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藤原くん こそスピンオフが だいたい正しい認識。だから藤原のくせに調子に乗るな!

岩田のくせに調子に乗るな! (フラワーコミックス)
ヒナチなお
岩田のくせに調子に乗るな!(いわたのくせにちょうしにのるな!)
第XX巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

今世紀最大のバカップルが贈る、恋物語♪ こんな男がかっこよく見えるんだから、恋ってどーしようもない。「中学の時から仲が良すぎて、今更好きだなんて言い出せない―――」そんな想いで絶賛岩田(いわた)に片想い中の明宮(あけみや)。だけど、高校に入ってモテ男子・藤原(ふじわら)と白滝(しろたき)と仲良くなったせいで、岩田が調子こきだした!!可愛い子に囲まれて、自分もモテるって勘違いして、デレデレしちゃって…。そんな顔を見ていると、ム、カ、ツ、ク!!好きなのに→ムカつく→憎まれ口きいちゃう→進展見込みなし…。この恋の無限ループを脱出できるの!!? 「藤原くんはだいたい正しい」の大人気脇キャラ岩田と明宮が贈る、キュンとしてあったかくて笑えて泣ける――。大人気スピンオフシリーズ、待望のコミックス化♪

簡潔完結感想文

  • 学校トップ2の おまけ だった岩田が堂々の主役。というか岩田がトップ2の母??
  • おバカでも間違っても彼女のピンチに正しく動ける岩田は世界で一番 格好いい。
  • クリスマスプレゼントへの暴言に謝罪はなく、本編同様で女性にとって理想世界。

ピンオフ作品でも藤原くんはだいたい正しい。

といっても藤原(ふじわら)という存在が世間に初めて発表されたのは この岩田(いわた)作品集の1作目で どちらかというと本編『藤原くんはだいたい正しい』の方が後発で派生作品だったりする。本編で長らく生徒会から姿を消していた岩田だったが、それは こちらの作品集収録の短編に出張していたからだった。

本編が学校の王子に愛され続ける理想的な作品ならば、本書は自分にとって格好いいと思える普通の男性に愛される普遍的な作品である。本書は そんな普通の男女が交際に至るまでの話から1年間の交際の模様を描く。

岩田は、高校入学後に知り合った藤原と白滝(しろたき)という学校トップ2と一緒に行動することで その恩恵に与っていた。実質 人気投票だった生徒会選挙で選ばれた3人の中に入っているから知名度は高いのだろう。しかし あまり人に興味のなさそうな藤原と白滝が どうして岩田のような人間と仲良くなったのかは描かれない。本編同様、友情とは既に完成しているものらしい…。折角のスピンオフ作品なので この辺のヒツジ登場以前の秘話みたいなものも読んでみたかった。全部が岩田の恋愛譚なのは惜しい。読切だった1編目はともかく、本編の人気でスピンオフになったのなら、本編の世界を掘り下げるような話も作って欲しかった。そうすれば本編の読者たちも喜んだであろう。また本編では描けないような肉体関係を描くなど内容的にも挑戦と冒険をして欲しかった。

自分だけが知っている岩田の良いところを 他の人に知られてしまう焦りが明宮を動かす。

編のヒロイン・ヒツジは そのトップ2に愛される形になるが、本書のヒロイン・明宮(あけみや)は高校でトップ2に出会う前の中学時代から岩田を好きなので、彼女にとっては岩田こそ世界で一番という「恋は盲目」が見られる。

岩田の格好悪くても格好良いというバランスが秀逸。岩田だけでなく明宮も時に間違った言動をするのだが、彼らの根底にあるのは相手を大好きだという心。いつでも相手のことを最優先に出来るから間違った後の仲直りが早い。
そして岩田は明宮にとって間違いなくヒーローだということも繰り返し描かれていた。明宮の身体的・精神的なピンチに駆けつけ、その苦しみや悲しみから彼女を救う岩田は とても頼りになる。

見た目やステータスという価値から脱却し、自分にとって一番 素敵だと思える人と一生懸命な恋をしている姿は多くの読者から共感を得るのではないか。


角 岩田は良いキャラをしているのだから、スピンオフに追放状態にせず、本編でも活躍して欲しかった。狂言回しとしてヒツジの恋愛を応援しているようで邪魔して余計にヒツジが傷ついてしまうような お節介をしてしまう という立ち位置も面白かったのではないか。

岩田という人を本編で上手く使えば もっとコメディ色が強い作品になったのではないか。本編の感想でも書いたが、初期の登場人物が役目を終えると作品から撤退していくような狭い世界の話ではなく、同時に様々な人の思惑が重なって物語が動いていく話が読みたい。
良くも悪くも恋愛特化になってしまいがちな作品を救うのは作者が岩田のような人を上手に動かせることが大事なのではないか。


