《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

騎士や餃子、人からの暗示を妄信しちゃうハルは、恋人にクラスチェンジしてくれるのか⁉

おとななじみ 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
中原 アヤ(なかはら あや)
おとななじみ
第01巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★(6点)
 

弁当屋で働く加賀屋楓(24)は小さいときから近所の青山春とおさななじみ。楓は春に片想いしているが、鈍感な春は振り向いてくれない。けれどいつでも楓を助けてくれる「騎士(ナイト)」の春。そんな中、春にアタックしてくるゆるふわ女子や別のおさななじみ男子・伊織も参戦して、やっと恋が動きだす――!?

簡潔完結感想文

  • 高校生の幼なじみでも関係を恋愛に移行するのは難しいのに本書は+8年こじらせてる。
  • 恋のライバル出現に対抗するはずが空回り。ライバルに自分の急所を炙り出される始末。
  • 亡き人との約束が 幼なじみの2人の関係性を身分違いの恋にしてしまう呪いにもなった。

齢だけはオトナの、精神的には小学生レベルのウブな恋愛を描いた 1巻。

通常ならば同じ作者の作品を出版順に読むのが読書法なのだけど、2023年05月の映画公開に合わせて、全部スッ飛ばして本書で初・中原作品となった。なぜならアクセス数を稼ぎたいからだッ!

少女漫画が好きでも少女漫画の映画化には全く興味がない。なので映画によっては連載中の作品を どうやって2時間前後でまとめているのか謎だった。1番 謎なのは咲坂伊緒さん『アオハライド』でしょうか。あの重厚な内容を中途半端に映像化して(あの俳優陣で…)、どういう仕上がりになっているのか恐怖すら覚える。

その点、本書は安心である。この内容なら上映時間は2時間弱でぴったしだろう。それで原作を網羅した作品になること間違いなし。

初登場シーンで無職を宣言するハル。オトナとしては相当残念な部類だが、人としては素敵。

むしろ原作の全8巻が少々 冗長だと言いたい。作品の雰囲気が好きだし、とぼけた会話も面白いのだけど、中盤の何も起こらなさは どうにも擁護できない。ベテラン人気作家さんだから、両想いにならない理由があるのかと思いきや、特に用意されておらず、ただ両片想いの継続がダラダラと続くだけ。どこでも終われる内容を、どこまでも続けてるといった印象が否めない。だからこそ2時間弱の映画にまとめられて、結末も絶対に原作と同じようになる保証が生まれるんだけど…。

きっと掲載誌「ココハナ」読者は、ジェットコースターのように忙しい展開を望んでいないだろうから、このような心地の良い空間が広がることは需要とマッチしているのだろうか。
そして画面は見やすいが、省エネ作画っぽい気もする。これは作者の過去作を見ていないので比較できないが(元々 スッキリした線で描かれているとは思うが)。


『1巻』でヒロインの加賀谷 楓(かがや かえで)、そしてポンコツヒーローの青山 春(あおやま はる)の2人をすっかり好きになるようなエピソードが詰まっているので、いつまででも2人の交流の様子は読んでいられる。

24歳の楓は、実家が隣同士で幼稚園、小中校と学校が一緒だった幼なじみのハルの同じアパートの隣室に住んでいる。そして毎日のようにハルの部屋を訪れ、母親みたいにハルの部屋の掃除・洗濯・料理をする日々である。

そして現在のハルは無職で、ダメ人間が極まっている。彼が無職になった理由もあるのだが、これは職業や社会的地位がなくてもハルという その人自身を好きで好きで、絶対に嫌いになれないという楓の気持ちの証明にもなっているのではないか。


在、楓はチェーン店のお弁当屋さんで働いている。この辺は掲載誌「ココハナ」らしく お仕事漫画の一面もある。そして なんと その店のエリアマネージャーと楓は交際している。それだけでも意外な展開だが、その上 その交際相手が既婚者である事実が爆弾として投下される。

