《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒット作を予感した講談社が 抱合わせ商法で通常より早いペースでの刊行を敢行。

POWER!!(2) (別冊フレンドコミックス)
清野 静流(せいの しずる)
POWER!!(パワー!!)
第02巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

“男”だってウソついて、男子高校生と同居するのは無理がある――!? なにかとケンカの絶えない香(きょう)と千晴(ちはる)。けれど、ようやく友情らしきものが芽生え始めたはずだったのに……、大事件発生!! 千晴がつまずいて、香のムネを掴(つか)んじゃった!! もう女だってバレちゃうの~!?/清野の大人気シリーズ「嘘つきな彼女」の七海と恩田の“その後”を描いた「嘘つきな彼女―バージン危機一髪!?の巻―」、ほか1編を同時収録!!

簡潔完結感想文

  • 読みたくもない短編が半分を占拠する事案は消費者庁に連絡すればいいの?
  • 女バレしないために女を捨てるヒロイン。早くも女バレ危機しかネタがない!?
  • 収録作の共通点は二重生活。作者の生涯のテーマなのか、発想の限界なのか。

がて千晴も女性の姿の香に違和感を抱くのか? の 2巻。

本書の半分は別物で出来ている。

どこかで見たような設定で始まった本書だが、どうやら人気を獲得したので出版社側は この人気に乗じるために刊行ペースを早めようとしたらしい(全て推測)。そこで通常は4話収録のところを収録を2話にして読切と抱き合わせることにした。なので本書の半分は読者が望まない作品が入っている。
一応、読切が2本収録されていることは表紙に明記されているが、ネットが未成熟だった2000年の読者は内容の割合なんて簡単には分からない。だから いつもと同じ値段を払ってから自分が なかば詐欺に遭ったことを知ったのだろう。商魂たくましいというか、阿漕というか。今のように1話単位で購入が可能なら多くの人が不要な出費を抑えられただろうに…。

こういう収録形態のため『2巻』の評価は低いものの、内容は結構 楽しめた。というのも本編と読切2作には共通点があるからだ。それが「二重生活」。本編の香(きょう)が寮で同室の千晴(ちはる)をはじめ全生徒に男装している女性であることを隠しているように、「チェンジ!」ではメイクによって美貌を手に入れたことを隠しているヒロインが主人公で、「嘘つきな彼女」は本編とは逆で男性であることを隠しながら美少女モデルをしている人物がヒーローだった。
これは作者の好きなテーマなのだろうか。それとも太古の昔から設定が命の別冊フレンドに採用されるために意向に沿って考案したのだろうか。

どんな姿をしても その人はその人なのか、それとも愛したのは その姿の その人なのか。

そういう共通点もあるため、意外にも楽しめて元は取れたと思えた。
そして二重生活から交際に発展したカップルを描いた「嘘つきな彼女」から香と千晴の交際が想像された。千晴は香が女性だとは知らないまま、「男」である香にドキドキしてしまう自分に戸惑っている。これは香が女性であるから問題はないのだが、千晴が好意を抱くのは男性として行動をする香で、もし香が女性として目の前に現れたら千晴は彼女に違和感を覚えないのかが心配である。「嘘つき~」のヒロインは憧れの美少女モデルの彼が好きで、女装している方が安心感を覚えていた。それと同じように千晴も、友情の延長線上での香との付き合いの方が楽なのではないかと、彼らの将来を心配してしまう。一応、設定としては部活か恋愛かの二択で前者を選んだ千晴である。急に香が女性だと分かって好意を抱かれても、女性との交際をする気になるのだろうかと今後の千晴の行動を危惧してしまう。表面上は男同士の方が気楽でよかった、とか千晴が思わないか「嘘つき~」を読んで心配になった。


晴からサラシを巻いていない胸を触られるという一大危機に晒される香。こうして香は女バレに悩み、千晴は香との接触でドキドキする自分に悩む。そして千晴の言動がおかしいことが香を悩みを深くさせる。

そこで香が考えた女バレ回避のアイデアは「エロエロ大魔王」になること。恥を忍んで性欲に支配された人格を演じることで千晴の疑念を払拭させようと目論む。もう この辺から一般的な男装漫画とは一線を画すネタとギャグに走った方向性が見えている。
でも香の悩みが深くなると、そもそも本書は何の目的のために男装生活をしているのか、という動機の面が弱点が露呈する。ここまで香が心身を摩耗させる意味はなく、大袈裟に言えば与えられた性や自分の望む性を選ぶ権利がないという父親からの虐待に思えてきて作品を楽しめない。

