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少女漫画と小説の感想ブログです

ウルトラハイスペック男性・伊織は努力と練習の人。スマートなデートの裏にも影の努力⁉

おとななじみ 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
中原 アヤ(なかはら あや)
おとななじみ
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

弁当屋で働く加賀屋楓(24)は小さいときから近所の青山春とおさななじみ。もうひとりの幼なじみ・伊織が楓に真剣にアプローチ開始。伊織の真剣な気持ちに驚きつつ、恋愛対象としてみてくれない春との間で心は揺れる。伊織から宣戦布告を受けた春はどう動く――!?

簡潔完結感想文

  • もう1つの長い長い片想い。24歳女性は愛される方が幸せか、愛した方が幸せか。
  • 『2巻』から幕を開ける三角関係。展開の速さが面白さだった頃が あったなぁ…。
  • 『1巻』『2巻』の巻末でキスする恋の五分五分。これは見事なトライアングラー

白の6年間が気になりだす 2巻。

なかなかに浅い作品ではあるが、今回、深読みして妄想して楽しかったのは、中盤の伊織(いおり)のデートの考察。
伊織は性格的に彼女ができないキャラで恋愛経験値も低いはずなのだが、楓(かえで)を誘い出してからの1日のデートは完璧と言っていい。サプライズでアクセサリを渡したり、手慣れた青年実業家のような手法と経済力で楓を喜ばしている。これは決してダメダメヒーローのハルには出来ない芸当で、対照性が際立つエピソードになっている。

が、同じ日に回想される伊織・ハルの高校時代のサッカー部のエピソードを勘案すると違う一面が見えてくる(ような気がする)。それが伊織は努力の天才、ということ。サッカー部ではハルが部長として活躍し、部員からの信頼も厚かった。そんな天才的なハルの裏で伊織は努力を重ねて実力を身につけてきたという。そんな彼の努力が見えていたのはマネージャーとして部を見守ってきた楓だけ。部員すらも気づかない自分の努力を知ってくれていたことが伊織の楓への恋心を加速していく。

人のことなら よく気がつくが、自分への恋心は全く理解しない鈍感さが少女漫画では一番 大事。

影の努力が今のパーフェクトな伊織を作っている。…とするならば、今回のデートも伊織は相当に努力したのではないか。楓を呼び出す口実、巡る場所、そしてプレゼント。この日、伊織は母親の誕生日プレゼントに女性側の意見を採り入れたいという口実で楓を貴金属店に誘導している。そこで楓に試着させ、彼女が気に入った品を後にサプライズでプレゼントするというキザなことをしてくれている。

でも果たして本当に伊織の母親の誕生日は近いのだろうか。ハルの母親の誕生日なら楓も記憶しているだろうが、伊織のは確かめようがない。そして その店に行くことも当初から決めていたのだろう。そのシミュレーションを企画と営業の仕事をしている彼なら成功を確信するまで繰り返したのではないか。

そして この日の帰りに先日の突然のキスを謝罪し、「今度 キスする時は 楓が目を閉じるの待ってからにする」とグイグイとは責めないが、想いを確実に伝える台詞を残す。これも考えてきたのだろうか(笑)
前回キスした時と同じような2人きりの車内でも この日はキスをしないのは彼の駆け引きだろうか。自分をどうプレゼンすれば好印象のまま楓の心を支配するかを考えてのことだろう。伊織は恋愛経験値は低くてもストーカーの資質は高いはず。楓のことだけを考え、彼女の人生がいつも晴れるように祈り、行動する、それが伊織だろう。

自分を当て馬と自覚しているからこその当て馬らしい攻略法である。やや天然の楓と本物の天然のハルに比べて実に涙ぐましい努力が、読者の好感を一気に攫っていく。


て本書のヒロイン・楓(かえで)とヒーロー・春(ハル)は家が隣同士で しかも幼稚園・小中高と同じ学校に通っていたという設定。そんな近すぎるからこそ こじれてしまった恋心を描くのが本書。
そして この『2巻』の回想で幼なじみ4人組の他の2人、美桜(みお)と伊織(いおり)も小学校から同じ学校だということが推測される。

