《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

首を振ることで意思を示す彼女、首を動かさないことで意思を示す彼。

日々蝶々 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
森下 suu(もりした すう)
日々蝶々(ひびちょうちょう)
第3巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

縮まったかに思えた2人の距離。でも──。もっと近づきたいと思うすいれん。初めての感情に戸惑う川澄。おたがいを思う気持ちがすれちがいを生んで──。純粋すぎて、不器用すぎて、胸いっぱいの第3巻です。

簡潔完結感想文

  • 新学期。夏休みの出来事を帳消しにするような川澄の態度。
  • 空手の新人戦。川澄の好成績はすいれんからの応援か、実力か。
  • 失恋。心休まる場所のない蝶はまた飛び立たなければならない。


「好き」という言葉なしに「好き」が確かめられる3巻目。

補習も終わり、夏休み中は川澄との接点がなくなってしまったすいれんにようやく新学期が訪れる。
だが夏休みに一緒に花火大会に行くという思い出を作ったのにも関わらず川澄との会話は一向に増えない。
理由の一つは川澄の所属する空手部の新人戦が近くなり一層練習に励むようになったから。

もう一つは川澄の意識が変わってきたからである。
すいれんの事を見つめなかったが故に、すいれんの目に留まった川澄は、今度は川澄が意識し始めた事によって、すいれんの目から逃れるように行動してしまっているのだ。


3巻は表紙の通り川澄に好意を持ち続ける上級生・小春の巻である。

『前巻』の感想文で、川澄とすいれんの言葉には嘘がないと書きましたが、今巻ではその延長線上で物語が展開する。
すいれんは小春に夏祭りを誰と行ったのか問われ、川澄じゃないわよね?と念を押して確認する小春に首を振って、肯定の意思を示す。

更に別の場面でも小春に「私の方が川澄のよさ わかる」と言われた時も、好きよ、小春に負けないぐらい、という意思を示すために首を横に振り続ける。
余りにも小春の事を言葉なく否定するため「フリフリちゃん」と命名されるすいれん。
小春の心からの「好きだなぁ」という言葉には首を縦に振り、強い肯定の意思を示す すいれん。

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決して派手ではない川澄を見つけた同士でありライバルの二人
そして二人の間に流れる連帯感。
すいれんが小春に自分の感情を隠さないのはフェアな印象で良いですね。
ここで小春に黙ったり嘘をついたりしたら卑怯者ですからね。
言葉はないけど意思がある。
そんな3巻である。


一方の川澄にも言葉がないのは同じ。
彼は自分の中に生じた懊悩や焦燥について混乱はあっても、否定はしない。

それは空手大会後に小春に脅しをかけられた時も同じ。
自分とすいれんの扱いの違いを知って川澄のすいれんへの好意に気づく小春。
あくまで自分を拒否する川澄に小春は、自分とお昼ご飯を一緒に食べないと、すいれんに「川澄くんがあんたの事好きだって」と言うと半ばはったりの脅しで行動を強制しようとする。

が、正直な川澄はその場しのぎに「好きじゃねーっす」ましてや「好きっす」などとは絶対に言わない。
否定をしない肯定は小春にとって残酷な真実である。

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小春の真剣な告白に、川澄も決して嘘をつくわけにはいかない。
すいれんと川澄がお昼ご飯の時間も引き離されるためにあれやこれやと障害が設けられますが、小春の脅迫はちょっと意味が分からないですね。
すいれんのためを思って、小春が屋上での食事に参加する事を拒否する川澄、というのは分かるのですが、それがなぜ小春との食事に繋がるのか。

けど小春との食事風景をすいれんが目撃して、物語が振り出しに戻るようなことがなくて良かった。
小春に一つの決着をつけさせた。
それによって川澄の気持ちが示されたという3巻なのだろう。
ちなみに冷静さを失っている川澄の描写はらしくなくてかわいい。


すいれん側の協力者代表がゆりちゃんならば、川澄側の協力者代表は高屋良祐である。
小春の次に彼らの想いが同じである事を知った彼は、男としての敗北感を抱えながらも友人のために画策する。
自分の気持ちとすら上手く付き合えない友人のために彼なりに行動する様子は微笑ましい。
そして彼の奮起は一つの結果を結ぶ事になるのだが…。

言葉を多く持たない友人のため尽力する高屋、そして付き合うすいれんの友人あやちゃんは双子、ってぐらいに顔が似ている。
髪の色とか顔の造形とかもう少し何とかならなかったのか。

そして、すいれんとお近づきになっても「高嶺ちゃん」と面と向かって言うのは失礼だぞ、高屋。
高屋の恋愛模様とか今のところ少しも興味がわかないけど、いつか描かれるのかな…。