「VOL.1」…
明宮と岩田が2人が両想いになるまでを描く読切短編。時期は高校1年生の年末の話だから、高校2年生になって登場したヒツジは物語に顔を出さない。

中学時代から岩田のことが好きだった明宮。だが高校入学後に岩田が藤原と白滝という2トップと仲良くなったため、彼らの人気の恩恵に与っているように明宮には見えて腹立たしい。それは明宮の、他の女子生徒に岩田の恰好良さに気づいて欲しくないという独占欲なのかもしれない。
ラストは岩田が明宮の「好きな人」のために動き、そこから大逆転となる。そう行動できる岩田の心の美しさが良かった。

誰が見ても気づく明宮の好意を岩田だけが気づかない。この時の藤原は まだトラウマを有していた時期だけど、恋愛問題に疎い訳ではなく明宮の恋心に気づき助言をしている。ってか白滝の外見もだけど、藤原が岩田の女性の好みを知っていることも本編読者からすると違和感がある。

「VOL.2」…
年末に交際が始まり、初のバレンタインではキスを試みようとする岩田。だが岩田の計画は だいたい失敗するのが お約束。岩田にとって初めての彼女と初めての交際なので、自分の計画で頭がいっぱいになり、そこに思わぬミスが重なる。そのミスの中には明宮のことを不意に傷つけることも含まれている。

自分の失敗に落ち込む岩田は藤原たちから客観的な助言と、そして自分の知らない明宮の行動を知らされる。それにしても明宮は中学が一緒でもない接点のない藤原たちに よく平気で話しかけられるなぁ。菓子の試食を頼んだりしたら周囲の女子生徒から疎まれるだろうに。本書において藤原に熱狂するモブ生徒は いるようでいない。

失敗ばかりの岩田だったが、一つだけ計画通りになったことがあったとさ。

「VOL.3」…
交際開始から半年が過ぎた頃、岩田は明宮と遠出のデートに誘う。時期的に そろそろ その先を考え始める時期で、明宮は密かに緊張していた。そこで天候悪化と終バスが行ってしまうという遠出あるある が起きる。

こうして民宿に泊まることになった2人。だが明宮は緊張から空回りして、ホタル散策に出た際に崖下に落ちてしまう。しかも その空回りを岩田に八つ当たりしてしまうが、ピンチの時は実は頼りになるのが岩田という人。こうして明宮は岩田に全てを曝け出してもいいと思えた。全体的に あるある展開と描写ばかりで、心に引っ掛かる部分が少ない。

「VOL.4」…
交際から10か月経っても岩田はずっと自分をMAXで好きでいてくれる。
そんな岩田の提案で お家デートをすることになるが、そこでの気がかりは夜。と言っても今回は夜ご飯について。岩田が自分の手料理を期待しているのではないかと明宮は気を揉む。というのも明宮は料理が大の苦手。

そして今回もピンチの時に頼りになる岩田。豪雨と落雷で、岩田の部屋の開けた窓の心配と停電が一緒に到来する。そこでも岩田は停電と雷鳴を怖がる明宮を最優先にしてくれる。
その後の料理のピンチも彼女の下手さを非難することなく、さり気なく明宮をフォローして2人で料理を完成させる。ここで岩田の料理上手設定が出てくる。本編の最終『9巻』でも手料理を振る舞っていたなぁ。

明宮は実は頼りになって自分には出来ない料理も上手い岩田を尊敬するが、その分 自分を卑下してしまう。しかし岩田は そんな部分も好きなのだ。当初 明宮が岩田の悪いところを何個並べても彼を好きだという気持ちが変わらなかったように、岩田も明宮に欠点があったとしても それで嫌いになったりしない。彼にとっては明宮という存在がパーフェクトなのだ。

ピンチの時こそ胸キュンの言動をしてくれる岩田。特に この場面の台詞は一級品。

「VOL.5」…
交際から1年過ぎると当初のトキメキは薄れ、2人は老夫婦のような関係になっていく。
そこで明宮は一度 自分が不機嫌になって気まずくさせてからの仲直りでラブラブを演出しようとする。だが加減を間違えて、岩田と本当に距離が出来てしまう。この話でヒツジが この作品内に初登場(1コマ)。それにしても明宮の発言は心が無さすぎる。

岩田が横にいてくれた日常が崩壊して大切な物に気づく明宮。そして2人が両想いになって1年の大晦日、神社で岩田と出会う。そこで最悪、破局もあると考えていた明宮に岩田は将来の約束をしてくれる。岩田はワガママとも捉えられる明宮の拗(す)ねた演技を間違って解釈していた。やっぱり岩田は、明宮の精神的なピンチを最高の形で救ってくれる彼女の一生のヒーローだった。

ラストが本編のヒツジ・藤原カップルと同じような終わり方なのが気になる。ってか こちらが先行してるんだから本編の終わり方を変えれば良かったという話である。面白くなりそうで とことん普通な話が続くのが作者の作品なのかな…。