問題は高校卒業後である。現在24歳の彼らが高校卒業後どんな進路を選択し、そして どんな生活を送っていたかが全く見えてこない。伊織だけは大学に進学したのは確定だが、他の3人は全く不明。一番 遅れて幼なじみに加入した伊織でも17年ぐらいは一緒にいると思われるが、その内の6年間、1/3以上の時間が語られないのは不自然である。楓とハルに関しては、この間に実家を出て社会に出ているのだが、いつ彼らが このアパートで隣同士になったのかなど2人の歴史に空白の部分が出来ているのが気持ち悪い。

きっと本書は高校生のメンタルのまま大人になってしまって、恋愛経験値が低い彼らの様子を描きたいから、空白の時間はスキップしたいのだろう。一途に人を想い続けている楓や伊織は本当に何もなかったのかもしれないが、ハルに関しては(楓に対して以外)恋愛的制約がない。その彼が6年間も彼女の気配すら させなかったというのはファンタジー過ぎるだろう。いや、本書は十分ファンタジーの域に達していると思うが…。生々しさ回避のためなのか この辺の楓の苦悩は語られることがない。

残念ながら本書は前半の充実度に比べると後半がスカスカになっていく。展開の偏りといい上述の空白の6年間といい、中身の詰まっていないシュークリームのような残念感が否めない。

愉快な会話を楽しむライトな作品なのだけど、本当に表面的で、一度 読んだら それでいいかなぁと思う作品に仕上がってしまっている。


ルと同じ幼なじみでも恋愛対象外だった伊織からキスをされ呆然とする楓。楓は伊織に言われるまでもなく伊織のことで頭がいっぱいになる。

なんと楓にとってはファーストキス。
不倫男との交際中もキスを拒絶していたらしい。この辺も心はハルにあることの証明なのだろうか。というか不倫するようなガツガツ男は よくそれで満足したな。楓なら手玉に取れると舐められていて、恋愛で主導権を握れる優越感に浸りそうな男なのに(偏見)、キスも出来ない不倫に満足しないような気がするが…。

その直前にハルにベットで迫った楓だったが全力で拒絶されてしまった。ここで強引にしていればファーストキスの相手がハルになり、そして物語も こんなに こじれなかったのではないか、と悔やまれる行動である。

ちなみに本書の恋愛レベルは高校生を主人公にする作品と変わらない。キスは一大事だ。
美桜はともかく、ハルも高校時代の交際がどこまで進んでいたのか不明だし、伊織や楓に至っては恋愛経験値がゼロに近いだろう。24歳だが高校生以上に性欲など感じさせない男性陣。ピュアな物語で絶対にドロドロしないで笑いと平和が優先されるから面白い部分もあるが、何も進展しない話に やがてイラっとくるので痛し痒しである。


大好きなハルに女性として見られない悲しみが募る中、楓はハルの部屋からライバル・立花(たちばな)が出てくるのを見てしまう。彼女はハルの就職先を斡旋してくれた。しかしハルと立花の職場は一緒。そのことに心が傷ついた楓はハルに伊織とのキスの一件を話す。


スの話を聞いてハルは動揺していた。この動揺を楓は知らない。知っていたら希望と自信を持てただろう。

ハルが楓の不倫男との交際は反対しなかったのに、伊織とのキスが気にかかるのは、楓の母からの「騎士(きし)の呪い」が発動するからだろう。
これによってハルは楓を異性として見ることを禁じられているのに、伊織はその呪いを撥ねのけて楓に手を出したからこそ、ハルは心の整理がつかない。


桜は伊織と楓のキスシーンを目撃していた。その画像を脅迫材料にして伊織に詰め寄る(どんなカメラの性能なんだ)。

そこから小学生の頃の彼らの出会いが回想される。伊織は4人の中で最後に登場したカナダからの帰国子女。当時は太っていた伊織は、学級委員の楓の優しい気遣いに一気に好意を持った。体型こそ太っていたが伊織は文武両道。

そして初対面から美桜と伊織は犬猿の仲。デブと揶揄する美桜を見返すために痩せた。

三つ子の魂百まで。それぞれにインプリンティングされた想いや呪いが こじらせた おとななじみを生む。

そこから15年以上経過していても伊織は楓が好き。伊織は大学を出て就職して一人前になった時、楓が幸せじゃなかったら自分が楓を幸せにすると心に決めていた。それが仕事で責任ある立場になった24歳の現在らしい。

