- 作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1952/07/28
- メディア: 文庫
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ある朝目ざめると青年ザムザは自分が1匹のばかでかい毒虫に変っていることに気づいた。以下、虫けらに変身したザムザの生活過程がきわめて即物的に描かれる。カフカ(1883‐1924)は異様な設定をもつこの物語で、自己疎外に苦しむ現代の人間の孤独な姿を形象化したといえよう。20世紀の実存主義文学の先がけとなった作品である。
思えば世界的な名作を初めて読みました。ドストエフスキーだってヘミングウェイだって随分前から本棚(の奥の方)に置いてあるけど読んでいない。意図はしなかったものの、かくして私の世界の名著初体験はこの『変身』になりました。
初めの感想は1行目から虫になるの!?という驚き。本を読むときはあらすじを見てから読む人間で、しかも世界的名著なので「変身」の意味は知っていたけど、冒頭からとは思わなかった。中盤での感想は、奇妙な面白さ。主人公・ザムザが虫として生活する淡々とした描写と家族の困惑と対応、そのどれもが恐怖と紙一重に面白い。これがホラーならば、その特殊性に重点が置かれるのだろうが、なんとも普通に事実として受け止める。この状況を、起こること全てを淡々と消化してしまう。終盤は唐突に、だが自然。100ページ弱の物語がこうもパワーを持っているのかという衝撃で終わった。読み終わってから考えることが多すぎる小説。
とはいったものの、うまく消化し切れなかったのも事実。解説やネットで解釈の仕方を読んで、そういう風にも考えられるのかと、本書の奥深さを初めて知る。「虫」や「部屋」がメタファーとして考えられるのかぁ…。多分、文学者の人は本書の一文一文にカフカの魂を、虫とはなんであるか、を考えるのでしょう。そして、その為にカフカの生涯を追い、作品にどのような影響を与えたかを考える。それはとても有益で無益な行為だなぁ。現代社会にも通用する問題を内在している文章が名作の条件ではないと思うけれど、現代にも通じるモノとして連想したのは「介護問題」。虫になったザムザに対する家族の対応は、報い(感謝)のない行動に苛立つ様子と似ている(介護はそれが本人だとハッキリ認識できるけれど…)。なぜ? どうして?と原因の追究がない本書は、説明がないからこそ、誰にでも「虫」になる機会・恐れはあるのだ、という事を雄弁に述べているような気がする。