ろびこ
となりの怪物くん(となりのかいぶつくん)
第3巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★★(8点)
となりの席の超問題児・吉田春への恋心をどうしていいかわからず、逆に封印した水谷雫。一方、自分への好意を隠さない女の子・大島さんの言葉で、雫への恋心をハッキリ自覚したハル。なかなかかみあわない2人の恋のベクトル。だけど、少しずつ変化の兆しも…!
簡潔完結感想文
- ハルとの適切な距離を考える雫。勉強と彼どちらかしか取れないのだろうか。
- となりの委員長とハルが急接近します。委員長は大島さんとハルに認識された。
- オールスター文化祭が始まります。様々な思いが交錯するお祭り感が大好き。
自分の欠落に気づきはじめて、それを克服しようとする成長の3巻。
今巻のメインは文化祭。
オールスター文化祭といった感じでこれまでの登場人物が入り混じってあちらこちらで騒動を巻き起こす、まさにお祭り回。
目まぐるしい1日がとても文化祭とマッチしていて、少女漫画の文化祭の中でもかなり好きな回だ。
何と言っても登場人物の増やし方や関係の深め方が自然で良いですよね。
お祭りに巻き込まれているだけで、グッと感情に訴えるものがある。
自然体の作者の作風がすきだ。
巻数が進むほど、どんどん彼らに馴染んでいる自分を感じる。
これだけの登場人物がいながら誰もが生き生きと自分の言動を持っている。
滅茶苦茶な登場人物なんだけど確かな世界が確立されていて、彼らが織りなす物語が楽しくて仕方がない。
雫はハルと距離を置くことを決めたが、拒絶はしていないというのが何よりもハルにとって救いになっている事を雫は知らない。
物事を合理的に見れるからか、ハルへの正しい感情があるからか。
でもそれだけでいい。
ここで拒絶しないでありがとうと言いたい。
『1巻』から描かれてはいましたが、ここにきて恋愛で身を崩す事=勉強の成績低下が雫にとって存在意義さえも揺らぐことなのだという事をやっと理解した。
でも初恋だからその調整の仕方をしらないだけで、両立する事も可能かもしれない。
雫の新たな挑戦を応援したい。
何となく仲良くなっていた、というよりも登場からその勢いで押し切っていた夏目にも雫はちゃんと関係を築き始める。
自分の容姿が原因で人間関係のトラブルに悩んでいる夏目に偏見を持たないで関わってくれるのは雫の美点だが、それは夏目に興味を持たない証でもあったのか。
今巻で本当に雫は一人ではなくなっていくのだ。ハルの兄・優山に勉強を教えてもらったり、何かと高校生たちの面倒を見てくれるみっちゃんが居たり、奇抜ながら優しい世界ですよね。
みっちゃんの夏目への優しさ・スキンシップに目を光らせるササヤン。
ササヤンはなかなか策士ですね。
聞きたい事は聞くけど自分の気持ちは上手に隠す。
まぁ、私が彼の気持ちに気づいたのは完読した後なんですけどね…。
読み返すと結構、分かりやすい伏線が張られてるんですね。
優山はハルに対して嫌がらせはするものの、基本的に優しいですよね。
文化祭の看板「ピチピチ」にやけに反応したり彼もそれなりに変人なのではと思う部分もある。
みっちゃんは優しいけれど、よく分からないですね。
もし私が夏目ファンなら女子高生に気安く触るんじゃねーよ、と思いますが、触られても拒否しないという事は夏目はみっちゃんに惹かれ始めてるのでしょうか。
みっちゃんの素顔はいつか出てくるのかな。
ハルにとっての重要人物であるみっちゃん母、つまりはハル伯母を失くしているけれど、そこそこ明るいみっちゃん。
ハルよりも最後まで分からなかった人かもしれません。
『1巻』から登場していたハルの顔なじみ・ヤマケンが今巻から幅を利かせてくる。
ヤマケンもまた素直じゃない人の一人だ。
「あなたのそのプライドはいつか身を滅ぼす」などと雫に言われていたが、本当にその通りだ。
彼の報われない活躍が物語を面白くする。
最初から振られることが予測されるポジションなんだけど、そのにょろりとした登場といい、男ツンデレ機能を搭載しているところといい、他の漫画にはいないキャラクタだ。
ヤマケンの電子辞書に憧れる雫。
高額な商品を購入すべく、一時は文化祭で金儲けを企んだりするぐらいに欲しくて私立学校に通うヤマケンを富裕層として妬む。
でも一体、水谷家の家計はどうなっているんだろうかと細かい疑問が湧く。
家に帰れないほど弁護士としてバリバリ働く母の収入はどこへ消えているんだ。となりのクラス委員長・大島さんも気になるところ。
失恋は確定的だが彼女がどうその恋に決着をつけるのかに期待する。
ハチャメチャな恋の中で彼女の片想いはとても常識的。
ただ恋をしたのがハルという自分でも予想外の恋だろう。
ヤマケンといい本来好きになりそうもない人を好きになる不毛な恋は面白い。
まぁ雫とハルも予想外なんだろうけど。
どれもこれも人生の一ページを飾る恋。
この作品にただよう青春のにおいが好きだ。