《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインは肉食動物学校のエサ要員。男子校潜入を超えた 究極の胸キュン⁉

モノクロ少年少女 1 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
モノクロ少年少女(ものくろしょうねんしょうじょ)
第01巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

身寄りがなく、暮らしていた施設が潰れてしまった巳待呉羽、15歳。そこへ折よく舞い込んだのは、生徒を募集する私立毛保乃学園のチラシ。先着一名につき学費や生活費免除の言葉に飛びついて学園に転がり込んだ呉羽だったが、待ち受けていたのは有象無象のケモノたちで!?

簡潔完結感想文

  • 男子校、金持ち校と色々潜入してきた白泉社ヒロインの一つの到達点が肉食校⁉
  • 常識が通用しないドタバタコメディ。罵倒の後に優しさを見せる ジゴロの手口。
  • 主人公は王族じゃないけど姫ポジション。更には王の称号まで手に入れる。

がけの恋なら、心臓は停止する寸前、の 1巻。

少女漫画読者なら これだけで通用すると思いますが、実に白泉社らしい作品。
本書では肉食動物の中で、ただ一人の人間である主人公が、
人間のニオイがすると追いかけられますが、この作品からは実に白泉社のニオイがする。

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ホラーやサスペンス漫画ではありません。ヒロインのために用意した世界が特殊すぎるだけです。

異世界ともいうべき常識から外れた世界で、
主人公が悪戦苦闘して、その環境に馴染むのが白泉社漫画の一つのテンプレ。

意地悪な読み方をすれば、読者は集団の中で特別なヒロインに自分を重ねられるし、
その世界のトップに認められる特別な自分という優越感に浸れるのだろう。
更に本書では夜は裸のイケメンたちと一つベッドの中というご褒美付き。
この手の漫画が好きな人にはたまらない作品となっている。

にしても白泉社って身寄りのない主人公、家族の欠落が好きすぎですよね。
逆境に耐える健気なヒロインにしやすいんだろうけど。

本書で描かれる特殊環境は、肉食獣の中にエサとして放り投げられるというもの。
命の危険のドキドキが、吊り橋効果で、恋に変わる様子を描いた、のか?
人型が人型を捕食する。
進撃の巨人を連想しましたよ。
考えれば考えるほどグロテスクですが、そんなこと作者は考えてないはず。

過酷な環境に耐えるヒロインを描いた作品ですが、同時に読者の忍耐も試されている。


の理由が、大胆な世界観。

身寄りがなく、暮らしていた施設が潰れてしまった巳待 呉羽(みまち くれは)15歳。
行く当てがなくなった彼女に届いたのは1枚の黒いチラシ。
そこに書かれていたのは、
常人入学不可能超絶ブルジョワ校への無条件入学と学費・学生寮費・食費等全額免除の知らせ。

だが世の中にタダより高いものはなく、
実は この学校は「ケモノの姫と王子の全寮制高校」で、
その生徒たちは「人間との共存を目指す為、食欲抑制学を学んで」いるのだった。

呉羽は「自身が人間である事は隠し、人間共同生活プログラム『ラビット』のウサギとして」
自身の正体を口外することなく、「命をかけて3年間在籍する事を誓」わされてしまった。

学校の名は私立 毛保乃(ケダモノ)高等学校。通称「ケダ高」。

「当校の生徒は全員 肉食であり」、「人間=エサ」として認識されている。
「3年に一度 極秘で人間を草食の姫(ウサギ)と偽り編入させ」
「まずは同じ動物として順応させる」、それが『ラビット』なのであった。


もう、この辺りで頭が痛くなった方がおられるだろう。
そう、ちょっと想像力がたくまし過ぎる物語なのだ。

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転校早々 さる国の王子と姫と知り合いになる主人公。白泉社特有の上流階級の物語です。

更に主人公が参加する『ラビット』プログラムには、
「ウサギ監視役を当校1学年 成績トップ3に任命する」ことが義務付けられている。

外界と隔絶された この世界の全てともいえる学校内で、
自分だけが特殊な存在で、そして その世界の成績(と人気)を誇るトップ3(しかも王族)と
秘密を共有し、共同生活をするという実に白泉社漫画らしい展開。
もう どこまでも読者の自尊心を満たしてくれる漫画である。

ただ主人公と違って、読者は この環境に適応できるかが入学試験みたいなものである。
そして読者の前には違う世界がまだまだ広がっている。
『1巻』で違和感やストレスを覚えた方は、さっさと退学を選択するのも賢いかと思います。

ヒロインの特別性を演出するために、ここまでやるか⁉という大胆な試みは楽しいんだけど…。


の場合は、多少の環境適応へのストレスと疑問はあったが、
物語が大きく動き出す『1巻』の後半からは、
彼らの騒がしくも賑やかな日々を楽しんで読むことが出来た。

前作『悩殺ジャンキー』も新人離れした構成力で読者をグイグイと物語に引き込んでいったが、
本書でも その勢いをそのまま持ち込んで、エンタメ作品に仕上げている。
1話1話がちゃんと面白く、次の展開への繋ぎもスムーズなので、気づいたら結構な巻数を読んでいた。


