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少女漫画と小説の感想ブログです

皆がガラスの仮面をつけて演技している中、私だけ お面に心から喜んで ゴメンね(由奈)

思い、思われ、ふり、ふられ 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
思い、思われ、ふり、ふられ(おもい、おもわれ、ふり、ふられ)
第05巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

由奈のことが気になっている理央。勘違いかもしれない、いや好きかもしれないともやもやする日々。すると友人の我妻が由奈と急接近していて…。みんなで出かけた夏祭りで朱里と和臣にもある出来事が。急展開の第5巻!

簡潔完結感想文

  • 表紙は由奈だけど和臣巻といっていい。地味な男が いきなりの大活躍を見せる。
  • 小学生男子の学芸会演技。意識してない 好きな子もいない「演技」を彼なりに。
  • 夏祭り。本書において置いていかれる女性を迎えに来てくれるのはヒーローの役割。

4の人物の心情が ようやく見えてきた 5巻。

いよいよWヒロイン、Wヒーロー体制の真骨頂を発揮する。
これまで この体制が機能していなかったのは、
「小学生男子」と表現されていた和臣(かずおみ)の心情が読者には分からなかったから。

だが、この『5巻』で和臣の恋愛にまつわる想いが続々と明らかになる。

構成的に面白いのは、これまで理央が始まる前に終わってしまった恋に苦しんでいたが、
今度は理央(りお)が原因で、和臣が始まる前に恋を終わらせようとしている。
男性2人の「消えた 初恋」が「両片想い」なのに「両想い」にならない複雑な状況を作り出す。

もっと考えれば、理央は自分の両親の再婚によって自分の恋を我慢しなければならない状況に怒りをもっていた。
家庭内では朱里と姉弟であるという「演技」をし続けることが彼のストレスであった。

が、今回 明らかになった和臣が初恋を消そうとする動機は理央にある。
理央が感情の高ぶりに任せて行動したことが、和臣に大きく影響を与えている。
そのことを理央は知らずに、新しい自分の恋に ある意味で能天気に悩んでいる。

自分の父親によって運命を狂わされたという恨みがあった理央が、
今度は無自覚に人の恋路の邪魔をしてしまっている。
そういう因果の観点から見ても本書は面白いだろう。

そして男性たちは、家族のため親友のために自分たちの恋心を封印する、という お行儀の良さが共通している。
また和臣は理央を逆恨みすることなく、彼を応援するために自分の気持ちを封じているから
理央よりも穏当な対応と言える。
誰かの幸福を壊してまで、恋愛を成就させなくてもいいという消極性が見える。
この辺は、実は本書のキャラたちは自己評価が低い、ということと繋がってくるのかな。

…と、色々と書き連ねられるように、
和臣が動き出して物語が断然 面白くなった。
まさか「小学生男子」にこんな役割が課せられていたとは思わなかった。

こうして和臣も両想いから一番 遠い場所に身を置くことになった。
理央と共に「ふり、ふられ」の「ふり」役を演じてしまったが、
ここから気まずい2組4人が どう距離を縮めていくのかが実に楽しみである。


ヒロイン体制では、片方が足踏み状態でも、片方が動いていることで物語が停滞しない。

由奈(ゆな)とキスする夢を見た理央。
それ以来、彼は自分の心が分からなくなる。

だが確実に理央の中に由奈はいる。
由奈と過ごすために嘘をついてまで予定を空けてくれたり、
理央の中に確実な変化が見られる。

といっても、先日まで朱里(あかり)が好きだと由奈に話していた自分が、
こんなにも早く心変わりすることに理央自身が驚いている。
そして以前 由奈の告白を断った過去が、理央の動きを鈍くする。

そんな鈍い動きをする義弟に代わって、朱里は物語を動かす。

朱里は和臣との距離を縮めるために、映画の話題を振る。
すると「いつもより断然 食いつきいい」。
それに喜ぶ朱里に、和臣は朱里の好きな感じの映画を薦めてくれる。
それは和臣の中に、朱里という人格がいて、朱里の事を考えてくれたから薦められること。