この部分、作品としては面白いが、楓の心情が いまいち理解できない。この男との交際は、どうやら楓が男から告白されて、その報告をしてもハルが心から祝福してくれたことで、ハルを完全に諦める道を選んだと考えられる。楓としては いよいよ いい年だし、ハルとは正反対の誠実で自分を好きでいてくれる人間を選んで交際してみた、ということなのだろうか。

でも短期間とはいえ この交際があるため、楓が一途ではなくなってしまった。ハルへの当てつけという面があるにせよ、よく知らない男性から告白されてトキめいているのは確かだ。そして なぜ この時は この不貞男に心を許せて、後に頭角を現す当て馬には心を許せなかったかなど、楓の心理が理解できない部分が残る。


切りの初交際は呆気なく終わる。既婚の事実を隠していた男の妻が乱入し、楓は その場で男との別れを決断する。

それでも妻に隠れて不倫関係を続けようとするセコい男に対し、駆けつけるのが無職の騎士様である。ハルの登場で楓は安堵し、涙を流し、その涙を見たハルは無条件に楓の味方をする。おバカだけど状況判断が早くて的確で、自分のことを信じてくれるハルは確かに好きになってしまうだろう。

そしてハルが無職になったのも、前の会社でセクハラ被害から女性を守ったことでセクハラをした偉い人の不興を買い、解雇されたというのが真実らしい。これは楓がハルのことを案じて、ハルの居た会社の前で同僚から話を聞き、情報を得た。ここでは楓がハルが会社を辞めた理由を知りたいと願い、そして彼ならいい加減な理由で会社を辞めないという信じる気持ちが原動力だっただろう。

そんな無職の騎士様は、楓の仕事の窮地まで助けてくれる。どこまでも良い人なのだ。更に時間だけは有り余っているから楓に関わる時間が長くなる。無職のヒーローは その分、フットワークが軽くなっている。


盤のハルは ダメ人間のように描かれているが、実は楓も恋愛的にダメ人間であろう。だが楓がハルから離れられないのは よーーーく分かる。

早くもハルの人間性も好きだし、表裏のない態度で、時より人のことをドキッとさせることが続くと、その関係を維持したくなってしまうのも分かる。読者も あっという間にハルのことが好きになってしまうよなエピソードが続くから、彼のことを憎めないし、楓を応援したい気持ちになる。もう この時点で読者は彼らの5人目の幼なじみ気分になっているのだ。


して2話から登場するのが、幼なじみ4人組の残りの2人、美桜(みお)と伊織(いおり)である。

美桜は恋愛脳で楓にハルへの告白を推進する派で、そして伊織は楓のことを全肯定してくれる人。彼らは楓の中の2つの人格のように意見が合わない。そんな両者の意見をバランス良く聞くから楓は現状認識がしっかり出来るのだろう。

幼なじみに2人が加わり客観性と そして波乱が生まれる。仕事がバラバラで お仕事漫画の幅も広がる。

る日、ハルに誘われてお花見に繰り出した楓は、そこでハルの以前の同僚たちに出会う。

そして そこで登場するのがセクハラ被害者でもある立花(たちばな)。ハルに感謝する立花だが、そこに過剰なスキンシップが含まれていることを感じ取る。しかも立花はハルの好みの ど真ん中の ゆるふわ系。それはハルが高校時代に交際していた女性によく似ていた。

楓の中で、高校時代に何もしないまま、ハルを奪われたトラウマが よみがえる。ハルはサッカー部のキャプテン、そして楓はマネージャーとして高校時代を過ごした。

その頃、楓は自分はヒロインで、結局、幼なじみというものは交際する運命なのだと信じて疑わなかった楓だが、ハルが めっちゃかわいい先輩と何の躊躇もなく交際し始め、楓は自分が信じた運命は、自分が夢みる願望から生み出したものだと思い知らされる。この何の根拠もない自信とヒロイン願望は、幸田もも子さん『ヒロイン失格』を連想させますね。あちらも こじれた幼なじみモノだったなぁ。

