《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒーローが旅に出て不在なので、箸休めに 脇役の恋模様なぞ いかがでしょうか。

親指からロマンス 6 (花とゆめCOMICS)
椿 いづみ(つばき いづみ)
親指からロマンス(おやゆびからロマンス)
第06巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

学校のハイキングでほのぼのデート気分の千愛と陽介。しかし陽介には千愛にも話せない秘密があり、その秘密に向き合うため、ひとり旅行に出てしまう。陽介の居ぬ間にも、了が千愛に挑んできたり、部長と夏江の進路問題など、それぞれが未来へと歩き始め…!?

簡潔完結感想文

  • 風が吹いたら桶屋が儲かる。山に登ったら(お約束の遭難があって力を合わせて)心が近づく。
  • これまでで一番 嬉しい言葉は なぜだか一番 悲しく響く。陽介は自分探しの旅へ向かう。
  • 基本的に他校の生徒に興味がないので、シリアスな悩みを語られても 知らんがなの世界。

んな自分になりたいか、具体的な行動で示そうとする 6巻。

『6巻』は未来、もしくは物語の終わりを見据えた行動が多い気がします。

このままでは袋小路に入ってしまうことが予測される自分を、
何とか現時点からの努力で回避しようとする人たちの第一歩目が記されている。

今回、そのような動きをする人物は3人。

1人目がヒーローである陽介(ようすけ)。
彼は封印されし過去の記憶との対峙を決める。

2人目が自分の中のギャップに悩む黒松(くろまつ)。
身の置き方の分からない現状を強さによって糊塗しようとする。

3人目はマッサージ研究会の会計・夏江(なつえ)。
将来、その人の一番近くにいるために未来を選ぶ。例え しばらく離れることになっても。

そんな3人は現状に甘んじて安易に楽な道を選ばない精神的な強さが似ている。


『6巻』前半は、ヒーロー陽介の決断するまでの様子。

契機となったのは、1年生全員での牧場までのハイキング。

少女漫画では山に登ったら遭難するのが お約束。
怪我も含めたら、かなりの高確率ではないでしょうか。
ただ、山に登りましたって報告なら日記になっちゃうしね。

また緊急事態が発生することによって、
いわゆる「吊り橋効果」でラブが高まるという狙いもあるんでしょう。

そして更に本書では陽介と千愛(ちあき)が崖から落下することで、
陽介のトラウマがまた一つ鮮明になるという仕掛けもあります。

ただし、崖から落ちてどう一夜を過ごすか難儀することはありません。

なぜならキャンプ道具一式と共に落ちたから。
テントは張れるし、火も起こせる環境が整っている。

問題はテントの中での2人だけの一夜。
ハイキング中から暴走気味だった千愛はなかなか冷静になれずに空回り。

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2人にとっての初めての夜。不束者ではございますが…。そちらに行って宜しいでしょうか。

といっても過剰に反応するのは千愛だけ。
陽介の方は至って冷静。
というのも、彼は過去の何らかのトラウマが原因で
好きな人には「手を出せない」という抑止力が働いているから。


具体的には何も起きない一夜だが、夜の会話は本音を聞き出すチャンスでもある。

『5巻』の寝ぼけからの暴走など、精神的に重荷を背負っていることを察した千愛は
陽介に恋人として頼りになれないかと提案する。

千愛の不安や提案を寝たフリして やり過ごした陽介だったが、
過去に蓋をすることの限界が近いことを自覚しており…。


お約束である遭難に、あまり真面目にツッコみたくないですが、
まずは、この遠足は何が目的なんだ?
生徒たちを牧場のある山に放って、勝手に帰ってこれるかの試練なのか?

