《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

吹けば飛ぶような変身の粉。だけど水に沈んでも変身が解けない謎技術。

モノクロ少年少女 4 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
モノクロ少年少女(ものくろしょうねんしょうじょ)
第04巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

人間の学校に、3日間だけ編入することになった呉羽達。人間界での生活に浮かれる右京達とは逆に、親戚に会ってこなくてはならない呉羽は沈んだ様子…。更に、その学校には昔の呉羽を知る人物の姿があった。落ち込む呉羽だったが、右京達が親戚回りについて来てくれて…!?

簡潔完結感想文

  • 罰則で人間界観光。人の悪い面ばかり見て、人になるのを躊躇しそうだ…。
  • 好きの言葉は使わないで、好きを示す数々の態度や習性。自覚はいつだ⁉
  • 夏祭りの夜の告白。いや懺悔か? 主人公たち以外の好きが明らかになる巻。

分の恋心以外は大体 気付くのが少女漫画ヒロイン、の 4巻。

『4巻』の主人公・呉羽(くれは)は自分以外の好きを集めている。

自分を哀れんだ目で見てくると思い込んでいたイトコは、
実は呉羽を無意識に目で追いかけていただけだった。
つまりは好き。

その人が自分の飲み物に口を付けたことに尻尾を振って喜んでいた。
つまりは好き。

その人のためなら苦手なことも克服する勇気を持てた。
つまりは好き。

自分の物にならないのなら、その前に大事なものを遠ざけてしまった人がいた。
とても好きだったから。

そんな意外すぎる好きに出会うのが呉羽の『4巻』。
なのに自分の好きだけは分からないという少女漫画ヒロインです。

ただし『4巻』で彼女にも一つだけ分かった好きがある。
それが いつも自分の側にいてくれる仲間たちへの感謝の好き。
ケモノだからと一線を引いて認めようとしなかった好きを、ようやく認める時が来た。


校イベント・オリエンテーション合宿に続く、
校外イベントが3日間の人間界の学校への短期留学。

これはオリエンテーション前に、呉羽と生徒会メンバー3人が人間界に無断外出した事への罰則。
ケモノたちには憧れの地へ足を踏みいれるイベントだが、
人間である呉羽にとっては、嫌な思い出と対峙するトラウマ克服回になっている。

ケモノたちはニンゲン粉(パウダー)をかけて変身し、人間社会に溶け込む。

このニンゲン粉は効果が弱い(クシャミだけでも解ける)という設定のため、
真の人間になれる「ギフト」とは違うものらしい。
なので「ギフト」の価値が下がる訳ではない。
…が、ケモノ社会はニンゲン粉を改良すればいいのでは?という疑問は湧く。

ちなみに『4巻』後半ではウサギ粉をかけられているはずの呉羽が、
プールに入っても人間には戻らないという矛盾がある。
胸キュンイベントのために、都合よく粉の存在は忘れ去られる。

ファンタジー作品に いつまでもグチグチ文句を言うのはお門違いだとは分かっているのですが、
どうしても こういう綻びから作品への気持ちが冷めていってしまう。

世の中には想像力が作品世界の端から端まで埋め尽くされている作品がたくさんあるのに、
どうして この作品はこうなんだろうと落胆する。
連載化を前にして もっと想像力の翼を広げるべきだったのではないか。


り出した街で人間社会の中に溶け込む、元トップ卒業生の姫菱(ひめびし)に出会う。
彼は「高等部1年の時の最下位からトップを獲った」伝説の人。
最後の審判』の存在といい、この辺からラストの展開を考えている節が読み取れる。
メインキャラを格好良く見せる美学だけは徹底的に貫かれているんだけどなー。


呉羽の罰則は「書類に親戚からのハンコを貰う事」。

呉羽のトラウマ克服回なのですが、
ケモノたち3人も同行することで どうにも呉羽の姫ポジションばかりが目につく。
いや、友情を描いた良い話なんですけどね。

他人には説教垂れたりするのに、いざ自分のこととなると体が動かない、
実際そういうものなのだろうけど、
誰にでも強気なことを言う割に、自分は臆してしまう姿は残念だ。

彼女にとってはケモノ社会のことは他人事で、
人間関係(?)の面倒臭さなど、自分に実害がないから上から物を言っていたと思ってしまう。

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変身が解けるのは、偽りの姿ではなく本当の右京に呉羽を救わせるためもあるのだろうか。

門前拒否が続き、かつて呉羽が たらい回しにされた親戚の家を たらい回しになる一行。

どんだけ近隣に親族が住んでんだよ、というツッコミと、
名前を聞いただけで拒絶されるのは、当時の呉羽の態度が最低だったのではないかという自業自得説がよぎる。

何軒も回るのは孤絶の演出なんだろうけど、イトコの健(タケル)の家だけで良かったのではないか。

たらい回しの中で語られる、呉羽の両親の設定は後付けっぽさ満開。

母は資産家の娘だったが、結婚相手を捨て、身寄りのない父と駆け落ち同然で結婚。
その最悪に面倒な子の、更に面倒な子が呉羽だったらしい。

呉羽は健の歯を折るほど殴ってしまった。
毎日、彼に憐れむ様な蔑む様な視線を送られていると思って。

だが真相は、健が見ていたのは呉羽に好意を抱いていたから。

他者は自分を映す鏡。
彼の目に、本当は哀れでならない自分を映し出してしまったのだろう。
真相を知ったからこそ この頃の呉羽の我慢や苦しみが痛いほど伝わる。
それを吐き出せなかったことが彼女の不幸だろう。


