《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

楽器というサイコフレームから共鳴する想い。音で伝わるニュータイプ失恋。

金色のコルダ 9 (花とゆめコミックス)
呉 由姫(くれ ゆき)(原案:ルビー・バーティー
金色のコルダ(きんいろのこるだ)
第9巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

魔法のヴァイオリンが消滅しても、音楽を続ける決意をした香穂子。一方、香穂子への想いを募らせる火原は行き詰まり、香穂子の手を振り払ってしまう! そんな中、月森の演奏に土浦が伴奏を!? そしてついに最終セレクションのテーマが発表される!!

簡潔完結感想文

  • 音楽科で噂される香穂子の演奏技術の低下。だが香穂子は焦ることなく邁進する。
  • 香穂子と香穂子の言葉が気になりスランプ中の火原。だが言葉と音楽が彼を救う。
  • 「ったく しょーがねえな」と毎度ポンコツ月森のお世話をする土浦。初コラボ!


名は体を表すように、音も体を表す。内から「あふれでるもの」を奏でる 9巻。

『9巻』は特に大好きが溢れ出ている巻でしたね。

今、ヴァイオリンを弾くことが大好きだと実感し充実する香穂子(かほこ)の毎日。
魔法のヴァイオリンを失っても、演奏レベルが低下していることを痛感しても、それは揺るがなかったこと。
そして、その香穂子自身が奏でる今の音を嫌いじゃないという志水(しみず)に嬉しさがこみ上げる。

これはコンクールで上位に入ることよりも嬉しいことに違いない。
自分の存在を初めて世に認めてもらったようなものだから。
そして、この先に困難があっても、いつまでも道しるべになる出来事だろう。

香穂子もまたスランプ中の火原(ひはら)に、火原のトランペットが大好きで いつも元気をもらうと率直に伝え、どん底の火原を救う。


合奏・伴奏の場面が多いのも『9巻』の特徴(といっても2回ですが)。
香穂子と火原は公園で偶然出会い、香穂子の上記の言葉で持ち前の元気を取り戻した火原は、香穂子の合奏の提案を喜んで受ける。

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『1巻』以来の合奏。音を楽しむ2人。
2回目の合奏ですが、今回の火原は香穂子への好意を自覚しているので、1回目とは違った喜びがあるでしょうね。
そうか、これは『5巻』で中学校時代のブラスバンド部の女性の先輩が言っていた
「いつか火原くんにも……(好きな人と一緒に演奏する日がくるよ)」、
という言葉が実現した瞬間でもあるんですね。

この時の演奏を柚木(ゆのき)にも聞かせたいものだ。
意地の悪い柚木だから「音は伸びやかだけれど、もうちょっと落ち着かないとね」とやんわりと火原をたしなめそう。

そういえば火原が柚木に「友達の話」として相談する、好きな子に告白をするかしないかというお話、
柚木は、告白は彼の自己満足じゃないかと、火原の「友達」の行動を自制させるような発言をする。

これは柚木の火原への牽制なんですかね。
このまま香穂子に告られちゃ たまったもんじゃねーぜ、という柚木の焦りからの発言。
もしくは、私は柚木 → 火原 の線もあると思っている人なので、香穂子うんぬんよりも、火原に彼女など出来て欲しくない柚木の願いとも思えてしまう(腐ってる?)。


告白と言えば、『8巻』から登場していた土浦の中学時代の元カノは、物語を引っ掻き回しそうだったけれど、あっさりと退場しましたね。
土浦にもう一度付き合わないか、と提案したばかりだったのに、何かを悟って自ら身を引いていきました。

土浦がピアノを演奏することも知らなかった彼女だが、遊園地の帰りに立ち寄った楽器店で、
彼の演奏を初めて聴き、そしてその演奏が誰のためのものなのか、土浦が今 誰を想っているのかを感じ取ってしまう。

元カノは良い感性をしていますね。ニュータイプかもしれません。
もちろん演奏中の土浦の目線の先に香穂子がいた事実もあるんですが。

作中に「感情論」という言葉が出てくるように、
演奏に思いを乗せることは音の幅を広げることでもあるみたいです。
この楽器店での感情的な土浦の演奏は月森にも少なからず響いたことでしょう。


そして、2つ目のコラボは何と月森と土浦。
誰もが待ちわびた初共演ではないでしょうか。

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月森と土浦の初コラボ。月森が文句を言う場面がないということは…。
月森と土浦の初共演は、その後の描写こそないけれど、お互いに感じ入るところは少なくなかったはず。
共演を通じてお互い信頼感が更に醸成された、と書いても問題ないのでは。

そして土浦は何だかんだで面倒見がいいですね。
音楽以外ポンコツの月森の、生活面や社会的態度を更生させる保護者になっている。

ただ、このまま土浦が かませ犬役に安住しそうで怖い。
「いいか、日野も鈍感だから ちゃんと好きって言わなきゃダメだぞ」
「デート中は日野を否定するような言葉は慎めよ。とにかく褒めろ。まずは服から」
と、かつてのライバルに手取り足取り指南している姿が容易に想像できてしまう…。


恋愛描写としては、物足りないというか品行方正過ぎる向きもあります。
乙女ゲーム原作で、多数の候補者の中から最終的に誰を選ぶのかという構成で、
皆と交流しているけれど、決して仲を深め過ぎないという制限があるので仕方のないところではあるのですが。

けれどメンバー同士の交流やエピソードの重ね方は丁寧で重層的で、その描写だけでも十分に楽しめます。
部活気分と言っては失礼かもしれないが、皆に連帯感が感じられて、
お互いに少しずつ影響を受けている様子からは青春の香りが漂ってきます。

組み合わせとしては志水と月森の密室1時間とかも見てみたい。
火原と冬海で、火原の香穂子以外の異性の反応も見てみたい。

正確には見てみたかった。なかったんです、最後まで…。