清野 静流(せいの しずる)
純愛特攻隊長!(じゅんあいとっこうたいちょう!)
第10巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
千笑(ちえみ)への想いを自覚した立花(たちばな)は、本気で千笑をデートに誘う。そんな立花に歪んだ愛情を寄せる幼なじみの繁(しげる)は、金でやとった男たちを使い、千笑たちを襲わせた! 大事に至らなかったうえに、立花のことを振ってしまった千笑にますます憎しみを募らせる繁は、ついに千笑を監禁!? 危険を感じた立花と平田(ひらた)は、救出に向かうが!?
簡潔完結感想文
- 立花が どれだけ自分を守ってくれても、千笑のヒーローは あの人 1人だけ。
- 千笑の重大危機に際して 初めてヒーロー・平田が動き出せる状況が整う。
- そして屋上へ。人を縛ろうとする人は簡単に死のうとする。またも再放送。
探偵は事件を未然に防げないし、ヒーローは最後に登場する、の 10巻。
この『10巻』で『6巻』から続いた一連の事件の黒幕が発覚する。
事件は二段構えになっており、首謀者と目されていた人物は実は傀儡だった。
もしかしたら そういう物語の構成になっているから、
本来のヒーロー・平田(ひらた)は立花(たちばな)の手の内で踊る千笑(ちえみ)を救うことなく、
むしろ千笑と距離を置いたのだろう。
以前も書いたが強く正しすぎるヒーローの平田は、物事をすぐに解決してしまう。
それでは長編の巻数が稼げないために、立花という実行犯を最初に動かし、
立花が敵の本丸ではないため宿命的に彼と対決できない状況を作り、平田を物事から遠ざける。
そして真の敵が明らかになった所で、平田は動き出し、千笑の救出に向かうことが可能になった。
今回は、平田の足踏みの間に、千笑と平田を別れさせ、
ヒーロー側の苦悩を描くことにも成功している。
この流れの中で2人の分かれの原因に平田の未熟さもあった、ということで、
責任を2人で折半するような感じになっているが、私は それには納得できなかった。
結論を性急に出したという点では平田にも悪い部分があっただろうが、
実際、嘘をついたり、男と2人きりで遊んだりしたのは千笑であって、
そういう彼女に振り回されたくないと思い、自分を優先するのは当然であろう。
お互い未熟だったから好きだったのに別れた、という状況にしたいがために、
平田に反省させる描写ばかりを続けたことには違和感がある。
物語の構成上、平田を後退させる必要があるのは分かったが、
喧嘩両成敗的な作品の運びには疑問を持たざるを得ない。
そして千笑も、黒幕の登場の前に自分の気持ちを整理しなくてはならなかった。
立花が誘ったデートの待ち合わせに現れたが、
彼の告白に対して、しっかりとNOを突きつける。
この時の千笑は、完全に立花をいい人として扱っているけど、別れる一因はコイツな訳だし、
こんなに良い人の告白に応えられないことに涙ぐんでる、完全にヒロインぶる千笑にも共感できない。
立花は その前に黒幕が送り込んだ刺客に対して、
身を挺して千笑を助けるというヒーロー的な行動をしている。
これは彼に与えられた最後のアピールチャンスであったが、
やはり正式なヒーローではないので、千笑の心を打つことは出来なかった。
こうして立花が敵ではなくなってから、黒幕の繁(しげる)が物語に登場する。
繁は、千笑や平田に個人的な感情は全く無い。
ただ今回、千笑が立花を真っ当な人間に改心させ、立花の心が満たされてしまうことに危機感を覚えた。
繁には幼なじみの立花がいれば良かった。
家庭環境・家族関係に恵まれず、ずっと空虚だった立花。
繁は そんな彼の心を適当に埋め、そして満たすことを自分の存在意義としている。
そうすることで繁は立花の存在で自分の暗い人生の中で求められ必要とされる喜びを知った。
