ一緒に帰ろうと言われても、藤村は彼を避け続ける。ここで直彦が藤村を足止めする爆弾発言のために『7巻』の仰天行動が必要だったのだろうか(笑)
藤村が直彦を避けるのは、今 慰められると直彦に惹かれる これまでのループに陥ることが分かっているから。でも一度 直彦の顔を見ると感情が溢れ出してしまう。だから言わないつもりだった告白をして藤村は この恋をちゃんと終わらせた。衝動に駆られた告白だったが、英二の言葉が少なからず影響しているようにも見える。

直彦は この日ぐらい藤村に寄り添って話を聞いてもいい気がするが、藤村との対話が手短に終わるのは彼が英二の暴走を監視したい気持ちがあるからか。


二は泉を海に誘う。
海に着いた時に直彦から連絡が入り、泉と一緒に海にいることを怒る。それは人の目の届かないところでという彼の怒りなのだろうが、そういう怒りを直接 英二にぶつけられること自体が仲直り、いや これまでとは違う2人の関係性だと思う。

泉は英二に ずっと小学校での出会いの頃のままでいて欲しかった。最高の友達としていて欲しかった。だから英二は恋をしない、という自分の願望を押し付けていた。それが彼女の過ち。
そして英二も直彦を含めた心地良い関係を優先したことで、泉への気持ちが宙ぶらりんになり、何も出来なかった自分の苦しさが増す日々の中を生きてきた。そこから脱出するには、心地良い関係ではなく、男女として2人が初めて向き合うことが必要。英二は小学校時代の最初の泉の転校の時から言えなかった想いを初めて彼女に真正面から伝える。

そして泉も それを正面で受け止める。それは英二の「本物」の気持ちだから。それに応えるため泉も誠心誠意、「本物」の感謝を英二に伝える。


岸に辿り着いていた直彦は その様子を見届け、一度は踵(きびす)を返したかのように見えた。しかし英二が海に入ると、足蹴りして、海に沈め、彼の殺害を図る(笑) やっぱり泉との交際において英二は邪魔らしい。

当然、怒りを覚える英二だが、言い合いをする2人の姿は まるで中学時代の一時期のようで泉は安堵から大笑いする。きっと2年前の、本格的に寒くなる前の この時期まで、恋愛を抜きにした心地良い関係だったのだろう。そこから2年、こじれた関係になってしまったが、3年目の冬を迎える前に、3人は3人の関係の正しい姿に辿り着いた。

そんな泉の笑顔を見て、英二も久方ぶりに屈託なく笑う。もう彼の顔に険は消えている。その笑顔を見て直彦も安心した表情を見せる。3人が3人とも充足を感じる、そういう日が戻って来た。

ちなみに直彦が英二を海に沈めたのは、単純な嫉妬だけじゃなく、失恋と恋の終わりに辿り着いた英二の涙を泉から誤魔化してあげようという男同士の友情が根底にあった。そんな直彦の優しさを英二は今なら前向きに受け止められる。
卒業式の日は中途半端で何も出来なかった自分に英二は涙を流し、勝ち組である直彦は そんな英二の心境なんて気がつかなかった。だが この日は男同士の友情の成果か、ナイーブな英二の心の動きに直彦は気づく。英二が泉に涙を見せないように背を向けて、海に入ったのを見て、その涙を海水で洗い流してあげようという気配りを見せる。決して海に沈める殺害目的ではない。直前の呪いと同じく、英二を驚かせて しんみりした感情を引っ込めさせてしまった。実は直彦って大胆だし大雑把な気がする。

泉に涙を見せたくない「かっこつけ」の英二の名誉を守るため、涙を忘れるほどの衝撃を。

朝、英二は藤村と会い、お互いに告白と恋の終わりを通過したことを報告し合う。これで平穏な日々が始まるかと思いきや、藤村にトラブルの予感がする。どうやら藤村は癖の強い男と巡り合う運命らしい。

そして英二は何に対しても本気にならないことで自分を守ってきたテキトーの仮面を剥がす。だから ちゃんと宿題もやってくるような男になって、ノートを回収する池澤に渡す。高校時代の彼しかしらない池澤は英二の変化だと感じるが、元は英二も そこそこ真面目な男なのだろう。これから池澤が見る英二こそ本物の彼の姿である。実際、英二は素直で嫌味のない表情を見せている。

