《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼の命を三度も助けた私こそが本書のヒーロー。今度は私が「先回り」する番。

恋*音(4) (フラワーコミックス)
宇佐美 真紀(うさみ まき)
恋*音(こいおと)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ついに恋人同士として結ばれようとする苺(いちご)と光輝(こうき)だったが、その最中(さなか)、偶然目にした1枚の写真に光輝は動揺し、気を失ってしまう。そして苺は、光輝の壮絶な過去を知る。それでも光輝を愛そうとする苺だったが…!?

簡潔完結感想文

  • トラウマ発動。近づきすぎると お互いが不幸に巻き込まれてしまうのか?
  • 本当の両想い。彼の過去も全部まとめて受けとめて 私たちは幸せになる。
  • 恋愛イベントは終了。だが過去を綺麗に清算するための最後の戦いが開幕。

と夏の経験で、大量の経験値を獲得してレベル急上昇のヒロイン、の 4巻。

出会いからは1年が経過しているが、
交際して3ヶ月余で全ての恋愛イベントを達成してしまった2人。

やや駆け足で、高校1年生の前半に恋愛イベントが多すぎだが、
最初の出会いを中学3年生にしないと、その後に会えない期間や、
そして高校入学での再会といった場面が描けないから仕方がない。

そして本書では身体を重ねることが、
ヒーローの光輝(こうき)のトラウマ解消と繋がっているので、
早く達成しないと、ヒロイン・苺(いちご)が いつまでも少し くるった光輝と交際しなければならない。

彼らに本当の幸せを獲得させるためには、決められた日に行動させなくては ならなかった。
この機会を逃すと、次は丸1年待つことになるし。

私が好感を持ったのは、展開こそ駆け足だが、
ちゃんと押さえるべきポイントは押さえている部分である。

起こる出来事がしっかりと整理されており、
2人が身体を重ねる場面も、若さ ゆえの性衝動として描くのではなく、
ちゃんと2人が親と適切な距離を取って、子供から2人の大人の男女へと精神的な成長を描いてから始まる。

こういう点を、10巻、20巻と物語を描き続けても描けない人もいる中で、
作者は5巻の中で、しっかりと描き込んでいるから尊敬してしまう。
メインの2人は勿論、彼らを大事に思う人々の心まで しっかり描き込まれていて作品に奥行きが出ている。

絵本のように、可愛らしい絵柄なんだけど、何度も読んで 何度も新しい発見が出来そうな作品。
やっぱり作者のこと好きです。


体を重ねるために忍び込んだ大河の家のクルーザー。
だが、その船内の棚から光輝の母親らしき人の写真が出たことで、光輝のトラウマが発動してしまう。
パニック状態で意識を失った光輝は病院に運ばれる…。

病院内で光輝の過去を知るイトコ・大河(たいが)から、光輝と彼の母にまつわる過去を聞く苺。
本来これは、光輝の口から語られる内容だったが、
2人とも身体を重ねることを優先したために、ここで知ることとなる。

光輝が倒れたことで、物事の順番が正しく戻ったといえる。
きっと光輝の過去を知る前に性行為に及んだら、
苺は彼の全てを受け入れたとはいえず、光輝はトラウマを払拭できなかっただろう。

身寄りのなくなった幼い光輝を迎え入れた大河の家。
どういう血縁関係か分からないが、内容からすると、
光輝の父親と、大河の両親のどちらかが兄弟であると推察なのかな。
経済的余裕に加え、精神的な余裕がある大河の家族だから、光輝はトラウマ以外に曲がらずに育った。
これは不幸な光輝の中での最大の幸福だろう。
大河も含め、誰も新しい家族を邪険にしなかった。
そこだけで感動してしまう。

光輝はトラウマの原因となる母の写真を破ることで、
母を「おばけ」として記憶を整理して、その後に感情を取り戻した。

大河が苺を敵視するのは、光輝に近づけば苺も苦労するから。
半端な覚悟では一緒にいない方が苺にとって幸せだと彼は苺を邪険にした。
それは大河なりの気の遣い方だったと言える。

離れることを勧められて沈黙してしまう苺。
それを廊下の影で聞いていた光輝。
苺が答えないことが、彼にとって答えになってしまったのだ…。


うして光輝は失踪する。
これは苺のために身を引くことを選んだのだろう。

そんな光輝の精神状態を心配した苺の父は、光輝との距離を取るように娘に諭す。
だが苺は、今 一番悲しんでいる光輝から離れたくないと泣いて訴える。
飽くまでも彼のことを想い、最優先にする姿勢は、距離を置かせようとする男性たちの心にも響く。

苺は光輝が、1年前の出会いの海にいると直感する。
またも満月に魅入られて、歩き出そうとする光輝。

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一度は海で殺されかけた光輝。だが今度は この海で彼は人の命を助け、その人の温かさに包まれる。

この場面、苺が現れてからも光輝は一度 背を向けている。
もし苺が海に落ちずにいたら、光輝は苺に触れることなく、海に入っていったかもしれない。
海に落ちたことすら運命的だ。

