《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

弱い自分から目を背けた遠回りの逆走でさえ、若者たちは 飛び立つための助走に変える。

覆面系ノイズ 6 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま リョウコ)
覆面系ノイズ(ふくめんけいノイズ)
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ステージを熱狂の渦に巻き込んで終了したロックホライズン。果たしてニノの声はモモに届いたのか!? 時は経ち、再び学園祭の季節到来!! 久々の軽音部メンバーでのライブを前に、ハルヨシと深桜が急接近!? 2人の恋の行方は…。そしてニノが遂に“あの人”の楽曲をうたうことに!? 急展開に満ちた注目最新刊!!?

簡潔完結感想文

  • 夏フェスの夜の花火の下で火花を散らす男性2人。その下で眠る何も知らない眠り姫。
  • 現状を変えるために様々な手法を試みる軽音部の5人。新しい挑戦が自分の幅を広げる。
  • 夏フェスの次はアマチュアのイベントの学園祭。待ち遠しいライブは どの曲で始まる!?

たされない想いが、その人を次のステージに立たせる、の 6巻。

フェスからフェスへと舞台が移る『6巻』。フェスといってもプロとして立った夏フェスとは大違いの、一介の高校生と立つ学校の学園祭の舞台である。プロの活動の描写が多かったが、今回はアマチュアとしての描写が多い。『6巻』は丸々 ライブの場面がない。『5巻』の終わりでステージから飛び降りてから、次のステージに上がる直前までが描かれている。『4巻』でも巻頭と巻末で男性のが自己嫌悪する共通点があったが、『6巻』はステージからステージへと場面が繋がる感覚が素晴らしい。全体的な構成もさることながら、こういう細かい構成が意識されていて、作者の計画性・集中力の高さが感じられる。

ライブシーンがないから『6巻』は つまらないかというと全く そんなことはない。高校生に舞台が戻ったからこそ出来る展開がある。私生活で抱える悩みや問題はライブでは描けない部分だ。日々の生活で悩みや閉塞感があるからこそ、彼らはライブでそれを一気に突き抜ける。『6巻』は、仁乃(にの)がスランプに陥り、それを抜け出すまでの過程でもある。作中で「助走」と表現されるように、ライブで爆発し、さらに彼らが成長するために、日常回での悩みがある。若い彼らは悩みに対して、真正面から逃げない走りも、その逆に逃げ回る走りも全力疾走で、それが高く飛び立つための助走となる。毎回、書いている気がするが、短期的なゴールと、その解決を的確に設定している作者には脱帽するばかり。

そして『6巻』では群像劇を織り成す主要6人が、それぞれに新たな挑戦をしている、というのも良い。現状を変えるために、新しいことに挑戦し、そこから打開策を模索するというトライ&エラーが試みられる。
仁乃は、入部してなかったことが驚きの軽音部に正式に加入し、そこでイノハリ以外の曲の歌唱を試みる。ユズは仁乃の為ではない作曲に試みようとしたり、モモとの共作をして、同じ動機で作曲された自分以外の音楽に触れる。そのモモは大切な者を守るために新天地での生活をはじめ、繋がった縁を大切にする。深桜(みおう)はユズへの想いを断ち切るために行動し、ハルヨシ先輩は深桜との交際を通して自分の存在で彼女をいっぱいにしようとする。クロもまた逃げていた想いに向き合う覚悟を決め、兄夫婦との同居を再開した。

小さなことから大きなことまで、日々変化していく若者たちは、次のステージではどんな音を奏で、歌うのか。大きなフェスを終えて作品内をクールダウンさせつつも、徐々にボルテージを上げていく作者の手腕が光る『6巻』であった。


乃は衣装のままフェス会場を疾走し、モモに会いに走る。だがモモは既にバンドメンバーや同居する月果(つきか)にも黙って姿を消していた。

会場中を走って疲れ果てて寝る仁乃。その彼女を会場へ戻ってきたモモが見つけ、マスク越しにキスをする。その場面を見てしまうユズ。花火の下で眠る何も知らない眠り姫を前に男性たちが火花を散らす。
だが仁乃を幸せに出来る唯一の男・モモは やはり消えるという。モモが仁乃を悲しませるなら、自分が仁乃をもらうと宣言。だが、誰よりも仁乃の気持ちを承知しているのはユズであるというのが皮肉である。

