《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

壁越し、布越し。新生活様式でも通用する少女漫画の新たな イチャラブの形。

兄友 5 (花とゆめコミックス)
赤瓦 もどむ(あかがわら もどむ)
兄友(あにとも)
第05巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

まいの親戚のお寺が参加する、B級グルメフェスの手伝いをすることになったまい、雪紘、西野さん。雪紘&西野さんのイケメンパワーで売り上げ好調♪しかしその最中、思わぬ珍客…。西野さんのお父さんと知らないまま、まいが遭遇…!そこへ加賀も合流し…!?混迷&混乱の壁ごし&つつ抜けLOVE第5巻!

簡潔完結感想文

  • B級グルメフェス。本書に登場する女性のモブキャラは人を顔だけで判断する生き物(笑)
  • 父帰る。助けた紳士は あの人の父親。久々の親子の対面を円満にしようとする まいだが…。
  • 退路を断つ。西野の気持ちも考えないまま親族のイベントに参加させていたことに気づき…。

解が誤解を5回は招いているんじゃないかと思う 5巻。

さて物語は『4巻』の前半で大きな山を越えて、
その後、エピソードゼロ的な短編が続いてからの通常営業に戻ってきました。

主人公・まい と恋人・西野(にしの)の2人の関係は2人のペースで進展していく。

このカップル、他の少女漫画のカップルに比べて、『5巻』時点でも2人が共通して交流を持つ人が多い。
まい の兄・雪紘(ゆきひろ)や両親・親族、西野の妹の秋(あき)や従弟・加賀(かが)などなど。

交際から数か月(多分)で、かなりお互いの血縁関係を把握している。
頻繁に両家を行き来して、まい たち七瀬(ななせ)家のイベント事にも、西野は助っ人として顔を出す。
それもこれも健全な交際のなせる業(わざ)か。

『5巻』で登場する新キャラも親戚縁者からの出演である。
広がる「兄友ワールド」というよりは「兄友一座」といった感じか。
家内制手工業的な感じも本書には よく合っている。


だ今回、まい の中に生じる悩みも、そこに繋がっている。
高校生らしからぬ、親戚縁者への紹介や、
足場を固め、退路を断つような交際になってしまい、
西野に余計なプレッシャーを かけていないか気にし始める。


まいが この悩みに直面した後に、西野に会ったのは伯母夫婦の運営する寺。
『5巻』前半で行われたB級グルメフェスの打ち上げ。

西野を両親や親戚の余計な一言から遠ざけるために不自然な態度を取ってしまう まい。
自分の失態に気づき、落ち込む まい に声を掛けたのは、またしても伯母だった。

伯母さんは恋愛というよりも人生アドバイザーですね。
寺の住職であるはずの夫よりも余程、悟りを開いてると思われる。

恋愛の悩みとしては、バレンタインの時と同じ構図ですね(『2巻』)。

ネットに情報があふれる時代だからこそ、
多くの人にとっての「正しさ」や「常識」に則そうとしてしまうが、
そうすると目の前に大事な人がいるのに、直接の声を聞かないままになってしまう。

この場合、ネットの情報は「分厚い壁」ですね。

七瀬家の「薄い壁」があったからこそ、西野の心の声が だだ漏れ になって、
いつも彼の心は筒抜け、順調な交際に繋がっていた。

だけど、不特定多数の声を聞いてしまうと、肝心の西野の声が かき消されてしまう。
いや、それどころか、聞く努力や勇気さえ持たない状態になる。

作者は情報過多の時代に本当に必要な情報を取捨選択する、
リテラシー能力の重要性を繰り返し訴えている、のかもしれない。


決シーンも印象的です。

酔っぱらった おじさん住職の手違いで、
打ち上げ後、まい の隣室で眠ることになった西野。

隣室の物音は親戚の4歳男児だと思って障子戸を開けた まい。
そこに障子1枚隔てた場所に恋人がいることに目を丸くする両者。
急いで部屋から出て行こうとする西野に まいは…。

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年下の子に夜這いをしようと思ったら、年上の人でビックリの図(嘘)

正直に言えば、まいが呼び止めて、ちゃんと対話をして、好きを確かめて、という
これまでも何回か繰り返されてきた解決法です。
この2人らしくて好きですが。

いつもの壁と違って、今回2人を隔てる障子戸は開放可能というところがミソですね。
こういう道具立ての上手さも作者の魅力です。

また、「私… 重くないですか…?」と問う まいに、
「重くてもいいよ それくらい好きだから」と答える西野が素敵すぎる。

そして、ギャグ100%の回と、胸キュン100%の回の温度差が凄い。


番が前後しましたが、前半の「筒抜け」も忘れられない。

B級グルメフェスという地域イベントに参加した おじさん の寺。
雪紘の策略によって、そこに駆り出された西野。

ある時、まい が見当たらないことを尋ねる西野だったが、
お調子者の まいの父親に「七瀬さん」といわれても七瀬は3人もいるからわからない、と茶化され
「まいさん… です…」と赤面しながら答える西野。
そして その布1枚向こうで赤面して しゃがみ込む まいの姿があった…。

まだまだ こんなことで赤面している2人が微笑ましい。
そして布1枚でも情報が筒抜けることに笑ってしまう。
もしかしたら本書は2020年からのコロナ禍での
生活様式でも通用する新たなイチャラブを提唱しているのかもしれない(笑)


者お得意の(?)すれ違いコントも一層の技術の向上が見られる。

2020~21年はアンジャッシュさんの新作コントが見られない状況ですが、
本書には その笑いの遺伝子を継ぐような笑いが見られます。

まい と、神経が細く すぐに胃が痛くなるイギリス帰りの紳士との
2人での、読者だけが気づく すれ違いだけでも面白いのに、
そこに加賀が登場してトリオとなってからの、もう一段上を行く面白さは本当にセンスを感じる。

特に紅茶のくだりは秀逸です。

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恋愛は諦めきれない加賀だけど、嫌いなものはバッサリと斬り捨てる忌憚のなさ。

そして笑いの中に見えてくるのは まい の気遣い。
優しい子だなぁ、としみじみ感じられる別側面の楽しさもあります。

この、まい にとって謎の紳士は絶対に再登場が約束されている人ですね。
これもまた大きな意味での親族間の争いになりそうな予感。
今から楽しみです。子供たちは大変でしょうが…。


続く西野の妹の秋が応募者全員プレゼントの高い壁に苦悩する話は、
オタク商法のアンチテーゼでしょうか。
この話も大いに笑わせてもらいましたけど。


そういえば雪紘と加賀の数少ない交流シーンがありましたね。

まぁ、動物全般に無条件に好かれる加賀に、
犬が好きなのに好かれない雪紘が逆恨みするシーンでしたが…。

兄友 5 (花とゆめCOMICS)

兄友 5 (花とゆめCOMICS)

兄友 5 (花とゆめコミックス)

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