《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

経験豊富・イジワル・トラウマ、ヒーロー三原則が交互に顔を出す読者好みの胸キュン男子。

恋*音(1) (フラワーコミックス)
宇佐美 真紀(うさみ まき)
恋*音(こいおと)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

聞きたいことはいっぱいあった。どうしてあの日、流星を見にきてくれたのか。どうしてあの日、夜の海に入って行こうとしたのか。でもあれ以来、キミに会うことはなかった。そして出会ったことさえ夢に思えてきた頃、またキミに――会った。初めての恋があたしをさらってゆく…。

簡潔完結感想文

  • 夏の海での出会い。なのに春の再会では全てリセット。あれは夏の夜の夢?
  • 近いようで一番 遠い彼。だけどピンチにはヒーローの役割を果たしてくれる。
  • ヒロインもまた彼のピンチに いつも現れる。展開が早くて次は お泊り回!?

が導いてくれた出会いと再会、の 1巻。

時系列的には次の長編となる『ココロ・ボタン』が好印象だった宇佐美さん。
今回は1つ作品をさかのぼっての読書となりました。

男女の関係性は『ココロ』と似たような感じ。
ヒロインは一生懸命で、ヒーローは そんな彼女をイジったりイジワルをたりすることで可愛さを満喫する。

こういうヒーロー像は作者ならではの軽やかさだと思う。
いくえみ綾さんの「いくえみ男子」ならぬ「宇佐美男子」として世に広まって欲しい。
自然なキャラ付けで私はとても好感を持つ。

ただ本書は最初からヒーロー側にトラウマが予感され、全体的な雰囲気は冷たく暗め。
今作のヒーロー・羽原 光輝(はばら こうき)は3つの人格を有している。

それがタイトルにも書いた、
女性との交際経験が豊富なプレイボーイ、
そして主人公の思考を先回りして助けたりイジワルをするヒーロー性、
最後が限られた人しか知らない彼の中のトラウマ。

その時々によって見せる顔が違って、
主人公の三森 苺(みもり いちご)と同様に、
いつも彼の姿を追ってしまって、いつの間にか彼に惹きつけられてしまう。

本書は全5巻で、その中で1組のカップルの描写に専念している点が好印象だった。
登場する何人かはヒロインに恋する当て馬役になることも出来たと思うが、
普通よりは やや運命的な恋を描く本書には他の人の恋は不必要なのかな、とも思う。
その分、もっと活躍している場面をみたいキャラもいたが。
しかし描きたいことを過不足なく描き切った作品なのではないだろうか。

未読の長編はまだあるので「宇佐美男子」を これからも堪能したいと思います。

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人を からかえるのは、相手よりも思考の速度が速いから。イジワル男子はもれなく賢い、はず。

学3年生の夏休み、祖母の家の犬を散歩中に犬が岩場に走って行ってしまった。
夜の海で出会った1人の少年。
外見のキレイな男の子だったが、口から出る言葉は意地悪な人。

第一印象は最悪だったが、翌日に また再会する。
昼の海辺で会う彼は明るく、社交的だった。
だが、その人は昨夜のことを彼の連れには黙っていて欲しいと告げる。

第1話から宇佐美作品の男女の良さが出てますね。

男性は頭の回転が速く、機転が利く。
人の一手先を読めるので、人助けも出来るし、意地悪も出来る。
さらに この光輝は少し闇や秘密の匂いがする。

女性は、単純だけど優しくて、人の為に行動できる人。
彼女自身のこととしては、母親を5年ほど前に亡くしていることが発覚する。
光輝もまた母親がおらず、顔も思い出せないという。
その時の光輝の表情から、この問題は うかつには触れられないと分かる。

もう一人 その夏に出会ったのが大河(たいが)。
光輝のイトコで、どうやら彼のお目付け役みたいなポジション。

その大河から、光輝がいないことを知らされた苺は、最初の出会いになった岩場に向かう。
そこには満月の海に歩き出す光輝の姿があった。

苺は自分の危険を顧みず海に分け入り、光輝を引き留め、彼を正気を戻させた。
光輝にとって苺は間違いなく命の恩人だろう。
そして ここから苺が光輝を現世に留めておく錨(いかり)となるのではないか。

この後に光輝はヒーローらしい活躍をしますが、
まず苺の方が光輝の命を救うという最大のヒーロー的な役割をしているのが特徴だろう。
2人は互いに助け合いながら人生を歩んでいく。
そんな予感がする1話であった。

でも細かいことを言えば、満月の日に流星群を見るのは条件としては良くないと思うが…。
ちなみに1話の雑誌の掲載は8月号で、リアルタイム読者は季節も共有して一層の没入感が得られたのではないか。

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夜の海では様子のおかしい光輝。苺は身体を張って彼が海に還るのを防ごうとする。

かし その日を境に祖母宅のある海辺の町で光輝たちと再会することはなかった。
しかし半年後、高校に進学した苺の目の前に、光輝と大河が現れた。
これは運命の再会!!
まるで夢のような出会いは、本当に夢だったのかもしれない。
そう思うほど、光輝は苺のことを全く覚えていないという。

