山田 デイジー(やまだ でいじー)
初恋はじめました。(はつこいはじめました。)
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
恋愛から解脱した“脱モテ”生活をエンジョイしていた姫子(ひめこ)。年下イケメンの春樹(はるき)から突然告白され、困っていたのに、オレ様な本田(ほんだ)からも告白されて…学園中が大騒ぎ! 騒ぎを収めるために、姫子は春樹と付き合う“フリ”をすることにしたけど…、ドキドキの連続で、大ピンチ――!
簡潔完結感想文
- 偽装交際。好きな人が偽装を申し込んでくれたので、ワンコはオオカミになります!
- ストレス。偽装が様々な人を傷つけていることに心が痛い。私に心なんてものがっ⁉
- 過剰になっていく自意識に悩む姫子。好きでもない人と複数回デートなんてしないよ。
習うより慣れろ、恋愛実地研修の 3巻。
いきなり妄想ですが、この お話、全ては春樹(はるき)の計略ではないかと思えてきた。
それぐらい姫子の逃げ場が周到に封じられて、
最悪よりはマシな選択として春樹と接点を持つように仕向けられている気がする。
これを可能にしたのが2つの「ガイテキ」である。
1つ目は学校を支配する雰囲気にのまれていく「外的」要因。
中学3年生でありながら、中高一貫校の学園の王子様として君臨していた春樹。
その彼が選んだのが、読書以外に何の興味もない高校2年生の姫子(ひめこ)。
自分の一挙手一投足が注目されている自覚を持ちながら、姫子にアプローチし始めた春樹。
学校のトップ オブ トップだから、春樹のすることは何でも応援され、
教師陣たちも彼のハイジャンプの成績のために春樹の恋を後押しする。
こうして学校と言う、高校生にとっては世界の ほぼ全てで、彼女は追い詰めれていく。
そこにダメ押すことになるのが、2つ目のガイテキは「外敵」。
その名は本田(ほんだ)。
彼はハイジャンプの成績をもって、突然 春樹たちの学校に転入してくるのだが、
もしかしたら これも春樹が子供の頃からよく知る本田の性格を利用して、
大会で彼を けしかけたからではないかと私は睨んでいる。
自分をライバル視している本田の行動は春樹にとって予想しやすい。
その予想通り、姫子に近づいた本田から彼女を守る騎士(ナイト)になる春樹。
守るふりをして肉体的接触も可能な役得がある。
本田のグイグイな行動に手を焼くふりをして、
次第に姫子が追い込まれるように導く春樹(もはや黒王子)。
そうして姫子が自分を頼ってくるのを待つ。
遂には『2巻』のラストでは姫子の方から「ある提案」をしてきて…。
考えてみれば『1巻』で学校内の姫子の秘密の場所に、
同じ本を忘れ物するのも わざとらしい行動に思えてくる。
本にしか興味がないのなら、本から興味を持たせればいいのだ。
誰よりも高く飛ぶ男は、誰よりも高い視野を持っているのかもしれない。
春樹、恐ろしい子。
あっ、全部 妄想ですよ。整合性はありますが…。
本田のグイグイの攻勢から身を守るために偽装交際を始めた、姫子と春樹の2人。
偽装交際も少女漫画の王道パターンですね。
でもちょっと、偽装交際をする結論に至る姫子の論理が弱い気もする。
姫子は自分が原因で「彼が一番大切にしていることができなくなりそう」だから、偽装交際を選んだという。
うーん、自分で解決するって道はないのか。
ここは偽装とはいえ交際するという展開を用意した作為を感じますね。
上述した2つの外的と外敵。
姫子には どちらも自分の力だけで解決策を模索して欲しかった。
学校の雰囲気に呑まれたり、
嫌いな男を遠回しに遠ざけるために人を利用するのは姫子が嫌いそうなことなのに。
