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少女漫画と小説の感想ブログです

あなたを見失う闇照らしてよ 心が見通せるまで『月光浴』

月影ベイベ(4) (フラワーコミックスα)
小玉 ユキ(こだま ゆき)
月影ベイベ(つきかげべいべ)
第4巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

転入生だが”おわら”を踊れる蛍子。自分の伯父・円に恋する蛍子に出会った光は、彼女とつき合うふりを始める。そんな中、円が蛍子の母と不倫していた過去を知り、円に幻滅した光。”ふり”もやめるが、蛍子が気になり始めて⁉

簡潔完結感想文

  • 光が蛍子の最も気に入らないところは、おじさんしか見とらん、だお。
  • 自分の恋に気づいてから、蛍子の恋がどれほど強烈か知る後の祭り。
  • 演技発表会当日。直前の光景が頭から離れず自分の踊りを見失う光。


恋の喜びも知ったからこそ恋の痛みも知る、失恋ベイベの4巻。

恋に奥手で鈍感だった光がいよいよ自分の恋心に対峙し始める。
ただ同級生・蛍子への恋心は、蛍子が好きな伯父・円と恋のライバルになる出発点でもある。
大好きで、今は大嫌いな伯父。そんな伯父に更に今回、恋敵としての思いが加わる。
『前巻』の感想文でも少し触れましたが、これは光が少年から青年になるための通過儀礼なのかもしれません。
そして本来の意味とは違いますが少しだけ近親相姦的な、神話的なお話だと改めて思う。


偽装交際を終える直前から蛍子への想いに気が付き始めるというのが間抜けですね、光は。
あのまま交際を続けていれば自分に利もあったかもしれないのに、関係性が悪くなって、しかも相手の好きな人を知った上でのマイナスからのスタート。
しかし、ややインモラルな関係性が多い本書の中ではひときわ爽やかな恋心に思える。
初心な光が恋心をこじらせて小学生のように意地悪して想いを遠回しに伝えるようなことがなければいいのですが…。
今巻では、意地悪ではなく親切で新たな環境に馴染めなかった蛍子をサプライズで喜ばすことに成功している。
目的地付近から蛍子に目隠しをし、自分の見せたかった光景まで連れ立って歩く。
目隠しから解放された蛍子が見たのは一面の蛍の光。そこにいるのは蛍子と光(笑)
ここでは蛍子が来訪者で、まだこちらの季節の行事を何も知らないことが効いてますね。
そして蛍子のおばあさんに親切にしたことで、彼女を味方に付けていたことが効いてます。

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蛍の光 蛍子に無数の光 光の大切な蛍子
けれど光は恋を知ったがゆえに苦しむ面も味わう。
それは間違いのない蛍子の恋心を光自身が認知するということ。
ある夜に見た、円が奏でる胡弓の音に耳を傾ける蛍子のうっとりとした表情。
それは自分が喜ばした顔とは明らかに違う、今の光になら読み取れる恋する乙女の顔。

偽装交際を続けていれば、何かと理由を付けて円と蛍子の接触を制限できたが、今の光にはその権利も関係性もない。
不倫というふしだらな関係をしていた伯父に、自分の好きな人の心をも奪われる痛み。
光の、奇妙な三角関係に対する懊悩はしばらく続きそうです。

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未知の感情を知り、光の踊りも変わる
一方で恋のライバルっぽい人がライバルにならないので未成立に終わった三角関係もある。

その代表格が同級生の里央。
蛍子も含め4人で来ていたショッピングモールに一人残った光を追うように、里央が皆と別れた時には告白するものだとばかり思ってました。
が、里央が語り始めたのは蛍子と光の奇妙な関係についてだった。
彼女は光と蛍子の偽装交際の終了や、蛍子の円への恋心も知っており、そしてここ数日の光の「やせ我慢」に気づいており、光に、その時点では本人も気づいていない蛍子への恋心を指摘する。
友人として蛍子から話を聞いているとはいえ、光の心情や態度の変化にもつぶさに気づくのは、よく観察しているからではないかと疑ったが、どうやら里央は光のことを小学生の頃はずーっと好きだったけれど、「今はどうでもいい」らしい。
これは「やせ我慢」ではないのでしょう。
これは現在パートでこれ以上、話を広げると物語が散漫になるという作者の抑制かな。


一方で今回はライバルにはならなかったけれど、今後が気になるのは『前巻』のラストシーンでショッピングモールで円と楽しそうに会話していた女性。
その光景を発見し思わず声を掛け、円を責めるように問いただす蛍子だったが、その女性はテレビ局の人で、おわらの特集番組の企画の一環で円に協力を要請しているという。
円の演奏がテレビで見られるかもしれないと知り興奮する蛍子(と光)。
その後の場面でも登場し、蛍子と円の関係を混ぜ返す様な発言をするこの女性。
彼女はライバルになるのか、ならないのか。
円も光に似て自分の魅力に無頓着だろうから一方的に惚れられるのはありそうな展開だ。


蛍子に敵意を持っている人といえば同じ町内の女子高生・鳴美。
演技発表会の練習で蛍子は、母に習った自分の踊りが古いことを指摘され、修正を望むが、年長の指導役・千夏は現実的な時間の使い方を提案され、その話は流れる。
千夏は父親が蛍子の母・繭子のファンであったため、千夏の家に飾ってあった写真を通して繭子の顔を知っており、その顔と瓜二つの蛍子には踊りを見る前から絶大な信頼を置いている様子。
ずっとこの地に暮らしている鳴美は、新参者でありながら何かと贔屓にされる蛍子が気に入らない様子で、これは今後の火種になりそう。
鳴美が指摘したように転入して1か月で光とつき合って別れるなんて、確かに評判の悪い娘さんではある。