桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
ハツカレ
第7巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
春休み、ニコマのカメラマンとバイクでツーリングに出掛けたハシモトくん。そんな中、チロの許に、イブシから分厚い手紙が送られてきて…!? ハシモトの「ハツカノ」完結編も収録。
簡潔完結感想文
- ハシモト一世一代の告白。あの日の勇気が、今の幸せと関係性に繋がっている。
- イブシの転校。そのことをチロに伝える際に伝わってしまったイブシの想い。
- チロの葛藤。操を立てることこそ女の本分。やっぱり明治時代の女の人みたい。
実った初恋と 実らなかった初恋の7巻。
『6巻』の後半から続く、高校入試前後から駅で見かけたチロを見染めていたハシモトサイドのお話もいよいよ大詰め。
ハシモトの方はかなり好きという感情が高まってのチロへの第一声だったことが判明する。
以前も書きましたが、お見合い結婚のように一緒に時間を共有することなく交際が始まった二人。
それでも お互いに幻滅することなく、好きだけを育てていっているって本当に素敵なことです。
もしかしたら最終回にこのお話を持ってきても良かったかもしれませんね。
告白から始まって、この逆サイドのエピソードゼロの告白で終わる円環構造にするとか。
でもここで扱うからこそ、その後のイブシとの対比が活きるわけだし、ハシモトの心情の理解にも繋がっているからベストなタイミングかも。
自説をすぐに却下してみました…。
ハシモト目線の贔屓目が入っているからか、作者の画力が向上したからか、ハシモトが声を掛けた時のチロが随分と美化されてように思う。
巻が進むごとに人物の描写や顔の表情、背景に至るまで線がシャープになっていってますね。
良くも悪くも手描き感あふれる線も、本書の内容とよくマッチしていると思っていたのですが。
あまりにもチロが美少女化してしまうとテーマがぶれてしまうので、導入の『1巻』があの感じだったのは作品にとって僥倖だったかもしれません。
デビューの頃から画力が向上していく様子が分かるのは読者として嬉しいですね。
描き方が過剰になってしまったり、手を抜いたりしてしまったりするので、いい加減で保持してほしいところですが。
『1巻』でのハシモトとチロが初めて放課後を過ごした日のことはハシモト母が目撃していたことが判明。
実父とは死別なのか離婚なのかはわかりませんが、ハシモトの家は母子家庭(『9巻』で離婚と判明)。
母は芸者さんで、ハシモトは母の身支度を手伝うぐらいは出来るらしい。意外です。
母子二人きりなので普通の母子よりは距離が近めですね。
チロもいつか直接 対面する日が来るのでしょうか。
前述のとおり告白シーンから始まる本書ですが、『1巻』ではチロ側が聞いたハシモトの言葉の要約しか書いてなかった。
ですが、今巻の詳細な告白シーンによるとハシモトは結構な情報量をチロに話したんですね。
まぁ、そうでなければ「友達として」のお付き合いもしないですもんね。
確かに女子校育ちのチロがよくOKしたなと思ってましたが、このぐらい誠実なら話ぐらいはしてもいいと思える。
チロに「好きや」と言われた時のハシモトのガッツポーズ、『1巻』の時点では「彼女」が出来たことにばかり喜んでいる前のめりな男の子という印象でしたが、このハシモトサイドの話を読むと、腑に落ちますね。
母も認めるほどいまいち垢抜けないハシモトですが、これまでだって女子人気は決して低くないはず。
ハシモト側のお話で登場した、ハシモトの制服のネクタイやボタンをもらってあげる体(てい)で回収しようとした中学時代の同級生の女子も好意があってのことだろう。
その外見だってチロに提案を受け入れさせる材料となったはず。
そして次巻と巻をまたいで物語の中心になるのは学校生活のメインイベント・修学旅行。
恋人または好きな人の学校が別の場合は、相手の学校と修学旅行の行き先と日程が丸被り、少女漫画あるあるですね。アルコ・河原和音さんの『俺物語!!』でもありましたね。
行き先はイブシが小学校・中学校時代を過ごした場所の近く(モデルは横浜?)。
イブシはその場所に暮らしてた時間の方が長いけれど、関西弁は抜けなかったのですね。
そして何とイブシはもうすぐそちらにある学校に転校を考えていることが判明。
チロやちゃこちゃんがそのことを知る時、物語は新たな展開を見せていく…。
にしても今回のコンビニポスターの写真撮影でツテが出来たので転校を決意したとはいえ、イブシはどうして高校をこちらで選んだんでしょうね。
カメラマンの父というワードだけで最後まで姿を見せない父はいるものの、母の存在は感じられない。
今は祖父と同居しているのかな? この辺の設定は謎のままです。
イブシの部屋にあった書類を見て彼の転校を知って、涙を流す ちゃこちゃん。
偶然その場に足を踏み入れてしまったハシモトは、彼女の涙に動揺する。
「目の前で女子に泣かれたことはじめてで」慌てふためくばかりのハシモト。
そう言われてみれば、確かにチロは泣いてませんね。
それだけ幸せなことが続いてきたからなのか、それだけ彼女が強いからなのか。
チロはイブシからそれとなく転校の話を匂わされ、そしてその会話の流れからイブシの自分への好意を嗅ぎ取る。
ついにこの展開がやってきましたね。
それが自分からチロに告白するのではなく、チロから本意を聞かれるのがイブシらしい展開です。
更には、好意をほぼ認めながらも最後に全否定してしまうのもイブシらしいです。
どんな言葉でも、どんな状況でもチロの気持ちが揺るがない報われなさもまた、イブシらしいのです。申し訳ないけれど。
チロはチロらしく、ハシモトを立てて行動する原理があって、それ故にイブシとの縁を一切断とうとする。
この懊悩の場面でも泣いたりせず、そして誰かに相談したりせずに自分で悩み続けるのがチロらしい強さですね。
この場面が自分本位のヒロインにならないのは、これまでの物語に説得力があり、ハシモトとの関係性がしっかり描かれているからに他ならない。
そしてそんな彼女の、自分への義理立ても含めた姿勢を認め、そしてその楔から解放しようとするハシモトの格好良さも光った。
いつまでも同じ関係性ではいられないけれど、イブシがいない本書は少し明度が落ちるのではないかと今から心配だ。