肝心なところで芯の弱い部分が出ることが気になります。
まぁ、少しでも姫子が折れてくれないと話が進まないんでしょうが。
そして「みんなの気が済む」交際をするって、春樹に失礼な気がする。
これは後半の展開に絡む問題でしたね。
姫子が自分の間違いに気づくのも、成長の一過程なんでしょうけど、
ちょっと視野が狭すぎるというか、人の心にやっぱり無頓着。
読書好きの彼女の精神的な成熟度が低いのが気になります。
この学校の恋愛への前のめり度は凄まじいものがありますね。
『1巻』冒頭での姫子は、クラスメイトたちを、それしか頭にないのか、と憤ってましたけど、
もう学校自体が恋愛を育成する学校なのかもしれない、と思うほど人の恋愛に興味津々。
この状況こそ、『いまだけ ほっといてくれ(作中の架空の本)』といった感じですね。
偽装交際は功罪の両面をもたらす。
大いに恩恵に与るのは春樹。
周囲の目を誤魔化すために、王子様流の交際を見せつける。
春樹はそれに かこつけて恋人気分を味わっていますね。
やっぱり全てが春樹の 思いのままになっている気がする…。
本田から逃げるのに必死で、飛んで火にいる夏の虫 だったのは姫子かもしれない。
確かに姫子が「ガイテキ」から逃げるために春樹を協力者にしたわけで、
いわば姫子には春樹へ負い目がある。
春樹はそんな心理的優位を感じているから、なかなか大胆な行動に出るのだろう。
ワンコ系男子なんて化けの皮で、実際はドS王子たちと同じ種族かもしれない…。
ただ、偽装交際が偽装であるが故に、自分の罪を知る姫子。
調子に乗った春樹が学校外でも恋人のように振舞う その姿を見て、
違う学校で、本気で春樹に恋をしていた女性が傷つくところを目撃した姫子。
その姿を見て、本気の人のことを考えていなかった自分の至らなさに気づく。
またまた想像力が欠如しているというか、視野が狭いというか。
これまで底辺に甘んじて、傍若無人に振る舞っていたツケでしょうか。
姫子は恋愛の実地体験を通して、人の心まで学んでいます。
そんな反省の弁を述べる姫子に、春樹が「他人なんかどうでもいい」と言い放つのも理解不能。
やっぱりドSな人なんでしょうか。
意外と交際までグイグイで、交際後は餌をやらないタイプかもしれない。
中学3年生の必死さなのか。
これも、この後の春樹側の失敗の伏線なのかな。
一方で、ちゃんと自分も姫子を利用して「交際」していることを理解している春樹。
心が痛むならニセモノをホンモノに変えればいいとポジティブな ご意見。
やっぱり逃亡先に春樹を選んだのは失敗でしたね。逃げられません。
寝不足から熱中症で倒れた姫子。
彼女がそうなったのは「彼女」としての無理がたたったと本田は指摘し…
目を覚ました保健室で、姫子は春樹と話し合う。
周囲から監視されたり、歓迎されたりと疲弊した自分の気持ちしか考えていなかった姫子だったが、
春樹が自分の至らなさを正直に申告するから、姫子も春樹の心情まで考え始める。
偽物の恋だから、誰かを傷つけたくない。
でも春樹は本物の恋だから、手を抜くと彼を傷つけかねない。
春樹からも目を逸らすことが出来ない。
春樹が引こうとした手を掴んでしまう姫子。
これが現時点での彼女の選択なのでしょう。
そして恋とはどういうものかしら? と学び始める。
少しずつ変わり始める自分を自覚していく姫子だった…。
春樹は恋愛の駆け引き、押し引きが本当に上手ですね。
意地悪な見方をすれば、自分が苦しんでいる顔を見せれば、
姫子が手を差し伸べることも分かってそうだなぁ。
姫子が最初に春樹を応援した時から(『1巻』1話)勝負は決していたのかもしれない。
- 作者:山田 デイジー
- 発売日: 2016/04/13
- メディア: コミック