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少女漫画と小説の感想ブログです

「きゅん…」の呪縛が不可避と知る女性は 1週間で告白。かたや10年以上 動かないヒロイン。

おとななじみ 7 (マーガレットコミックス)
中原 アヤ(なかはら あや)
おとななじみ
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

クリスマスのイルミネーションデートでときめき、ぐっと距離が縮まりはじめた楓と春。一方そのころ、同じく幼なじみの伊織と美桜にも何かあったようで…? 気持ちと言葉がうらはらな、うまくできない大人たちのときめき&爆笑満載ラブコメディ! 大進展の第7巻!!

簡潔完結感想文

  • 冬最大のイベント・クリスマスを過ごした2組の恋人ではない幼なじみたち。
  • 恋人でもないが、2人は同じ未来を過ごすという約束の上にいる不思議な現象。
  • ライバル宣言をした男性たちは結局ハルの味方に。その未練を託されハルは…。

いている恋愛に視線を誘導したところで不意打ちの告白が炸裂する 7巻。

ここにきて いきなり物語が動き出した印象を受ける。それもこれも次巻で大団円を迎えるためだろうか。

冒頭から いきなり幼なじみ仲間の美桜(みお)の伊織(いおり)への恋愛フラグが立ったかと思ったら、本書の半分以上は彼らの描写となる。これは停滞する楓(かえで)とハルの恋愛を隠すために いよいよ「友人の恋」枠を使ったのかと思っていたが、実は その裏でハルの気持ちが固まっていくという意外な展開を見せて驚いた。

ただ ここまで頑なに動かなかった2人の関係を動かすには、今回の理由では弱い気がする。2人が住むアパートの隣人・雪野(ゆきの)がキーパーソンになるのだが、雪野が楓を好きになるという安易な展開は回避されたものの、ハルの気持ちを あそこまで動かすかという疑問が生じる。これで解決するなら、今までの周囲の人たちのハルへの助言で気持ちが動かなかった理由が分からなくなる。

恋愛偏差値が低いハルには、自分と同じ状況の雪野の失敗談ぐらいしか効果が無いということなのだろうか。作中に正当な理由が見い出せないので、作者側・編集部側の理由で、作品を畳む気持ちが生まれたから、この辺で幕引きしようという適当な印象が否めない。

楓の人柄もあるんだろうが、気が付けばイケメンが自分の恋を応援してくれる、という夢展開が続く。

ハルの気持ちも分からないが、何よりも楓が自分から動かないのが残念でならない。作中で美桜が言う通り、ハルは楓なしで生きられないというのなら、楓がハルを引っ張ればいいのに、特に理由もないまま同棲生活を満喫し、動かざること山の如し の努力をしない現状維持の生き方を選んでいる。

しかも同じ幼なじみである伊織の気持ちに応えない、という悲痛な選択をしたはずなのに、彼の気持ちの上に成立する自分の恋愛を動かさないから一層 眉を顰める姿勢である。彼ら幼なじみにしてみれば15年以上 同じような状況の楓たちなのかもしれないが、満を持して動いた伊織に対して、動かないことが失礼に当たるとも考えない楓に幻滅する。
せめてハルに「騎士の呪い」が発動したように、2人が膠着状態になるような呪縛を生むエピソードが欲しかった。ベテラン作家さんの作品なのに考えなしに描いているような部分が非常に残念だ。

掲載誌「ココハナ」には女性が努力する必要がない作品が好まれるのか、と思ってしまう。初めて読んだ「ココハナ」作品、蜜野まこと さん『お迎え渋谷くん』でもヒロインの姿勢は「愛されヒロイン・いるだけヒロイン」で本当に酷かった。本書もアチラも、ヒロインの仕事の描写が中途半端で終わっていることも気になる。お仕事漫画を描くには経験や取材が足りないから、その仕事の展望が見えなくなってしまうのだろうか。