しかも、それでいて生徒が崖から落ちでも数時間以上放置。
その上、集団行動を乱したと罰則だけ課す高校側。
明らかに危機管理体制に不備があると思うのですが。


そんな遠足のこともあり、自分の限界を感じている陽介は、
ある日、千愛を放課後デートに誘い、海に向かう。

そこで陽介は、寝ぼけてもいないのに千愛に自分の思いの丈をぶつける。
どれだけ好きか、この出会いにどれだけ感謝しているか。
だが嬉しいはずの言葉は、お別れの言葉のように千愛に響くのだった…。

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嬉しいはずが悲しく響く陽介の言葉。ってか陽介くん、そんな顔だったっけ⁉

これは明確な お別れではないものの、
少女漫画でよく見られる物理的にも精神的にも2人が距離を置く お話でもあるのかな。
作風上、あまり暗くならないように心掛けているのだろうが。


中盤でヒーローの陽介が自分探しの旅行に行ってしまい、フェイドアウト
正直に言えば、彼が何話か不在でも お話は成立する。

それが他の個性的な登場人物たちの力によるものなのか、
それとも陽介の影がそれほどまでに薄かったのかは分からないが…。


める2人目の患者、近隣の山茶花(さざんか)高校の黒松の話は正直よく分からない。

というか正直なところ、黒松に何の興味も持てていない。

この一連の黒松の話は、
作者の頭の中で出来上がっている黒松の設定を、
唐突に提示されている気がしてならない。

現在、黒松がジェンダーギャップで悩んでいるのは分かるのだが、
黒松の悩みや葛藤を理解できる手掛かりを読者は与えられていないと思うのだ。

今回、如実になったのは、作者と読者のギャップかもしれない。

同じように、黒松の天敵っぽく描かれている先輩の桜ノ宮も、
読者としては思い入れもないし、キャラもしっかり把握 出来ていないけど、
格好だけ つけていて、ちょっと置いていかれた気分がする。

同じく山茶花高校の三姫(みひめ)とは違い、
不発に終わった脇役話の典型みたいな印象だけが残った。

黒松と桜ノ宮を進化させたのが、
『月刊少女~』の鹿島と堀先輩の関係性なんですかね。

作者の経験値の違いか彼らの方が洗練されているので、
劣化バージョンを読んでいる気もしてしまうのかも。


ストも脇役の恋。

千愛たちの所属するマッサージ研究会の部長・晴海と会計・夏江の話。
(研究会の部長って、言葉として適切なのか?)

そこに、これまで語られなかった3年生で副部長の花城 綾芽(はなしろ あやめ)が登場して、
3年生3人の関係性は少々複雑になった模様。

しかし職員室で高校卒業後の晴海のお見合い話を立ち聞きした夏江さんは、
屋上でパソコン使って何をしてたんでしょうか。
ハッキング?
でも、個人のお見合い情報を置いてある場所ってどこなの⁉

晴海の友人同士である女性たちが正妻を巡っての争いになってしまった。

ただ直接的に争いはしないけど、良い人ぶって
晴海を花城に譲って引き下がることなどは絶対にしない夏江はやっぱり素敵ですね。

徹底的に息子の恋愛を排除しようとする父親から、
夏江を守るためにも友人でい続けようとする晴海の葛藤も理解できるが、
夏江の意思を目の当たりにしても傍観を決めているのには苛立ちも感じます。

それでいて例えば夏江が他の誰かと結婚することになった際には、
結婚式当日になって会場で愛を叫ぶタイプでしょう?

周囲からしたら迷惑極まりないのだけれど。

ま、そんなことになったら夏江の方から自分の結婚阻止計画が提案されそうだけど。
晴海はただ指示通りに動くだけでいい。

晴海カンパニーの将来は安泰ですね。


そんな3年生たちは進路決定の時期。
誰もマッサージ業界には進みそうもないですね。

確か18人いた部員たちの中でも本格的にその道に進むのは東宮兄妹ぐらいなのだろうか。


作画として気になるのが男性キャラの顔。

これまでも男性キャラの顔は安定してませんでしたが(特に陽介)、
『6巻』辺りは目が小さく描かれることが多くなったように思う。

目が上方にあって、鼻が長くて、顔も長いし、顔の余白が多すぎる。
早い話が、全員 馬面になっている。