《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画界一 厭世的ではありますが、不特定多数と交際していた典型的ヒーローです。

ロッキン★ヘブン 2 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
酒井 まゆ(さかい まゆ)
ロッキン★ヘブン
第02巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

勉強会のおかげでテストの結果も良く、喜ぶ紗和たち。けど、城戸が紗和を好きだと知った藍は紗和を避ける。そんな中、体調を崩した藍。紗和は見舞いに行くが…?

簡潔完結感想文

  • 看病。家族のいない広い家に単身 乗り込むヒロイン。じゃ 服を脱げ。
  • 中2の3学期。クラスを覆う連帯感の、全ての謎の真相が明らかになる。
  • 元カノ。学校生活は無気力ですが、恋愛に関しては気力旺盛だよ☆

ーローの過去の あれこれが明らかになる 2巻。

彼の過去を知ることで納得のいくことと、納得のいかないことが混在している。

ヒーローなのに いまいち表情に覇気がなかった藍(らん)の理由が分かった。
そしてクラスメイトたちの友情とは違う奇妙な連帯感も理解できた。

だが彼のことを知る手掛かりなのに、彼のことが理解できなくもなった。
彼の抱える絶望に対して、恋愛面の設定がマッチしないように思えた。

ヒーローに特殊性を出すために影を持たせたが、
あくまで漫画の展開は少女漫画の既定路線を行くだけ。

それは作品の決定的な瑕疵となるようなものではない。
しかし設定と内容の道具立てのチグハグさに違和感が生じた。


ーロー側が暗い過去や恵まれない家庭環境の中にいる、
というのは少女漫画の中では もはや定番化された設定と言ってよい。

ヒロインは、そんな彼の心の中に立ち入ることの出来る唯一の女性という特別性が生まれ、
彼の人生を変えた運命の人となっていくことで存在価値を高めるのだろう。

本書のヒーロー・藍は そんな不幸な背景を持つヒーローたちの中でも、
特に厭世的な人物であることが『2巻』で明かされた。

それが中学2年生の3学期の、校舎からの飛び降り。
直接的な言葉は使ってないが、端的に言えば自殺(結果的に未遂)である。

私の読書歴の中ではヒーローの自殺未遂は初めてかも。


しかし、そうなると『2巻』で明らかになる もう一つの過去、
恋愛遍歴との兼ね合いに違和感が生じる。

藍は来るもの拒まず、不特定多数の人と交際をしていたらしい。
そして中3の時(現在高1なので去年)には半年くらい長く付き合っていた元カノがいた。

ここから少女漫画の定番の元カノ問題に発展するのだが、
藍の人生年表は どうなっているんだと疑問も生じる。


女漫画のヒーローは過去の女性遍歴が派手だ。

これは競争力の高さを示して、ヒーローに付加価値を与えようとするもので、
更には数多いる女性の中からヒロインが選ばれる運命性の演出が可能になるのだろう。

藍の場合はどうか。
家庭環境の不幸や閉塞性から、女性との交際に愉楽を求めるのは分かる。
なかば投げやりに不特定多数の女性に望まれるまま交際をする過程も理解できる。

だが、自殺未遂から間もなく半年の交際には疑問が生じる。
これも藍が望まれるまま交際して、彼女が不満を募らせて一方的に別れた流れらしい。

でも死んだように生きていた藍ではあるが、
基本的に優しさを持ち合わせてる彼が愛のない交際を長期間するかは疑問だ。

無気力だけど刹那的な関係だけでなく、女性と交際しようとする気はある。
しかし彼女に何の思い入れもない。
なんだか しっくりこない。
作品全体から見て、この元カノとの交際が彼の人生に何の影響も与えていないことが残念だ。

例えば、この恋愛で藍が自分は長期的な恋愛に向かないと思い知らされたとか、
自殺未遂の傷が多少は塞がったとか、そういう類の描写は一切ない。

なぜなら作品が求めたのは、元カノという記号だから。

藍と紗和(さわ)の恋愛において、
不特定の女性たちではなく顔の見える特定のライバルが必要だっただけ。
要するに元カノ問題がやりたいがための、即席の元カノなのだ。
だから当時の藍の心理状態とか、元カノとの交際内容などは一切 考慮していない。

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可憐な容姿と元カノという設定のみが与えられた結李(ゆり)。残された役割は恋の踏み台か。