(※ここから批判的な感想文がしばらく続きます)
…が、端的に言えば、本書は漫画としては面白いが、作品としては好きになれなかった。

勢いはあるが、勢いだけ。
『悩殺』は、読切短編からの勢いをそのまま初長編作品にぶつけて、
その勢いを保ったままフィナーレを迎えたことを評価できた。

本書もまた読切短編からのスタートなのだが、こちらは『悩殺』の勢いをそのまま持ち込んだようにしか見えてしまった。
各話の最初と最後に用いられるモノローグも『悩殺』の時と同じ構成。
メインの人間関係も、ヒロインを罵倒する俺様ヒーローと、
それに食らいついていくヒロインで、『悩殺』の2人と同じにしか見えなかった。
舞台は まるで違うが既視感満載。作者の引き出しの少なさを感じずにはいられない。

W(ダブル)ツンデレって、気の強い者同士の罵倒合戦にしかならない。
それでいて最後にはデレる。でも いかにも狙いました、という感じで不自然さばかり目につく。

『悩殺』が現実的(性別詐称はあったが)だったのに対して、
本書が完全に空想の産物であることも悪い方向に出てしまった。


にとっては、この世界そのものが主人公とその3人の親友たちを、
格好良く見せるための装置にしか見えなかった。

そう強く思ったのは、この世界のルールが読者に提示されていないからである。

例えば『1巻』ならラストの生徒会選挙の結果。
展開としては面白い大逆転劇だと思う一方で、
そんな抜け道の存在は聞いてませんけど?という気持ちになった。

それは最終回付近でも同じことが言えて、
主人公のためだけにルールが後出しされたのには落胆した。

創作物だから当たり前なのだけれど、
主人公の困難も解決も作為的という印象ばかりが強くなる。
どうやったら主人公たちが格好良く映るか、
そんなカメラ映りばかりを考えたナルシスト感が出てしまった。


して世界観の あやふやさも気になるところ。

この世界の倫理や社会について考察しようとすると、すぐ壁にぶつかる。
主人公の特殊性を出せれば、あとはハリボテの設定で良いという浅はかな姿勢を感じる。
世界設定に奥行きがないのだ。

例えば舞台となる毛保乃高校について。
設定としては常人入学不可能超絶ブルジョワ校、らしい。
世間に疎いであろう主人公・呉羽が名前を知っているような有名校。

だが その実態を考えると、この学校が人間社会に影響を与えるとは思えない。
なぜなら卒業生のほとんどが人間社会と接点を持たないから。

始まりが読切短編だから仕方ないが、学校の設定には疑問がいっぱい。
この学校の目的は人間との共存を目指すことだけど、人間になれるのは基本的に1年に1人。
なら他の100人弱の生徒は、無駄な3年間を過ごすというのか。


して登場人物たちの背景にある「国」の設定も ぼんやりしている。

物語で提示されるのは、肉食動物たち各種族に1国あるということ。
それらは1国のみで独自に発展しているらしく、他種族と共存している訳ではない。

肉食動物の国同士が交流があるのかも不明。
交配の問題は別にしても、人間社会への順応の前に、
彼らの交流があって当然なのに、そういう社会ではないみたい。

一体 彼らが人間との交流で何の得があるのかは全く不明。
動物国の技術が劣っているとか、経済的に困窮しているとかでもない。
彼らにとって人間社会がどれだけの価値を持つものか提示されていないのが大問題だ。

作者が欲しかった設定は、人間の女の子と異種族との交流。
それだけのために「肉食」と「草食」を持ち出したのだろう。
そして彼らの痛々しくも輝かしい青春を描くという目的だけ。

もう少し深い設定があれば『あらしのよるに』とか『BEASTARS』になれたかもしれないのに(どちらも未読)
文化的な背景や社会の成り立ち、思想の違いなどを取り込めば、
違う観点からも楽しめる物語になっていたが、そんな考察は一切ない。


しかし肉食のケモノ世界があるのなら、草食のケモノ世界もあるってこと?
呉羽が耳をつけただけで、ウサギ国の姫と見なされるのならそう考えるのが妥当だろう。

舞台が舞台だし、呉羽にしても本物のウサギ世界の住人じゃないから物語に出す必要はないが、
動物の種類だけ、どこかに世界はあるのだろうか。
本物のウサギの姫が登場して、呉羽が偽物として糾弾される話も面白かったかも。

もし本物のウサギ国の姫がいて、彼女が「ケダ高」生徒と仲良くなり、
ウサギという存在を食用ではなくクラスメイトとして認識したら、
彼らはウサギ肉を食べなくなるのだろうか。

そうやって毎回、草食動物を送り込んで仲良くする草食動物側のプログラムがあったら面白い。
そして肉食動物たちは、食べられる物がなくなり どんどん衰弱していくのだ(笑)


それにしても「ケダ高」では人間の姿に似た彼らが、人間をエサとして認識し、
食べたいと考えているという状況は、かなりグロテスクである。

そして草食動物の肉をたっぷりと用意されている彼らが、わざわざ人間を食べる意味はどこにあるのだろうか。

前半であれだけ、ウサギを狙っていた食欲旺盛なクラスメイト(完全にモブ)たちも、
後半で物語がエリートたちの話に集中すると、鳴りを潜める。
もしかして食欲抑制学をマスターしている証なのだろうか。