呉羽が今、同居する3人に守られていることに勇気をもらって、彼女は過去の悪態を謝罪する。
そして後日、彼女は全財産の525円をさし歯代として送ったらしい。

健も良いキャラで、呉羽を人間界に引き留める(ケモノに惚れない)役割を担えたはずなんですが、
作者が描きたいこととはマッチしないみたいで、リストラされました。
1回きりのキャラの多いこと多いこと。


間界3日目の午後は東京観光。そして蝶々(ちょうちょう)の個人回。
蝶々の胸サイズの設定は後出しで、無理矢理すぎないか…?

ここで蝶々の右京(うきょう)への好意を呉羽が理解する。
ここから どんどんと呉羽が気軽に好きだと言えない状況に事態は動く。

直接聞いていないのに、間接的に彼女も同じ人を好きだと知ってしまい困るというのはヒロインの定番ですが、
それが分かるのがケモノならでは、というのが良いですね。

そういえば右京も喜んでだけど。
これは呉羽も、当人も自覚していないこと。


続いては水泳の授業で水着回
なんか女性の水着姿の方がエロい。
身体は肉感的だし、スクール水着はかえって局部を強調してるし。

そういえば、学校中の生徒たちから命を狙われている設定だった呉羽(もはや飾り)。

彼女がプールで溺れた時には、本当に誰かから足を引っ張られ溺死を狙ったのかと思った。
そして この時の顔が怖い。
肉食獣たちに遭遇した時といい、死に直面すると呉羽は この顔をするのか(笑)?


ここでは呉羽が溺れることで、粉(パウダー)の効き目が切れて、
呉羽の正体が他生徒にバレそうになるという流れも予想したのですが、
結局、これは体育での怪我と同じく胸キュンシーンのためのものでした…。
ここ、実は黒蘭(こくらん)が足を引っ張っていたということはないのかなぁ?

再度、指摘しますが、クシャミはNGで 水がOKの 粉ってどういう技術なんだよ!

この時の右京が泳げたのは愛のパワーでしょう。
右京もまた鈍感なのです。

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胸キュンシーンなんだろうけど、殺人未遂(犯行動機:捕食)に見えなくもない。

盤からは、物語は伊織(いおり)に焦点が当たる。
伊織は去年の中等部の「ラビット」。それを黒蘭から知らされる呉羽。

ちなみに中等部と高等部ではサイクルが違うから、伊織が招かれたのは1年前の出来事らしい。
今更、それを言うかという感じですが。
まさかウサギは2週間以内には逃亡してしまう、という話も高等部限定の話とか言い出すんじゃ…。
真面目に読めば読むほど矛盾が出てきそうなのが本書の嫌な部分です。

そして この黒蘭は嫌がらせのために情報をリークしたのでしょう。

この後に黒蘭の衝撃の正体が明らかになる、のだが不発に終わった。
黒蘭は粉(パウダー)で身分(種族)を偽っているということなのでしょうが、
彼の耳の形なんて誰も覚えていないよー。
『4巻』は粉が重要なアイテムである。

そして同じく内通者だと判明する茅(ちがや)の方の衝撃が大きいすぎて、黒蘭は影が薄い。
彼については最後まで上手く活用できなかった印象しか残らない。
呉羽を本気で殺そうとするぐらいしないとダメだったのでは?


そんな内通者たちを束ねる黄苑(きおん)が3か月ぶりに登場。
学校生徒たちの肉親が学校に乗り込んでくるのは初めてでしょうか。

そして呉羽は、茅が内通者だと知らされる。
これまでの茅の優しさを本物だと思う呉羽は、彼に事情を説明してもらう…。

茅が語る これまでの経緯で、過去回想編となる。
伊織が「ラビット」ウサギだった頃の話。
次巻にも続くので、まだ全貌は分からない。


茅の「告白」は生徒会企画であるケダ高 夏祭りの夜。
少し意味は違うがキス未遂と告白と夏祭りに恋愛イベントが満載である。

この夏祭りで、久々に生徒会が生徒たちとの接触する様子が見られる。
呉羽は自分の中のモヤモヤを吹き飛ばすために東奔西走し、
生徒からの信頼を得ているようだ。

久々に学園モノっぽい雰囲気になりましたね。
繰り返しになりますが、私は生徒会メンバーだけじゃなく、
学校全体を巻き込んだ呉羽の努力が見たかった。
一風変わった青春を味わいたかったのだが、そうならなくて残念。