その姿を見たからか池澤は英二にオススメの本を渡す。英二の好みのジャンルとは離れているが、苦悩から脱却した英二は久々に本に集中できる環境が整っている。これで池澤から渡される本は2冊目だ。特に今回は池澤から直接、しかも畑違いの本だと分かっていながら英二は受け取った。それもまた英二の変化のような気がする。視野と世界が広がり、それは彼の伸びしろになるだろう。きっと内面が豊かな人になれる気がする。


係性が変わったのは泉と藤村も同じ。これから真の友情を育もうとする2人だが、その間にクラスメイトの杉(すぎ)が入り込む。彼は藤村に告白して以降、彼女のそばを離れたがらない。そんな藤村の事情を泉が聞けるようになったのも、恋愛問題に決着がついたからである。これまでは表層的な仲の良さでしかなかった。

藤村は さすがに しばらく恋愛から距離を置きたくて、杉にも それを伝えているのだが、彼は無視。元々クラスの人気者で爽やかなのに無自覚に粘着質な人間らしい。でも藤村が他の人といると「良い人」アピールのために その場を離れる。そんな杉の特性を利用して、泉は藤村と出来る限り一緒に行動することを提案する。これで友情の構築も急ぎ足で出来るようになるのだろう。

しかし放課後、藤村は泉から少し離れた隙に杉に遭遇してしまう。トイレを理由に彼を退散させるが、玄関で待つと杉は予告する。帰れなくなった藤村。その様子を見ていたのは英二で、藤村は図書館に行くという英二に匿(かくま)ってもらうと懇願。躊躇する英二の手を引き、図書室に向かおうとする。藤村の、男子に対する気軽なスキンシップが勘違いを助長させるというのは英二の見解だったが、そんな2人の様子を戻って来た杉に発見される。嫉妬の炎を燃やす杉に、英二は元カレだからOKと発表し、英二をトラブルに巻き込む。しかも英二に杉の対応を任せ、自分は この場から退散する藤村。さすが英二を手駒として扱っていた黒幕女である。


の自分勝手な論理を聞かされ英二も逃亡。避難先は図書室。だが そこには藤村も潜り込んでいた。同じクラスの太一を通してカウンターの中に入れてもらっていた。

杉の生態を知って英二は藤村に同情し始める。そこで英二が提案するのは偽装交際。ただし てっきり英二との偽装交際かと思ったが、英二は杉の、藤村の付き合う男のランクを見定めて突撃 or 撤退の決断をする特性を利用して、学年で評判のイケメン男子生徒との偽装交際を提案したのだった。英二の、杉を圧倒できるビジュアルや雰囲気じゃないという自己分析か。

藤村が それについての賛否を表明する前に杉が図書室に襲来。英二を問い詰めるが、同じクラスの太一の顔を見て素直に退散する。これは太一が杉の困りごとを解決した過去があり、そこから杉は太一に頭が上がらないらしい。

そこで藤村は太一との偽装交際を要望する。だが太一は偽装でも そういうことはしたくないらしい。顔に出るという言い訳をしているが、太一にとって池澤以外の女性と偽装でも交際するのは不本意なのだろう。そんな太一の心境を推理した英二は、切羽詰まった藤村を見て自分との偽装交際の再会を提案しようとする。

だが その前に太一が藤村に、偽装交際は出来ないけど避難場所の提供なら協力できると申し出る。避難場所は軽音部の部室(音楽室)。ここで太一の提案が優先されるのは、作中の再放送を避ける意味もあるだろう。読者としても英二の次の一手は「本物」であってほしい。


村の問題が解決した後、英二は太一に恋愛問題の結果を報告する。太一にとっても英二の笑顔は喜ばしいが、英二がフリーになると池澤との交際が現実味を帯びて苦しい一面もあるのではないか。

早速、藤村は軽音部に避難を開始し、逆に泉は ぼっち になってしまう。そこで直彦と そして英二と学食で一緒に お昼を食べる。こういう場面を見ると いよいよ3人が戻って来たなぁと嬉しくなる。1週間前の英二なら絶対に こんなこと出来なかっただろう。恋愛面抜きにしても、泉の英二と直彦の信頼度の違いは可哀想になるが(笑)

どうやら杉に下位存在だと思われているから英二も彼に対し苦手意識を持ち、出来るだけ接触しないように気を回し疲弊する。英二にしてみれば藤村は隙が多い。それを藤村に指摘すると喧嘩になってしまう2人。でも この喧嘩は藤村が一方的に苛立っているように見える。