真面目に考えるのが馬鹿らしくなるほど、何にも考えてない物語である。
もちろん、それは学校生活・恋愛に特化するためなのは、分かっているが…。

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選ばれし者たちの簡単な自己紹介と、ケモノを言い訳にして許される全裸での同衾。

々と書き連ねたが、『1巻』の流れはかなり好きです。

異分子である呉羽の努力がよく分かるし、
本来 監視役である成績トップ3の右京(うきょう)・茅(ちがや)・蝶々(ちょうちょう)と
少しずつ心の交流をしていく様子も見て取れる。

でも監視役という設定は『1巻』のラストの展開で、ほぼ無意味になった。
考えてみれば守る側と守られる側の恋愛は禁断で、それはそれで面白かったかも。
(特に右京が公私の間で揺れ動くところが見てみたい)


読切短編の1話目と、本格連載開始の2話目は、ちょっと話の展開に不自然さがある。
特に2話目は、もう少しブラッシュアップ出来なかったのか。

人間だとバレないように必死に生活をする呉羽。
疑われないようにケモノの方に合わせていく。
なぜなら疑惑は死に直結するから。

そんな中、学校内で行われる体力測定。
走り幅跳び、100m走、砲丸投げに続く、謎の測定種目「花取り」。
木に咲く花を取るのだが、手段は問わないという この種目は何を測っているのか意味が不明。知力?

ここで呉羽が花取りで何を達成したいのかという問題がハッキリしなかった。
自分の名前を呼ばれること(自己の回復)を願いとしているのかと思ったのに、
いつの間にか、花を取れなければエサ、という問題にすり替わっている。

努力によって得られたのは友情という一輪の花、
といい話風でまとめているが、どうにも勢いに騙されている気がしてならない。


3話目から話は2つの話が同時進行していく。

1つは生徒会選挙。
もう1つが、呉羽と監視役3人との個人回。
それぞれに絆を築くというのが目的。

この辺りは、チビブス連発でゲンナリします。
登場人物と作品の幼稚性が透けて見える。
これを面白いと思っている人間がいることにビックリである。

呉羽が期待して落胆して、でも最後には優しくしてもらって、の繰り返し。
結局、人情モノで良い話にまとめている。
だからって どんな悪態も、それで帳消しにはならないのだが。

右京の個人回は、生徒たちの月一の帰省の日の話。

どこでもドアならぬ「マド」でそれぞれの出身国へ帰ることが出来る。
にしても この技術は、どこの国のものなのだろうか。
この技術だけで人間社会を牛耳ることが出来る。

帰省しない右京と2人きりの夜。
はじめこそ閑静な環境を楽しむ呉羽だったが、その広すぎる空間を孤独の影が蝕む。

そこで語られる右京の過去。
謎の病気の蔓延で世継ぎが倒れ、後継者として選ばれたのが右京。
現国王とそっくりだからというただそれだけの理由。
孤独な環境で育ったのは、集団の中で異物なのは呉羽だけじゃなかった。
右京の性格の悪さも、この辺りから起因していると思われる。

というか、他の王子・姫たちも少なからず事情がある。
彼らは全員、第2子以下であり、世継ぎには絶対になれない人たち。
自分ではどうしようもない環境にいるのは、この学校の生徒全員に共通している。


徒会の任期は3年。
会長はケダ高の「王(キング)」になれる。
それは学校を仕切る事ができる陰の主役。

投票ではなく、成績や素行等が全て加算されるポイント制。
1年生でもなれます。
というか、任期が3年って、1年生を念頭に置いているとしか思えないが。
キングが1年生で他が3年生だったら、他メンバーはまた選び直しなのだろうか。
作者も学校も、1年生主体にしか考えてないことが丸わかり。


罵詈雑言や反発をしながらも監視役たち、そして この学校の生徒たちは何だかんだで呉羽に優しい。
呉羽の見えないところで呉羽のために行動してくれている。
それが感動を生むんだろうけど、
結局、いつも助けられている姫ポジションということを強調するだけ。
その前に努力や葛藤を描いているが、結局 助けが入るから相殺してしまう。


そんな姫ポジションの呉羽が、遂には王となる日がやってきた。

生徒会の定員は4名。
この漫画の主要キャラも4名。
ならば答えは明白。

この場面、紙吹雪を落とすタイミングが早過ぎる。
(結果がアレだから、その前にしか出来なかったんだろうけど)。
そして、彼らがキャットウォークから下に落とした紙吹雪が、いつまでも彼らの頭上に舞っているのが変。
それも演出なんだろうけどさ。

呉羽のために学校ルールに抜け道を作るのはここから始まっている。
やはり学校全体が彼女のため、作品のために作られたとしか思えない。


にしても右京が寝相の悪い設定は どこ行ったのか。
全裸男子が隣で眠る状況を手に入れたら綺麗さっぱり消えた。
そういう漫画です。