《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

過去の失敗や憧れ続けた兄を越えるために必要なのは、俺だけに届く 君の声。

放課後、恋した。(6) (デザートコミックス)
満井 春香(みつい はるか)
放課後、恋した。(ほうかご、こいした。)
第06巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

文化祭でさらに渚への想いが深まった夏生。そんな夏生を見て桐生君が…? 部活も春高予選に向けてヒートアップ!! 試合が迫る中、渚もある決意をして…。さらに夏生の新たなライバル登場で!? 大ヒット「あたし、キスした。」の満井春香が描く、まぶしすぎる恋と放課後! みんなが本気の第6巻!

簡潔完結感想文

  • 全ての恋に決着がつけられる試合を前に、ヒロイン以外が一歩を踏み出す。
  • 3か月 誘えなかった水族館に彼女を誘えたことが、当て馬最大のラッキー!?
  • 久世が兄に憧れた試合は、兄との決別の舞台。封印された願いを開放する。

合前の緊張と恋の高鳴りが相乗効果を生む 6巻。

やっぱり初読時に感じた熱い青春は間違いじゃなかったと確認できた。ここまで再読して、ヒロインの無自覚な姫ポジションに首を傾げたし、ヒーローたちのスキンシップの多さやイケメン演出に辟易して、どこが面白いと思ったのか自分でも疑問に思うほどだった。しかし私が感じた清々しさや熱の昂りは この『6巻』から始まったのだと再確認できたので一安心した。

その面白さはやはり、一つの大きな試合に向けて、恋愛方面も大きく動き出すという連動が見られるからだろう。『6巻』では2つの告白があって、その告白の返事は試合後に約束される。また これまで過去の影があったために動けなかった久世(くぜ)も いよいよ動くことが予感される。これまでは ずっと動かないことが不満だったが、溜めていた力が一気に解放される予感が今は楽しみに変わっている。


に久世が この試合で過去を乗り越えるという部分が秀逸だと思った。久世にとって今回の試合は自分がバレーを始めるキッカケとなった試合でもある。年の離れた兄が高校バレーで輝いていたのが今回の試合で、それに魅了されて久世は兄の後を追うようにバレーを始め、のめりこんだ。ただ兄が作ってくれた道だが、兄を亡くしてからは兄が辿った道を通るだけとなった。感情を失くしてバレーを続けていた中学時代の久世だから、引退試合でのミスでの敗戦で1人だけ泣くことはなかった。だがヒロイン・夏生(かお)によって高校でもバレーを始めることになり、彼女の存在は兄に引っ張られるのではない自分を再獲得する契機となった。本気になれないから夏生に告白しない。その一方で彼女に惹かれるからスキンシップや匂わせ行動はする。そんな中途半端な自分を脱することが出来るかは今回の試合に懸かっている、という展開が素晴らしい。ようやく全てのエピソードが一つに集結してきた感じを受けた。

そして久世にとって夏生の存在が どれだけ大きいかが段々と分かってくる。どれだけ冷たく接しても自分を入部させるために頑張ってくれた夏生。初の試合でも彼女の声が届いたから久世は過去の失敗を乗り越えられた。実は誰よりも繊細に生きている久世が、今回の試合の前に何かと理由をつけて夏生に電話したのは、彼女の声が自分を一番 安定させることを知っているからだろう。

部活や恋愛を通して、それぞれが なりたかった自分を獲得していく。その成長が描かれる。

これで久世の恋心に初めて立体感が もたらされた気がする。そしてモテ男の久世が純真なヒロインを もてあそんでいるのではなく、ナイーブな彼が体当たりで挑戦する夏生に支えられているという逆転の構図が見えてきた。夏生は今回、試合を前にして何かに夢中になりたい自分になれた、と宣言する。これは彼女側の恋愛の準備が整ったということでもあるだろう。久世と桐生(きりゅう)、2人の男性に求愛され続けてきた夏生が どちらかを選ぶ日も近い。

今回で桐生も告白したし、全員が試合に向けて、心身ともに準備万端という感じが充実感を増幅させた。ただ個人的には、全体的に もう少し話の密度は濃くてもいいんじゃないか、とも思うけれど。どうも あっという間にページが進んで、1巻分としての満足度が低い(今回は良かったが)。そして桐生の恋心は もう少し深みを与えて欲しかった。ただでさえ当て馬なのに一目惚れって理由だけでは、トラウマヒーローに対抗できない。

それにしても作中のバレー選手の故障の多さが気になる。夏生の兄先生と、久世の中学の同級生の井波(いなみ)は将来を嘱望されながら怪我で選手生活を終えた人たち。そして久世の兄の渉(わたる)もまた実力が向上する途上で不帰の人となった。これは過去の挫折の上に現在の久世たちの活躍があるということなのだろうか。実際、競技に打ち込む人は怪我との戦いでもあるのだろう、でも少女漫画であるし恋愛がメインだから、作中で久世や桐生は長期離脱など出来ないから、年長者などの過去で それを表現したということか。


化祭の模擬店は部活動の中で売上1位を記録する。学校イベントにも本気になったバレー部は、その勢いのまま月末の試合に向けてギアをチェンジする。

夏生は文化祭の売り上げを見込んで新しいチームウェアを用意していた。もしかして夏生が人一倍 文化祭に打ち込んでいたのは、ウェア代の支払いが不能になる事態を回避しようとケツに火が点いた状態だったからなのか…?
文化祭当日に早くも届いた試作ウェアを まず桐生に合わせてみる夏生だったが、2人の接近を目ざとく見つけた久世は夏生を桐生から引き剥がす。その様子を見た桐生は改めて本気の戦いを宣言する。恋愛においても一段 ギアが入った気がする。ただ夏生だけが無自覚ヒロインという構図は変わらない。