朱里の事を分かってます感を出す和臣を友人が茶化すが、和臣は へそを曲げてしまう。
その映画を借りに来た朱里にも 素っ気ないし、
朱里が和臣を誘い4人で行くことを計画した夏祭りに行くことへの返答も含みを持たせる。
あからさまな態度の変化には訳があるのだが、それが判明するのは少し後の話。

「逆に私の事 意識してるのーー?」と冗談めかす朱里に「や それはないけど」。

あの和臣まで「演技」を初めて恋心は秘されていく。自分は理央の友人という義理が和臣の最優先事項。

が、その場面では言葉ではなく行動に深い意味があることが分かる。

その日、帰宅した和臣は自宅に6歳年上の兄が帰ってきていることを見つける。
兄が和臣の部屋で見ていたのものは返却されたテストの数々。
和臣のはクラス平均や学年平均の点数ばかり。
ちなみに理科系のテスト返却で理央は96点。
これは和臣の平凡性を表しているのではなく、わざとらしさを表しているらしい。

そんな兄は帰りがけに、弟に
「おまえ ウソつく時 鼻こする癖あるって 知ってた?」という和臣の習性を言い残す。

和臣が鼻をこすったのは17話終了時点で これまで計4回(多分)。
『4巻』の下駄箱で1回と、17話での3回。

17話で言うと、和臣が鼻をこするのは、
朱里からの「私の事 意識してるの?」「それはない」
兄からの「将来 映画関係の仕事したい?」「ただの趣味だよ」
    「好きな子は?」「いないよ」

そして1つ目と3つ目を照らし合わせると和臣の好きな子が誰だか分かるようになった。

これまで「小学生男子」で、思ったことを屈託なく喋っていた和臣。
だが そんな彼にも悩みや隠し事が出てきた。
それが『4巻』以降であることも、実はしっかりと計算されている。

どうして和臣が、ウソをつかなければならないのか、
小学生男子だったら、気付いた好意を真正面から示すのが自然だと思われるが。
朱里に自分の気持ちを隠し続けるのはなぜか、それは本書特有のロングパスとなる。
(といっても本書の後半にパスは繋がれる)


4人+理央の友人・我妻(あがつま)で遊ぶ夏祭りの日、女性2人は浴衣を着てくる。
理央は由奈の浴衣姿をきちんと褒めるが、和臣は朱里の浴衣姿にノーコメント。
これは興味がないからではなく、ノーコメントを貫くという意思を感じる。
このところの和臣の態度に朱里は違和感を持つ。
これは彼の「演技」が役に没頭できるほど熟練していないからと言える。

さて、この夏祭り、一番距離が縮むのは由奈と理央、ではなく由奈と我妻である。
由奈が異性と喋る時に緊張しないようにしていた努力は思わぬ形で実を結んだと言える。

由奈のことが気になりだしたが、自分の気持ちに自信が持てない理央。
だが由奈に近づく男は、和臣だろうが我妻だろうが全員がライバルに見える。
夏祭り前後の行動全てが由奈を中心にしていることを自分で認める日は来るのだろうか。

買出しに出掛けた朱里・理央・和臣の3人。
人混みと浴衣の歩幅で朱里だけが置いていかれる。
だが男性2人は背を向けたまま。

こういう場面、由奈が同じことになったら絶対に理央が助けてくれたことだろう。
だが、もう次の恋に夢中になっている理央は朱里に冷淡。
だが理央の関心は、我妻が由奈に急接近していることに移る。
ここで完全に理央の中で由奈 > 朱里となっていることが分かる象徴的なシーンだろう。

