《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ルックス・学力・腕力が100点のヒーローは少女漫画的には 0点。性格は甘めにつけて30点。

ダウト!! 3〔文庫版〕 (小学館文庫 いI 3)
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
ダウト!!
第03巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

彼女や親、同級生たちの妨害も乗り越え、清い高校生恋愛を続ける藍(あい)と曹(そう)。だが謎の後輩・三村に「曹と別れろ」と脅された藍は、彼と気まずくなってしまう。何もないまま夏休みが過ぎようとするなか、皆で曹の別荘に行くことに。幸せいっぱいの藍だが、何とそこには三村と、曹の婚約者だという令嬢・桜子(さくらこ)がいた! 曹は藍に「一緒にいよう、この先もずっと」と言ってくれるが、それきり姿をくらましてしまい…? 最後まで目が離せない最終巻!! 短編「テストの日」も収録。

簡潔完結感想文

  • 刺客その3。嫌味合戦から犯罪も厭わない手段に出るのがライバル達の特徴。骨 折られたら負け。
  • 突然の退場。成績優秀のヒーローが進学校編入。彼が転校したメリットを感じられないのだが…。
  • 刺客その4(ラスボス)。際立ったバトルなしに敗北を宣言する主人公に違和感。乙女のまま終了。

スボスの弱さに拍子抜けして ゲームバランスの悪さを感じた 最終3巻。

ロールプレイングゲームをしていて感心するのは、
たった1つのレベルの差で戦いが非常に楽になる、敵と自分の強さの絶妙な設定である。

その微妙な設定が最後まで続くのが良いゲームの要素の1つだと思う。

本書の場合、主人公・藍(あい)が最後に立ち向かう ライバルのレベル設定が残念だった。

掲載誌のリニューアルに伴って作品の終了が告げられて、
なんとか もぎ取った最終回までの3話分の話でクライマックスを創作したかったのだろう。

しかし現実は、3話分でラスボスの強さを描き切ることが出来なかったと思われる。

これまで口撃したり物理的に殴打したりと様々な女の戦いを見せてきた本書において、
ラスボスの戦いは精神攻撃が多い。

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2人のうち どちらを彼が選ぶのか、それが何回か続くラスボス戦。戦いとしては非常に地味です。

しかも それは、ラスボスからの精神攻撃ではなく、
ヒーローである曹(そう)がラスボス・秋子(しゅうこ)に肩入れするという彼氏の裏切り行為がメインになっている。

藍にとって会心の一撃となるのは曹の心の移り変わりだということは分かるが、
ラスボスの真の強さや恐ろしさを描かないまま、別れ話ばかりが進む違和感が拭えない。

これなら刺客その1の教育実習生・ちはる が教師として舞い戻ってきて欲しかったかも。
最初のライバルとの史上最大のバトルが繰り広げられるのなら最終回に相応しかったのではないか。

まぁ その前に藍と曹、2人の恋愛の行方が全く気にならないという大問題はあるんだけど…。


はブレイカー(破壊者)である。
そしてバランスブレイカーでもある。

自分の彼女がピンチに陥ったら助けに来てくれるヒーローではあるのだが、
彼女に手を出したら女でも元カノでも容赦はしない。

「骨を折るよ?」「女でもやるよ?」と曹が一言いえば、
女たちは顔を青ざめて退却する(そりゃ そうだ)。

ヤンキー漫画の主人公なら無敗を誇る曹は脚光を浴びるだろうが、如何せん本書は少女漫画。
殴って蹴って、目で相手を射すくめて黙らせる手法を何度もやられても読者も血の気が引くばかり。

そして彼が登場した途端に問題が解決するので、そこまでが全て前座に見えてしまうのも問題。
曹は初登場の時点でレベルMAXなのだ。
登場する藍のライバルたちとは全員と契りを交わしている。
史上最強のヒーローは、漫画上はバランスブレイカーでしかない。

優しい言葉を投げかけることもなく、
最初から最後まで性格も変わらなかった曹という人物。

忘れられない個性を持った人だとは思いますが、私は決して好きにはならないタイプですね。

本来なら地味S(ジミーズ)であった藍も好きにならないと思うが、
彼女が恋に落ちたのはルックスだけが良かったとしか思えない。
成り上がり美女だから初手で悪い男に引っ掛かってしまったのかと心配になる。

最初から最後まで2人の恋愛を見守る、という読み方は出来なかった。
漫画の中だから付き合える変人カップルとして読んでいた。


気になるのは『3巻』の中盤~後半、顔のクオリティが著しく低下していること。
特に藍と曹は気合を入れないと彼らの輝きが出ないことが判明した。

逆に言えば、気合を入れた時の絵は本当に綺麗だということ。
確かな画力と、当初から長編作品として構想した次回作を楽しみにしたい。


いうことで各話の感想です。

19話。
今年の夏も海に来た バカ四重奏団(カルテット)。
そこに刺客その3・桜子(さくらこ)が初登場。

彼女は衆議院議員である曹の父親の大事なお財布であり、
学校の後輩の三村(みむら)は父の秘書の息子であることが判明。

ってか、三村の嘘つきとか態度の豹変とかの理由がよく分からないままである。
「展開・伏線を急に全部捨て 強引に別の話にかえた」ことが混乱の原因か。
もうちょっと整えられた話が読みたい。

花火を弾幕にして打ち合ったのが夏の思い出ですね(やっぱりヤンキー気質)。
そして、2学期から曹の姿は学校になかった…。

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女子の武器(したたかさ や外見)ではなく 人の武器・お金を使う桜子。札束で殴り掛かってきます。

