みきもと 凜(みきもと りん)
きょうのキラ君(きょうのきらくん)
第06巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
「死ぬ人間が幸せにすることできねぇだろ。」矢部(やべ)の言葉がキラの心を揺さぶる。そしてニノにも驚きの一言を……。好きな想いが、なぜかもつれて空回り。素直になれない矢部の真意は──? 三人が大きな一歩を踏み出したとき、新たな関係が見えてくる!! なにげない日常に二人が紡ぐ、天国に一番近い恋。
簡潔完結感想文
- 胸キュン告白。君の心が潤いを欲した時、浮かび上がるメッセージ。
- 牽制と反省。ニノンかキラか、二者択一でしか考えられないC級思考。
- いま、会いにゆきます。ヒロインでライバルで当て馬だから俺、参上。
矢部がホワイトナイトになりヒロインにもなる 6巻。
『6巻』は矢部(やべ)無双ですね。
矢部君がなりたい自分になろうと懸命にもがく巻です。
それは自分のためだけではなく、自分が大切に想う人たちのためでもあった。
数か月前のキラ君に続いて、矢部の善人化完了です。
ただし善人化したからといって、ニノンへの想いまで浄化されるわけでもないので、
次巻からの矢部の動きは引き続き、気になるところです。
悪人と思われた人が、次々に善人化する本書。
『5巻』で初登場したレイは、その巻の内に悪意がないことが判明(迷惑千万だが…)。
キラ君の好きな人という触れ込みで登場した養護教諭の設楽(したら)先生も、
ニノンへの当たりの強さや、キラ君への思わせぶりな態度も寂しさが動機にあった。
そして矢部も長い長い反抗期に決着を付けました。
これはキラ君の病気の良い副産物といえる事象である。
病気が無かったらキラ君も粋がった自分の生き方が間違いだと気づかないし、
それに追従することだけを目的にしていた矢部も、
彼に認められることだけを生き甲斐にしていただろう。
今回、キラ君は本物の恋に続いて、本物の友情を手に入れた。
残された日々を彼が満たされた気持ちで過ごせることを祈るばかりである。
本書における矢部の役割は非常に多い。
当て馬にライバルにヒロインに親友に恋の応援隊である。
『6巻』は矢部がその役割を1つずつ果たしていく模様が描かれる。
まずは当て馬・ライバル役。
これはニノンへの恋心を通して果たされる。
毎回のように胸キュン場面を用意してくれる本書ですが、
1話目は矢部による胸キュンである。
相変わらず胸キュンの前振りが物語から浮いて見えてしまって残念だが、
企業の協力も得て、胸キュン告白を用意。
でも これ、本命の彼氏・キラ君の前でニノンにメッセージを送っているので、
彼の前で浮気する方法にも思えてしまう。
「今夜、あのホテルで待つ」なんて書いたら、
完全に間男が旦那にバレずに人妻へ宛てたメッセージである。
しかも旦那の前で、というのが旦那を馬鹿にして、スリルを味わおうとする
俗物な品性に思えるなぁ。
これ、ニノンとキラ君の間では使えなかったのだろうか。
アイデア自体は良質なだけに使い方が勿体ない。
ライバル役としてはキラ君に牽制を続ける矢部。
彼のアキレス腱である、ニノンとの未来がないことを執拗に攻め立てる。
矢部はオリンピックに出場しても決して美談を作れなそうですね。
キラ君には矢部、ニノンには設楽先生やレイがいることで、
物語が好きという甘い気持ちだけじゃない、
現実に足を付けた物語になっているように思う。
ここはキラ君の絶望と孤絶が深まる場面。
生き方は悔い改めたが、未来への展望は持たないために、
勉強を疎かにするキラ君と、
将来のために気を引き締めるニノンの対照性も辛いところ。
自分が当たり前だと思っていることが、
当たり前ではない人がいることに無自覚でいて、
無配慮に傷つけてしまうのが遣る瀬無い。
見ている未来の違いを目の当たりにして、キラ君は行方をくらませる…。
そうして矢部が次に動くのはヒロインとして、である。
もちろんニノンもヒロインとして自発的に動いて物事を解決するのだが、
今回、その実行役として人を任されるのは、ヒロイン(代理)の矢部となる。
ニノンがキラ君の父親からキラ君の居場所を聞き出したが
テスト期間中(それもテスト受験中)で、キラ君の居場所が県外であるために、
足踏みを強いられたニノンに代わって、矢部がキラ君の元に駆け寄る。
矢部の心の中では最低でも半分はニノン代理の心構えがあるが、
残り半分は本当にヒロインとして行動しているだろう。
今は こじれてしまったけれど、
自分が最初に好きになった、自分を最初に認めてくれた人へ会いにゆく。
矢部とキラ君の物語であったならば、
これが最終回でもいいと思うぐらいの動きと盛り上がりのある場面となりました。
遠路はるばる、好きな人に会いに行くなんてクライマックスでしかない。
寒い中を全速力でキラ君に会いに行ったのに、
持ち前の天邪鬼が発動して、なかなか素直になれない矢部。
「明日までにつれてきてやる」というニノンとの約束が迫る中、
矢部はキラ君の母親の墓前で、素直な心情を吐露する。
これは少女漫画あるあるだけじゃなくて、
日本人あるある かもしれないが、お墓の前では真実しか話さない説ですね。
自分ではない第三者に聞かせる声に嘘偽りはない。
だからこそ言葉が重く響くのだろう。
男たちの涙の場面が続きます。
矢部は本当にニノン・キラ君、2人に対しての当て馬でもあるんですよね。
どちらも好きで、どちらも手に入らないから、
結果的に2人のために行動している。
史上最強の当て馬じゃないでしょうか。
当人は褒め言葉に捉えないでしょうけど…。
でも、ある意味で心底キラ君を好きだったことが、キラ君を浮上させるキッカケにもなっている。
矢部が好きになってくれたのは、かつての自分。
虚飾にまみれて生きる価値もないと思っていた過去を認めてくれている人がいた。
それはキラ君にとって自分を新しい方向から照らしてくれる光なのではないか。
改心した自分の前に現れてくれたニノンという光、
どの自分もヒカリだと言ってくれる矢部の存在に続き世界は光に溢れていく。
キラ君→ニノン→矢部、そして矢部→キラ君と、
その人の飾らない部分を認めてくれる三角形が完成しました。
それは通常の三角関係とは一味違う、本書ならではの三角形です。
矢部のラブは他の2人に平等に降り注いでいるんですもの(笑)
この3人が完璧な関係性を築いているからこそ、
新キャラのレイの必要性が薄いように感じる。
『6巻』でも登場シーンこそ多いものの、それほど際立った活躍をしていない。
矢部への あの行動には驚かされたが…。
キラ君の病状の悪化など好ましくない事態に、
レイには、ニノンを支えてあげて欲しいが…。
そして先生(センセー)が余計な口出しをしなくなっていることに気づかされる。
これはニノンの周囲の人々(レイや矢部)が、
親身になって彼女の話を聞いてあげているからだろう。
あの騒がしいほどの関西弁が恋しくなっている自分に気づく。
勿論、ニノンの世界が広がっている証左なんだろうけれど。