《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

突然 現れた運命の人の呪いを解くために主人公が頑張るラブコメ。それって前作と同じじゃ…。

めるぷり メルヘン☆プリンス 1 (花とゆめコミックス)
樋野 まつり(ひの まつり)
めるぷり メルヘン☆プリンス
第01巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

素敵な恋を夢みる愛理は迷子の少年アラムと出会う。そして幼い彼の面倒を見るが、実はアラムは魔法王国の王子様!とある魔法をかけられた彼は、一晩明けると大きく成長していて…!? 乙女VS王子様ラヴリーロマンス★

簡潔完結感想文

  • 鏡の中から現れたのは王子様(7歳)。彼の「呪い」を解くのは乙女のキス⁉
  • 大人びた精神と、大人になる肉体があれば、恋に年齢なんて関係ありません!
  • カタカナ固有名詞と説明過多の文字量と鬱陶しい前髪で内容が頭に入らない。

れは少女漫画界の『メルモちゃん』『らんま1/2』や~!の 1巻。

本書は特異体質ラブコメ、というジャンルなのだろうか。
コメディゆえに、本筋がどこかにあるのか見当がつかない。
『1巻』収録の5話分の連載だけでも3人(+1人)のイケメンキャラが続々と登場する。
個性的なキャラを増やし続けるのは、白泉社の手法であるが、
同居ラブコメ、学園ラブコメ異世界ブコメと、
最後まで舞台が安定しないから、どう楽しんでいいのか分からないまま終わった。

もしかして本書は逆コナンなのか⁉
コナン君は見た目は子供、頭脳は大人だったが、
本書のヒーロー・アラムの場合は、見た目は大人(になることもある)、頭脳は子供である。
蘭(らん)ねーちゃん ならぬ 愛理(あいり)ねーちゃんのピンチには、
変身して大人の姿になって、白馬の王子様になる。

いや、前作『とらわれの身の上』に続く、呪いモノだろうか。
主人公には恋人となる相手と過去から因縁があるなど、ストーリー的にも類似点が多い。
呪い(本書の場合 魔法だが)を解くまで主人公は その呪いに振り回されて、平穏な日常は音を立てて崩れていく。
呪解のために呪いの本場に乗り込んだり、運命に翻弄されたり、と自作の中で既視感を覚える。

出版順は逆だが、この数年後、山田南平さん の『紅茶王子』を読んでみると本書を連想した。
小さい時の大きさこそ違えど、異世界から召喚する様子など類似点が多い。当時、批判されたり しなかったのだろうか。
こういうのは最初は小さいと思っていた対象に、いつしか異性としての恋心が芽生えるという推移を楽しむジャンルなのだろうか。

ただ こういうファンタジーが作者は好きなんだろう ということだけは伝わる。
ただ この作品を世界で一番 愛しているのが作者だということも伝わる。
その圧の強さに、読者は たじろいでしまうほど。
絶大な熱量を注ぎ込んでいるの分かるが、それによって客観性やプロ視点が失われている気がする。

絵は本当に素晴らしく、いつか本編の内容とリンクした傑作が出来ることを祈る。

高貴な人は名前が長い。この世界にはアラムの本名を暗唱できる人が少なからず いるんだろうなぁ…。

書の内容はバラエティに富んでいるが、落ち着かない。
これは読者の反応を見ながら、受けそうな題材を探していたのか、
それとも構想は最初から こういう形態で、 描きたいものを詰め込むことにしたのだろうか。

本書を一言でいえば、取っ散らかってる、である。

作者の物語への熱量、筆力は多分に感じるが、
それが読者の心を揺るがすか、というとイコールにならないのが漫画の難しいところ。

ブコメのヒット作は笑いの中にも恋愛要素をしっかりと組みこんでいるが、
本書の場合、読者がどこに足場を置けばいいのか分からないから困る。

最初に例に出した高橋留美子さん『らんま1/2』ならば主人公は男性という基本形があって、
純粋な男性に戻るための努力の日々の中で、ヒロインとの恋が少しずつ盛り込まれていた。

しかし本書の場合、変身ヒーローであるアラムの基本形は7歳の少年なのである。
その少年・アラムが完全な闇の中では肉体が成長し、17歳(?)の青年になるというのが、本書の呪い(魔法)。

いくらアラムが成長し、主人公の15歳の星名 愛理(ほしな あいり)を助ける際は、
だいたいアラムは大人バージョンになっているとはいえ、7歳の少年との恋愛に共感できるところは少なすぎる。
基本形7歳の少年の幼気(いたいけ)な恋愛模様を楽しめばいいのだろうか。

それとも世間一般の女性というのは、愚直に自分を愛してくれる人であれば、その人の年齢は関係ないのだろうか。
自分が頭が固いのか、守備範囲が狭いのかと悩んでしまう。

ラブにおいても、コメディにおいても 最初から ついていけない内容で、
主人公がキャーキャー言いながら、男性たちに暴力を振るう様子を冷たい眼で見ているしか出来なかった。

