小玉 ユキ(こだま ゆき)
月影ベイベ(つきかげべいべ)
第2巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★★☆(9点)
転入生だが、町の伝統芸能”おわら”を踊れる蛍子。その踊りに惹かれる光は、彼女が好きなのは自分の伯父・円だと知る。それが噂になることを避けるため、蛍子とつき合うフリを始める光だが、近づくほど彼女と円の秘密が気になり⁉
簡潔完結感想文
- 伯父さんとの接し方に悩む光に友人からアドバイス。秘密は持ち越しに。
- 踊りが少し違うことを気にする蛍子に新たな友人から助言。青春です。
- 学年(?)の代表として踊る事になった蛍子は猛練習を重ね人と踊る喜びを知る。
体育祭だよ、「おわらバカ」全員集合 の 2巻。
『1巻』の感想で書き忘れましたが、本書は恋愛少女漫画としては事件がそれほど起きません。
分かりやすく異性に胸キュンしたり、恋愛のノウハウを大々的に伝えるような漫画とは言えない。
こういう区分や言葉が適切か分かりませんが、とても小説的な漫画だと思います。
それでいてちゃんと漫画です。当たり前なんですが。
感想を書くために読み返そうとパラパラとページをめくって、伝統芸能「おわら」の踊りの描写を見ているだけで自然と涙が溢れてくるような、どの場面も美しい漫画です。
子供の頃から自分にとってヒーローだった伯父さん・円と転入生でクラスメイトの蛍子との間に何やら秘密がありそうな気配に悶々と悩む光。
どう接していいか頭を抱える光に、恋の悩みだと思って近づく「おわら5」の一人が大人の助言を与える。
この助言、非常に的確なのはいいのですが、漫画としては問題を先送りされた感じがします。
本書の序盤はどうしても語れない話、語られない話が多いので隔靴掻痒の感が否めません。
完読してから読み返すと、矛盾はないし、物語を多面的にみられるのですが。
そういう意味では、いわゆる恋愛モノでもないし扱われる題材も渋いしで、初読では地味な作品と映るかもしれません。
一方、『1巻』では意地悪そうだった里央が蛍子の最初の女友達になる。
光はもちろん、里央も蛍子も踊りが大好きな「おわらバカ」と言っても過言ではない。
だから共通の趣味を持った人同士のように、里央と蛍子の距離が一気に縮まったのかもしれない。
相変わらず笠をかぶらず踊るとロボットのようになってしまう蛍子を見かねた光と里央は、蛍子を笠をかぶったまま踊れる代表にしようと進言する。
通常代表は男女一対一で組むものだが3人組でも踊れることを、30年前の写真から知る。
その30年前の写真に写っていたのは光の伯父・円だった。
30年前に高校生だったということは今の円は40代後半ですね。
おでこの広さ以外は体形も若々しい部類ではないでしょうか。学校の伝統芸能部に胡弓を教える事になった円。
それを知らなかった光は、蛍子や里央が近くにいても、まずは円おじしか目に入らない様子。
根深いですね、光の伯父さん好きは…。
一応、周囲には蛍子と交際しているように見せなければならないのに。彼女 < 伯父だもの。
この図式が少しずつ変わっていくのでしょうか。
至らない点もあるけれど光は飾らないのが魅力ですね。
『1巻』でも(偽装)交際記念デートで蛍子とおわらを踊ることを純粋に喜んでいたし、今巻でも蛍子と円おじの間に噂があがる度に火消しに走り、蛍子に過剰なスキンシップまでしてしまう。
蛍子が顔を赤くする中、光は何も感じていない様子。
光も何度か蛍子の表情や姿には頬を染めているのだが。
光をよく知る里央の言葉から察するに、天然のたらしの部分もありそうだ。
くせっ毛もお洒落に見えなくもないし、なによりおわらの名手、なかなかモテそうだけれど、それも意識してないんだろうなぁ。
なにせ伯父さんしか目に…(略)
蛍子が急に学校の代表になることに関しての不満描写はない。
おわらの町には踊りが上手ければ納得する雰囲気があるのでしょうか。
そこで不満の集合体のように郷土芸能部の部長・石崎が存在するけど。
そして彼を通して地方(じかた)の役割が語られる。
おわらは歌と楽器と踊りの3つが合わさって初めて完成するものなのだ。
新参者かつ才能あふれる者として蛍子を敵視していた石崎が、蛍子のたゆまぬ努力を知り、彼女を許していく。
また一つ、蛍子の世界が広がっていく。
そしてまた一人、おわらを継ぐ者が生まれていく。
あらすじなどに光たちは高校生としか紹介されませんが、何年生なんでしょうか。
体育祭も初めて臨む様子でもないし、伝統芸能部の部長の石崎とタメ口で喋ってるということは2年か3年の可能性が高いのかな。
ちなみに作者のインタビューによると体育祭のリレーの蛍子の全力疾走は『進撃の巨人』を思い浮かべて描いていたらしい。
それを知って読むと蛍子の表情と相俟って、もう巨人にしか見えません。