ヒロインを取り合う2人の才能ある男性。無自覚ヒロインは眠っているから彼らの どんな会話も聞こえない。

モが消えて3か月。季節は秋になる。そこが「みっつめのハジマリ」となる。ひとつめ、ふたつめ が何だったか覚えてないけれど、こうやって短く章で区切って、興味を持続させる構成力が光る。フェスが終わって一段落、ではなく、ここから また始まるという期待する気持ちが早くも生まれる。

だがフェスの帰路から仁乃はユズと喧嘩して3か月が経過していた。原因は、モモのことを諦めるという仁乃に、それは無理だとユズが言ったから。ユズとしては諦めてほしいのに、彼が一番 仁乃が諦められないことを知っている。この辺は さすが「当て馬大王」である。

仁乃はフェスでもモモに歌が届かなかったと落胆し、歌に力が入らない。


んな仁乃の3か月を一定の距離で見守る深桜だったが、好意を寄せるユズが相変わらず仁乃のことしか見ていないと分かり、深桜が落ち込む。それを仁乃が元気づける。ライバルであるはずの人に喝を入れられるのは、仁乃・深桜、ユズ・モモとも同じである。

純粋な仁乃を見て、少し復活する深桜だったが、その裏で仁乃を元気づけるという理由を作って、自分に合って仁乃にないものを探り続けていた。そんな自分は汚れていて、仁乃に敵わないと落ち込む。

相談された深桜に、ハルヨシ先輩は本気の告白をする。だが軽率な行動をしたと、ハルヨシは深桜を避けまくる。どこもかしこも、告白しようとしては逃げられ、告白しても、した側の人が逃げるという場面が続く。もしこれで、深桜とハルヨシの関係も保留になっていたら、さすがに停滞感が漂ったが、そこは熟練の作者、ちゃんと作品に変化をつける。

逃げるハルヨシに、深桜から近づき、彼女は「ユズのこと わすれさせてくれんの」とハルヨシに尋ねる。アンタが手に入るなら 他に何も要らない、というハルヨシの言葉に導かれ、深桜は現状を変えるために彼と交際を始めた。

初めての正式な告白に、初めてのカップル誕生である。いわゆる「友人の恋」枠である。この枠は、主人公たちカップルでは描けないことを描くことが多い。私の分類における「恋愛成就型」の作品では、友人の恋愛で男女交際の模様を描写することで、主役では描けないアレコレを託す。
…ん、でも考えてみれば、主役では描けないこと となると、この深桜とハルヨシの関係性は、別に好きな人がいながらも忘れさせるように男性が務める交際、は仁乃とユズの関係と重なる。ということは、これが主役では描けない恋愛模様とすると、自ずと結果が推察できるような…。もし作者が「友人の恋」枠を有効に活用しているとすると、結末が分かる、のか?? 結末は ご自身で確かめてください。


乃はスランプに陥り、歌に気持ちが乗らない。環境を変えるために、まず彼女は軽音部に入部する。
だがモモと別離して以降、仁乃はずっとモモのことを考えてしまう。夢にまで出て上手く眠れない。

一方、モモも同じように毎晩 仁乃の夢を見ていた。昔の人は夢に その人が出るのは、相手から想われている証拠だ、と自分に都合の良い解釈をしたようだが、彼らの場合は互いに想い合っているから間違いではない。

モモは和歌山に転校していた。そこで冗談にして自分の家庭の事情を新しいクラスメイトに喋る。
「父親は女(を)作って出てった。その上 母親は俺に金せびり続けて働いてない。俺の周りの弱み握って俺を脅して、金づるがまた逃げないように鎌倉からここまで連れて来た。世話になった人にも友達にも何も言えないまま はなればなれ」だと言う。

意外なところで、サラッと語られたが、これがモモの人生だろう。モモもまた母親の監視下にあり、自由を与えられていない人間だということが分かった。トラウマも家庭事情も似ているユズとモモ。では一体、仁乃は何でどちらかを選ぶのだろうか。トラウマが一方だけなら答えは一目瞭然なのだが。