楓もハルも人としては好きだが、作品の主役として物語を牽引する力は弱かった。ハルが告白しないまま同居生活が終わる不安で動くのならば、楓なんか高校時代に慢心していたらハルが先輩女性と交際した経緯があるのだから、ハルと同居する格好の機会を得た時に告白していなければならない。話の運びが上手いからサクサクと読めるのだが、じっくり考えた時に彼らが現状維持を目指すことへの矛盾が生じる。幼なじみモノは、これまでの関係性を壊すのが怖いという不安が話が動かない理由に使われがちで、それ故に疾走感に欠ける。


桜と伊織の恋愛は、今回の表紙のような関係性になるのだろか。美桜が伊織を好きだ好きだとアピールして、伊織は無表情のままだが 満更でもない気持ちで彼女の気持ちを受け入れる。そんな「婦唱夫随」の関係性になるのだろうか。伊織は難攻不落のキャラだとは思うが、その分、彼が一度 心を許したら絶対に裏切らないことは安心材料になる。それは伊織が楓を好きな15年以上の時間が証明している。伊織と楓が交際していた過去もないし、美桜は一途に彼を想い続けられる。
この巻でも伊織が少しずつ美桜のことばかりを考えているという関係性の変化が描かれていて良い。やはり1mmでも近づいていく関係性が読みたいのだ。現状維持を目標にするヒロインたちなど間違っている。


そういえば一応は楓にとっての女性ライバルである立花(たちばな)が物語から追放されないのは、ライバルから協力者に転生したからであろうか。それともハルに告白する前に、その気持ちを天然のハルによって無邪気に折り曲げられたからだろうか。ライバルが追放されない少女漫画を久々に読んだので、ちょっと嬉しい。もしかしたら立花の精神的外傷の慰謝料分の活躍なのかもしれない。


はハルとクリスマスにイルミネーションを見て大満足の一日だったが、美桜は頭を抱えていた。

クリスマスの夜、伊織をバカにする ついでに2人で飲みに行く道すがら、美桜は元カレに遭遇する。自分以外を見下す元カレに仕事のことをバカにされ美桜も反撃するが、元カレが手を上げようとする。

それを伊織が止めた。颯爽と美桜を助けて、何事もなかったかのように振る舞う伊織を見て、美桜は生まれて初めて伊織に「きゅん…」とする。その感情に自分でも驚き、急いで否定して、忘れようと努めている美桜。
だが本書において「きゅん…」は絶対のルールで、恋愛が成就するか、きちんと振られるまで終わらないそれはハル・伊織の こじらせた片想いを見ても分かる通り。この伊織が元カレから助ける場面は、『1巻』の楓と不倫男とハルの関係に少し似てますね。美桜にとって伊織が自分の「騎士(ナイト)」になったということか。


桜はこれまで即断即決の人だった。それ故、失敗も多いのだが、それでも前に進み続けている分、幼なじみの中では一番 勇気があると言える。そんな彼女が今回ばかりは ゆっくり考えて、自分の恋心と向き合っている。きっと人生初で、そしてだからこそ、もしかしたら この恋愛は すぐには終わらないことを暗示しているのかもしれない。

…と、思ったら やっぱり美桜は取り敢えず動く人で、連絡先は伊織にブロックされているため、実際に伊織に会いに行く。

彼と話して、酔い潰れた自分を家まで送ってくれなかったことを非難する。きっと自分が楓だったら、伊織は きちんと送り届けてくれた。そんな容易な想像が今の美桜にとっては苦しいはずだ。そして美桜を女じゃない、と言い切る伊織に対し、美桜はキスをする。その後きっぱりと「好きになった」と告げ、立ち去る。

ヒロインたちが20年弱かけても出来なかったことを1週間以内で達成してしまう美桜が素敵だ。

伊織は、連絡先のブロックを解除し、美桜に説明を求めるが、彼女にとっては あの日の言動が全て。伊織が会って話そうといっても めんどくさい、と電話を切る。これは この時点で会っても色よい返事は来ないという勘が働いたからか、それとも美桜も伊織の返答が怖いのか。

