《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

似た者同士の姉と弟に自宅でシャンプーされる生活も悪くないですね。

プリンシパル 4 (マーガレットコミックスDIGITAL)
いくえみ 綾(いくえみ りょう)
プリンシパル
第4巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

糸真の周りは恋の花が咲きまくり。母に倣って日記なんてつけてみたら、みごと「ぼっち」な自分を自覚してしまった…。もしかして糸真だけ冬到来の予感!?

簡潔完結感想文

  • 糸真の日記に書いたこと。自分のそばには人がいること、みんなの中のひとりということ。
  • 想いが通じて動き出す人間模様。私たちは反感も拒絶も全部受け止めることが出来るの?
  • 糸真に去来する唐突な想い。でも糸真だけが「ぼっち」で彼は今、幸せなんだから…。


文章にして思いを綴るのはその人のことを案じるから。たとえそれが自分であっても、の4巻。

『1巻』では、色々あって別々に暮らすことになった糸真(しま)に宛てた母が出した葉書が各回のラストに掲載されていた。
自由奔放な母として描かれているが、自分に責任の一端があると知ってか知らずか娘の身を案じていたんだなぁと親心を思う。

そして今巻から各回のラストなどに登場するのは糸真が習慣としてつけ始めた日記の文章。
上記の通り、これは糸真が糸真自身の心身の健やかさを案じて書き始めたものかもしれない。


何となく分かってはいたものの、少なからぬ好意を寄せていた義弟・和央(わお)は幼なじみ弦(げん)の姉・弓(ゆみ)ちゃんのことだけを想って生きているらしい。
そして結婚やお見合いをすることで和央の想いに応えないつもりでいた弓も、自分の気持ちに正直になる。
そんな弟を見送ったかと思ったら、今度は友人・晴歌(はるか)が弦に告白してしまった。
急いでその場を離れ、街を放浪する中で出会ったのが、くだんの日記帳。

日記をつけてみて改めて発見した、引っ越して気が付けば色んな人に囲まれている自分。
そして気が付けば色んな人の中でひとりぼっちの自分。
自分を客観視する自己分析はたまに自分では見えないはずの自分すら浮かび上がらせてしまいます。


今巻のハイライトとしては告白した2組の男女のその後の模様ですね。

まずは和央と弓ちゃん。
そういえば和央は糸真父から買ってもらったであろう生まれて初めての携帯電話をゴミ箱に投げ捨てたんですね。
弦の言う通り、弦が拾ってくれることを見越してのパフォーマンスなのか、それともキレたら怖い人なのか。

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血の繋がりはないけれど似た者姉弟・その1
キレるといえば、これまで和央一家とどんなに経済格差があっても、息子(弦)に和央と友達をやめろとか、家に上がらすなと言ってこなかったどころか、食事を与えたりしてきた偏見を持たないはずの弦母が怒り心頭に発しております。
原因は娘の弓ちゃんが和央との交際を暗に伝えたから。
『3巻』の感想で意外に優しいかもと書きましたが、それはあくまで自分の家族に実害が及ばない限り、であったみたいです。
まぁ非現実的な交際よりは、お見合いで素性のはっきりした人との交際を望むのも親心ではあると思う。

弓ちゃんが長女として我慢する場面も多いかと推測されるが、弦の舘林一家も家族仲は良好ですよね。
弦だって、いつまでも姉に弦ちゃんと呼びされても怒らないなんて…。末っ子って感じですね。


そんな弦は晴歌からの告白は弦に少なからず影響を及ぼし、少しずつ彼氏の役割を全うし始める。
晴歌のお弁当は晴歌母ではなく晴歌の自作だと分かった上でも美味しくいただく。

晴歌が弦と付き合うことが全校生徒に広まり、女子生徒たちの暗黙の了解「和央と弦はみんなのもの協定」は崩れ始める。
そして女子生徒たちの嫌がらせの標的に真っ先に協定を破った晴歌が選ばれてしまう…。

自分に火の粉が降りかかって初めて糸真に心からの謝罪をする晴歌。
髪が先ず落ちて揺れる、それから頭を下げていることが分かるという描写、とても好きです。

そして晴歌との関係でいえば、私はその少し前の動物園での糸真と和央のシーンも大好きです。
晴歌に遠慮しているように見えるという和央の発言で、クリスマスに晴歌に陥れられた糸真の悲しみと恐怖を再度えぐられる思いの糸真。
私はここをもう一度ほじくり返すか!と膝を打ちましたよ。

少女漫画によくありがちな元イジメの加害者と被害者、でも後に親友になるという配置転換をただの記号として扱っていない。
そこに絶対に残る遠慮や傷跡を、糸真の心の機微をしっかりと描写するところが凄い。

また、糸真の心情が分かるのは、晴歌が標的になったことで顔を真っ青にし、そして涙を流す糸真の場面ですね。
自分ではなく友人が受けた仕打ちですら動揺することで糸真の東京で受けた傷の深さが伝わてきますね。


本書は作者の技術ゆえなのか、彼らの過去や歴史がキーワードだから登場人物たちが最初から「ある」。
だから描写が不足している序盤では登場人物たちの人となりが分からない部分が多かったけれど、3,4巻あたりから分かり始める部分も多くなってくる。
特に皆が幸せになっていく日々の中で、その逆を行く孤独感・疎外感が幾重にもわたって伝わってくる気がした。

物語も丁度折り返し地点を過ぎたばかりの頃、糸真は自分の心に芽生えていた事実に気づく。
でも、それもまた手遅れ。もう関係性が出来た人だもの。
この痛気持ちいい人間関係にいつまでも浸っていたい気分になるのがいくえみ作品ですね。

女生徒たちの協定が破られたのに、糸真はかえって身動きが取れなくなるという構図も秀逸ですよね。
和央と弦、2人ともが好きな人でも男友達でもなくなってしまう。
かえって適切な距離を続けなければいけなくなった神経戦を強いられる糸真。
心を解放するのは日記の中だけ?


「しんでも」姉弟の糸真と和央の関係性も大好きです。

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血の繋がりはないけれど似た者姉弟・その2
そんな苦しい立場になってしまったものの糸真は和央のことを語る弦にも、弦のことを守る和央にも共感する。
そして情報をどちらからも引き出す。
糸真は賢い子なので配慮もできるし秘密も守る。
そしてただ一人、神のような視点を持ち、神のようにただ独りの事態の顛末を心配するのだった。
誰かと繋がっていたい恋する女子高生なのにね…。