幸田 もも子(こうだ ももこ)
ヒロイン失格(ひろいんしっかく)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
恋敵・安達さんを見習って、はとりは“王道ヒロイン”を目指すことに! ところが、弘光の従妹・萌の登場で計画はあっさり頓挫。いつの間にやら「邪道ヒロイン」の道をまっしぐら…!? はとりの迷走はまだまだ続く…。 【収録作品】番外編 ヒロイン合格
簡潔完結感想文
- 王道ヒロインを目指すも今そこにある危機にキャラ作りを忘れて素でツッコむ。
- 鬼の居ぬ間に洗濯。連れ合いの長期出張の間に一撃必殺の一夜を画策する間女。
- 夏の夜の夢を無しにされる恐怖と、反対の期待で板挟み。しかし本妻の帰国で…。
想い人に恋人が出来た時から邪道の道は拓けていた 3巻。
ヒロイン志望の主人公も、その彼女が想うヒーローも、情けないほど浮ついている。
『2巻』でも書きましたが、通常の少女漫画だったら
こんな2人の態度には徹底的に腹を立て、嫌悪して文句を書き連ねているはず。
しかし本書は間違え続けることで、己の打算的な性格や、
自分を棚に上げて他人に忠告する厚かましい心が浮き彫りになる作品である。
一生懸命やっている主人公の はとりには申し訳ないが、自虐的なところが本書の肝である。
幼なじみを一途に想い続けていれば、いつか王子様の利太(りた)は私の存在に気づいてくれる、
というお花畑の思想を捨てて、恋愛には勝者と敗者が明確にいて、
敗者は胸を掻きむしるほどの痛みに見舞われることを身をもってしった はとり。
そして敗者が勝者の立場になるには、同じ苦しみを味わわせることでもある。
恋愛を通じて少女時代から大人へと汚れる物語でもあるのかもしれない…。
そんな浮ついた はとり のジョブチェンジが楽しい本書。
まず冒頭は、王道ヒロインを地でいく利太の彼女・安達(あだち)さんに対抗するには、
彼女と同じ立場になればいいと、王道ヒロインを演じて見せる はとり。
…だが、地と演技では精神への負担は格段に違い、
はとりは開始15ページで 王道ヒロイン失格となる。
何をやっても八方塞がりなのは はとりの悲しい宿命です。
画風の変化が見事ですね。
本書自体がアンチ少女漫画、ネオ少女漫画といった作風ですから、
黎明期の作風から顔芸全開の はとりのリアクションまで
少女漫画史を内包している、ともいえそうだ。
今回、初登場の弘光(ひろみつ)の いとこ の萌(もえ)。
利太のことが好きな はとりを応援してくれるはずの彼女が利太に急接近してしまう。
王道ヒロインの安達さんが それを察し学校行事の宿泊キャンプでの肝だめしのペアを
萌に譲った彼女を見て はとりは またもや逆ギレ。
王道ヒロインとして利太の行動なら何でも信じると宣言する安達さん に向かって、
邪道ヒロインを極めると宣言する はとり。
この安達さんとの やり取り『2巻』でも見た気がするが…。
はとり は萌を邪魔しに行くが、萌の利太への熱は急速冷凍され、もう好きじゃないと通達される。
(萌は利太に望みがないと方向転換をしただけなのだが)
そして安達さんは、彼女を訪ねてきた利太と肩を組んでいる。
人を呪わば穴二つ、ですね。
邪道ヒロインの道も閉ざされ、はとりは また失意のどん底に落ちる。
だが、邪道ヒロインは安達さんに言えないような夏の一夜を過ごすことになる…。
はとり は萌に説教をしても、
安達さんに逆ギレしても、どちらも お門違いなのが悲しいですね。
萌のことを たしなめようとすれば、自分へのブーメランになり、
安達さんを奮い立たせたら、自分の恋に望みが無くなってしまう。
恋愛の袋小路に入ってしまった はとりの姿は、