20話。
曹の失踪から半月。
学校に退学の連絡があり、転校することが発表される。

スポンサーの娘・桜子への失礼が原因の転校らしい。
母親の懇願と、裏切れない父親のために曹は転校を決意した。
というか曹の転校先の学校に在籍する桜子が黒幕だった。

桜子は曹の母親や 元カノ・ちはるに似てますね。どちらかというと地味顔。
母の面影を無意識に追っているのかと思ったが…。

21話。修学旅行 京都・奈良編の全編。
藍の学校と曹の学校の修学旅行の日程がほぼ同じ。

2つの学校が同じ日程というのは アルコさん・河原和音さん『俺物語!!』でもありましたね。

桜子には宣戦布告をしているのに、転校した曹には素直に自分の気持ちを表明できない藍。
ちなみに桜子とも肉体関係を持った過去がある曹。
ここもまた少女漫画のヒーローらしからぬ旺盛な性欲である。

そして藍と曹の価値観やすれ違いがマックスに。

弱音を吐く藍の壊れかける精神を、秒で解決しちゃう曹。
曹が凄いのか、藍がチョロいのか…。
藍は肉体関係なくとも満たされる。

やはりパーフェクトな男性をヒーローにすると長編に向きませんね。
栄羽弥さん『コスプレ★アニマル』でも同じ症状が出てましたね。

22話。
修学旅行編・後半。
ホテル内で藍が誰とでもラブホテルに行くという噂が立つ。
今回は藍ピンチ回ですね。

でも曹に頼らなくても藍は十分に強い人。
展開が『1巻』1話を思い出します。
藍は自分で困難に立ち向かってレベルアップしている感じがするのだが…。

23話。
藍が太ったことから自信を無くし、
そこから曹への信頼も揺らぐという、いつものパターン。

男好きのする顔の ちはる が美人設定になっているのが気になる。

こういう美人維持の小ネタを使った日常回でも話は出来たかもしれない。
メイクの仕方とか服の選び方とか、
ファッション誌のような内容を漫画で学ぶ、という内容も読んでみたかったかも。

24話。
またも藍ピンチ回。
3年生進級を前に塾に通いを考え始める藍。
大学の付属高校に在籍しているのに桜子も参戦。

藍は地味S(ジミーズ)として真面目に生きてきたので頭が良さそうな気もするが…。
本書の内容に勉強とか受験とか似合わないので、その前に連載が終了したのは不幸中の幸いか。

桜子のやることは腹黒いというよりも犯罪。
久々にヒーローが駆け付けるパターンです。
ワンパンマンなので曹が登場したら問題は解決します。

桜子は曹が鼻を折ると言ったのでライバル戦線から脱落。
ちはる の時は腕を折るって言ってましたね…。

犯罪スレスレのことをしでかして、骨を折られそうになって退場する人たち。
刺客の中では 犯罪行為をしなかった京華(きょうか)がマトモな人に見えてきました。

結局、独り身の雄一郎(ゆういちろう)くん、京華さんでOKでは?

25話。
やや強引な流れで後輩の三村の偽彼女になることになった藍。
だが曹は嫉妬もせずに、それが藍の不安を掻き立て…。

すれ違いコントの結果、別れることになった2人。またかよ。

だが仲直りをしようと歩み寄った後に、本音の喧嘩を始める。
これはカップルの主導権争いでもあった。

これまで数々の口喧嘩をして、自分が優位に立ち相手を黙らせる手段に長けた藍の勝利。
何だかんだで曹は藍と離れられない、はずなのだが…。

26話。
ラスト3話にして最後の刺客、4人目の秋子(しゅうこ)登場。
モデルで桜子の姉の秋子19歳。

外見が藍に似ている秋子がラスボスになるようです。

曹と藍、2年前の入学式での出会いのキッカケも、藍が秋子に似ているからだったという、
すっげーーーー、後付け設定が登場。

これで一気に秋子の価値を上げたかったんだろうけど、あまり機能せずって感じです。

27話。
秋子は曹にとって初めての女性。

またもや別れました。
これが最初の別れだったら、心配もしますが、2話前で別れてますからね…。
そしてその時に愛を再確認したと思うのですが。

何度も別れて復縁するカップルは勝手にしろ、としか思いませんね。


28話(最終話)。
扉絵にバカ四重奏団(カルテット)の他に、なんで桜子がいるのか。
彼女が唯一の同級生だからか? 最終回なんだから いらなかったなー。

刺客1~3が大集合。同窓会気分だ。

全体として最終回の内容としては弱い。
藍が、秋子に対して「がんばった」という描写が徹底的に不足している。
それで「もう十分がんばって敵わなかったんだよ!!」と言われても説得力がない。

秋子は登場話数も少ないし、バトルも これまでで最も少ない。
ちはる や桜子の方が骨があったと思わざるを得ない。

最後は、少女漫画の最終回の定番、空港での場面。
空港を利用するために秋子はイギリスからの使者だったのか、と納得する。

ハッピーエンドではあるものの、連載が続いていたら、
次の回にでも別れ話をすると思ってしまう2人です。

30歳処女を回避するために成り上がったけど、美人になって
最高で最低の彼氏が出来た18歳の誕生日も、その問題は解決されていない。
この大オチは とても良かったのではないでしょうか。

藍も曹も幸せが似合わないのかもしれない…。
戦って戦って生きることを宿命づけられている、のか?


「テストの日」…
テストあるある を詰め込んだ作品。
でもテスト勉強してこなかった自分を棚に上げて、八つ当たりする話に読める。
この話でも主人公は不幸である。
不幸多めが作者の傾向なのか。