そして光輝と同じクラスになったことで彼の困った一面も見る。
女性に対して優しいが、本気にならない。
いわゆるプレイボーイのような存在。

そして大河にも、光輝に関わらないほうがいいと釘を刺される。
どうやら光輝は大河を言い含めて、あの夏の出来事自体を無かったことにしようとしているらしいが…。


そんな事態を変えたのが、苺がクラスメイトからされた意地悪。
宇佐美男子は、自分はイジワルするが、誰かが意地悪することを許さないという特徴がある。
これは自分の行動が苺に類が及んだ、という光輝が自分の責任を感じている部分もあるだろう。

少女漫画における新入生オリエンテーションにはトラブルが付き物。
特に山の中に入ったら怪我や遭難は当たり前。

本書の場合は出発前に、苺が意地悪をされて一人だけ山の中での集合だと勘違いさせられる。
光輝に冷たくされ、クラスメイトにも騙され、さらに泣きっ面に蜂で、雨にも降られる。

そんな 苺のどん底から救うのはヒーロー。
光輝が雨の中を自転車で苺のもとに駆け付けてくれた。
自電車で山道を登る、というのが光輝の必死さや困難を掻き分ける感じが出てますね。
(帰り道の濡れた路面を2人乗りで駆け下りるのにはヒヤヒヤしたが)

改めて2人きりで話しをして、光輝は自分にとっても あの夏が特別であることを告げる。
山での再会は、2人の時間をあの夏から動かすことになった。

また、大雑把に言えば、水が2人を引き寄せたと言える。
今後も2人のイベントには水が関係するだろうか。

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自分が濡れることも構わずに ただその人を助ける。これは あの夏の海での苺の行動と同じ。

オリエンテーションの日、光輝は苺を救ってすぐに自分は帰宅したらしい。
これは苺を助けたヒーロー行為が周囲にバレると、苺へのやっかみが更に増すからだろう。
こういう視野の広さや配慮が、宇佐美男子っぽくて好き。

だが、その結果、オリエンテーション遅刻と早退扱いとなった苺と光輝は一緒の罰清掃が命じられる
一緒に過ごす時間で、光輝の格好良い所、そして短所を知っていく苺。
中でも光輝は、人に対して決定的に冷淡なところがあり、苺に対しても再び突き放す。

それでも苺は自分に好意を寄せてくれる学校でも人気の先輩より、光輝に惹かれる自分に気づく。
またも光輝に助けてもらい、彼に身体を寄せた自分の中をかけめぐるのは恋の音だった…。

比較対象として出てきた先輩も良い人そうでしたけどね。
もっと長編化したら中盤で もう一度 登場して再アタックして、再び玉砕して欲しいなぁ(笑)


んな中、苺の祖母が数か月前に光輝が落とした鍵を あの海岸で拾う。
祖母もまた、孫からの頼みごとをしっかりと遂行しているところが良いですね。
苺の母が亡くなり、義理の親子となった苺の祖母と父がしっかり交流を続けている点も優しさが溢れている。

この鍵は、光輝が昔 住んでいた家の鍵。
そして光輝の封印している過去を開く鍵でもある。

この鍵に関しての情報を、光輝は大河に全て秘匿したがる。
鍵の存在を知った大河の追及に対しても、苺は黙秘し続けるし、光輝は珍しく声を荒げる。
険悪で剣呑な雰囲気になりそうな時に、学校内にチャイムが鳴り響き、論議は中断。

それによって一時休戦となったが、光輝は大河の言いつけを無視して、学校をサボる。
外から光が差し込む校舎から出て行く光輝の後ろ姿は、あの夏、月の輝く海へ入水する光輝の姿と重なってみえるようだ。


は光輝を尾行し、彼の行き先が彼と出会った海沿いの町だということを察する。
だが尾行はバレ、苺は発車間際の電車内に押し返される。

そうして光輝は1人で その町を探索する。
そこでフラッシュバックしたと思われる数々の幼い頃の記憶。
泣き喚く自分、そして海へと続く記憶。
その記憶によって彼が向こう側の世界に引っ張られる直前に、苺が彼を探し出す。
これは物理的に引っ張った昨年の夏の海に続く、現世への錨だろう。

光輝と最初に会った時にもいた祖母の飼い犬のお陰で光輝を見つけ出せた。
このために祖母の家には犬が必然だったのでしょう。
(その犬が匂いを辿ったとしても、光輝の匂いを知らないと思うが)。

またも別人のように優しく冷静に自分を拒絶する光輝に向かって、苺は好きだから心配していると告白をする。

だが光輝は かつての自分を知るこの町の住人との会話の途中で逃亡する。
が、苺は また飼い犬のお陰で再会。

光輝は心に扉を作り、自分の内側に苺が入ってくることを全身で拒絶する。
その言葉に従い、苺が踵を返す時、彼の手が苺の手に伸ばされる。

「ごめん やっぱり もう少しだけ一緒にいて」

光輝が苺にそう語りかけるのは、自分と似た匂いを感じ取ったからか。
苺の告白に、これまでの女性とは違う温かさがあったからか。
はたまた大事な人を亡くしている共通点があるからなのか。

光輝の心はまだ解明されない。
だが2人の心の距離は確実に近づいている。
『1巻』でお話が ここまで進むとは予想外の速度。
1話も魅力的だし、1巻の終わり方も気になる。
どんどん先に引き込まれてしまう。