客観的には滑稽なのですが、ピエロのような哀愁を感じずにはいられない。
ただ、菩薩のように広い視野で恋愛を捉えていることをアピールする安達さんですが、
利太が嘘をつき、萌との交際を宣言すると やはり自分の気持ちが優先されるようで、
ショックを受け、そして嘘だと分かると安堵の涙を流す。
彼女もまた理想論だけで動いているのではないか。
実際の彼女はそれほど強くない。
だから万が一、はとりが利太を奪った時の反応が怖い。
そして利太の心が他に動いたと分かった時、彼女が壊れないか心配だ。
そんな安達さんに顔向けが出来ないことをするのが夏休み。
安達さんは将来の夢のために短期留学をすることになった。
王道ヒロインの安達さんは夏休み中、一人になる利太を心配して
はとり に側に居てくれるようにお願いする。
将来の夢と恋人と「大事なもんが2つある安達より
利太しかない あたしのほーが 利太への愛は大きい!!」という謎理論を引き下げて、
攻勢に出ようとする はとりだが、萌と愚かなる中島(なかじま)との鼎談による作戦会議で、
利太と距離を置くことを勧められる。
1か月の無沙汰を経て、久々に会う はとりは幼なじみではなく、一人の女性として扱われるというのだ。
そして その計画通り、1か月経過した花火大会へ利太を誘うと…。
サイテーですね、利太は。
でも、サイテーな利太が少しずつ可愛く見えてしまうのが、利太の恐ろしいところ。
遊びでは女性と付き合えるのだけど、本気にはなりきれない利太。
その背景は彼の家庭環境もあるが、彼自身が実は自分に自信がない。
自分を本気で好きになってくれる人がいることを信じられないのだ。
そんな弱い一面を見せてくる利太は、非常にズルいです!
今回のキス事変は はとり の狙い通りだし、幸せな展開のはずなのに心が晴れない。
キャンプで萌は失敗したが、人の彼女を奪う裏では
彼女の目の届かない場所で、こういう計画と、軽はずみな行動が成された結果なのかもしれない。
さすがに少女漫画ですから、この夜、利太の家になだれ込むという展開はなかったが、
(あったら はとりは どういう対応をしたのだろうか。
邪道どころか ビッチなヒロインとして生きたのだろうか)
精神的にも浮気に入るような案件である。
少女漫画のお花畑思考のように、ラストでは王子様が自分の存在に気づく、
というご都合主義がなければ、こうやって人の道に背かなければならないのか。
事が進むと、はとり の進む道は茨の道、地獄へ堕ちるような道であることを実感させられる。
これぞ まさに邪道ヒロインの進む道なのかもしれない。
応援しているんだけど、応援しきれない そんな恋もあるんですね…。
今回、大人しいのは『2巻』初登場した弘光(ひろみつ)くん。
あっという間に はとりの彼氏に収まっている弘光くんですが、
今回は その行動力は鳴りを潜め、どちらかというと狂言回しを務めている。
または悪魔の囁きですね。
囁き戦術によって、その人の善意や悪意を揺さぶる弘光。
はとりも利太も弘光と会話すると己の心の深淵を見透かされる気分になるだろう。
都合の良い自分、煮え切らない自分、固執しているだけの自分、
様々な自分に出会って、
とは言っても、全てが弘光の思い通りに行くわけではない。
花火大会の夜、弘光に唆された利太が はとりに距離を置こうとしても、
はとりはそれを上回る利太への想いを熱弁して、
利太もまた その言葉に心を打たれる。
だから自分からキスをしたのだ。
もしかしたら2人とも弘光の想像以上にバカなのかもしれない。
浮ついた心を持つ2人の未来予測は弘光くんでも難しいのだろう。
- 作者:幸田 もも子
- 発売日: 2011/04/25
- メディア: コミック