2人だけの永遠が欲しかったのに、立花は自分から離れようとしている。
ただ これまでの行動から考えるに、繁の立花への偏執的な友情は、歪んだ羨望でもあるような気がする。
繁は貧しくガサツな家庭の中で育った。
家族もクラスメイトたちも自分を否定する中で、立花だけが自分を認めてくれた。
立花は繁の温かい家庭を羨ましく思っていたかもしれないが、
繁からしたら、立花も自分が望むような人間関係の構築、明るい性格、そして金銭的な充足が羨ましかったはず。
事実、繁が高層マンションに住む立花の家のベランダから景色をずっと眺めているのも、
自分が偉くなったと錯覚できるからではないだろうか。
繁もまた、自分のコンプレックスを埋めてくれる、現実的な悩みを考えないようにできる立花を利用しているだけではないか。
彼は立花を自分の手のひらに置いておきたい、そしてコントロールしてると思っているが、
その裏では誰よりも立花が離れていく恐怖と戦っているはずだ。
立花との関係が終わった時に残るのは、惨めな自分(と周囲)だろう。
下界の人々の悩みから解放される場所が、上流階級の立花と一緒にいると得られる。
何度も絵に描いて憧れていた鳥の、その高みの視点を失うことが繁は怖いのではないか。
そうして自分の暗い欲望のため、繁は放課後 千笑が一人になった時に、彼女を襲い気を失わせる。
千笑が連れてこられたのは、繁がアトリエとして使っている廃墟。
目を覚ました時には辺りは暗くなり、友人たちは待ち合わせに現れない千笑を心配していた。
行方不明になった千笑を探す由香里(ゆかり)たちは、平田のもとに行く。
こうして千笑のピンチにヒーローの平田のお出ましとなる。
千笑を心配する平田も必死で立花のマンションを探し、汗にまみれながら彼と対峙する。
立花は平田を挑発するが、平田に迷いはない。
こうして2人が復縁する布石が打たれました。
千笑を誘拐する人物に頭を巡らせていた立花は、やがて自分の後ろに いつも繁がいたことに気づく。
こうして真の敵を理解した、千笑を慕う男性2人は敵地へと乗り込む。
特撮ヒーローなら、ここで初めて変身するのだろう。
2人の男性が辿り着いたのは繁が勝手にアトリエにしている廃墟。
一足先に繁のもとに駆け寄るのは立花だった。
そこで彼は幼なじみの歪んだ友情を思い知らされる。
いつぞやの倉森(くらもり)のように静かにくるっていた繁は、やがて千笑に刃物を向ける。
千笑が刃物を向けられた時に現れるのがヒーロー。
ど派手な登場で、この編で一番 傷つきながら現れた平田。
繁は3対1と分が悪くなったからか、平田とは対決せずに逃走する。
彼が向かったのは、その廃墟の屋上。
本書における、屋上は物事の終了の合図です。
屋上に関係者が揃ったことで、事態はクライマックスを迎える。
ここも倉森編(『3巻』~)と全く同じです。
しかも倉森といい繁といい、千笑に刃物を見せて危害を加えて(あわよくば殺害しようとして)は、
それが破綻すると、今度は自殺をしようとする展開の安直さが苦手です。
作者の中で屋上はお約束の場面かもしれないが、
自分の思い通りにならない事態になったら、命を絶って清算しようという未成年の弱い心ばかりを利用している。
以前も書いたが、刃物や屋上からの転落は「死」という最大の見せ場なんだろうけど、
こういう極端な解決法に走ることで、読者にも悪影響がでないか心配になる。
そして そもそもが読者が本書で読みたいのはそんな話ではないのだ。
実行犯の性別を変えただけで同じ話を連発するような展開にも辟易。
二段構えの構成は面白かったが、いかんせん話が長すぎる。
ちなみに、監禁場所が廃墟だったのは運が良ければ死なない程度の高さの屋上があるからだろう。
立花の住むマンション(地上37階以上)じゃ、シャレになりませんからね。