心根の優しさでヒーロー的な行動をする光輝は苺を助ける。
そうして彼との距離がゼロになった苺は、光輝の首に手を回し、放さないことを約束する。

それは確かな愛情表現。
幼い頃に母に首を絞められた手だけれど、苺はその小さい体と その手で光輝を包んでくれた。
こうして苺は光輝を3度 助けた。
彼女こそ本当のヒーローである。


れが光輝に変化させた。
病院に戻った途端に苺は疲労で眠ってしまい、光輝が自分の使っていたベッドへ運ぶ。
その時に穏やかな表情、そして苺への父親への挨拶で、父は光輝とのことに介入しないことを決める

これで2人は親との適切な距離を取ることとなる。
そして1人の人間として行動する。
精神的にはもう子供ではなく、大人の男女。
だから次の展開になるのかな。


翌日、すっかり回復した苺は大河の家の別荘に足を踏み入れる。
そこで交わされたのは光輝の過去の会話。
昨日し損なった話の続き。

この会話が光 溢れる日中に交わされることが重要なのだろう。
夜に魅入られる光輝では話しながら きっと心の平衡を失う。

光輝は 幼かった あの日、母に海の中で首を絞められた。
そして気が付いたら家の中にいて、また気が付いたら病院だったという。
母親は光輝がこの1年で2回足を踏み入れたあの岩場で身を投げて死んだという。

話の後、2人は手を繋ぎ、おでこを合わせ、そして唇に触れ、身体を重ねる。

これも日中だから意味があるはず。
光輝が光輝として正気を保ったまま、苺の心身に触れられる。

そして事後は2人とも穏やかに眠ってしまい夜になっていた。
朝チュンならぬ夜シーンで、音もない中 目が覚める光輝。
そうして満たされた光輝は、もう月を見ても魅入られたりしなかった…。

光輝が心から愛する人が出来たという場面が肉体関係なのでしょう。
今回も別荘の自分の部屋という私的なテリトリーに苺を招き、
そして充足感の中で、愛する人の隣で安眠する。

あの日から感情を失くした彼が少しずつ回復して、そして人を愛するというまでを知ったのだ。


翌日、光輝の母親の遺体はないので、彼の父親が納まるお墓にお参りをする苺。
これは苺側の相手の親への挨拶ですね。もう結婚一直線ですね。


して迎える新学期。
人として恋人として大きな山を越えた2人は更に甘々な生活に。

ラブラブな描写以外に目を引くのが、光輝は学校生活を楽しみだしたこと。
文化祭のアイデアを積極的に考えたりするのは、彼が人生を前向きに捉えだしたからだろう。

また苺の成長も目を見張るものがある。
文化祭で中学の同級生たちが遊びに来た苺。
彼らは ちょっとした有名人である光輝の噂を知っていて、苺が遊ばれているのではと心配する。
だが、今の苺は過去の光輝の精神状態も行動や噂も含めて、光輝との交際をしていると高らかに宣言した。

こうして交際後に悩まされる問題も一気に解決している。
光輝の場合は自分以外には絶対に本気じゃなかったと分かるから、どんな過去も苺は受け入れられるのだろう。

光輝の牽制もあって、2人の愛のパワーは周囲を圧倒し、誰も苺に因縁をつけたりせず穏やかな日々となる。

この文化祭回では何気に苺が中学時代から好意を寄せられているらしき描写が面白い。
『1巻』登場の剣道部のイケメン先輩といい、何気に無自覚にモテ続けている人生なのでは?

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光輝の言葉はもちろん、こんな彼の笑顔を見られることにキュンキュンしてしまう。

去を認め、そして未来志向となった2人を待ち受ける最後の問題。
町で光輝の母親の写真とよく似た女性を見かけた苺。
そこから母親に関する情報が苺に集まり続ける。

光輝が住む大河の家に遊びに来ていた苺は、
大河と その母が光輝の母親の写真の処分について話しているのを耳にする。
どうやら大河は光輝に過去を思い出させないように捨てようとしているらしい。
これも大河なりの光輝への優しい先回りだろう。

苺はその前に光輝の母の写真を見せてもらい、大河と彼女について話をする。

この時、苺が機転を利かせて、光輝に黙って行動するところに苺の成長を見る。
先回りして、相手のための行動をする。
相手が喜ぶことを用意したり、逆に悲しみを排除したり、相手のことを思っての行動が苺にも出来ている。


節は早足で過ぎて、クリスマスデートの日。
しかし事前準備を整え楽しみにしていた苺は風邪を引いてしまい、デートは中止で風邪回となる。

光輝は看病グッズを買い揃えるが、意外にも不器用なようでリンゴが上手く剥けない。

この風邪回の目的は、イチャラブ看病ではなく、苺と祖母を再会させるため。
光輝が住んでいた家と ご近所の祖母は、光輝の母に関する噂を聞いていた。
その噂は光輝の母が静岡の食堂で働いていたというもの。

この可能性について、苺は自分がどう動くべきなのか悩むのだが…。