ヒーローにトラウマを持たせたい。
でも少女漫画の王道展開でしか物語を進められない。
そんな欲張りが生んだ折衷案が、顔のない存在が元カノ・結李(ゆり)なのである。

今後の展開から言って、物語にずっと顔を出すのは難しいが、
それにしても即席で作られた立場の、即退場キャラで可哀想である。


でも実はこれ、今後の展開、
藍と交際しても決して女性は幸福になれないということの前振りだったりして…。


カノ問題も含めて『2巻』では、
少女漫画の定番イベントと「あるある」が多く盛り込まれている。

『1巻』を通じて、すっかり男子生徒(主に5人組)と仲良くなった紗和。
だが男女の間には友情よりも愛情の方が育ちやすく…。

そんな仲間たちの変わり始めた雰囲気に、藍が過剰反応する。
どうやらクラスの雰囲気には何やら彼が関わっているらしい。

そこへ やってきた風邪回。
藍が体調を崩して、紗和が一人で様子を見に行くことに。

これは藍と親しい椿(つばき)が気を回したから実現した。
椿は藍の中に芽生え始めている恋心に気づいていたからこそ、紗和に頼んだのだろう。
これは椿が藍の様子をつぶさに観察している成果だろう。
ただ、誰もいない男性の家に女性を一人で向かわせるのは配慮に欠ける気がする。

少女漫画あるある では恋人(または その手前の関係)が、
互いの家に行くと飲み物をこぼしたりして、服を着替える率が異様に高い。

展開は王道を行く本書ですから、当然あります。
今回は紗和が藍の家に向かう最中に梅雨の雨に打たれたので、服を着替えるというもの。
藍の家なので着替えるのは藍の服。
これはなかなか胸キュンポイントが高いのでは。

裁縫は苦手のようだが、料理は出来る紗和なので 彼のために お粥を作ってあげる。

どうでもいいが、アゴ周辺が尖りすぎた結果、相対的に口が小さい男性たち。
食事するのも大変だろうな、と余計な心配をする。


そこへクラスメイトの城戸(きど)が門前に登場。

藍は嘘をついて彼を追い返す。
その理由は、城戸が紗和を好きだから変な誤解が生じるというもの。

城戸の恋心を勝手に暴露する藍。
デリカシーのない奴め。
そして これは二重にデリカシーが無くて、
城戸本人だけじゃなく、藍に恋し始めていた紗和のことも間接的に傷つけている。
自分に好意はないと言われているようなものだもの。


して男女の間の恋愛沙汰は、仲間内にも問題を引き起こす。

藍と城戸との関係が気まずくなったことで言い争いが勃発。
そして城戸は藍のトラウマをえぐるような発言をしてしまう。

それが上述の自殺未遂の経緯と経過。
父親との関係が行き詰まり、父の監視下にない新しい道へ進むことも反対されて、
絶望した藍は身を投げた。
それ以来、「何に対しても投げやりになった」藍。
(なのに男女交際に関しては結構 前向きなのだから違和感がある)

当時のクラスメイトたちは、藍の飛び降りなど無かったかのようにモミ消した学校側が許せず、
藍と常に行動を共にするようになった。
そして今は、藍を見守るために側にいる。
彼らの教師たちへの反抗的な態度にも理由があったのだ。

まぁ、不幸なら荒れていいという訳でもないが…。

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紗和の王道ヒロイン発言。ちなみに(左下)は三つ子ではありませんので、ご注意を。

藍の過去を知ることで、紗和は恋心を明確に自覚していく。
そんな折に元カノ・結李が登場して、この恋は前途多難の様相を呈するところまでが『2巻』。

非常にオーソドックスな恋愛漫画となっております。

そういえば、藍は高校入学以降(紗和と知り合ってから)は不特定多数との交際をしていないのだろうか。

友人・椿も含めて中学生の時は お盛んに遊んでいて、
高校生になったら落ち着いたというのは都合の良い展開である。

全ては過去にすることで、紗和や読者は彼らに幻滅することないように設計されている。
優しくて遊び慣れた格好いい男の子たちという便利な存在が出来上がった。

まぁ、現実的に考えれば すっぱりと遊びを止められるとは思いませんが(意地悪)。


『2巻』の1/4は、おまけページです。
作者の労力はすごいと思うが、本編重視の私には読み応えが減じる構成。

おまけ がなければ全6巻ぐらいでまとまったんじゃないか。

紗和の小西(こにし)家の間取りが現実的で驚かされた。
もっと現実離れした広さなのかと思ってた。
ちゃんとローンで支払ってそうな感じがする家だ。