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少女漫画と小説の感想ブログです

乙女の純情は失いましたが、サッカーの才能と 愛されヒロインの座は守りました。

うわさの翠くん!!(10) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
うわさの翠くん!!(うわさのみどりくん!!)
第10巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

私がカズマを……愛してる…?自分の気持ちがわからなくなってプレーに集中できない翠(みどり)。そんななか、カズマは再起をかけて遠くの病院に転院してしまう。冬の選手権、迷いを断ち切れない翠は途中交代…。その時、いつも心の底にカズマがいたことに気づき…!?最高のハッピーエンディング!翠くん、最終章!!

簡潔完結感想文

  • 私生活の悩みがサッカーに直結してスランプの翠ちゃん。彼女だけ成長してない気がするが。
  • 翠と司が直径3メートル内で見つめ合ってたら試合終了。サッカーの魅力が全く伝わらない。
  • 司への罪は次世代で贖う。親世代の満足のために次世代が犠牲になってる気がしてならない。

ロインの翠よりも身も心も綺麗なのは、カズマ、君だよ☆の 10巻。

本書は このところ私が頻繁に遭遇する、少女漫画における恋愛2段ロケット方式でした。

途中まで最初の恋が運命の恋かと思っていると、切り離され、次の恋が本物という方式。
更に本書では一方の恋愛が完全に成就した後に、本命が発覚するという独自性がある。
なんと最初の人と肉体関係まで結んでいるのだ(物語の幕開けが そうだったが…)。

この2段ロケット方式の読みどころは、
いかに最初の恋に言い訳をつけて終わらせ、2回目の恋を本物にするか、というところだろう。

そして最終盤での急な進路変更で 主人公や作者が嫌われるのも この方式。
良くも悪くも読者の予想を裏切らなければならないので、かなり扱いが難しい。

本書の場合はどちらのエンディングもあり得たのではないか。
そのぐらい主人公・翠(みどり)の心情はフワフワしていた。

それでも彼女の選択への布石はしっかりと打たれており、
一点の曇りもない未来へ向かっては、こちらの選択の方が正しいように思える。


だ作者の構成力は好きだが、物語は好きには なれない自分もいる。

翠は能動的に動いているが、結局は神から、作者から、男性から、
愛されヒロインでしかなかったことが不満です

もっと彼女が自分の脚で立った描写があれば尚 良かった。
最後まで男性にお膳立てしてもらって、美味しいところをもっていっただけのようにも映る。

男装して男子校に入学したことの結末も含めて、
彼女には葛藤した跡が見られない。

こういうところは結婚というハッピーエンドだけを目標にしているから、
高校卒業後の空白の数年間、彼女が何をして生活していたのか(仕事など)が全く描かれていない。

低年齢向けの少女誌だからという理由もあるだろうが、
過剰なほど裏設定を盛り込んだ作品で、翠だけが夢の国に生きていて実態がない。

最終巻に描かれるのは古典的な女性像と、女性の幸福だ。
21世紀の作品なのだから、もう少し自立させて欲しかった。


撃で射抜かれる恋もあれば、徐々に花を咲かせる恋もある。

司からの決別宣言、カズマの怪我と転院で翠のスランプが訪れる。

翠のサッカーの原動力は異性への愛だったのかもしれない。
強烈な一撃をお見舞いされた司への復讐という名のストーキングも その一環か。

『7巻』のラストで司を献身的な支えることにして以降は練習場面がほとんどなかった。
だから徐々にカズマへの想いに傾きかけていた時も、その不調が表立つことはなかったのか?

しかし今回、司に指摘され自分の中に揺らぎを感じた翠は、ついに途中交代させられてしまう。
迷いを吹っ切るために、カズマのもとに舞い降りる…。

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自分の意思でカズマを選んだから窓枠だって乗り越えるんだ。ヤラセの過剰演出じゃありません!

にしても、翠はカズマがリハビリ入院する病室に なぜ窓から入る意味があったのだろうか。
ユニフォームのまま土足で不衛生である。

これは単なる演出以外にも、翠がカズマの世界に自らの意思で
扉を開けて入ってきたことに意味があるのかな。

背中に日の光を浴びて、いよいよ聖女の降臨といった趣である。
まぁ、カズマを お迎えにきた死神にも見えるけど…。

こうして翠は本物の恋を探し当てる。

…が、翠と司が決別の際に語った、お互いは
「恋愛とか 男とか女とか きっとそういうこと以上に とても大事な存在」
ってのは、まんまカズマにも当てはまるんだよなぁ。

