大詩 りえ(おおうた りえ)
猫田のことが気になって仕方ない。(ねこたのことがきになってしかたない。)
第3巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
興味本位で猫田をつけ回すみっきーだったが、次第に猫田が良い奴だと分かり、仲良くなっていく。そんな中、猫田に恋する春菜と、みっきーの気を引きたい入江が手を組むことに。学校行事の日光林間学園にわくわくするみっきーだが、何事もなく過ごすことはできるのだろうか…!? 【収録作品】くもり空、上の方。
簡潔完結感想文
- 修学旅行編。入江と春菜が手を組み、みっきーと猫田の間に介入するが…。
- 非日常の修学旅行は2人の距離を急接近させた。…って、キミとキミのお話⁉
- 夏休み、皆で みっきー宅で宿題。娘が初めて連れてきた友達に母は大喜び。
眠り猫にニャンまげ、猫田と日光猫巡りツアーの 3巻。
いよいよ始まった小学校最大の行事、修学旅行(作中では日航林間学園)。
移動のバスの席も、くじ引きの結果、猫田の隣になり、
四六時中 猫田を監視できることに興奮気味の未希子(みきこ・通称みっきー)。
だけど、相変わらず みっきーの猫田への興味は生物としての興味。恋愛ではない。
修学旅行の夜のお楽しみ、女子による恋バナにも主人公の みっきーは興味がない様子。
皆で旅行できることを心から楽しんでいる。
みっきーには恋心や、あの手この手で猫田に近づこうという邪心がないから、
恋のライバルたちが 張り巡らせる奸計は通用しない。
これはもしかしたら、みっきー は先に猫田が猫顔に見えるという強力な呪い(というのは正確ではないが)がかかっているから、
他の人が みっきーに呪いをかけようとしても はね返してしまうのかもしれませんね。
そんな みっきーの天真爛漫さの一方で『2巻』の水泳の授業でもそうだったが、
男子の方はお年頃を迎えており、いつもと違う女子たちの様子にドギマギしている。恋多き女・春菜(はるな)をはじめとして、
男子に恋する女の子が登場しない訳ではないが、
比率としては、男子から女子に恋をしている割合の方が多い。
作品がカラっとした快適な湿度を提供してくれているのはこの辺が要因かなと思う。
女子側の恋愛描写の場合、自己中心型の恋愛描写が多く、
ちょっとしたことで落ち込んだり、涙したり、どうしても湿度が高くなりがち。
男子側も小学生ということもあって、言動に飾りっ気がないのがいいですね。
高校生ぐらいになると、胸キュンさせるための不自然な言動に辟易することがありますからね。
ナルシストの入江はともかく、猫田も ゆっけ も等身大の格好良さが出ています。
何もしないまま失恋しそうな まちゃこ の悲哀もよく出ています。
『3巻』から大きく動き出した ゆっけ の恋に正直、興味はないのですが、
みっきーと猫田の関係性が大きく変わらない この時期には貴重な恋愛成分である。
ゆっけ の想い人が あの人ということもあり、
この問題の決着いかんでは、猫田たちにも連鎖的に動きがあるかもしれませんね。
私は正直、恋愛抜きの ちょっと変わった小学生ライフ漫画として楽しんでますが。夏休みの宿題を片付けるために、みっきーの家にクラスメイト4人が訪れる回は、読みどころが多い。
まずは、みっきー的に一番気になるのは、母は猫田のことをどう認識しているのか?
早速、聞いてみると「かっこいい子」「モテるんでしょうー?」という人の顔した猫田、通称・人田としての感想。
自分と血縁関係にある母が猫田を猫田(猫の顔の猫田)として認識しないことに衝撃を受ける みっきー。
ここで改めて不可解な現象が起こっているのは猫田の顔面周辺ではなく自分自身だということに気付く。
猫田が人田になるタイミングや、母と猫田の初対面など、事件を起こすタイミングが絶妙ですよね。
もう読者の大半が猫田は猫顔であるという刷り込み・催眠が完了しそうになる直前で、バシッと頬を強く叩いて正気に戻してくれている。
そうだ、このイカレタ世界に馴染んでいる場合ではないと、麻痺した感覚が戻っていく。
ここで、母も猫田が猫顔に見えたら一族の呪いという結論だったのだろうか。
その昔、恋仲の関係だった男女が物の怪に呪われてしまい、みっきー たちはその子孫同士というお話もベタだけど面白そう。
が、それも否定され、異常だと笑いものにしていた みっきーの方が、異常者だったというのは まことに怖い感覚だ。
本書にはイジメの描写はないが、イジメの次のターゲットに みっきーが選ばれた時のような冷やりとした感覚が背中を駆け巡る。
みっきーの家の廊下に飾られている一枚の絵は今後の大きなヒントになりそう。
そこには絵の下手な(この設定が出るのはこの後の巻)みっきーが描いた一匹の猫の絵。
そして題名は「ともだち」。小学校1年生の時の作品らしい。
母曰く「近所のノラ猫」らしい。
この猫が みっきーの視界を操作しているのだろうか。
謎は深まるばかり。娘の学校での話を「友だち」から聞いている母はとても嬉しそうだ。
もしかしたら転校によって人間関係に希望を持たない娘をずっと案じていたのかもしれない。
母は娘に過干渉せずに寄り添う姿を見せているが、みっきー父は最後まで登場せず。
作品が好きになっていくと、全部を知りたくなるので、ちょっとだけでも姿を見せて欲しかったなぁ。
そういえば私が『2巻』の感想文で書いたようなことを、
『3巻』で みっきーが言っていてビックリ。
「誰かのこと知りたいって思うと 毎日が楽しくなるんだよ!!」
もしかしたら感想文書く前に完読した私が無意識的にパクったのかもしれないと思うと怖い。
自分のことが怖くなる みっきーの気持ちが少しわかった気がします。
「くもり空、上の方。」…
高校生になった なおこ は、成長するとともに同居する祖父と距離が出来始めていた。
そんな中、新しいクラスメイト鷹乃(たかの)がキッカケで家の中の空気が変わり始めていく…。
『猫田』と収録されてる短編だけしか読んでない私にとって、
初の非SF(少し不思議)作品となりました。
恋愛がメインではない作品だけれど、人と人の距離が縮まっていく様子が丁寧に描かれている。
飛び道具的な作品だけではなく、正攻法の作品も面白くて安心した(上から失礼)。
いつか来てしまう さよなら の日の前に、この歩み寄った経験が なおこ を救うと思う。