《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

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想いを抱いて 生きてる 『冬のはなし』

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小畑 友紀(おばた ゆうき)
僕等がいた(ぼくらがいた)
第02巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

調子だけよく意地悪な同級生・矢野。そんな彼が不意に見せる優しさは、七美を不覚にも(?)恋愛モードにさせてしまったのです。でも、矢野がかつて亡くした恋人が、有里の姉だと知って大ショック!! 閉ざされた矢野の心に七美の声は届くの…?そして有里と矢野、二人の微妙な関係は…!?

簡潔完結感想文

  • 夏休み突入。学校祭の劇の練習にも、夏祭りにも来ない矢野。会えないのなら会いに行けばいい。
  • 夢が見せる矢野と奈々の回想。傷つけ合った関係だったのに、第三者からは幸せに見える思い出。
  • 文化祭の夜、花火の上がる中での告白、そしてキス。一生忘れられない、自分を支える思い出。

書の中で少女漫画度が一番高いと思われる 2巻。

きっと主人公たち2人の人生の中でも忘れられない思い出の数々。
この後の自分を支えてくれる幸福な記憶だろう。

初読の時も甘酸っぱさを感じる2人の距離の接近なのだが、
再読すると、そこに愛おしさが加わる。

初読の時には考えなかった、
青春という不可逆の日々を強く思わずにはいられないから。

ここには、まだ付き合っていない頃の「僕等がいた」、
相手の姿を遠巻きにずっと見続ける「僕等がいた」。

他の人から見れば他愛ないかもしれないが、新しい恋を始めた「僕等がいた」。

夜空に咲く花火も、暗闇の中でこそ輝く。
青春の瞬きもまた、同じかもしれない。


校1年生の夏休み突入。

授業やテストがないのは嬉しいが、好きな人に会う機会も減ってしまう夏休み。
その事実に気づき、主人公の高橋 七美(たかはし ななみ)は3日で飽きる。

会えるかもと緊張して、気合を入れた学校祭の出し物の劇の練習日や、
夏祭りの会場でも想い人・矢野(やの)は現れなかった。

夏祭りの会場で矢野の友人・竹内(たけうち)と遭遇し、
練習日だった2日前は、矢野の元カノの命日だったことを知る…。


特別な接点がないと会えないのなら、会いに行けばいいと実行するのが七美の強みか。
一部女子からは「ウザ橋」とか「ウザ美」とか言われそうだが…。

矢野の家に訪問し、窓から矢野に声を掛けられる七美。
そして矢野の部屋に上がり込むことに成功する。

そんな矢野の部屋には、アレが置いてありますね。
読み返して初めて意味を持つものに気づかされます。
全巻を2回通読して初めて真価が発揮される漫画かもしれません。

夏祭りや文化祭、至って普通の恋愛をするメインの2人の物語に、
ちょっとずつ情報を沁み込ませているのが上手いですね。

そして好きな人に会えるかもしれない高揚感や、会えなかった落胆など
普遍的な出来事の後で、死という暗い影を見せて物語が引き締まる。

矢野母も初登場。
おふざけとはいえ玄関前で喚き散らした七美にも常識的な対応をする矢野母。

『1巻』で矢野が語っていた「オレの母親は 淫売」という言葉は
読了後でもあまりピンと来ないのですが、
未婚で自分を産んだことや、散々 自分と父親を重ねながらも急に再婚したことが、その言葉の根拠なんですかね。


んなことを考えさせられるのが、放課後、教室で眠る矢野の夢として
回想される矢野と奈々さんとの想い出。

約2年前、中2の冬の矢野は「…遅刻サボリ多し」「授業態度は不まじめ」と教師から注意をされていた。

「義父(おやじ)さんとは上手くやってんのか」と問われると、
特段、表情を変えずに「なんでそんなこと聞くんですか?」と質問で返す。

矢野は母の結婚で少し生活が荒れてたんですかね。

ただでさえ思春期という難しい時期での親の結婚、
更には(この時点では矢野しか知り得ないが)自分の出自や、
自分の向こうに父親の影ばかりを見続けて生きる母の結婚は、
裏切りにも似た行為にも思えたのかもしれません。