楓と伊織は長年1人の人を想い続けている似た者同士なのである。その相手に全く伝わらないのが悲劇なのだが。

ちなみに伊織は現在、新しく建てるホテルの企画と営業をしていて初めてチームリーダーを任されている。一般的に大企業に就職し、エリート街道を歩いているのは伊織だろう。だが職業に貴賤無し。幼なじみ間では それが大きなアドバンテージにはならない。

そして伊織は昔からハルの人柄、カリスマ性に一目置いており、そしてそれが劣等感でもある。どんなに努力しても社会的に認められても、自分には得られない信頼や人間関係を構築しているハルに敵わない部分があると思っている。

24歳まで楓との恋愛を真剣に進めなかったのは、楓はハルと幸せになるべきだという考えがあったのだろう。それが楓を第一に考える伊織の愛で、そして伊織のハルへの信頼が楓に手を出さない抑止力になっていた。なので ある意味で伊織は、楓の母ではなくハルに呪いをかけられていると言っていい。どこまでもハルの影に悩まされるのだろう。

複雑な関係に陥った幼なじみの男性2人が夜の公園で会話を交わす。そして楓と伊織のキスが生理的にイヤだとしか心の説明がつかないハルに対し、今度こそ伊織は真正面から宣戦布告をする。少女漫画で三角関係が始まるのは3巻が定番なのに、展開が早い。


んな中、夏恒例の楓とハルの家合同のBBQが今年も開催される。ハルは情緒不安定だが伊織(と美桜)が参加すると聞いて参戦を決意する。

楓にとって伊織は自分の女としての自信を復活させてくれる存在。不倫男との交際に走ったのも それが原因で、伊織にとっては今の楓のどん底は好都合。ただし不倫男と同格ぐらいに思われていて、決して楓の好意が見えないのが残念ではあるが。

ただし伊織は楓の気持ちを十分に理解している。ハルだから惹かれてしまうのも、気持ちが簡単に変わらないのも分かった上で、彼は長期戦を覚悟して待つという姿勢を見せる。好きになれたら本当に幸せなんだろうな、というのが良い当て馬の条件である。
この回は伊織が楓にだけは甘くて、美桜には塩対応なのが笑える。美桜も少々 やかましいが、彼女がいなければ ただの甘々モテモテ三角関係になってしまうから、美桜のような第三者は必要だ。


角関係は お約束を破るほど早く到来するが、お約束を守るのは山道での迷子。山道に入れば迷子や怪我をするのがヒロインの大切な お仕事。

情緒不安定なまま1人でフラフラと山道に入った楓はゲリラ豪雨に打たれ、ケータイの電池は切れ、そして転び、途方に暮れる。

雷鳴轟く中、楓を心配して後先考えずに突っ走るのは騎士のハル。事前の準備を整えることを優先し一歩目が遅い伊織とは対照的になっている。

命の危険を感じた楓が叫んだのはハルの名前。その声に反応しハルは楓を見つけ出し、彼女が怪我をしていることを知ると お姫様抱っこで楓を運ぶ。うん、実に少女漫画だ。

だが おバカなハルは帰り道が分からない。迷子が2人になって、彼らは雨をしのぐために近くの物置に入る。そこで雷が苦手な楓を気遣い、ハルは彼女を優しく抱きしめる。それは子供の頃からハルがしてくれた心が落ち着く おまじない。


ち着きを取り戻した楓は子供の頃から変わらない関係性に決着をつけるため、ハルに伊織が好きだと伝えようとする。本当に好きかが大事なのではなく、ハルへの決別として好きだと思いたいのだろう。しかし その言葉が発せられる前に その口をハルが自分の口で塞ぐ。キスである。自分でも意識しないまま身体が動いていたハル。

帰り道の楓の様子がおかしいことを感じ取った伊織はハルに事情を聞き、ハルは正直に自分のしたことを話す。その行動の動機が分からないハルに対し、伊織は楓が好きなんだよ、と告げるが…。

これで2人の男の楓を巡る争いは五分になった。やっぱり前半は面白いなぁ。

それにしてもハルは『1巻』のシャワー事件に続き、水に濡れた楓に色気を感じる特徴があるのだろうか。

そんなハルの特性を楓が理解できれば、家事をしている最中に毎回 水を被ってみたり、雨の日に傘を差さないまま はしゃいだりすれば、関係性は進展するに違いない。いや、これこそ情緒不安定が極まっているか…(笑)