やがて千晴は香が無理をしてエロキャラを演じていることを見抜く。それは千晴にとって香という人格が彼の中にいて、それとの齟齬が違和感になっているのだろう。
だが そういう気遣いが上手く届かないのが不器用な2人。千晴の優しさにも香は嘘がバレたくないから強い口調で返答してしまい言い争いになっていく。その まどろっこしさが嫌で香は服を脱いで真実を晒そうとする。またも ここで回を跨ぐ。胸疑惑で始まり胸で終わる1話である。

女である自分が女だと思われないためには女を捨てればいい。人間やめちゃってるけど。

サラシで巻いた胸を千晴に見せるが、優しい千晴は彼が何かを隠そうとするなら その詮索はしないと決める。明らかにおかしい香の胸部の形だが、それを無視して千晴は去っていく。連載の人気が出て女バレするにはタイミングが早すぎるからだろう。

いつの間にか作中はバレンタインの季節で、香は望んでいない女子生徒からのチョコに悩む。本来なら自分が誰かにチョコを あげる日。香の中に浮かぶチョコを あげる候補者は千晴だった。彼は口調は乱暴だけど心根は優しいことを香は既に知っている。

恋の悩みがあるとバスケに身が入らないのは どちらも同じ。今回は『1巻』とは逆に香の悩みを解決するために千晴が動いてくれる(部活の活動中だけどね…)。そして悩みはバスケをして吹き飛ばすのも2人の共通する手法だった。『1巻』で千晴が部活か恋愛かを選んだように、今回 香は自分が誰を好きかをバスケを通して明確にした。


「チェンジ!」…
ぶ厚いメガネを捨て、化粧をすることで高校デビューを果たした華(はな)。男性にちやほやされる生活を謳歌する華の前に、理想とは違うヤンキーのクラスメイト・小泉(こいずみ)が婚約者として名乗りを上げる。ピンチを助けてはくれるが優しくしてくれない小泉に華は…。

この読切も ある意味で二重生活である。本当の自分を隠して偽りの生活を送る華。そんな彼女の表面上の魅力ではなく根底にある心に触れるのが小泉だった。本編や他の作品でもそうだけど、作者の作品はヒーローの度量が大きい。素行が乱暴だったり見た目が怖くても、その心は清純(時にはヒロインよりも)。そのヒーローの二面性も面白いところなのだが、長編作品となると作品を支えられるだけの力が無くて、別のイケメンの登場を許してしまう、という欠点がある。この話の小泉も もし長編化したら物分かりが良すぎて物足りないのだろう。

「おまけページ」によると編集様によってセリフの改変が多々あったようである。これは作者の作業の遅れで生じた事態で一方的に編集側が悪いわけではなさそうだ。それでも作者は心残りが生じたようだが、作者のことを信用していない私は、むしろ編集側の改変によってテーマが浮かび上がったのではないか、とか思ってしまうが。作者が本来 考えていた作品と読み比べてみたいものだ。


「嘘つきな彼女ーバージン危機一髪!?の巻ー」…
美少女モデル「セリカ」は本当は男。そんな恩田 樹(おんだ いつき)と交際を始めた七海(ななみ)だったが、彼との交際には問題が多くて…。

(過去作で いちばん売れなかった)作品の続編で いよいよ本編を目当てにしている読者には知らんがなの世界である。ただし この話も二重生活で全体的な統一性はある。樹は二重どころか三重の顔があって、七海は その内の1つが気に入らないのだろう。好きなのは憧れのセリカとして行動する樹。「彼女」になら どんなことをされてもドキドキする。絵面は完全に百合・GLである。そして もう一つ好きなのが、等身大の樹。ただの同級生としての彼ならば気楽に過ごせる。

苦手なのは色気を出した樹なのだろう。自分がセリカであることを鼻にかけ、モテることを意識している彼や、すぐに性的な行動に出ようとする彼が七海は苦手。それは七海自身の性的な行動への不安や恐怖もあるだろう。ちょっと強引な異性としての樹は七海には理解が出来ない人格で怖さと距離を感じる。それを上手く中和するのがセリカという存在なのだろう。特殊な恋愛の始まり(だと思われる)をしたからこそ、上手く心が整理されていないように感じられる。