そんな時、出会ったのが1つ年上の奈々(なな)。

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君を傷つけるものから守りたいと思う、この頃のオレ自身も傷ついていたのかもしれない。

女性として惹かれたのもあるだろうが、
彼女の不幸な境遇が、奈々に近づく理由でもあったのかも。

自分が傷つくことを厭わずに奈々を死守することに全力を尽くす矢野。

彼が求めるものは「絶対」である。

母親にはなかった「絶対」の自分への愛、
もしくは奉仕や遵守を誓ってくれる人を求めていた精神的に不安定な矢野。

勿論、そこには肉欲だってあって、
決して褒められたものではない行為だって誘われるがままである。


気になったのが軽くとはいえ矢野もまた暴力を振るっている点。
ここで矢野もまた自分自身が憎むべき相手(奈々の元カレ)と同じことを痛感したはず。

そんな自分とケリをつけるためもあって、元カレと殴り合う矢野。

そんな彼をいたわる奈々に対して、
「オレと約束して 絶対オレを裏切らないって」と宣誓させる矢野。

だが、その直後に、奈々は元カレと同情した車で事故に遭う…。


矢野が見ていたのは、そんな苦しい夢なのに、
寝顔を見ていた七美からすれば、幸せな夢を見ていたように見えたらしい。

矢野の回想は確かにあったはずの2人の幸せな日々、
幸福も不幸も他者から見ればそんなものなのかもしれない。

彼にとって人生の約1/16にあたる1年間、
彼女の死から1年というのは長いのか短いのか。

だが、彼にとって喪が明けたのは確かだろう。


変わらず矢野という男はよく分からない。

好きなんて素振りを見せないまま、好きという。

愛情表現に指の骨を折っても、矢野ならあり得ると思ってしまう。
ちょっとサイコパス
どこか心が壊れている。
空虚な目が恐い。

女子生徒の2/3が好きになるという矢野。

七美が矢野とキスしたという噂が出回っても、
七美の周辺が割と平穏なのは、
やっぱり矢野に深入りしない女子が多いからではないだろうか。


話が前後しましたが、学校祭の夜、七美は矢野に告白される。

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矢野の前では誓いは絶対。裏切ったら殴られちゃうし 「殺すよ」と脅迫され続けちゃう。

七美が矢野を好きになった時も、これといって特別なエピソードはなかったが、
矢野はそれ以上に好きになった過程が分からない。

なので告白シーンもいよいよ、というよりは、唐突という感じだ。

私はその前の七美の「(指を)折ってください」という言葉が好きですね。
彼女の覚悟がよく表れていると思います。

ただ1つ、矢野の感情が動いたと思われる箇所は、 
教室で寝ていた矢野が上述の夢から覚めた時の七美の言葉に、
かつての奈々の記憶が重なったと思われる場面がある。
「幸せ」は「肉まん」なのである。

そしてやはり矢野にとって区切りがついたことも大きいか。
1周忌という大きな節目があって、
矢野が自分の気持ちに素直に向き合う時期だったのかもしれない。


七美は奈々のことを知らない。
生前に面識はない。
だから自然体でいられる。

ただ、その自然体が、第三者(友人・竹内・たけうち)から見れば、
既視感を覚えるような光景なのかもしれない。

きっと矢野が好きなタイプは似ているのだろう。
女性との付き合い方も、約束も同じ。

七美にとっては初めての恋人、キス、デート、放課後。
ただそれは、矢野にとって一度通ってきた道。

ただそれは矢野だけが知ること。
七美は知らなくていいこと。

知らなければよかったこと。
というのはまた後の話。


物語の後半の彼らからすると、この頃の記憶が2人の資本になっているのだろう。
好きになった記憶、掛けてもらった言葉、それらが自分を支えている。

まさか、こんななんでもない日々が自分を支えることになるなて
この頃はまだ知らない「僕等がいた」。

僕等がいた (2) (フラワーコミックス)

僕等がいた (2) (フラワーコミックス)

  • 作者:小畑 友紀
  • 発売日: 2003/02/26
  • メディア: コミック