水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第11巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
永泉(えいせん)と泰明(やすあき)の協力で、「北の札(きたのふだ)」を得た八葉(はちよう)たち! そんな折、イノリの夢に父の霊が現れ、第3の札の在り処を告げる。最愛の姉が鬼に弄(もてあそ)ばれたと思い込み、八葉中もっとも鬼を憎むイノリだが⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミック)、待望の第11弾! 初登場『遙か3』併録。
簡潔完結感想文
- 人と鬼。憎むべき相手を信じられる気持ちはどこから生まれてくるのか。
- 合体技。お札クエストで八葉もパワーアップ。全面抗争を期待しちゃう。
- 和を乱す恋。人数が多すぎるからかヒロイン争奪戦に不参戦の人が半数。
未成年の飲酒が天啓を授かる 11巻。
酔うことで心の封印が解かれ、
隠されていたものを教えられるのが『11巻』の主役・イノリ。
いけない大人代表の友雅(ともまさ)が飲酒を勧めたことから連日のお宝発見となった。
とても展開が早いですね。
巻をまたいでいるし、説得力のある手順を踏んでいるので、
そんな印象を受けなかったですが、
作中時間だけで考えると あかね は2,3日の間で意見をコロコロと変えているんですね。
この展開の早さは、メタ視点で言えば、次で足踏みするからでしょうか…。
あの人も泥酔させて、心のリミッターを外してやればいいのに、と思ってしまう。
鬼側(アクラム)の大きな目的、
そして あかね の最終的な目標が明らかにされ、
いよいよ終盤に差し掛かってきたなという印象を受けます。
イノリが恋を知るまでを描く『11巻』。
その過程と決着方法で彼の人となりが よく分かるようになっている。
そしてイノリエンドはないことも痛いほど分かる。
ゲームの内容を全く知らないので、ゲームでの扱いは無視しますが、
本書の場合は、男性のダメな部分を描写に含ませることで、
彼らの恋愛が上手くいかないことを暗示しているように思う。
例えば分かりやすいのは鷹通(たかみち)のマザコンでしょう。
更には、10歳の藤姫といい仲の友雅のロリコン(笑)
天真は あかねを自分の籠に収めようとする気配がある。
永泉(えいせん)、泰明(やすあき)、イノリは初恋組。そして恋愛圏外の詩紋(しもん)。
泰明と頼久(よりひさ)は仕事バカで恋愛が付け入る隙が無い。
こう考えると、なかなか問題を抱えた八葉との恋愛だなぁ…。
イノリはシスコン属性がある。
一緒にいても、暮らしても、何かと出来る姉と比べられそうで、
肩身の狭い思いをしそうだ。
ただ 結婚は八葉の中で一番早くにしてくれそう。
友雅なんて彼を選んでも狡猾に事実婚で済まそうとしそうだし…。
もう一人、キャラクタがハッキリしてきたのが永泉。
小天狗の件もあって すっかり自信を喪失しているが、
もしかして彼はネガティブキャラなのか?
こちらも想像で言いますが、
容姿や血筋、知性も備えているのに自信がない男性を、
一流の男に磨き上げるのがゲームにおける永泉ルートなのか?