というか、不幸に耐えるカズマに こそ当てはまる。

また翠への不満になりますが、客観的に見れば、
結婚まで考えた相手を振って、割とすぐに次の恋を始めてるんだもんなぁ。

ここでは翠にも独力で研鑽を積む場面が必要だったんじゃないか。
じゃないと才能と男のアシストだけで渡り歩いているように思えちゃう。

いよいよ翠だけ成長してないように感じられてしまう。
ここは司への贖罪も込めて、カズマが復帰するまではつかず離れずの状態でいて欲しかった。

そうしてリハビリと努力を重ねた2人が公私ともにコンビになって無敵になったら良かったのに。

っていうか翠の高校は、翠とカズマの後年「黄金コンビ」と呼称される
主力2人が抜けても勝ち抜ける力があるんですね。


の宿願である司との直接対決は都予選の決勝戦で果たされる。

カズマが離脱していることもあって、決勝戦の試合展開は地味な絵が続く。
向き合う2人の描写に終始して、人の動きが感じられない。
ゴールのシーンすらない。

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2人は心から満たされるだろうけど、観客としては つまらない試合だろうなぁ(笑)

2人が心から楽しんだ試合だから、それが描ければいいのだろうが、
ここまでサッカーの意味がないのも何だかなぁ…。

作品の中で双方のチームメイトをそれなりに出したんだから、
もっと密度の濃い試合展開にしてチーム競技としての試合の緊張感、高揚感が欲しかった。

これじゃ、砂浜でボール蹴ってるのと本当に変わらない(それが目的なのだろうが)。

あと『10巻』全体に言えることですが、ポエムが過ぎる。
恋や出会いに意味を持たせようと感傷的になり過ぎる言葉が多い。


そういえば翠とカズマ、司との年齢差が1つあったのも翠たちが3年生になった時のためなのか。
今回のカズマの怪我による戦線離脱も、3人を直接対決させないためだろう。
対決したら才能とか関係なく愛の力で翠たちが勝っちゃいますから(笑)

あくまで司はサッカーでは無敗のエリートでなければならない。
愛されヒロインの翠ですら司と技術や精神は同等でも、
サッカーで勝つことは許されないのだ

そして そんなエースの司を選ばずに、カズマを選んだところに意味がある。


終回で明かされる卒業後の進路は、翠が生まれ育った島に戻り、カズマが大学進学。
やはり翠が具体的に何をするのかは何も描かれていません。

翠が島に帰る日、そこに現れた翠はワンピース姿。
見送りにきた先輩・同級生たちに自分の正体を明かすためだ。

もしかして罪を償うための島流しか(笑)?
そして全国優勝が取り消されたりしないよね。

でも黙っていることも罪だが、去り際に暴露するのも身勝手な気がする。
やっぱり途中でバレて何らかの処分を受けないと モヤモヤが残る。

けれど単行本の描き下ろしのページで、かつてのチームメイトの誰も女性だと気づかなかったというオチが加えられてます。
まぁ、そうしないと一方的な謝罪で翠の独善が目に余るもんなぁ。


そして物語は次世代に繋がる。

ただ、ここは匂わせ程度にした方が、読者の想像の余地があったのでは?
全部描かれると、読者の物語ではなく作者の物語にしかならない。

ラストも「新しい恋の物語が始まる」って断言しちゃってるし。
2人が砂浜でサッカーしてるシーンだけで良かったのに。

子供たちが結ばれることで司が救済されるわけでもないし。
作品全体に言えることだが、ボコボコとカップル誕生させとけ、という感じが嫌だ。


番外編は、遠距離恋愛となった高校卒業後の2人を描き、彼らが結ばれる物語になっている。
結ばれる際の翠の言葉は割と気持ち悪いと思ってしまう私です。

ここで残念なのは、司の子供が翠たちの子よりも年長であること。

物語の展開上、司の子を翠たちの子よりも年長にして、
司と翠の再来(年上の男の子)を再現しなければいけないのだろう。

また、子供は授かりものだから結婚した順に恵まれる訳ではないが、
結婚へ一直線だった翠たちよりも先に子供が誕生していることが ちょっと腑に落ちない。

司には もうちょっと自分探しして、遠回り してもらわないと。
物語を綺麗にまとめようとして、かえって歪な構成になっている気がする。


私の偏見かもしれませんが、小学館の漫画って結婚式エンドのパターンが多い気がする。
特に本書が掲載された「Sho-Comi」は読者の年齢層が低いから、
永遠のハッピーエンド=結婚という図式なんでしょうね。


そういえば作者のあとがきによると、翠と司が異母兄妹という設定が途中まであったらしい。
確かに翠の父親については最初から最後までいないものとして描かれているから、その展開への可能性は大いにあったのか。
司は『僕は妹に恋をする』ところだったのか…。