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少女漫画と小説の感想ブログです

二人の交際に大きな試練! …ん? でも考えてみれば 試練でも何でもないかもしれん。

影野だって青春したい(9) (別冊フレンドコミックス)
北川 夕夏(きたがわ ゆか)
影野だって青春したい(かげのだってせいしゅんしたい)
第9巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)

高校3年生になり、こじらせつつも将来の夢を見つけたり、青春の日々を過ごしていた影野。けれど、ある事件がきっかけでスパルタ教師の津崎先生に光永さんに関わるなと言われてしまい!!? 追い詰められた影野の選択とは――…。“格差”の壁が2人の間に立ちはだかる!! 愛と青春のこじらせ学園ラブコメ、第9巻☆

簡潔完結感想文

  • 3年生、進路。いつまでも光永さんと同じ場所にはいられないけれど。
  • 教師からの交際の反対。二人の交際は、私たち自身が守りますので。
  • ギャグなし『影野』。気の抜けた炭酸水、冷めたピザ、画竜点睛を欠く。


これまでとは違う現実圧を感じる重苦しい1冊。

影野たちも高校3年生になったので、そろそろ進路を明確にしないといけない時期になった。
周囲に聞き込みをすると大体の進路は決めているようで、白紙状態の影野は焦燥感にかられる。
影野の第一希望は光永さんと一緒にいること。
そこで影野は光永と同じ大学を目指すのだが…。

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光永の夢は教師。ネガティブな生徒 大歓迎。
恋愛はともかく、進路や成績はギャグに出来ないので重い空気は重いまま。
影野は良い子なんだけれど、それと勉学の要領の良さは別ですからね。

特に光永の協力なしの影野の勉強法って間違った方向に努力してそうだもの。
けれど頑張っても頑張っても結果が出ない様子は胸が痛む。

重苦しい空気に拍車をかけるのは、学力至上主義の権化のような特進クラス担任・津崎先生の存在。
夜10時を過ぎて出歩いていた影野や光永たちが警察に注意を受けてからというもの、特進クラスに在籍する光永に対し一層厳しい指導をする。
そして影野が光永と交際していることを知った津崎先生は、二人の交際が光永のためにならないと影野に忠告するのだった…。

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生徒のプライベートまで踏み込むパワハラ教師。
…って、いつの時代の漫画だよッ!
常々、展開やギャグの表現方法が保守的古典的だとは思っていたけれど、2010年代の漫画でこういう教師を登場させる事に驚いてしまう。
この感じは1980年代ぐらいの不純異性交遊うんぬん言っていた時代だろうか。

影野・光永への理不尽で不愉快な忠告や条件提示は、作中で問題になる津崎先生の厳しい指導よりもよっぽど問題だろうに。
しかもこの高校、そもそもが影野が入学できる高校であって典型的な進学校ではないのである。

交際は順調でもう起こす波乱もないから、多分、3年生であることが理由になる大きな試練として考えたのだろうが、読者としては予想外で、そして疑問符の付く展開だ。

その先の受験や進路は二人とも乗り越えなくてはいけない壁だが、その前に立ちはだかる教師の存在など、二人の交際に一切関りがない。
最初の注意で光永が(友人としての交際として)指摘していたが「自分のつきあう相手は 自分で決めます」という言葉が、もう問題を一刀両断している。
ヤンキーのいちゃもんぐらい品性がないのだ。
そこで物語が空回りしている。

それでも二人はそれぞれ、交際を認めてもらうため(そんな必要すらないのだが)、光永が模試成績の向上、影野は自ら進言したとはいえ津崎家での住み込みと労働で津崎先生の翻意を促そうとする。
津崎先生に大量の家事を押し付けられる影野だったが、影野は食らいつく。
それどころか住み込みの秘書としては相当優秀な描写がある。
これだと作品としての『影野』の土台がもう失われていっているような…。

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影野だって影響されちゃう。
影野の友人にちゃっかり納まって久しい麗奈にしてもそうだが、これだけの悪行をしてすぐに改心するというのが腑に落ちない。
影野と光永が積極的に人に関わった結果なのだろうけれど、私なら根に持つなぁ、とネガティブ心が働いてしまう。


どうしても終始、嫌な雰囲気を感じましたが、これは津崎先生のポジションが光永母だったら、もっとドタバタ劇のギャグ回になったかな、と夢想する。
影野が光永の家族に誰会っていない設定で、息子を溺愛している母に挨拶に行った影野が、何かにつけて文句を言われて、プレ嫁姑戦争が始まる、という展開。
これなら影野が家事を代行する理由にもなるし。
でもこれだと光永が母親に反抗の出来ない従順な子という設定になっちゃうか。
光永家に悪意があるのは読者にとっても喜ばしいことじゃないしなぁ。
話を作るって難しい。

1巻に1度は死にそうになる死の概念インフレ中の『影野』。
その中でも水に落ちる臨死体験は何回目でしょうか。
影野に水難の相が出ているか、作者のアイデアの枯渇か。
あとツッコミとしては、こういう時はいつもメガネが落ちない影野だな、と思う。