アピールポイントが ことごとく否定され、楓の優位は どこにもない。歴史は繰り返されるのか⁉

から今回、立花が目の前に現れた時、楓は2人の交際を断固阻止するために、徹底的に お邪魔虫を演じる。楓は自分がハルの幼なじみである優位性をアピールし、立花を邪魔するために痛々しい言動をする。どうやら楓も あんまり頭の良い子ではないようだ(笑) そこが お似合いのカップルだという証明でもあるんだけど…。

ハルは徹底的に鈍感だから楓が どうして こんな珍奇な行動を取るのかが分からない。そして立花という女性は楓の立ち位置を的確に把握し、その弱点を的確に指摘してくる。男性の部屋に出入りしても何も起きない女性。それが楓の不都合な真実なのである。


後に、なぜハルが楓に対し異性として意識しないのか、という心理的ストッパーの存在が語られる。

楓の家族は、母親が楓が中学の時に亡くなって、父親と祖母のみである(ちなみに祖母の登場は ここが最初で最後か? なんか存在が無かった事になっている気がする…)。

元々 頼りなくて泣き虫だった父は、妻を亡くしてから一層 落ち込み、娘である楓に支えられて生きのびてきた。だが父を支えるために家庭内・学校内の生活を両立させようと頑張りすぎた楓の方は心労が重なり、倒れてしまった。そのため今は父は自立を目指し修行中。父親は情に厚くて、裏表がない、ちょっとダメ人間な所は少しハルと重なる部分がある。

そして母を亡くして以降、父親の感情を優先する余り泣けなかった楓が初めて泣けたのは、ハルが泣く場所として胸を貸してくれたからであった。この時、鈍感なはずのハルが楓の気持ちや疲弊を見抜くのは、愛情からではなく、楓の母から生前 ある役割を与えられていたからであった。


時にそれがハルの恋愛抑止力になっていることが分かる。

楓の母親が亡くなる直前、頼りない夫に代わって、楓のことを守ってほしいと病室に見舞いに来たハルと伊織に告げていた。この約束の後から楓はお姫様で、ハルは騎士(ナイト)。ハルにとって楓は庇護の対象であって、決して手を出してよい存在ではなくなった。

この約束がハルの心を縛っている。これにより2人の関係は幼なじみから身分の違いになったと言ってもいいだろう。姫を守ることが王妃との約束で、騎士という身分は永遠に守られなくてはならない。少々おバカなハルにとって人から言われたことは絶対的な指標となってしまう。これは後の餃子の件などからしても明らかだろう。素直な子だから催眠術にもかかりやすいのかもしれない。

楓の母が亡くなっていることで約束は一層 効力を増し、そして呪いに近くものなっている。だからハルは間違って服のままシャワーの水をかぶった楓の身体のラインに欲情することを禁じているし、そんな気持ちのまま楓に接近することすら許されないと思っている。ベッドに2人で倒れ込むというお約束展開の後に楓が男前にハルにキスを迫っても全力で拒絶する。そこはハルの中で超えてはいけない一線だから。


れを知らない楓は、ハルが自分を全力で拒絶することに傷つく。

病室で一緒に楓の母から約束をした伊織もまた騎士であるが、彼は楓のことを異性として見ている。冷静な彼は暗示にかかるほど人を信用していないのだろう。

ハルのことで泣いている楓を見て、伊織はキスをし、そして俺にしろ、というのだが…。

考えてみると楓は何気にモテている。不倫男にエリート男性、1巻で2人から言い寄られている。もしかしたら楓はハルしか目に入っていないだけで、自分への好意を無視、または無慈悲に踏みにじって来たのかもしれない。恋愛の知識も経験もゼロに近いが、決してモテないヒロインではないのだ。