逆ハーレムモノとして もっと気軽に楽しめばいいのだろうか。
それにしては、読むのが疲れる紙面と内容なのである。

暗闇が少年を大人にする。そして大人になると服が破れる、男版キューティハニーのアラム。

書における「変身」は胸キュンの装置でもある。

少年の姿のアラムは弟のような存在で、お風呂も一緒に入れたが、
青年の姿のアラムは完全に異性で、その関係には性の匂いが漂ってしまう。

無邪気に一緒に遊んでいたアラムが、その無邪気さ故に愛理への愛を率直に語る。

たとえば愛理が昔 交際を断った男性が、プライドを守るために彼女に悪口をぶつけてきた際も、
アラムが後ろから現れることで、その圧倒的な美貌で相手の口を塞ぐ。
連れの男性の容姿が優れていることで承認欲求が満たされない人はいないだろう。

また愛理が結婚してもいいとさえ思ったクラスの人気者の男性に対しても、
アラムは その無邪気さで独占欲を隠さず、彼女を男から引き離す。

誰に対しても引けを取らない勇気と行動、そして それを行っているのが7歳の少年だというギャップがある。

アラムによって愛理の日常は奪われた。
そして彼によって日常はトラブルに まみれた。
しかし そのトラブルから救ってくれるのもアラムで、
その非日常は これまで感じなかったドキドキを愛理の胸に届ける。

毎日が吊り橋を渡るような行為の連続で、
その「吊り橋効果」の中でアラムが横にいてくれるのだから、胸キュンは必至なのである。

自分を好きだと言ってくれる男性たちに振り回されるヒロイン。うん、メルヘン☆メルヘン。

作『とらわれの身の上』でも思ったが、
作者って特異な設定の創出は得意だけど、連載が下手なのではないかという疑惑が湧いてくる。
次作『ヴァンパイア騎士』が単行本換算で19巻も続いたのだから、それはないか。

読切短編から連載化した前作における つぎはぎ感が仕方ないと思えたが、
当初から連載を予定していただろう本書まで、新キャラと舞台設定の変更で乗り切っていることが残念だ。

最初から全精力をもって、王子たちの登場を連発している。
『1巻』でも2人の本物の王子と、1人の学園の王子、そしてお付きのイケメンと、5話で4キャラも登場している。
登場キャラ数は間違いなく出版社別でナンバー1の白泉社作品だから、キャラ数の増加は仕方ない部分もあるが。

物語がどこで終わっても大丈夫な構造なのも、長編好きとしては物足りない。
例えば1巻分5話で連載が打ち切られても何の問題もない。
呪いの解決は全くされていないが、お陰で しばらく一緒に過ごせました(完)となっても全く変じゃない。

物語の縦糸として設定されている呪いについても、解けなくてもあんまり問題がないのが問題だ。
もうちょっと物語のゴールを予感させる伏線を張って欲しかった。


回から固有名詞連発で、設定だけは過剰なことが分かる。
その割に、内容は呪いと それを解く「伝説の乙女のキス」という至極単純なものだから チグハグさを感じる。

説明台詞は文字量が異常に多く読みにくい。
本編に関係のない設定は自分の心にとどめ、スッキリした紙面を目指して欲しい。
1/4スペースなど作者の考えた設定の数々が載せられているが、
その数々が物語に深みをもたらしているかというと、甚だ疑問である。

約20年も前(2002年連載開始)の作品なので、2021年とは漫画の作り方が違うのだろうが、目に うるさい。
あと男性キャラを並べて、全員の前髪を切りたい衝動に駆られます。

私は本当にカタカナ語が苦手だと思い知らされた。
登場人物が誰が誰だか全く覚えられないのだ。

全体的に男性の顔が似ているという作者の問題もあるが、
顔と名前が 自分でも驚くほど結びつかないのは私の問題だろう。


なみに主人公は実質1人暮らしである。

両親は海外出張中(というか海外在住)で、自宅の1階には祖父母が住んでいる。
だが、祖父母は2階に住む愛理に不干渉を貫く。
愛理の肉親は最後まで顔を出さない。

だからこそアラムや他の者が愛理の家に来ても騒動にならないのだが。

しかも一層 祖父母を家から排斥するためか、途中で世界一周旅行に出る始末。
15歳の高校生とはいえ、ネグレクトに近いのではないかという環境である。

騒がしくなる家から人を排除する目的もあるだろうが、
現実世界での愛理と親族との関係の希薄さは、物語の結末に必要だったのかな。
愛理と現実世界の関りについては、もう少し掘り下げた方が良かったと思うが、
ブコメに徹するためか、それも全部 黙殺される。

『1巻』では愛理の性格として堅実な生活、そして結婚を夢見ていることが繰り返されるが、
いつしか それは無くなり、彼女は現実世界を簡単に手放したように見えてしまった。

『1巻』では時折、愛理が家族の不在を寂しく思う描写があり、
しっかり者の彼女の孤独が浮き彫りになるが、それが物語に少しも反響しないのが残念だ。

こういう「リアルさ」との兼ね合いも読者の共感のためには大切だ、と他の漫画で読んだが、
本書にはそれが欠如している。

だから一層 本書が作者の夢物語に感じてしまうのかもしれない。

そういう意味では、愛理は、年齢差も格差も、世界の隔たりすらも気にしない完全な恋愛脳のヒロインなのである。