和臣は そんな理央の無関心に怒る。
だから朱里を必死に探してくれたのは和臣。

2人は連絡先も知らない間柄だから足で探すしかなかった。
和臣は これを機に、連絡先の交換を提案する。
再読すると葛藤の末、自分の欲望に負けた状態だと思われる。

「女のコとLINE交換した事なかったから」和臣は緊張する。
この「初めて」のために、由奈とは連絡先を交換していなかったのだろう。

朱里の恋愛観ではないが少女漫画読者が一番キュンキュンするのは恋が成就する一歩手前だろう。

んな和臣の表情、反応すべてにおいて、彼から恋のシグナルが発せられていることを感知する朱里。
だから彼女は一歩 踏み込む。

和臣に交際相手がいないことを確認して
「じゃあ 私達 付き合ってみませんか?」と提案する。
その理由は「だって… だって乾(いぬい・和臣の名字)くん 私の事 好きじゃないですか?」。

だが和臣の返答は
「…ごめんなさい 俺 山本(やまもと・朱里の名字)さんの事
 その… 好きとかじゃないから」

こうして朱里が好きな仕掛け合いを楽しむような恋愛は初手から崩れ去っていく。
両片想いなのに 何がいけなかったのか、その答え合わせは物語の後半に語られる。

そしてこの時の和臣の腕は、自分の癖を押さえつけているように見えるが…。

いつでも逆境に対して機転を利かせられる朱里は、
失恋後も明るく振る舞い、浴衣のシミを理由に、夏祭りから退散する。

そんな朱里が背中を向け、見えなくなった頃、和臣はまた同じ台詞を吐く。
「ごめん 俺 山本さんの事…好きじゃない」。
今度は鼻をこすりながら。

ここで初めて和臣の これまでの行動の理由が明かされる。
それは和臣が、あの『3巻』ラストの雨の日、理央が思わず朱里にキスした場面を、目撃していたから。

「自分の気持ちに気づいた瞬間 消さなきゃって思った」
「理央の好きな人を 好きにはならない」

だから、『3巻』以降、理央は朱里との接触を意識的に避けていたし、
特に理央がいる前では、朱里に全く興味のないふりをしなければならなかった。

だから天真爛漫な小学生男子であった和臣が、「演技」をする必要性が出てきた。
ただ、家族団らんのためという悲壮な覚悟を持っていた朱里や理央とは違い、
「小学生」の和臣の演技は学芸会レベルなのだろう。
その棒演技は、朱里に何度も気づかれそうになる。

だが、朱里の今回のアプローチは和臣の演技を崩せなかった。
きっと彼女は和臣の演技プランが崩壊するぐらい、
彼の頭が真っ白になるような言葉を彼にぶつけなくてはならなかったのだろう。


んな夏祭りを経て、心機一転の新学期。

朱里は和臣と気まずくならないように明るい対応を試みる。
少し引き締まって見える和臣は最近ランニングしているらしい。

これは煩悩を振り払うためでもあった。
理央が朱里を ずっと好きだと思っている和臣は、
動けない理央とフェアでいるために自分も動かない。
だから、自分がランニングをして動きまくることで その熱量を消費しているらしい。

和臣は なんだか ややこしい友情理論を持ち出している。
抜けがけは無しだよ、変なルールで縛り合う女性同士のようである。


だが運命のイタズラが2人の距離を離させはしない。
文化祭での担当が同じになり、会話をせざるを得ない。

朱里は現状を打破するためにも借りていた映画を返しに行く。
が、自宅前で普段はいない和臣の兄に会ったことから始まる偶然が重なり、
朱里は和臣の部屋で彼と一緒にベッドに倒れ込んでしまう。

しかも和臣は裸(上半身)。
引き締まったという肉体をこれでもかというぐらい披露しております。
彼のランニングが習慣化は、このシーンのため、と言えなくもない。

そういえば朱里は以前も入浴前の理央の脱衣を見てましたね。
もしやラッキースケベ体質なのかも。