確かに楽しそうな気もする。
この巻でようやくイクティダールの恋のお相手がイノリの姉・セリだと初めて判明する。
これまでに たくさん伏線が張られていたので驚きはしないが、
本書で唯一の現在進行形の恋愛で、しかも異種族間なので、応援する気持ちは強い。
あかね にアクラムエンドが ほぼないのなら、
彼らの結末が鬼との関係の一つの答えになるのだろう。
『11巻』で語られる あかねが目指す未来の中に、彼らの姿がきっとある。
その一方で、鬼と人との不幸な結末の一つが鬼の子供・セフル。
明言されていなかったと思うが、セフルは鬼と人との間に生まれた子。
彼は そのどちらの世界にも上手く馴染めない可哀想な人である。
そんなセフルだからイクティダールが人と恋仲になっていることが許せず、
セリを狙い、セリがセフルを気遣う様子を見せると逆上する。
鬼であろうとする彼の心が人の言葉を はなから拒絶してしまう。
恋愛を抜きにした鬼と人との共存は、セフルと詩紋に託されるのだろうか。
しかし詩紋は恋愛が絡んでも皆で仲良くいようとするから困ったものだ。
本書の中で上手くいかなそうな人たち(詩紋や永泉)と
恋愛をするとどうなるのかが見たくなってしまうではないか。
ゲームに手を出しかねない自分が怖い。
これは一種の洗脳だろうか。
セリの存在は、イクティダールと あかねを結ぶ懸け橋になる。
小天狗の件で頑なになっていた あかねの心を氷解させるようなセリの誠実で切実な言葉。
彼を愛する中で鬼ではなく「人」から傷つけられてもなお、彼を信じるセリの姿があった。
彼女から語られるイクティダールは あかねの知らない一面を秘めていた。
その言葉の中に あかね は、
アクラムや小天狗など悲しみに覆われている自分とは違う視点を見つけた。
そして何より女性の言葉には恋をする者の毅然とした強さを感じたはずだ。
順調な お札クエスト。
八葉の間の連帯も生まれ、新しい技が次々と具現する。
八葉の個人技が出揃ってすぐに、合体技まで登場する。
これは四神の4グループ全部で見たいなぁ。
あとは八葉全員での究極技みたいなのも出ないかなぁ。
合体技を見せたイノリと詩紋のペアは特に好きだなぁ。
背丈も似ていて、同級生コンビという感じがする。
あかね の恋を秘するがあまり、
友情の方が厚く描かれている気がするのは本書の功罪の入り混じったところですね。
順調に四神・五行に八卦、そして明王と味方につけられるものは全部つけている気がする。
これなら負ける気がしませんね。
しかしアクラムは八葉と神子の絆が更に深まることを望んでいるようだ。
そこに彼の計略があるみたいだ。
一寸先は闇。
上手くいきすぎることが怖さに反転する。
今回はイノリルートの開拓かと思いきや、恋愛は思わぬ決着を見せる。
恋愛相談、というか恋とは何かを相談しに友雅を訪ねたイノリ。
彼に勧められるまま2度目の飲酒をすることで、
彼はまた天啓のように自分の中にある気持ちに気づく。
が、彼はそれを封印する。
認めないのではなく、認めた上で心に押し止める。
自分よりも仲間を優先したのだ。
イノリは何だかんだで調和を重んじる人みたいですね。
一度 認めた人はトコトン面倒を見る親分肌の人なのかもしれません。
八葉の皆を仲間だと認めているから自分よりも相手を優先してしまう。
なかなか不遇な人なのかもしれない。
ただイクティダールもイノリが認めたら、
屈託のない良好な関係が築ける基盤は もう出来ているのかもしれない。
子供など生まれたら大変だろう。
何と言っても姉の子なのだ。
立派な「オジバカ」になること間違いなし。
ますます自分の伴侶探しが遅れそうだなぁ…。
「遙かなる時空の中で3 ~鎌倉より~」…
鎌倉の地で、お隣の兄弟と仲よく育ったヒロインが、
微妙な距離感を醸し出し始めた兄弟の仲を取り持とうとする『遙か3』の前日譚。
当然、その原因はヒロインへの恋心で兄弟がライバルになったからなのですが…。
もう このまま異世界に飛ばないで現代劇の三角関係として話を進めてくれないかな。
『遙か』の根底を覆すような発言で申し訳ないが。
これまでも無自覚ヒロインなのに、
彼女は異世界に行ったら少なくとも8人からモテるのか。
大変だなヒロインも。
このところ ずっと『遙か(無印)』の世界にいるので、洋服が奇異に映る。
そして洋装だと男性たちの体格の良さが如実に分かりますね。
この兄弟のレベルの高さがビンビンと伝わる。
しかし、連載中にゲームの続編タイトルが出て、本編に介入してくるパターンは止めて欲しい。
『11巻』なんて1/3が『3』にジャックされている。
導入部だけ読ませられて、絶対に結末が読めないことが歯がゆくてならない。
まぁ、この導入はゲームへの誘(いざな)いなのでしょうけど。
しかし、おまけ の様子からすると、『3』はシビアな展開っぽいですね。
…ハッ、興味を持ち始めてる⁉