幸田 もも子(こうだ ももこ)
ヒロイン失格(ひろいんしっかく)
第04巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
安達さんが短期留学で不在の間に、思わず勢いではとりとキスしちゃった利太! 夏休みも終わり波乱の新学期が始まる。さらに、元気のない利太を見た弘光は、ここぞとばかりにちょっかい出してくるが、弘光自身も予想しなかった展開に…!? 【収録作品】番外編 当て馬失格/松崎はとりのヒロイン的1日
簡潔完結感想文
- 恋愛下克上。遂に立場の逆転を目前にした はとりだが、相手を追い詰めすぎて…。
- 弱いから誰かに側にいて欲しい。弱くて優しいから側に居てあげたいと思ってしまう。
- 段々と湧いてくる愛着が、やがて愛情に変わる。キャラではない素の はとりの勝利。
酸っぱいブドウと決めつけるよりも、実際に口づけした君は諦められない 4巻。
相変わらず主人公の気持ちの乱高下が凄い。
高低差で言えば耳がキーンってなるやつだ。
喜びがあるから絶望があって、絶望の中に微かな望みがあるから諦められない。
そんな真綿で首を絞めるような永続的な苦しみを味わう はとり。
登場人物の どいつもこいつも かなり性格には難があるのだが、
その お陰で先の読めない展開が続き、読者を楽しませてくれる。
延々と続く恋のシーソーゲームは、
客観的にみると男女4人の こじんまりとした世界。
しかし 清濁併せ呑んだ ややエゴイスティックな思考が、
それを感じさないぐらい、感情に幅を持たせている。
花火大会の夜、想い人・利太(りた)から寄せてきたキスに手応えを感じる はとり。
利太の心が傾きかけていることを悟り、
利太の彼女である安達(あだち)さんの過去の言動を根拠にし、
安達さんへも自分の行動を正当化させ、最後の仕上げにかかる はとり。
そして利太も心を決し、安達さんとの距離を置くことにするのだが…。
もうサイテーの人たちの集まりですね。
でも、心の動きに不自然なところはない。
何と言っても邪道ヒロインにヘタレヒーローですから。
正統派を気取ってウジウジしていたら腹も立ちますが、
邪道ならば どんな手段を使っても許せてしまいます。
安達さんの敗因は、夏休みの短期留学だろうか。
告白した時に利太は承諾の返事として「オレまじ めんどいよ」
「できるかぎり一緒にいてくんなきゃヤダからね オレ」、と自分の欠点も列挙していた。
まさか交際前のクラスメイトだった利太と会話するようになったキッカケの1つ、
ジャーナリストへの夢が彼女の恋路の障害になるとは。
ライフワークバランスならぬラブワークバランスは難しいですね。
はとり のように1日の大半を利太観察に使っている人の方が恋愛勝者になってしまうのか…。
(巻末「松崎はとりのヒロイン的1日」より)
はとりの勝因は、夏休みの放置プレイだろうか。
利太は夏休み、やっぱり寂しかったのだろうか。
自分の彼女じゃなくても常に一緒にいた人(はとり)の不在と 存在のありがたさを利太は実感した。
だから、寂しさを埋めてくれる存在の はとりに手を出した。
うん、サイテーだね 利太くん。
でも そこに付け入る隙があったのだから、性格を利用した はとりの勝利。
はとり は、作戦提案者の愚かなる中島(なかじま)を軍師として迎え入れるべきだろう。
しかし はとりが悪手だったのは、
邪道ヒロインとして 安達さんを追い込んでしまったことだろう。
もし利太を奪取することを宣言する際に、安達さんに対して王道ヒロインの精神で接し、
彼女の良心に訴えることで、彼女の黒い心を封じていれば、
自分の信条を守るためにも 安達さんは利太を笑顔で手放したのではないか。
安達さんは『3巻』キャンプ回で、信条とは裏腹に、
利太への執着心は綺麗に割り切れないものだと思い知らされているとは言え、
恋愛勝者として舞い上がっている はとりの言動と、
利太の裏切りを知ったら心も病んでしまいますわ。
何度も言うようですが、ヒロインもヒーローもサイテー過ぎる。
でも はとりも含めて、誰かの恋人になることで誰かが悲しむことのリアリティは抜群である。
そして日に日に衰弱していく様子の安達さんは、遂に倒れてしまう。
その事態に利太は、誰の手を握るかを再考するのだが…。
ここは利太くんの優しさで、彼らしいところでもある。
彼らしく、サイテーで居続けられない自己愛が強調される場面でもあります。
そして どこにでも現れ、どんなことも立ち聞きしている弘光くん。
利太の気持ちが再度、安達さんに傾き始めたことを察知し、
機は熟したとばかりに、弘光くんは初登場時以来の はとりへの攻勢に出ます。
弘光くんも はとりの過去の言動を論拠に、はとりの行動を制限する。
それが「オレと はとりちゃんって まだ別れてないって知ってた?」というもの。
はとりから別れようと提案されたが、自分は承諾はしていないから有効だという無茶苦茶な理論。
でも弘光くんの口車にまんまと乗せられちゃうのが、愚かなる はとり と利太なのです。
そうして交際をしていく内に、はとり は常に女性が側にいる弘光の「彼女」であることの難しさを知り、
弘光は はとりの自分でも予測が付かない言動の数々に彼女に惹かれていく。
はとり は誰か(主に利太)の彼女を目指してヒロインを気取るよりも、
自分自身を精一杯生きていれば、十分に魅力的な人なんですよね。
実は自分がアピールして好きにならせるよりも、
自然と相手に好きになってもらう方が得意な、王道ヒロインタイプなのかもしれない。
ガツガツしているから相手が退いてしまうのではないか。
邪道ヒロインではなく、そこから邪気を抜いた「無邪気ヒロイン」こそ
はとりの最適解なのではないだろうか。
はとり と弘光の恋愛模様は、ヒロインとドS王子が主人公カップルの漫画なら王道の展開なんですよね。
私の中では『オオカミ少女と黒王子』が参考文献。
特殊な入口からカップルになった2人が、どんどんと相手に惹かれていく。
やがて冷たかった男性の態度が変わり、静かに男性の方がより深く女性に惹かれていく…。
はとり と弘光くん、利太と安達さん、
この2組には常に「普通の少女漫画なら こうなる」という考えが浮かぶ。
上述の通り、はとりたちなら このまま交際が継続し、
やがて どこにでもいる普通のカップルになるのが王道だろう。
そして利太たちは、安達さんの短期留学の際、
花火大会に女性と行ったこと自体も 誤解で安堵し、恋愛継続が普通の展開だろう。
王道ヒロインものならば、間違ってもキスなどしない。
それをしちゃうから本書は面白いのだ。
にしても弘光くんの利太への対抗意識は どこから由来するものなのか。
学校で女生徒ととっかえひっかえ交際する二大巨頭としてライバル意識があるのか、
彼が中途半端に放置する はとり を捕獲するための狩りの一環なのか、
それとも余りにも幼い利太の精神性を痛めつけたいというSな精神なのか。
いまいち弘光が利太に固執する理由が分からない。
- 作者:幸田 もも子
- 発売日: 2011/08/25
- メディア: コミック