《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

努力の王子様が 底辺プリンセスの イケメン台詞で簡単に射抜かれました。

初恋はじめました。(1) (なかよしコミックス)
山田 デイジー(やまだ でいじー)
初恋はじめました。(はつこいはじめました。)
第01巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

恋愛なんてぜいたく品だしめんどくさい! 恋から解脱して、しあわせなおひとり様読書タイムをこよなく愛す姫子。リア充な同級生を横目に、充実の底辺ライフ満喫中! でも走り高跳びの世界的選手で、年下のイケメン春樹に突然、告白されて…!? “脱モテ”なのに「歳の差&カースト差ラブ」をつきつけられた姫子は…!?

簡潔完結感想文

  • 簡単には恋に落ちない頑なな心。姫の高いプライドは読者の共感すらも奪っていく…。
  • 王子様を スクールカーストの底辺が 胸キュン台詞の一言で射抜く 混乱必至の構図。
  • 自称・底辺だが本を読まない人間を見下す 主人公は シンデレラじゃなく裸の お姫様。

恋はじまらない かもしれない 1巻。

作者の作品、初体験。
さて、初恋がはじまったかと言えば…。

ちょっと私は主人公と仲よく出来なかったなぁ…。
いかにも私たち読者の代表であるはずの主人公が私とはタイプが違った。

初恋漫画なのに、この初恋に興味が持てない。
いや、正確には私が主人公を好きになれそうもない。


作中の主人公の謎の上から目線の毒舌と、
その裏にあるプライド、そして格好つけた台詞回し、
この嫌悪感には覚えがあると思って考察したら判明しました。

主人公・高校2年生の牧野 姫子(まきの ひめこ)の「内面」は、
いわゆる少女漫画の典型的な「毒舌 王子キャラ」なのだ。

姫子は自称「スクールカーストの底辺」であるから、
「毒舌王子」たちとは違う種類の生き物のはずだが、
自分と世界の違う人間は相手にしない排他的な性格を持つ面が同じである。

なるほど、道理で私が嫌いなわけだ。

一括りに「毒舌王子」代表として例示するのは申し訳ないが、私が読んだ作品ですと、
初登場時の『オオカミ少女と黒王子』の恭也(きょうや)くん、『L♥DK』の柊聖(しゅうせい)、
『好きっていいなよ。』の大和(やまと)などに似ている(そして例外なく後半に人格が変わっていく…)。

物語においての役割も彼らと共通する。

姫子は、なぜか自分のことを好ましく思ってくれる
中学3年生で、中高一貫校の この学校の王子様・真山 春樹(まやま はるき)を邪険にしつつも、
彼が迎える重要な局面で「イケメン台詞」を繰り出して彼をアシストする。

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既存の少女漫画の構造から男女が逆転しただけなのに、なぜか違和感が生じる。

精神的に追い詰められてメンタルやられるぐらい120%努力している春樹に対して、
たった1回、彼の欲しい言葉を叫べば好感度がアップする楽な仕事です。

底辺どころか一番高い位置から、自分は傷つかない求愛を受けている姫子。
そうか、彼女の名前にヒントがあるのか。
最初から気高い姫だもんね。学校のプリンセスだったのか。

今後、姫子の性格がプリンス同様に変化していく描写があるといいのだが…。


本書が男女逆転していたら、普通の少女漫画として成立しただろう。
めげない年下女子・春樹と、拒絶はするが時に胸キュン台詞を届ける姫子。

だが、性別を入れ替えたと同時に、身分に格差を付加してしまい、
更にはイケメン毒舌の精神だけを姫子に残したから、
物語が無駄に複雑化してしまい、読者の共感ポイントを奪ってしまった。


クールカーストの底辺、陰キャ、オタク、
2010年代から この辺りの、ネガティブさを前面に押し出した作品が多く見られます。

陰キャを中心に据えた『影野だって青春したい』は2013年、
オタクをラブコメにした『私がモテてどうすんだ』も2013年連載開始です。

底辺を売りにする本書は2015年連載開始で、その潮流に乗った作品だろう。

主人公の姫子は自分を「スクールカースト」の底辺だと自覚し、
「一人で じゅーぶん たのし」い し、「恋なんか どーでもいい」。

その考えには共感する部分もあるが、
自分から「底辺 最っ高!!」と言っている時点で好きになれない。

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自分の殻を破ろうと努力する人が、自分の世界に閉じこもるだけの人を好きになるかなぁ…?

