《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

精神と時の部屋。作品世界のクリスマス2日間は現実の9か月に相当します。

君に届け リマスター版 18 (マーガレットコミックスDIGITAL)
椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け(きみにとどけ)
第18巻評価:★★★☆(7点) 総合評価:★★★★(8点)
 

あふれた想いのままに、キスをした爽子と風早。お互いの気持ちをきちんと伝えたくて、もう少しだけ2人で話をすることに。そこで爽子が知ったのは、初めて語られる、風早の本当の気持ちで…!?

簡潔完結感想文

  • クリスマス2人反省会。すき同士でも気持ちはズレていく。それでも共に過ごそう。
  • クリスマス女子会。めでたく3組のカップルが成立しました。合コン後なの⁉
  • クリスマスホームパーティー。彼氏と友達に囲まれる娘の姿。16年間ありがとう。


まさかの12月24日が3冊目突入。18巻では一夜明けて25日にはなるよ☆


あの衝撃のキスの後でも話し合おうとするのが、この2人らしいですよね。
衝動的なキスには変わりないから、幸せだけどギクシャクとした雰囲気の中「また連絡するよ」と背を向けても構わない。
もしかしたら余韻としてはそちらの方が残ったかもしれない。
でもすれ違いを、自分たちの間違いを正すためには話し合うのが必要なこと。

修学旅行のは100%衝動で自分の欲望に打ちのめされた風早がだが、今回は同じ衝動でも少し意味が違う。
考え抜いた後の衝動とでも言おうか。
そのイヤらしい(と風早は思っている)気持ちも含めて爽子と向き合う事を決めた。

そこでの風早の言葉はお互いは初恋だから「運命の人」として扱う事が正しいのだろうけれど、割と重いですよね(笑)
例えば矢野ちんが同じこと言われたら、あれっ?と最初に相手に疑問を感じる点かもしれない。
自分と相手の気持ちの純度や重さが違い過ぎる、と。
矢野ちんと健人の心配な点はそこですよね。
この誠実だけど重すぎる心に答えられない自分に、相手を優先する矢野ちんの性格が耐えられない気がする。
でも爽子は自分の気持ちのベクトルを過大評価し、風早を過小評価しているから嬉しいはず…。

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手を繋ぎたい気持ちも キスしたい気持ちも 全部 爽子の本当の気持ちだから。
帰宅時間が遅くなることを連絡する爽子が「勉強もお手伝いも今までよりいっぱい頑張るよ!!」というお小遣いが欲しい小学生のような駆け引きをするのには笑ってしまう面もあったが、それに対する爽子父の「爽子は今までも もう充分頑張ってる」という言葉が返された時には感動してしまった。
男親としては寂しい部分もあるだろうけれど、風早よりも長く深く娘として爽子を見続けている者の、優しくて確かな言葉だ。


日付変わってクリスマス当日の深夜に風早に届けられた電話は健人くんから。
健人くんはスマホっぽいですね。連載当初からの時間の流れと技術の革新を感じます。
風早は爽子に馴れ馴れしい健人に嫉妬こそしていたけど、その裏にあった本当の好意を感じ取っていたのだろうか。
ないですかね。感じ取ってたらもっと攻撃的に健人をあしらっていたはず。
それぐらい短気ですからね、恋する風早くんは。
もはや敵ではない健人には優しくできる風早。ある意味で王子の仮面を脱ぎ捨てて結構な言動を取っている。


ただ、その後の女子会にしろ電話の会話にしろ不必要な振り返りですよね。
読者は知ってるんだし。1ページで「お互いそんな事があったんだ!」と報告をしたという描写で済むお話。


クリスマスに自宅でホームパーティー。クラスメイトに囲まれて娘の姿を見て喜ぶ両親たち。
意地悪な見方をすると爽子は「ぼっち」からパリピになったという事でしょうか。
爽子の変化の描き方は難しいですよね。読者としてもちろん嬉しくもあるけれど、一方で変わっていく事に違和感も生まれる。
読者の私が置いて行かれたような気持ちになるのは逆恨みかもしれないですが。

クリスマス前後から顕著になった爽子の風早化によって作品の個性がどんどん無くなってい印象を受けてしまう。
それは誤読で爽子は最初から前向きな人間だったのだが、どうしても漫画としての入り口が特殊だったので変わったように思えてしまう。
それはきっとこの後も続く悩みで、爽子がどんどん一般的な・凡庸な事態に直面するのを眺めているだけになってしまうかもしれない。
連載当初にはあったはずのこの作品の個性をもっと伸ばしてほしい。


そういう変化としては先輩としての爽子も見てみたかったかも。
高校が舞台の物語なのに先輩も後輩も出てこない漫画ですよね。同級生が学校の全てだ。
新入生に親切にする爽子(1年前よりは上手になってる)、新入生に勉強を教える爽子(好きになられちゃったりする)も見てみたかったなぁ。
恋愛問題って、どの漫画もあんまり変わり映えしないんだもの。


ラストの、祭のあとの静まった家での親の呟きは重いですね。
私は爽子目線で高校生活もあと1年ちょっと、としか思ってませんでしたが、親にとっては直接的な子育ての最後の1年間かもしれないのだ。
その後の爽子のモノローグがまるで「今が幸せのピーク」と言っているようだ。
でもそれはある意味真実で、もっともっと現実を直視しなければならない日が始まるのでしょう。

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永遠を願う爽子と、その一方で巣立ちの時を予感する両親。
交際までが第一部、キスまでが第二部、そして進路編が第三部だろうか。
親と離れる可能性は、風早と距離的に離れる事の可能性とほぼ同義だ。

今回、一つ失敗しながらも一つの経験を得た二人ですからそうそう簡単に心が離れたりはしないと思いますが、自分の大切なモノが一番近くにない恐れとも今後は闘わないといけないのかもしれません。
純情一途の風早くんが、確かな証しとして一刻も早く結婚しよう、などと言いださなければいいのですが…。