の試合の抽選会会場は井波たちの高校。そこで夏生は改めて井波から話を聞き、彼女とバレーボール人生、そしてマネージャーとして関わった久世たちとの中学バレーボール部の話を聞く。井波は選手として活躍を期待していたが怪我で競技を止め、空っぽになってしまった。夏生と似たような心境だった頃、久世から声を掛けられマネージャーとして再び競技と関わることになる。それが井波に存在意義を与えて彼女は立ち直った。そこに久世の存在があったことを井波は隠さない。

抽選会に参加したのは夏生と、部員の中で一番 運が良い桐生。なので桐生は2人きりの機会に乗じて夏生を ずっと誘えなかった水族館へと誘う。抽選会直前に金券が当たった夏生じゃないが、桐生も「こんなところでラッキー使っちゃダメ」な気がする。2人きりで出掛けたのが幸福のピークになりかねない。

2人が向かった水族館内のエリアは別料金なのだけれどオープン記念で夫婦やカップルは無料だという。そこで桐生は夏生の手を取り、カップルとして入場。そして このエリアの中だけは桐生は彼氏として行動する。入場後も手を握ったり、水族館を出てからも手を離さない。
そして いよいよ桐生は夏生に自分の想いを伝える。どうやら桐生は初めて会った時から夏生が好きだったらしい。夏生と久世が互いに惹かれた瞬間は描かれていたが、その前から桐生は彼女に惹かれていたから開幕時には既に恋に落ちた状態だったようだ。特別 容姿が恵まれているわけでもない夏生を どうして好きになったのかの部分が弱い。作者も この告白のために1エピソード用意してあげればいいのに。もうちょっとずつ話の密度が高ければ もっと作品の質が良くなるのになぁ。
ただし これまで約半年間の片想いなので、桐生は結論を急がない。今回の試合の終わりまで自分を男性として意識して、答えを出して欲しいと伝える。

この3か月間ぐらい持ち歩いていたであろうチケットは、クシャクシャになっていたのでは!?

の日、久世は、最高の仲間で最大のライバルである桐生の台頭に焦りを感じ、練習に打ち込んでいた。そこに声を掛けるのは夏生の兄の部活の顧問。根を詰めすぎる久世を誘って海岸までバイクで走る。兄先生は久世が肩を少し痛めていることを見抜き、選手生命が終わる前に彼に息抜きの必要性を説く。それは自分の競技生活が怪我で終わったからだった。何だか井波と似たような話だが、抜け殻になった兄先生を先生への道に導いたのは大学で後輩部員であった久世の兄・渉の存在があったのだ。そして今は亡き渉の弟たちを率いて自分が頂点を目指そうとしている。その生きがいをくれた人への感謝もあり、兄先生は久世たち選手のことを人一倍 注意深く見つめるのだろう。

久世はバレーを通じて兄の背中を追い続けるが、兄の模倣をすることで、自分が夢中になることを恐れていた。それは夢中になることで失った時の反動が怖いから。深い悲しみを味わうなら本気にならない。そうやって線引きしてきた久世だったが、今は本気で手に入れたいものがある。だから彼は兄に導かれた道から自分の道へとシフトしていこうとしている。

しかし兄先生が久世を確保していなければ、久世は夏生と桐生を捜し出して邪魔しに入ったのではないか(笑)桐生の告白を完遂させてくれたのは兄先生の間接的な協力の お陰だろう。


2人の男性にとって次の試合が本当の自分を出す機会となる。こうして試合が意味を帯びていくのは とても良い。試合の緊張感に加えて、恋愛も緊迫感があって、いよいよ目が離せない展開となっていく。序盤~中盤のイケメン演出や夏生の姫ポジションに辟易して評価を下げようかと思ったが、やっぱり後半は良い。

夏生は桐生を意識し過ぎて彼に上手く対応できない。そんな自分のことで困っている夏生が桐生は嬉しい。何だか この反応は久世のようである。

そして意地悪ばかりだった久世は、夏生に対して素直な言葉を口にする。これも彼が変わろうとしている一端だろうか。
試合の前日、久世は井波に呼び出されて会いに行く。夏生の名前を出した井波に騙されたからでもあった。でも井波は そうしなければ久世に会えないから その手段を使ったのだろうが、そうすることで久世が来た時に必要以上に傷つくような気がする。でも今回、井波は友達としてしか認識されていない自分の立場を変えるために呼び出したのだから、多少 傷ついても目的を達成したかったのだろう。

井波は自分の好意を匂わせて、残りの言葉は試合後に言うとだけ伝えて立ち去る。これは久世にとって予想外だったのか予想の範囲内だったのか。久世は どれほど恋愛の感度があるのか気になるところ。


の夜、久世は夏生に電話を入れる。建前としては夏生が久世のカバンに こっそり入れた お守りの御礼。ちなみに お守りは部員全員分ちゃんと用意しており、直接 渡すと拒否されそうだからカバンに潜ませただけ。久世は特別扱いであって特別扱いではない。

夏生はマネージャー業を通して目標としていた夢中になれるものに出会えた自分を久世に報告する。桐生は告白を、夏生は目標を達成した試合前。続いては久世が変わる番だろう。
この日、電話してきたのは余裕な振りをしてナイーブな彼のことだから、不安を解消したかったのだろう。そのためには何が必要か分かっているから彼は「夏生の 声 聞きたかっただけ」、という心からの理由で電話したのだ。