学校の敷地の片隅で一人、季節の移ろいと読書を楽しむ日々。
それなのに、「非リア」とか「ぼっち かわいそう」とかいわれなきゃなんないの⁉ と逆ギレする姫子。

…いやいや、作中で誰からもそんなこと言われてませんよね。
貴方は唯一話しかけてくれる一人の友達以外と会話してませんけど…。

教室で「ぼっち」の描写はあるけど、
級友たちから あからさまに避けられたり、それどころか冷たい視線を送られている描写すらない。

彼女は一体、何と闘っているのか…。
聞こえない声が聞こえちゃってるの? メンヘラなの? と心配になる。

作者が描きたい内容、進めたい方向性は分かるが、
スクールカーストの底辺」という言葉に頼り過ぎて必要な描写を省き過ぎているように思う。

そして姫子は排他的である。
自分を底辺と位置付けて安住する代わりに、
他者も勝手にラベリングして見下している。

彼女に友達が出来ないのは、彼女自身が人の本質を見ないからだろう。

少女漫画のメタ視点を取り入れているけど、
コメディに寄らずに、姫子イケメン漫画になっているのが中途半端に感じる。


んな彼女に様々な境界を越えて空から王子様が降ってきた。

それが春樹である。

春樹は姫子の読書中の楽しそうな顔に惹かれ、
姫子は春樹が人知れず流す涙の意味を考えるようになる。

でも、この春樹の涙の訳、いまいち分からない。

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春樹「そんなの がんばらないことを 肯定する人に言われたく ありません…。」

姫子のように独りになることも出来ない環境がその裏にあるとは思うが、
この後に最後まで彼の抱える重圧を描く場面が全くないから、
ただ姫子に「イケメン台詞」を言わせるための作為ばかりが残る。

ちなみに春樹の表記がハルキと春樹となのは公私が違うってことなのかな。


春樹が姫子に惹かれる訳も、読書中の顔以外に何も出てこない。

努力家で気配りも出来るが過度なプレッシャーもあって精神的に苦しいスポーツ男子が、
好きな世界を伸び伸び生きている文学少女に羨望を覚えたということなのか。

春樹ぐらいの人間が、どうして姫子に初めて恋をしたのか、
その動機となるものが弱いなぁ。
ましてや、相手は精神的にイケメン気取りの姫子なのである。

葛藤を抱える春樹に対して、何の努力もしていない姫子の不釣り合いばかりが悪目立ちする。

1話目は もっと いい構成があったと思わざるを得ない。
2人を応援しようという気持ちが湧き上がらないまま、物語が続いてしまった。


が一番、姫子に対して疑問なのは、本好きという設定の無意味さである。

世界を内包できるほどの広さを持つ本の世界。
その本が好きという割に、姫子は全く何も学んでいないように思えるのだ。

本は教養を広げる。それは自分の視野を広げることでもある。
そしてその視点から他者に思いを寄せる心を育むことが出来る。

でも、姫子にあるのは自分、自分、自分。

春樹に僅かながら興味を持ったのも、
自分が好きな物と、自分とはかけ離れた者が本で結ばれたからである。

そのキッカケがなければ姫子は狭量だから、春樹に興味を持たなかっただろう。

人を知ろうとする努力を放棄して、好きなことだけやっている姫子が、
春樹だけでなく、他者に対して上から目線の偉そうな口を叩く場面は読んでいられない。
春樹は好きなことをするために たゆまぬ努力をしている。

もしかして姫子は、自分がラベリングするリア充には悩みなんてないと思っているのだろうか。
この想像力の欠如こそ、彼女の読書が血肉になっていない証拠である。

結局、何もしないで愛されているのは主人公。
主人公の思考こそお花畑に見えてしまう。
最初から最後まで、それが残念。

唯一、臨時マネージャーの時は読書による知識と姫子の努力が活きたかなぁ…。


になったのは、クラスメイトが授業中にお菓子を食べてるけど、治安の悪い学校なの?
もしかして主人公も本好きなだけで、勉強が出来る訳じゃないのか?

あとは歯(奥歯)の描き方が気になります。
厚みが無いので牙みたいになっている。
特に逆ギレする姫子の顔が鬼の形相になって、より攻撃的な人格に見えてしまう。


良かった点は、主人公が絶対に美人にならない画力ですね。
多分、整ってたり可愛かったりする方が描く分には楽なんでしょうが、
本書の主人公はずっと変わらない野暮ったさを保っています。

あとは走り幅跳びの描写は上手いですね。
デッサン力があるからでしょうか。

スポーツする場面では、時々、作者の画力の弱さが露呈してしまうこともあるが、
本書は全く問題ありません。


ちなみに巻末にある作者の前作の後日談みたいな漫画。
私は前作を読んでないんで置いてけぼり。
それが全5巻中4巻続くという苦行。

作者としては愛着のある作品だったのだろうが、
現彼氏がいるのに、元カレのことを忘れられないと言っているようで失礼に感じる。

作者自身もそれっぽいこと言っていたが、終わった作品に対して未練がましい。