一方でクロの事情も徐々に明かされていく。彼は一人暮らしをやめ、兄夫婦との同居を始めた。そして兄嫁はずっと彼が好きだった女性のようだ。彼の心境の変化はフェスでの仁乃に影響されたからだという。彼は兄夫婦を視界に入れないようにした一人暮らしではなく、目を開いて、現実と向き合いながら走ろうとしている。覆面バンドのイノハリだが、徐々に彼らはマスクを、眼帯を取って自分の素顔を晒していっているように思う。


乃の次の舞台は、イノハリではなく軽音部として参加する学園祭。この学園祭で、仁乃は深桜のバンドの曲=モモの曲を歌う予定。初めてユズ以外の曲を歌う仁乃は、そこでユズの曲との違いや難しさを知る。

そしてユズはイノハリ以外の曲作りを提案されていた。その話を事務所でユズ以外の人から聞いた仁乃は喧嘩中だがユズに接近し、曲作りについて問い質す。
そして「いや」という率直な気持ちをユズにぶつける。それは仁乃のユズの曲への独占欲だった。

この場面、仁乃が鞄にマスクを忘れて、素顔で言っているのには意味があるのだろう。ユズの曲を歌う仁乃には息苦しさがないように、ユズに対しては素直に100%の気持ちをぶつけられるからだろうか。学園祭でもクラスメイトの要望でマスクを取っているから、以前のような叫び出したい衝動は歌に変換することで抑えられているのか。

その仁乃の反応を見て喜びが抑えられないユズ。それは彼女の意識が自分に向いた証拠である。


んな状況の中、始まる学園祭。そこで仁乃は自分のためにユズが作ったバラードに挑戦する予定であった。

ちなみに少女漫画の文化祭・学園祭はコスプレするためにある。ユズは和装で女装、仁乃も和装、深桜はチャイナドレスで、ハルヨシは執事とイノハリの衣装とは違う華やかさを見せる。

ハルヨシは深桜と周る。だがハルヨシは、深桜の中のユズを意識し過ぎて空回る。
この日、ハルヨシは深桜にピアスを渡そうとしていた。ピアスには思い出があって、数年前の深桜の誕生日にハルヨシはピアスを空けた深桜にピアスを贈りたかったが、その役目をユズに託した。
ユズへの気持ちに踏ん切りをつけるため、そのピアスを海に投げた深桜。彼女にピアスを渡し、その穴をハルヨシが埋めようとするのだが、深桜の中にユズの気持ちがあるまま つけることに違和感を覚え、返却を求める。

そんなハルヨシの弱気な態度に深桜が怒る。もっと強引に上書きして欲しい、と。それでもハルヨシはピアスをつけさせない。彼は いつか深桜が自分を同じぐらい、気が変になりそうな位 好きになってから、深桜の耳の穴を埋めたいのだ。

だから今は、その耳に歯型を付けるだけにする。そして その行動こそ深桜の心を どんどんハルヨシで染めていくものであった。弱気なのにドS男子のようなハルヨシが非常に良い。


2日ある学園祭の初日、モモはユズに連絡を入れ、彼に自分の曲の編曲を頼む。モモが口ずさんだメロディにユズが色を重ねていく。初めての共同作業である。その工程で、ユズの曲作りの様子が見られるが、ノートパソコンで作っているらしい。母の監視からどうやって逃れているのだろうか。ノートパソコンを持ち歩けば露見しないのだろうか。

形作られていくモモの曲は仁乃の限界を超える作品だった。仁乃の限界を見据えたユズのバラードとは真逆。その出来はユズは仁乃にその曲を聴かせたくないと思うほど。これまでの仁乃がギターを演奏する、歌詞をつけるなど本書では初めての挑戦がたくさんあって、それが解禁させるごとに世界が広がっていく感覚がある。ユズとモモの共作なんて最終回にとっておきたいエピソードだが、学園祭というフェスに比べると地味なイベントで使用しているのが凄い。

男性同士の交流が2人の仲を深める。いずれ これが、あいつになら仁乃を託せる、という信頼感になるのか…?

じ日、仁乃は逃げ回ることを止めた。モモを諦められていない自分、届かないかもと怯えて逃げていた自分と向き合い、モモの所属事務所へと走る。

そこで月果から、モモの消息が以前不明な事。そしてフェスで仁乃の声がモモに届いたことを知る。だからもう自分から逃げない。これがスランプ脱出のカギとなるのか。

そしてユズは学園祭で披露する曲を決める。その曲は一体どちらの作曲の曲なのか…⁉