美桜は有能なネイリスト故に仕事を抱え、現在の店の店長からも妬まれている。そうして仕事のストレスが溜まると伊織に会いに行くのが美桜の習性である。伊織に会って いつものように口喧嘩をする美桜だったが、過労から倒れてしまう。

倒れた美桜を伊織は介抱する。楓じゃない女性でも、ピンチの人を放っておけないほどには基本的に伊織も優しいのだ。介抱しながらも口喧嘩が始まりそうになる2人。だが顔が近づいた際、美桜が赤面するのを見て伊織も、これが美桜の冗談でも気まぐれでもないことを知り認識を改める。

目は口程に物を言う。いつも毒舌ばかりの美桜が、本当に恋をしているという驚天動地の事実。

まだ両想いじゃないけどナチュラルにイチャイチャしている楓・ハル組に対して、いつでも喧嘩のようになってしまう美桜・伊織という組み合わせが面白い。きっと2組が交際した後で皆で一緒に過ごしても、これまで通りと それほど変わりがないのではないか。


の勤務する お弁当屋さんでバイトする雪野は楓の恋愛事情を察すると協力を申し出る。

少女漫画に ありがちなパターンとしては、その男性が協力している内にヒロインの良さに気づいて好きになってしまうヤーツだが、本書では さすがに それはなくて安心した。本書には もう最強の当て馬・伊織がいるから、ポッと出のシュッとしたイケメンには その役は与えられない。

雪野は、ハルを挑発することでハルが楓への独占欲を強めることを期待していた。ここで大事なのは、男性同士の争いで、楓は そんな2人の様子を知らないということ。これはライバル関係にあった時のハルと伊織の場合と同じ。ヒロインは いつだって無自覚にモテていなければならない。

雪野の協力の動機としては、同棲経験者で一緒に住むこと、それを継続していくことの難しさを知っているから、幼なじみ以上恋人未満の2人には上手くいく未来を選んで欲しいという気持ちを託す部分があるのだろう。


ルは一足飛びにプロポーズのような言葉で想いを届けられた(と勘違いしている)時と同じように、今回は、彼氏ではなく旦那になることを決意していた。彼にとっての結婚とは生命保険の入ることや貯金をすることらしい。

こうして何も起きないまま、この年が終わり、新年を迎える。楓も将来を考えるハルに感化されて、保険や節約の勉強を始める。こうして無意識に無自覚に二人三脚になってしまうのが、この餃子夫婦の良いところなのかもしれない…。

年明けにハルと伊織は飲みに出掛けるが、伊織は楓の話に乗ってこないし過剰な心配をしない。なぜなら急な告白に伊織は、動揺して そのことしか考えられなくなっていたから。伊織が楓以外の女性のことを考えているなんて美桜にとっては嬉しい事実だろう。


弁当屋さんでの雪野の歓迎会の日、雪野が泥酔し、ハルがヘルプに向かう。楓の時も立花の時もハルは介抱役ばかりやっているなぁ。

そして雪野を部屋に届けたハルは、彼が年上の彼女と結婚するつもりだったが、その気持ちを言わないまま別れてしまったことを後悔していることを知る。だからハルには言わないまま終わって欲しくないという雪野は、ライバルの演技をしていたが実はハルの応援団でもあった。

そうして打ち解けた2人は雪野の自室で2次会を始める。そうやってハルは味方を増やす。結婚式をしたらハル側の参列者はいっぱいいるだろう。

こうして年下に励まされる格好となったハルは、雪が積もった日、楓を抱きしめ、告白をする…。良い場面なんだけど、上述の通り これまで出来なかったことをする理由としては弱い。話を終わらせるためだけの理由にしか思えない。